元オーバーロード鈴木悟と元人間ムササビと   作:め~くん
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前回のあらすじ

ムササビ、自らの人間性がアンデッドの身体に蝕まれている現実に発狂しかける。
モモンガ、前半はカッコ良かったけど、後半はヘタレるが最後で挽回する。
ユウ、モモンガの魔王のごとき童貞力を見せつけられて、ガチでびっくりする。
セバス、やっと活躍するも、村での戦いはカット。
アルベド、モモンガとそこそこ良い雰囲気になった幸せだったが、未だ手も繋いでいない。
ソリュシャン、ムササビが発狂してから地味に存在を忘れられる。



エンリ、金属製の兜を殴り、ムササビのジョークに寒いと言い放ち、レベル100の不機嫌オーラを2回喰らっても大丈夫と、早くも覇王の片鱗を見せる。


カルネ村と板挟みと

 助けた村の名前はカルネ村というらしい。オレはその村長の家にいた。木造のテーブルに村長と向かい合って席についている。村長の横には奥さんが座っている。
 セバスとアルベドは気絶させた騎士を武装解除させてから縛り上げて、家主が死んでしまった家に運んでいる。その中から何人かは、ナザリックに運び出し、情報源にするつもりだ。
 ロンデスとか言う名前の騎士が、戦闘中も中々的確な判断をして指示を飛ばしていたから、冷静な情報を聞けるだろうと、すでにナザリックに運び込んでいる。国に引き渡す騎士の中に、隊長が含まれていたら何人かいなくても問題無いだろう。戦闘中に死んだとでも言っておけばいい。
 エンリがアイテムで呼び出したゴブリン達は、オレが言い包めるまでもなく、村人に受け入れられていた。今はモモンガさんと一緒に村の手伝いをしている。
 そしてオレは村長から、それとなく異世界の情報を引き出していた。
 村長からは多くの話を聞いた。現地人がいれば聞きたい事を事前にリストアップしていたのでスムーズに事が運んだ。
 地理から政治、文字や貨幣価値、文化にいたるまで。やはり仕事は事前の準備がモノを言う。モモンガさんの妄執染みた準備ほどではないけれど。
 モモンガさんはアルベドとこちらに来るまでの間に、村の監視、包囲から、村周辺の偵察まで行っていた。偵察部隊を十数隊ほど編成して、ナザリックがある方角を除いた、三方へと放っている。あんな短時間で、よくここまで入念に手配できる。流石はモモンガさん。
 現地人に会って話をするまでは保留にしていたけど、この異世界は()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()でほぼ確定だ。勝手に翻訳されているから、厳密にはどうなっているかは不明だが、現地人には東西南北の概念がある。太陽が東から南を通り西に落ちるから、ここは地球で言う所の北半球にあたる。そして、オレの前に出されている白湯。これは作るのに一から火を起こしていたのだが、やり方が地球と変わらない。やはり大気の構成があまり変わらないのだろう。これ以上、突っ込んだ検証はそっちの分野を専攻していないオレには手に余る。それにもう検証はいらないと判断している。何故なら、文化もあまり変わらないのだ。何から何まで、中世ヨーロッパをベースにしたファンタジー系のゲームと言う表現がしっくりくる世界なのだ。なにせ住人の顔は皆ヨーロッパ系だ。オレ達のような顔立ちは遠い国のものと言うのもありがちだ。
 この家だってそうだ。建築様式がリアルでの常識から外れていない。魔法やモンスターがいるのにだ。もっと、それに即した建物でも良いはずなのに。
 それは建造物に使われている材質の強度を見てもリアルと変わらない。これは多分、強力な個体がいないか、その数が極めて少数だからだろう。誰でも簡単に破壊される家では意味がないからな。騎士の装備の材質だった鉱物の硬さから考えても、人類の大半は弱いと推定される。もちろん、地球人に比べれば、人間と大型の野生動物くらいの筋力差はある。逆に言えばそれくらいしか差がないから、リアルとほとんど変わらない文化と文明が形成されているのだろう。
 この村長の家にある物や、あの騎士達の装備から言って、産業革命に相当するものはまだなのだろう。オレ達の脅威になるような銃火器や戦闘兵器の類いはない。これは大きい。
 もうこれはそう言うモノと割り切った方が賢明だろう。まだまだ、やらなければいけない事は山積みなのだから。
