運命を変えるたった一つの-勇気-   作:黑羽焔

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2回目のお役目の戦闘回ですが、後に活躍させる予定のオリキャラを含めての戦闘前の日常パートも加えてあります。


第8話『未熟ながらも前へ』

勇者に選ばれた少女と共に戦うというお役目を課せられた少年紺野勇が神樹館小学校の6年2組の一員になってから半月が経った。転勤族の部類となる勇だが社交性はそれなりに兼ね備えていたため幼馴染の銀や仲良くなった須美と園子以外のクラスメイトともすぐに仲良くなることができた。

 

「勇、誰に言ってるんだ?」

 

「……画面の前の人? いや、気にしないで」

 

「面白いこと言うなあ」

 

今の時間は昼休み。勇は自分の席に座り、彼の前の席の黒髪の男子『桐生(きりゅう)彰人(あやと)』ととりとめのない話をしていた。席も近いこともあり最も接する機会が多かったのかクラスの男子の仲では一番よい間柄となっている。

 

ちなみに勇以外にお役目を賜った勇者たちもそれぞれの休み時間を過ごしており、須美は比較的に穏やかに過ごす方なのだが、今日は学友からの頼みを快く引き受けそのお手伝いをし、園子はスローライフを満喫しているようで机で寝息を立てて穏やかに眠っており、銀は所属している体育会系のコミュニティの子と校庭の方に遊びに行っていた。

 

話し込んでいると教室に立掛けられている時計の針が昼休み終了の時刻を指そうとしているのに気が付いた。勇は彰人との話を切り上げ、次の授業の準備をしようとした。

 

――― リィン

 

その時である。どこからか鈴の音が聞こえた気がした。

 

「おーい、勇。次は移動教室だっ……は!?」

 

彰人が次の授業が移動教室ということを思い出し勇を誘おうとした。後ろにいる勇の席へと振り向いたがまるで煙に巻いたかのように忽然と消えていたのである。

 

「……マジかよ」

 

半月前に須美・園子・銀が授業中に急にいなくなった現象が目の前に起こったのである。彰人は唖然とした様子となっていると教室のドアが勢いよく開けられた。

 

「みんな、大変! 鷲尾さんが急に!」

 

栗色の長い髪をなびかせ慌てて駆け込んできた女子生徒。このクラスの委員長である『達城(たつしろ)飛鳥(あすか)』である。彼女の頼みを引き受け手伝ってくれた須美が急に消えてしまったことをクラスの皆に伝える。

 

「乃木さんも消えちゃったよ」

「またお役目なのかな」

 

惰眠をむさぼっていた園子の姿も消えていた。担任の安芸先生から言われていたとはいえ、年相応の小学生。このような異常事態に落ち着くことはできずに教室中がざわめく。

 

「……本当に神樹様のお役目に選ばれてたんだ」

 

そんな中、『遠野(とおの)(さとし)』をいう銀の隣の席にいた彼は勇の席を見つめていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-樹海内 瀬戸大橋-

 

勇者の姿に変わった少女2人と戦闘装束姿の勇は、瀬戸大橋中央へと陣取っていた。

 

「お待たせ!」

 

そこに赤の勇者装束を纏った銀が合流する。教室の周辺にいた3人とは違い銀だけは校庭で遊んでいたため、樹海の展開時の出現位置がずれてしまっていたのである。

 

「大丈夫。まだ敵が来てないよ」

「全員集合だね~」

「みんな、敵が来る!」

 

するとひとつの物体が瀬戸大橋の向こう側からやって来た。

 

「何……あのフォルムは、天秤?」

「天秤が……空に浮いてるね」

 

須美と園子が現れた存在にそれぞれ呟く。『天秤』という形容がぴったりな巨躯をもつバーテックスがゆらゆらと揺れながら進行を続けている。

 

「『ライブラ・バーテックス』、『天秤座』に属するバーテックスだね」

「まんまだな、おい。…全く、ウィルスの中で生まれたなだけで、あんな形になるんだね」

 

端末の表示された情報から天秤座のバーテックスに対する感想を呟く勇と銀。

 

「訓練通りに動きましょう。分かっているわね銀」

「そうだった。敵を見るとつい突撃したくなるんだった」

 

熱くなりやすい銀に須美が釘を刺すように警告する。そして、目の前の天秤座へと睨みつけていた。

 

(前回の経験もある。落ち着いてやれれば大丈夫! 頑張る!)

 

(銀は熱くなりやすいからわかるけど、それ以上に鷲尾さんもかな。意気込みすぎているような)

 

気合を入れる須美。勇は須美が意気込んでいるように見えたが、それが行き過ぎているようにも感じていた。

 

「そもそもどこが顔なんだろう~?」

 

(園子さん、そこですか!?)

