運命を変えるたった一つの-勇気-   作:黑羽焔

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特にひねりもない祝勝会(イネス)回。


第7話『ともだちになろうよ』

side:紺野勇

 

「『遠野(とおの)(さとし)』です。宜しく」「『桐生(きりゅう

)彰人(あやと)』。よろしくな」

 

勇という転入生がクラスに加わってようやく昼休みとなる。給食の時間を終えると、勇の席の周りにクラスメイトが集まっていた。この神世紀という時代になっても転入生という珍しさは変わらないらしい。

 

最初こそ安芸先生が教室を出て行ったと同時に勇の席の周りに殺到してきたが、俗に言う転入生への質問攻めである。

 

「はい。これでみんなの紹介と質問タイムが終わったわね」

 

クラス委員という立場である『達城(たつしろ)飛鳥(あすか)』の手腕により勇はクラスメイトの紹介と質問に答えるという形にまとめてもらい事なきを得た。

 

「……ふぅ。やっと終わったよ」

 

ようやくクラスメイトから解放された勇がひと伸びすると、銀たち3人が勇の席へと寄ってきた。

 

「いーや、凄かったね」

「転入生の宿命だね。『いーさー』」

 

「いや、3人や飛鳥さんがフォローしてくれなきゃ。もっと大変だったよ。それにしても鷲尾さんがクラス委員じゃないんだね」

 

「お役目があるから…そこは安芸先生が配慮してくれたの」

 

昨日のお役目で真面目でしっかり者という感じがあったためか勇の中では須美=クラス委員のような図式のイメージが出来上がっていたようだ。しかしよく考えてみれば神樹様にお役目を授かっている少女たちは学校行事にも関わることになるクラス委員に選ばれないのは当然のことだと思った。

 

「それで僕のところに来て、何の用かな?」

 

「あ、あのね……紺野君は今日は放課後、時間はあるのかしら?」

 

「? どうしたの?」

 

「三ノ輪さんと乃木さんにも話したんだけど、今日の放課後…その、一緒に祝勝会でもどうかしらって」

 

須美がおずおずとした様子で誘ってくる。昨日、顔を合わせただけだが銀以外の2人とも交流を築くいい機会である。

 

「いいよ」

 

断る理由もなく受ける。賛同を得られたのか須美がホッした様子を見せる。

 

「それでどこで?」

 

「鷲尾さんはそこまでは考えてなかったみたいなんだ。なので…あそこに行こう」

 

銀がぶっちゃけ、須美はそれに顔を紅くする。多分、こういうのは慣れてはないのであろう。

 

銀の思わせぶりからおそらく本人曰く『砂漠に現れるオアシス』とも言ってるあの場所だろう。すると、タイミングがいいのか授業のチャイムがなったため3人は席へと戻っていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

放課後、銀に連れられてやってきたのは、やはり大型ショッピングモール『イネス』。そのフードコートのテーブルに備え付けられた席に勇と銀・須美と園子がそれぞれ着く。すると、須美がランドセルから折りたたまれた紙を広げる。

 

「えっと…今日という日を無事に迎えられましたこと大変うれしく思います…」

 

(え、演説!?)

 

何事だろうと思った勇を余所に須美はあらかじめ用意した演説文を読み始める。

 

「固っ苦しいぞ~? かんぱーい!」

 

「なっ!…せっかく準備したのに」

 

長くなりそうだったのか銀がフードコートで買ったドリンクを突き出し乾杯の音戸をあげる。がーんといった感じで須美は残念がりながら着席する。

 

「ありがとうね。『すみすけ』」

 

園子が話を切り出す。須美は何事かなと顔を上げる。

 

「私も『すみすけ』を誘うぞ誘うぞって思っていたんだけど、なかなか言い出せなかったんだよ~」

 

「え……?」

 

須美が突拍子でもない事を言われぽかんとした顔となる。

 

「うんうん、鷲尾さんから誘ってくるなんて初めてじゃないか?」

「実はそうなんだよ~」

 

「…3人はこれまで交流したことがないの?」

 

勇が3人の会話から生じた疑問をぽつりと訊ねる。答えたのは銀であった。

 

「2人ともクラスは一緒だったけどあまり話したことはなかったんだ」

 

「そうなんだ。意外だな。銀だったら自分から仲良くするのかと」

 

「アタシの場合、他の女子と仲良くしていたのもあったからかな。合同訓練もまだでさ、こうして集まったのは初陣の時が最初だったんだ」

「私も話そうと思ってたんだけど~。ミノさんは声が大きくて、気が強くて、気圧されそうで…でも、話そう話そうと思ってて…あはは、今になっちゃたんだけどね~」

 

「私は……」

 

須美は申し訳なさそうな表情で語り始める。

 