 その一つはエンリとネムの事だ。どうやら人間を虫ほどにしか感じられないオレだけども、言葉を交わしてしまえば幾分かの愛着は湧くようだ。これなら何とか自分を保てて行けるかもしれない。
 まずはこの村の現状把握から始めよう。
 世帯数25の120人程度の小規模の村。場所は国境付近で魔物が出る森も近い。ただし、この近くに森の賢王なる魔獣の縄張りがあるのでモンスターは滅多に見かけない。モンスターに直接襲われた事が少ないのが、ゴブリン達が受け入れられた一因だろう。
 オレは村を助けた対価として、報酬を要求した。自分達が旅の者で、路銀を必要としていると告げている。
 それに対して、村で出せる金額が銅貨換算で約3000枚。
 レートが銅貨20枚:銀貨1枚、銀貨20枚:金貨1枚、金貨10枚:白金貨1枚だから、金貨7.5枚ほどか。三人家族が一年つつましく暮らすのに掛かる金額が金貨10枚ほど、一人当たり金貨3枚半弱。
 村を訪れるのは、たまにくる行商人と近くの都市に住む薬師の他は、年一回の徴税官のみ。間違いなく辺境の地だ。
 この薬師とは、エンリが言っていた魔法を使える友人らしい。ユグドラシルでポーションを作っている職業の人は魔法を使えた。ポーションに魔法を付与する為だ。職業構成がユグドラシルと大して変わらないのかもしれない。何故そんなにユグドラシルと変わらないかは不明のままだが、保留する。それは何故、宇宙が生まれたのかに匹敵するくらい、皆に関わりがあって生活に関係ない謎だ。それは余力でやればいい。今は目の前の問題に注力する。
 この村の貴重な収入源の一つは、その薬師に売る薬草だそうだ。栽培している訳ではなく、モンスターが出る危険な森に取りに行く。なんとも不安定な収入源だ。それで余剰金はその程度なのだ。
 余剰能力がたった二人分の、脆弱な財政。これだけで村がギリギリの状態で運営されていたのがわかる。そこへ、この死者数である。村自体が存続の危機だろう。
 報酬をそのままエンリ達に渡したとしても、これだけでは到底暮らしていけない。エンリの年で働けない事はないだろうけど、子供一人を養っていけるとは思えない。どんなに頑張っても数年が関の山だろう。ネムがまともに働けるまで持たない。エンリの稼ぎだけで暮らしていけるなら、この村はもう少し豊かなはずだ。
 この村ではエンリとネムを養う能力が残されていないとオレは結論付ける。
 エンリ達をナザリックで保護するのは簡単だろう。だけど、それはできない。
 仮に異世界の標準が村を襲った騎士程度だとしても、何でもかんでもナザリックの力で助けられる訳ではない。ナザリックの力が強大だとしても、有限なのだ。無限の力でもない限り、どうしようも出来ないモノは必ずある。それに未だ、この世界に脅威が無いと決まった訳ではない。
 ここまでファンタジーな世界なのだ、奥地に住む強力なドラゴンなどがいても不思議ではない。
 オレは生きていく力の無い人に、一時の施しをするのは優しさだとは思わない。生きていく為の力をつけさせるのが優しさだ。とはいうモノの、十代半ば……文化によってはすでに成人として扱われる事もあるだろうが、オレにとって子供と言える年齢だ。大学まで出させてもらったオレとしては、せめて22歳までは完全な責任能力と判断能力を有していない前提で考えたい。これが犯罪ならば、そんなものは関係なく法に照らせばいいが、これは救済の話だ。今回のケースでは一時的な間に合わせがあってもいいのではないか。出来れば、この村も存続させたい。親が死に、生まれ故郷も無くなる。それは余りにも悲しい。妹の為に骨がひしゃげるほどに抗ったエンリには故郷があってほしい。オレは二度と親にも会えず故郷にも帰れないのだから、せめてこの勇敢な子くらいは、と思ってしまう。
 これはオレの私的な感傷だ。だからナザリックの力を使わずに、オレの交渉力だけでエンリとネムの生活と生まれ育った村をなんとかしよう。この案件に自分の力を使えるのは嬉しい。簡単過ぎる案件なのが少し不満なくらいか。

「ふむ、銅貨3000枚ですか。それがこの私の評価という訳ですね」

「いえ、決してそういう訳では無いのですが……」

 村長は困った表情を浮かべる。う~ん、腹芸もできないのか。まあ、小さい村の村長なんて一般人と変わらないよな。識字率も低いそうだし、国民に教育を施してはいないのだろう。