 

続いて勇は園子のほうを見てみる。園子が敵の姿を見て呟いた感想に内心ツッコミを入れてしまうものの、敵をよく観察しているようにも思えた。

 

「…まずは私から行くわ。この距離なら私の矢が」

 

「おう。須美よろしく!」

 

「(私の矢でコトが済めば、ソレが一番)…向こう側へ戻りなさい!」

 

須美が弓を番え矢を放つ。何本もの矢が空を裂き、的確に天秤座へ。

 

「(!?)矢が!」

「吸い寄せられた!?」

 

命中するはずだった矢が吸い寄せられるように軌道を変え天秤座の分銅へと吸い寄せられてしまう。まるで磁石のような性質に同様の武器をもつ勇も驚きの声を挙げる。

 

「そ、そんな…」

 

自分の矢が通じず、須美は悔しさで唇を噛む。須美の攻撃を封殺した敵はこんな程度かと見せつけるかのように前進を続ける。

 

「遠距離攻撃は通じないかも、あの敵の体と体が繋がっている部分を狙ってみよう。『ミノさん』は右から、『いーさー』は左から攻めて」

 

「了解! たしかに細くて脆そう」

 

敵を観察していた園子の指示を受ける。行動を開始する前に勇がショックを受けている須美の肩にそっと叩く。

 

「ドンマイ! 相性が悪かっただけだ。まだ方法はあるはずだよ」

 

「そ、そうね」

 

「『いーさー』のいう通りだよ『わっしー』。一緒に近づいて攻撃してみよ」

 

勇は盾から片刃剣を抜きはらう。敵の3方向から呼吸を合わせ、一同は攻撃を仕掛けようとしたが、天秤座はその場で大回転を始める。

 

「くっ…、こいつ近づけない!」

 

回転の遠心力による竜巻ともいえる防御壁が発生し、一同は吹き飛ばされる。

 

「まるで台風だ!」

「これじゃ近づけないよ!」

「みんな掴まって!」

 

園子が槍の柄を地面へと突き立て、それを支柱とし全員でしがみついて強風に吹き飛ばされないように耐える。

 

「くぅっ、ちょっとマズいかなコレ」

 

「…台風…、そうだ。台風の目ってあるよね。それなら頭上がお留守かもしれない」

 

「ありえるかもしれない。けど、この状態じゃ」

 

(……お役目と果さないといけないのに、何もできないなんて)

 

須美の視界には徐々に腐食していく樹海が見える。こうしている間にも自分たちが住む国に危険が迫っていくことに焦りが見え始める。須美を除いた3人が対策を話し合っている隙をついて突如、手を離した。

 

「鷲尾さん! 何をする気だ!」

 

竜巻に身を投じた須美が空中で弓を番いチャージを開始し天秤座に狙いを定める。

 

「南無八幡……! 大菩薩!」

 

やがて須美の体が天秤座の頭上まで到達すると最大までチャージした渾身の一撃を放つ。

強風という悪条件の中だったが狙いは完璧であった。しかし、大型台風の中で放った一撃だが風の影響を大きく受けやすい矢は風の煽りを受けその勢いを殺す。勢いを失った矢はそのまま飛ばされていった。

 

再びショックを受ける須美。天秤座はそんな彼女をあざ笑うかのように、回転の遠心力を利用し先ほど吸い寄せた須美の矢を彼女に向って射出した。

 

「矢をそんな風に返すなんて!」

「ッ…届けぇ!」

 

空中に投げ出された須美は回避行動をとれないと判断した勇がなんと左手の盾を外し須美の方へと投げつけた。投げつけられた盾が板状に展開すると須美を守る障壁となって返した矢を防いだ。防いだ盾は須美とともに後方へと飛ばされていった。

 

(鷲尾さんは……大丈夫そうだ。次は……このままだと竜巻で動けない僕たちにあの分銅をぶつけてくるだろうな。かと言って、真上から攻撃しようとすると、鷲尾さんを狙ってきたあの攻撃も来るしなあ)

 

天秤座は回転しながら勇たちに向かっている。強風で動くこともままにならない自分たちに分銅での回転攻撃が襲い来るであろう。

 

「勇、園子。アタシが行く!」

「銀、それだと危ない! 鷲尾さんみたいに狙い撃ちにされる可能性が」

「それでも、やってみなくちゃわからない!」

 

仲間や守るものの危機なのか銀は既に熱くなっていた。このままでは率先して危険へと身を投じてしまうだろうと勇はすぐに思った。

 