「…あんまり信用してなかったからと思うの。それは、2人のことが嫌いとかそういうのじゃなくて…私が人に頼ることが苦手で……。学校でも2人と距離をとってた気がするの」

 

「『すみすけ』……」

「そう…だったんだ」

 

生来の生真面目さからかどうも人に頼ることが苦手である。その心情を吐露した須美の言葉を続き、勇を含めた3人は静かにそれを聞く。

 

「でも、それじゃ駄目なんだよね。今回のお役目だって…私1人じゃ何もできなかった。だから…その…」

 

ここで須美の言葉が詰まる。顔を少し俯むかせ、もじもじとした感じになるもようやく意を決した表情となり言葉を出した。

 

「これからは私と、仲良くしてくれますか?」

 

距離をとっていた須美が3人に歩み寄るために昨日からずっと考えていた言葉。それを聞いた3人は互いに見合わせると、

 

「な~に言ってるんだ! もう仲良しだろ!」

「うれしい! 私も『すみすけ』と仲良くしたかったんだ!」

 

「乃木さん…三ノ輪さん…」

 

「私も友だち造るのが苦手だったから、『すみすけ』の気持ちも分かる気がするな」

 

須美の表情がぱあっと明るくなる。園子もあまり友達をつくる機会がなかったと語る。

 

「な、勇!」

「うん。鷲尾さんも乃木さんも、こっちに越してからの初めての友達かな」

 

勇も銀と同じ思いで応える。転入してきたばかりでこちらの地方の友人と呼べる存在はいない。知っている人が増えるのは悪い事でもないむしろ良い方だろうと、須美と園子と仲良くなることを快諾する。

 

「…あの、乃木さん? その…いつの間にか呼んでいる『すみすけ』っていうのはもしかして……」

 

「あぁ~。鷲尾さんのあだ名だよぉ~。いつの間にか呼んでた~。『いーさー』みたいにぴか~んと閃いちゃって」

 

「閃きだったのか……」

「ははは…」

 

須美の疑問に園子はニコニコしながら答える。あだ名つけは園子本人の直感というか閃きの賜物らしいようだ。

 

「うれしいけど…それ…あまり好きじゃないかな」

 

「あ、じゃあ『わっしーな』は? アイドルっぽくない?」

 

「もっと嫌よ!! ……こう言うのもだけど、どうも横文字が苦手で」

 

(それでいっかと思ったけど、変えてたらもっと変なのになっていたのか……)

 

さらに変なあだ名となった。横文字が苦手な根っからの大和撫子の須美は全力で却下した。一方の勇は内心では須美と同じように迷走する可能性もあることに乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「乃木さんも、『そのこりん』とか嫌でしょ「素敵!!」……ごめんなさい、忘れて」

 

園子の独特な感性とマイペースなところに主導権を握られる。須美も呆れたように意見を取り下げた。

 

「あ、閃いた。じゃあ、じゃあ……『わっしー』!」

 

「……うーん。まぁ、それなら」

 

「わぁい。よろしくね『わっしー』!」

 

園子が須美の手をぎゅっと握る。須美も園子のマイペースさに遂に折れたようで、『わっしー』のあだ名で呼ぶことを承諾したようだ。

 

「二人とも仲良くなりすぎでしょ! 勇も置いてかれてるし!」

 

その間に銀が割り込んできた。

 

「…敵が来てしまったし、仲間との連携はもっと深めていかないと思ってだけど。ええと、何が言いたいのかしら。三ノ輪さん」

「私は元から仲良くしたかったし~」

 

園子は素直に答え、須美が銀の意図が分からず訊ねる。銀としての答えはひとつだ。

 

「何が言いたいっていうのはね。アタシとも仲良くなろうよ! 乃木さん改めて園子。鷲尾さん改めて須美。そして、アタシの事は『銀』って呼んで」

 

「ミノさん…」

「銀…」

 

ここぞとばかりに銀が2人の仲に入り込もうとする。この分け隔てなく、誰とでも話せる。これが銀という少女だ。須美と園子も名前で呼びあっという間に仲良くなっていった。

 

「あの、勇君。さっき、私たちのこと。友達って呼んでくれたよね」

 

「うん。そうだけど」

 

「勇君も私たちと仲良くしてくれるって答えてくれた。だから、私たちも」

「仲良くしようよ~『いーさー』」

 

「もちろん」

 

最後に異性ではあるが、供にお役目に臨む勇も2人の申し出に応じる。勇にとってこの地方では銀以外の友達としての繋がりができた。

 

ニシシと銀がその様子と見届けると、3人に提案した

 

「じゃ、今日の祝勝会。もっと楽しもう」

 

「え、えぇ。でも、どう楽しむの?」

 

「そこは銀様にお任せあれ」

 

銀が立ち上がって席から離れる。勇も銀の意図が分かったのか立ち上がり銀に続く。須美と園子は訳が分からなそうに首を傾げるが、

 