「では、いかほどの報酬が妥当と考えていますか」

「それは、私では検討がつきません。そもそも、これほどの魔法の使い手を聞いた事すらありませんから」

 まあ、そうだろうな。兵士を一方的に倒せるモンスターを召喚できる人間がざらにいたら、兵士そのものがいらない。だからこそ吹っ掛けられる。でも、それでは意味が無い。

「さて、先ほども言いましたが、私達は旅人の身。路銀はいくらあっても困らないのです」

「はい、それは分かっております。魔法の事故に巻き込まれて遠い異国に転移されたなど、村の恩人がそのような荒唐無稽な嘘をつく必要がありませんから。文化や風習はおろか国の名前さえ聞いた事がない遠い地に飛ばされてしまっては、いくらお金があっても困る事はないでしょう。それに顔立ちからして南方の出身なのが分かりますから、安い金で動いたと知られれば足元も見られてしまうかもしれません」

「ええ、ですがカルネ村としては、これ以上は出せないと」

 オレは窺うように村長を見る。

「かき集めれば、多少は出せるでしょうが、それをしてしまうと……」

 村長は渋い顔をする。その先は容易に想像がつく。しかし、嘘のつけない人だ。

「話は変わりますが、あの騎士達の装備していた品は我々が頂いてよろしいでしょうか」

「え、ええ、どうぞ。あの騎士どもを倒したのはササビ様ですから」

 これでいくらかの当座の金が積み増されたな。

「後、あの騎士達の身柄も貰います。これも王国に売ろうと思っています、恩と一緒に。多少は報奨金が出るでしょう。そして王国に滞在しやすくもなる」

「ええ、まあ、そうでしょう」

 これくらいあれば十分だな。そろそろ切り出すか。

「さて、両親が死んでしまったエンリ・エモットとネム・エモットはどうなりますか?」

「それは、もちろん村で面倒を見るつもりです、が……」

「確約できる訳ではないと」

「……そうですね、正直な所を申しますと、この村の存続自体が怪しくなっています。最悪、バラバラの場所に移住となる事もあると思います」

 この村長は本当に人がいいと言うか、なんと言うか。これだけでも、これまででの村の平和具合が分かるというものだ。柵もない村だしな。集団の長としては少々危機感が薄いと言わざるを得ない。

「では、私達に対する報酬、騎士達の装備品及び身柄。そして報奨金。このお金でエンリとネムと、それにエモット家が住んでいた家を家財ごと買い取ります。私は旅人の身なので連れてはいけませんので、村長さんが面倒を見てくれますか」

 村長は立ち上がり目を見開く。良かった通じたみたいだ。流石にこれだけカッコつけて通じなかったら恥ずかしい。これで村長に「ロリコン野郎が!」って言われたら目も当てられない。

「よろしいのですか、ササビ様。なんとお礼を言えば……」

「あぁ、それと、騎士達を置いている二軒も買い取ります。一つはゴブリン達の家に、もう一つは私達がこの村に滞在する用がある時に使用しますので、働き口がない人がいれば、維持管理にでも雇ってください」