「(銀のいう通りこのままだと。なら、やるとしたら…設計上はいけるが出たとこ勝負になっちゃうな)……わかった。なら、僕もいく」

 

数瞬だけ考えると勇も行くことを銀と園子に告げる。一番冷静に物事を考えていると思われた勇の申し出に2人は困惑の表情を浮かべる。

 

「勇、わかった。行こう!」

「『いーさー』、何か考えがあってのことだね」

 

「うん。僕たち2人で動きを止めるから、乃木さんは鷲尾さんと一緒に仕掛ける用意をしてくれないかな?」

 

「わかったよ~」

 

作戦を伝え終えると、銀が園子から勇の体へとしがみつく。勇は回転する天秤座との距離を測る。

 

「銀、勇君。ちょっと待って!」

 

須美の静止の声よりも早くしがみ付いていた園子の槍から手を放した。2人の体は圧倒言う間に空中へと投げ出される。天秤座が分銅に引っ付いていた残りの矢を2人に目掛け射出してきた。

 

「来た。須美に仕掛けたのと同じ攻撃!」

「しっかり掴まっててよ」

「あぁ!」

 

勇の左手にあった盾は先ほど須美を守るため投げたが、実はかつての勇者の武器を模倣して作られたものである。左手を瀬戸大橋の橋桁にぐっと突き出し狙いをつけると左手の機構から鏃が射出され橋桁へとくっついた。それは盾を回収するためのワイヤー機構であり、勇はそれを利用し銀を抱えたまま上空への跳躍を見せた。

 

「うーわっ、たっかーい! それに園子の言ったとおりだ。頭上はアイツの姿が見えるほど風が強くない」

 

天秤座の真上まで跳躍するとそのまま重力の勢いのまま落下していく。天秤座の竜巻はある一定の高さまで届いておらず2人がいる位置からだと回転している天秤座が丸見えになっている。

 

「銀、いくよ!」

「オッケー!?」

 

銀とともに流星の如く竜巻の真上から身を投じる。銀は両手に斧を現界させ、落下の勢いも利用し天秤座の頭に叩きつけた。

 

「……はぁぁぁぁあああああ!!」

 

スライスするというより、叩きつけ砕くといった感じに天秤座の頭頂部を破砕していく。その猛攻に天秤座の動きは鈍り風の障壁が少し弱まった。その間に勇は天秤座の大きいほうの分銅の接続部に左手でしがみ付く。

 

「見てくれはしょぼいけど……切れ味だけはある!」

 

勇の声にこたえるかのように片刃剣の刃が白く輝く。振るわれた刃の一閃は接続部の鎖を見事に断ち切った。分銅はそのまま橋へと落下し、重量のバランスが崩れた天秤座はその回転を停止した。

 

「銀…勇君…」

 

「今だ!!!」

 

「ッ!(しまった、タイミングが遅れた)」

 

『台風の目』という風の弱いところから突入したとはいえ、銀や勇は風の刃で多少なりとも傷ついていた。その2人の姿を見て、なぜか呆けていた須美が園子の号令に少し遅れて続く。

 

園子は槍撃を開始し、銀はそのまま二丁斧で刻み、遠距離攻撃を吸着する分銅を無力化したことにより須美が弓矢、勇がボウガンを使った近接射撃の雨を浴びせる。4人のラッシュは天秤座に再びの回転を許すはずもなく、その身を削られることになるのであった。

 

やがて、天秤座が原型を留めないほどになると、ようやく『鎮花の儀』が始まり、2度目お役目は終わりを告げ、一同は樹海から現実世界へと戻された。

 

『体力を使い果たし、息も絶え絶えで仰向けに横になっていたのが発見された』、第一発見者である大赦職員の報告書にはそう書かれていたそうな。




あまり変わり映えしないような展開となってしまった。

劇場版(2期アニメ)準拠なので、樹海への矢の着弾という須美にとってのトラウマはなしです。変わりに合宿回にて須美関連のイベント追加するつもりですがね。



以下、解説
●桐生 彰人【きりゅう あやと】
7話で登場していた神樹館での勇の親友。リメイク前に出演させていた版権キャラをオリキャラ化。
イメージCV:松岡禎丞

●達城 飛鳥【たつしろ あすか】
7話で登場していた神樹館でのクラス委員という女の子。彰人とは親交ある関係。
イメージCV:戸松遥

●遠野 智【とおの さとし】
わすゆ劇中の男子生徒に名前を付けたキャラ。正体は銀の隣の席の男子です。銀がメインヒロインということである事情から採用しました。

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