「ついてくればわかるよ」

 

須美と園子にそう先導する。須美と園子は勇の後に続いていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「どう、どう?ここのジェラード、イネスマニアのアタシ、イチオシなんだ」

 

「最高だよ、最高だよミノさん!」

「……こんなにおいしいなんて…私の信念が揺らいでしまった。このジェラードのほろ苦抹茶とあんこの甘さの調和がここまで絶妙だなんて……」

 

銀が案内したのは行きつけのジェラードショップだ。そこで須美が宇治金時味、園子がメロン味、勇はバニラ味を頼んだ。

 

園子は家柄でお嬢様のような扱いだったのかこういうのを発見し感動している。おやつは和菓子かところてん派の須美はこういうものを認めざろう得なくなり素直に味わうことにした。

 

「勇君も甘い物好きなのね」

「男の子でも甘い物には目ない人は結構いると思うよ。僕もそんな分類だし」

 

勇はこういう甘いのは大好物で黙々と食べることに夢中である。

 

「ねえ、わっしー。宇治金時味も美味しそう。食べていい?」

 

「いいわよ。って……」

 

宇治金時味のジェラードに興味を示した園子があーんと口を開け須美はそれを口へ運び、そのお返しに今度は園子が須美へとメロン味のジェラードを食べさせてあげていた。

 

厳格な家で育っていた須美は思考がフリーズ気味でこれでいいのかと思っていた。

 

「…メロン味も…おいしい」

「宇治金時味もおいしいよぉ~」

 

「2人とも初々しいな! ガチの恋人か!」

 

銀が茶化す。須美と園子の顔が真っ赤になる。

 

「ふふん、確かに宇治金時もメロンもシンプルなバニラ味も最高だよ。でもねフードコートで最強はこれだ!」

 

「なにこれ?」

 

「しょうゆ味のジェラード。アタシのイチオシなんだ。ちょっと食べてみて」

 

銀は自らのもっていた薄茶色のジェラードを3人に見せる。須美と園子は銀の勧めもあってかしょうゆ豆のジェラードという珍品?デザートを一口食べてみた。

 

「うぅ~ん、なんだか難しい味だねえ」

「いい味だけど大人向きかもしれないわね」

 

2人はオススメしてくれた銀に配慮するようにそれぞれ感想を述べた。

 

「……。なんか…サーセンっした…」

 

銀のイチオシのしょうゆ豆のジェラードはどうやら2人に好評は得られなかったようだ。

 

「そういや、こっち帰ってきてから食べたことなかったな。銀、僕ももらおうかな」

 

「お、勇食べる? ほい」

 

「「(!?)」」

 

銀がスプーンでしょうゆ豆のジェラードをひとすくい取ると、そのまま勇の口へと差し出す。勇はほぼ条件反射で口を開けると銀はそのまま投下した。

 

「……うん、昔は苦手だったけど…久しぶりに食べたのかこういう味だったんだな。うん、変わった味だけど、それなりに美味しい」

 

「お、勇にもこの味分かるようになってきたんだ……ん、須美さん、園子さんどうしたんだ?」

 

須美は目を丸くし、目の前の光景に思考が停止しそのまま固まっていた。一方の園子は、目を輝かせ勇と銀を見つめていた。

 

「ビュォォォォォォォ!!! 高まる波動を感じるよぉ~!!!」

「あ、あわわ……。そ、それは……少しばかりはしたないです」

 

「「な!?」」

 

須美と園子のリアクションにぎょっとした表情となる2人。すると、先ほど須美と園子がやっていた互いのジェラードを食べさせ合う光景を思い出す。

 

「あ、しまったなあ。昔の癖で食べさせちゃったよ。あはは……」

「…僕も失念してた…」

 

6年前もこうやって食べさせ合ったりとかしていたため、それを無意識に行ってしまったようだ。あの時は5歳という、まだ物心がついたばかりだったためこのように食べさせ合うのも気にしたことはなかった。

 

須美と園子に言われて、自覚したのか勇と銀も恥ずかしさのあまり互いに顔を合わせないよう視線をいったん外した。この周辺にクラスメイトや神樹館の生徒がいない事は幸いであった。

 

色々とハプニングはあったものの、その日の祝勝会は4人にとって、はじめての楽しい時と思い出となったのである。。




息抜きに書いたつもりが文字数がかさんでしまった……。

転入生紹介タイムに出ていた名入りのキャラは後々にも出番はあります。



蛇足:ゆゆゆいにて中学生園子が実装されましたね。コストが高いですが、範囲型なのに千景に迫るほどの攻撃速度。そこそこ優秀なステータスでした。

10連では残念ながらお迎えは出来ませんでしたが、年末のガチャでは狙ってみましょうかね。

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