 住む人が居なくなった家を使ったので、少なくても二家族が全滅している。

「これくらい買えば、そこそこ妥当な取引になるのではないでしょうか」

 オレは商談用ではない笑顔を浮かべる。

「はい、それだけのお金があれば、無用の疑いを掛けられる事も無く、村が存続できます」

「エンリとネムには私から話をします。断られた時は、また話をしましょう」

 その時はまた違う案を考えないとな。しかし、人助けに来て人身売買か。逆に面白いな。
 これでエンリとネムとカルネ村はしばらく大丈夫だろう。引き続き、村長から異世界の情報を聞き出していく。今度は情報よりも友好関係を築くのに注力する。ここが異世界での活動の起点になるかも知れないのだから、友好的な方がやりやすい。
 オレは村長と会話を続けながら、この村が襲われた理由を考える。
 カルネ村はリ・エスティーゼ王国に属していて、王の直轄領。王国の東にはバハルス帝国、南にはスレイン法国がある。カルネ村自体はバハルス帝国との国境近くに位置している。そして襲ってきた兵士はバハルスの鎧を着ていたと。これはほぼ間違いなくバハルス帝国の仕業ではないな。この村を襲う意味がない。そもそもメリットがない。こんな何かの一大生産地でもなく、経済力もなく、モンスターが跋扈する森が近くにある村なんて襲ってどうしようと言うのだ。素人が、と言うべきか軍に関わる者以外は、軍隊と言うもの能力を過剰評価する傾向にある。実際の軍は驚くほどモロく、能力が限定されていて、使うのが難しい。さらに金食い虫であり、コストパフォーマンスは低い。維持するだけでも驚くほどの金がかかる。さらにいざ軍事行動を行えば莫大なリソースを消費する。それは、武器だったり、食料だったり、燃料だったり、人であったり、軍事行動のほとんどが、一般より()()()()()()で成り立っていて、それらが他の分野では類を見ないスピードで消えていく。だから軍事行動は金勘定の後に行われるのが普通だ。と言うよりも金勘定の後でやらないと、大体は予想以上に金がかかり、軍資金が尽きて失敗する。軍事行動は計算高く冷静に行わないと成功しないのだ。
 そんな軍事行動をこんな辺境の村にするメリットがあるだろうか。はっきり言ってない。だが、実際に行われた。それは何故か。仮に帝国が行ったなら、究極的には嫌がらせに集約されるだろう。ただそれをするなら、自らの紋章を隠す。オレ達というイレギュラーが無ければ間違いなく成功していた作戦だ、それなりに考えて実行された筈だ、そんなお粗末な失敗をするだろうか。そうだとしても、どっちにしろコストに見合ってない。やはり帝国の線は乏しい。これが法国ならば離間工作で十分に説明がつく。が、弱い。それならば、もっと残虐な殺し方をするだろう。何より、騎士達の練度が低い。あまり統率されてなかった。何か違う目的があるはずだ。作戦によっては、まだ本隊が他にあり、行動中の可能性は大いにある。そう、例えば何かおびき出して、撃破するとか。
 まあ、ここまで考察していてなんだが、ただただ国の上層部がアホなだけのパターンがよくある。
 その辺の詳しい所は縛り上げている兵士達に聞けばいいか。
 そろそろ偵察部隊からの報告をデミウルゴスがまとめているはずだ。ナザリックでシモベの指揮をしているデミウルゴスなら間違いなく上手くやってくれる。
 タイミング良く、ナーベラルから〈伝言(メッセージ)〉が入る。

『デミウルゴス様からのご報告を申し上げます』

 ナザリックでは〈伝言(メッセージ)〉を使える者は少ない。スクロールもあるけど、手に入る手段が少ない現状、節約できる物は節約しないといけない。例え、そのストックが膨大だとしても、いずれ底をつく。一応、造物主(ザ・クリエイター)のスキル〈上位・中位・下位素材創造〉で一日それぞれ4・12・20回ずつ、規定のレベルまでの素材ならスクロールだろうが、金属だろうが、なんでも創り出せる。ユグドラシル時代では、焼け石に水同然のスキルだったが、素材の入手先があるか分からない世界では、非常に有用なスキルに格上げされた。もちろん、異世界に転移してから毎日欠かさず使用している。
 それにオレ個人が持っているアイテムのストックだけでも並みのギルド以上はある。アインズ・ウール・ゴウン加入前に所属していたゲーマーギルドが解散して、その取り分があるからだ。だから使用量にもよるけど十年単位で心配は無いけど、無駄遣いをする理由にはならない。
 ナーベラルからの報告によると、この近くの村も襲われていて、火を放たれていたそうだ。生き残りは少数。これは証人用だろう。

『ムササビ様、20名ほどから成る謎の騎馬団が、襲われた村から一直線にカルネ村へ向かっています。装備は統一されていませんが、馬の扱いは相当の練度です。どうなさいますか』

 村長と会話中なので、口を隠してナーベラルに返事をする。

『そのまま接触はせずに監視を続けろ。村に来るなら好都合だ、我が直接話を聞く』

 村を襲ったのは、この騎馬団を釣る為か。予想が的中したな。どれほどかは分からないが、こうして罠にハメる価値がある部隊。練度から考えて貴族や王族などではない、戦力が近隣国に轟く部隊もしくは隊長ないし数人が所属しているのだろう。
 そうなると、あの騎士達は捨て駒か。無事に任務を果たせれば良し、失敗したら処分だろう。まだ本隊がどこかにいるはずだ。これは直接戦闘系ではない、隠密系か魔法系だろう。じゃないと意味がないからな。
 予想では、釣りたい相手はレベルにして20程度の部隊か、30程度の個人だろうな。10レベル違えば、勝率はほぼ0になる。
 レベル一桁の全身鎧を装備した騎士が、農作業と言う肉体労働をしている村人に追いつけたのだ。騎士達が、それなりの肉体的訓練を積んでいるのは明白。それだけの訓練と装備のコストを払った騎士達を、餌にしてでも釣りたい部隊だ。それらの騎士では歯が立たない部隊でないと、意味がない。となると10レベル上の兵で固められた部隊か、それを上回る差がある個人が所属しているはずだ。それを倒す役割の部隊も、勝算のある部隊がぶつけられるはず。隠密行動から考えて数で上回る部隊というのは考えにくいから、一方的に攻撃できる部隊か、メタれる部隊かのどちらかだな。何にしても正攻法では勝率の乏しいのは確かだ。
 どういう場合にしろ、国が行動を起こしてまで倒したいモノだ。どの程度かはさておき、国に対して脅威を与えられる存在。この騎馬団と騎士の本隊を見れば、この周辺国家の戦力レベルがある程度は把握できるというものだ。
 ナザリックの戦力に比べて、遥かに下である可能性は大いにある。昨日は世界征服なんて言ったが、友好的な世界統一も出来そうだ。
 どちらにしても、まずは騎馬団に接触してからだな。それだけの人物ならば、公的な人間なのは間違いない。確率は低そうだが支配階級の可能性もある。
 ノックの音が響く。村長がオレの顔を窺う。オレは柔和な顔で答える。村長がドアを開けて、訪ねて来た村人と話をして振り返る。

「葬儀の準備が出来たようです」

 村長と目が合い、オレは笑顔で返す。

「私達も参列してよろしいでしょうか」

 村長は快諾してくれた。もう心は掴んだかな。
 村長の家から出ると、モモンガさんがアンデッド作成で作ったデスナイトがゴブリンと共に村の手伝いをしていた。もうとっくに制限時間は過ぎているのに、なんでデスナイトがまだいるんだ?
 近くで手伝いをしていたモモンガさんが「お前なんで消えないの?」ってデスナイトに聞いたら「ウガァ……」とか言って小さくなってんだけど、なんか、このデスナイト可愛いな。いや、デスナイト可愛いって、え、オレ、アンデッドになったから感覚がおかしくなったのか。アンデッドが同種族だからか、怖い怖い。この考えはやめておこう。2メートルを遥かに超すアンデッドに萌えるだなんて、人類には早過ぎる。
 それに今から葬儀に参列するんだぞ。死体に萌えるとかヤバ過ぎだ。






















 共同墓地は村の外れにある。そこまでの道すがら、ムササビさんは村長から聞いた異世界の事をかいつまんで説明してくれた。
 ムササビさんの予想では、この世界に脅威がある可能性は低いそうだ。少なくとも周辺国家で俺達を倒せる個体が、いきなり襲い掛かってくる事はないだろうと言っていた。他よりも抜きん出た力を持っていながら、おおっぴらに動いていないのは理性的な存在だろうとムササビさんは推理していた。後はプレイヤーを警戒するだけだが、この異世界に来てすぐに国に取り入っているとは思えない。
 共同墓地にて葬儀が行われる。ボロい柵に囲まれて、丸石に名を刻んだだけの墓石が点々とあるだけの墓場。この世界では遺体を早く埋葬しないとアンデッドになるそうだ。そんな世界でアンデッドであるデスナイトが葬儀に参列しているのはどうなんだろうと思わなくもない。村人も何も言わないので大丈夫だろう。村に残していっても、ほとんど人がいなくなった村にデスナイトがぽつんとたたずんでいたら、いらぬ誤解を受けてしまうだろうし。
 葬儀は滞りなく進んでいる。謎の騎馬団が到着するまで、まだ時間がある。こっちに来るまでには、この葬儀は終わるだろう。葬儀の途中で戦闘になるのは避けたい。
 エンリとネムが墓前で泣いているを見ると、母が死んだ時を思い出す。もう顔がおぼろげになるほど忘れてしまっているけど。それでも母親に愛情が無かったわけではない。
 俺はアイテムボックスからこっそり出した蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を撫でまわす。あの時に、この短杖があれば間違えなく生き返らせていた。多分、こんなに忘れてしまっているのは辛い記憶だからだ。
 これを使えば、ムササビさんが助けたエンリとネムの両親を生き返らせられる。それにとどまらず死んだ村人全員を復活させられるだけの数はある。
 俺は今すぐ、この蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使ってしまいたい。エンリとネムの悲しみを消し去りたい。でも、それはエゴだ。
 この世界の魔法に死者の復活は無いらしい。第五位階魔法を使えるレベルの者がいないだけか極少数なだけではと、ムササビさんは推測しているようだった。どちらにしろ、そんな人類の夢とも言える奇跡を起こせばどうなるか、考えるまでもない。国も放ってはおかないし、プレイヤーがいれば間違いなく耳に入る。悪意あるプレイヤーがいれば先手を取られてしまう懸念がある。だからと言って、アインズ・ウール・ゴウンが敗北する気はしない。俺一人ならもっと慎重になっただろうけど、『アインズ・ウール・ゴウンの周瑜』がいると思うと、負ける気が全くしない。ただ相手が悪ければ甚大な被害を被る。それは避けたい。
 ムササビさんは自らの人間性を保つ為に、ここへ助けに来た。そんなムササビさんならどうするだろうか。冷静に生き返らせるべきではないと思うのか、それとも情にほだされて生き返らせるのだろうか。
 分からない。人の生き死になんて本気で考えた事がない。俺みたいは負け組は割と死が近くにある。過労死や事故死も珍しくない。俺やウルベルトさんの親もとっくの昔に死んでいる。死んだ人を生き返らせるなんて妄想にも等しい願いを叶えられるようになるなんて思ってもみなかった。
 冷静にならないと。ゆっくりと呼吸をして心を落ち着かせる。
 願いと言えば、超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を3回だけノーコストで発動できる、俺がガチャで当てた超超希少アイテム〈流れ星の指輪(シューティングスター)〉。これを持っているのはアインズ・ウール・ゴウンの中でも、俺とやまいこさんだけである。間違いなく俺よりも課金額が多い――俺の月収以上の課金を毎月しているムササビさんは持っていないのだ。相当に欲しがっていたにも関わずだ。それはムササビさんは毎月の課金額はいくらまでと決めているからだ。限度額までガチャを回して、出なかったから持っていない。ムササビさんなら、それこそ出るまで回せたはずである。
 だから俺はある時、聞いてみた。別に出るまで回しても生活に困る事もなかったのに、なんで回さなかったんですか、と。ムササビさんは頭の上に困った時に出す感情(エモーション)アイコンを表示して、声も少し困ったような声の中に、僅かに違う感情が混じりつつ答えてくれた。
 『俺は、なんと取り繕うとも支配する側の人間ですから、やろうと思えば大抵の事ができるんです。だからこそ線引きが大事なんですよ。歯止めが利かなくなりますから。それに歯止めが利かなくなった所で、何でもできる訳ではないですしね』と。
 生き返らせるかどうかの話とこの話を比べられないかもしれないけど、ムササビさんは自分の立場と権力を良く知っている。だから、人一倍自制的で線引きをはっきりさせている。
 ムササビさんは生き返らせる事を望んではいるはずだ。だけど、それはしない。するなら、もう生き返らせている。ムササビさんは、自分の心が浸食されていると分かった時でさえ――あれだけ取り乱した時でさえ、ナザリックの迷惑になるなら出ていくと言ったんだ。ムササビさんは自分の肩にある荷を決して下ろさない。自分の心が消え去るかも知れない時でさえ。
 だったら俺は、ギルドマスターとして、一人の人間として、これは使わない。ここで使ってしまう訳にはいかない。ここで俺が使おうとしたら、ムササビさんは止めてしまうだろう。そんな事をムササビさんにさせられない。自分の人間性を侵食されつつあるムササビさんにそんな事をさせられる訳がない。
 俺はひっそりと蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)をアイテムボックスにしまう。
 これで良かったんだ。これから俺はエンリ達と会う度に、生き返らせなかった事を思い出すだろう。会わなかったとしても、時折それを思い出して後悔するだろう。俺がオーバーロードのままなら、もっと簡単に割り切れていたのかもしれない。エンリ達の事もナザリックに益があるかないかで考えられたかもしれない。俺なら割り切ったら、その後は何も感じないだろう。でも、今の俺は人間だ。寿命が無い身体なら永遠に後悔し続ける。それでもいい、この重荷は鈴木悟が背負えばいい。そうでなくても、ムササビさんは自分に厳しい人なんだから。一つくらいは年上らしい姿を見せるのも悪くない。
 ムササビさんは割り切れたとしても、切り捨てられたとしても、何も感じない訳じゃない筈だ。もし、そうならムササビさんはずっとユグドラシルに残って、NPC達の改良を続けたりなんてしない。
 このまま葬儀場で泣いているエンリ達を見ていると決心が揺らぎそうで、俺はその場から離れる。
 アルベドは何も言わず俺の後をついてくる。デスナイトはそのままにしておく。あの巨体ではこっそり抜けるなんて無理だからな。村と墓地の中間辺りに差し掛かった人気の無い所で、アルベドは声を掛けてきた。

「どうなさいましたか。モモン様」

 優しい声音だった。胸中を見透かされたんだろう。俺とは頭の出来が違うんだ。泣きそうになるのをこらえて、支配者ロールを続ける。

「少し、気分が優れなくてな。その、子供が泣いているのは堪えるのだ。情けないと思うか」

「いえ、モモン様。御心が痛むとおっしゃるなら、生き返らせれば良いのではないでしょうか?」

「それはできない。そんな事をしてはナザリックが厄介事に巻き込まれるかもしれない。それは私もササビさんも望んでいない」
 
 ムササビさんがナザリックのNPCを大切に思っているのは疑いようもない。間違いなく俺よりも大切に思っている筈だ。

「モモン様。至高の御方々がお望みならば、我々はどんな苦難も耐えて見せます。我々シモベの事などはお気になさらずに、御心のままに振舞ってくださいませ」

「アルベドよ、安心するが良い。私は思いのままに振舞っているぞ。ナザリックの皆に害が及ぶのが、それよりも堪えるだけだ」

 死んだように生きていたリアルよりは間違いなく思いのまま生きている。親を殺されたばかりの子がいるのに不謹慎かもしれないけれども。ここでエンリ達の親を生き返らせるのは単なるワガママだ。ワガママ放題するのと、思いのまま生きるのは別物だと分かるくらいには大人だ。
 ――本当に俺は、本心で俺は、そう考えているのか。ムササビさんが困るからじゃないのか。分からない。ムササビさんが相手だから、重荷を背負うと決めたのか。これがNPC相手ならどうしただろうか。分からない……。俺はすでに人間の心が死んでいるのだろうか?

「……ムササビさん、俺は……」

「呼びました、モモンさん? それとオレはササビですよ」

 いつの間にか、ムササビさんが後ろに立っていた。

「ええ、ムササビさん! びっくりした」

「ササビですって」

 考えに没頭し過ぎていた。まだ、これから騎馬団に会うんだから。しっかりしないと。

「ササビさん、どうしたんですか」

「いや、葬儀の最中に妙齢の男女が抜けるなんて、これは、ねえ。アルベドの仲は応援はしますけど、TPOをねえ」

「いやいやいや違いますから!」

 ホント、ムササビさんのメンタルが強過ぎる。こんな時でも、ユーモアを欠かさない。

「冗談はここまでにして、打ち合わせをしようと思いまして。初めての公人、もしかしたら支配階級の人間かもしれないですから、ちゃんとしないと」

 支配階級、文字通り人間を支配する側の人間。勝ち組とか負け組とかの小さい物差しでは測れない人間。目の前にいるムササビさんがそうだ。ムササビさん自身がよく知っている。
 相手が支配階級だとしても、同じ階級にいたムササビさんなら上手くやってくれるだろう。いや、階級とか関係なくムササビさんは誰とでも仲良くなれる。現にもう村長とも仲良くなってる。
 支配階級のムササビさんがアインズ・ウール・ゴウンに加入する時は、ウルベルトさんとはあまり上手くいかないかなと思っていたけど、いつの間にかとても仲良くなっていた。しかも、ウルベルトさん側がとても可愛がっているみたいだった。ムササビさんはどうやってウルベルトさんと仲良くなったのかは知らないけど、俺には無いコミュニケーション能力だ。ウルベルトさんはユウも可愛がっていた。何かの装備をあげてたもんな。そう言えば、やまいこさんや、るし★ふぁーさんも何かあげてたな。人に愛される何かがあるのだろうか。あるとすれば羨ましい。
 やまいこさんなんか、ムササビさんがログインしない日とかはユウを連れ歩いてたもんな。女子会にも連れていってたみたいだし。
 しばらく、打ち合わせをしているとユウから〈伝言(メッセージ)〉が入る。

『モモンガ様、そろそろ村の者が視認できる距離に騎馬団が入りますから、用意してください』

 ムササビさんにもナーベラルから同じ報告が届いたようで、口を開く。

「それではゴブリン達はどこかに隠れてもらいましょう、それにセバスも一緒に隠れてもらいましょうか。それなりに地位がある人に幹部クラスの面が割れるのはよろしくないですからね。デスナイトは騎士達に見られていますし、あの巨体ですから下手に隠すより、オレ達と一緒にいてもらいましょう」

 ムササビさんはアルベドの方を向く。

「アルベドも兜を取らずに、モモンさんの召喚したシモベと言う事にしておく、モモンさんの護衛は任せたよ。アルベド」

 アルベドは軽く頭を下げる。俺に対する様付けは譲らなかったが、仰々しい礼は止めてくれている。

「少し、緊張しますね」

 俺の本音が漏れる。
 これからの対応次第では王国や法国と敵対するかもしれないのだ。
 ムササビさんは俺よりも対話を重んじる人だ。だからこそ、対話の限界を良く知っている。結局、最後に物を言うのは武力だと理解している人だ。だからこそのアインズ・ウール・ゴウンの渉外役。悪名高いギルドの渉外役は常に危険が付きまとう。

「大丈夫ですよ。何か問題が起きたら、騎士達の本隊を殲滅すればいいんですから。こういう証拠を隠滅出来る時はそこそこ大胆な手を打てるのは楽ですね。有能そうなのがいればをナザリックに確保してもいいですしね」

 なかなか過激な発言ではあるが、この発言を持ってムササビさんの人間性が蝕まれているとは言えない。元々ムササビさんは子供の敵には苛烈だ。今回で言えば、エンリやネムのような親を亡くした子供が出てしまった以上、現段階では騎士の本隊は敵に当たる。
 ユグドラシル時代に、自分たちの憂さ晴らしの為だけに子供のプレイヤーばかりを執拗にPKする頭のおかしいギルドがいた。ムササビさんは前のギルドに在籍している時、それを壊滅させた。ただ武力のみで攻めるのではなく、子供ばかりをPKする事に乗り気じゃなかった人達には、まともなギルドへ斡旋したりなどをした後に壊滅させている。それもただの壊滅ではない、残ったギルドメンバーを全員、リスポーンキルの末にレベル1まで追い込んだ。個性派ぞろいのアインズ・ウール・ゴウンでも、そこまで過激なエピソードを持っているのはムササビさんだけだ。ムササビさんは『ギルド一の容赦無いさん』なのだ。
 そもそも、誰をどこでPKするのも自由だからこそ、ムササビさんも自由にPKしただけの話。
 ムササビさんは線引きをしっかりしている。容赦はしないが、ルールは侵さずに敵を倒す。これから会う騎馬団や騎士の本隊の人がまともなら、対立はしないはずだ。

「そう言えばモモンさん、オレ、エンリとネムを買いましたから」

「え? ロリコ――」

 子供の敵に苛烈なのって、もしかして……。

「違いますから。ペロロってませんから」

「なんですか、ペロロってるって」

 言われなくても、大体の意味が分かるのが物悲しい。

「親がいない子供が生きていくのは大変ですからね。村の救世主の所有物となれば、ひとまずは安心ですよ。決して無碍には扱われませんからね」

 ああ、そういう理由か。ホント、ムササビさんは子供に優しい。

「騎馬団の人もムササビさんみたいに良い人達ならいいですね」

「オレが良い人かは置いといて。騎馬団が良い人でも、その上まで良い人とは限らないですよ。もしかしたら騎士達の本隊の方が良い人の可能性もありますからね。こればっかりは話を聞いてみないと分かりません。この場でどちらの国に付くか、決断に迫られるかもしれません。最悪、両国を敵に回す可能性もありますし、この村を見捨てないといけなくなるかもしれませんから、その覚悟はしておいてください。もちろん、ベストは尽くしますが」

 ムササビさんは誰とでも仲良くできるだろうけど、誰とでも仲良くなれると思っているほど子供ではない。そして無理なモノは切り捨てられる、ちゃんと現実を見据えて決断を下せる大人だ。そもそも現実を無視して何でも救おうとする人なら、初めからヘロヘロさんを自社で雇っている。それをヘロヘロさんが必要になるポジションを用意して、ずっと働ける環境を整えてからヘッドハンティングしようとした事からも分かると言うものだ。
 不意にムササビさんが頭を下げる。

「モモンさん、ありがとうございます」

 急にお礼を言われても心当たりが無い。

「葬儀の時、蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使われていれば、オレが止めなければいけなくなってました。モモンガさんには親を亡くされた経験があるのに」

 どうやら見られていたようだ。ムササビさんは目聡いなぁ。

「構いませんよ。私はもう母親の顔すら、おぼろげになってしまっていますから……」

 目をまっすぐに見つめるムササビさん。母の記憶が霞の様に淡くなっている俺は目を逸らしてしまった。
 その時、村人がこちらにやって来る。

「ササビ様、モモン様、この村へ馬に乗った戦士風の者達が近づいているそうで……」

「分かりました、すぐに行きます。モモンさん達はデスナイトを連れてきてください」

 ムササビさんは村人と一緒に広場に向かう。
 俺はアルベドと二人になった所で、自分の口を覆いアルベドに〈伝言(メッセージ)〉を飛ばす。

『アルベドよ、そのまま動かず聞いてくれ。これから騎馬団と、もしかしたら騎士の本隊とも話す事になる。もしそこでムササビさんと異世界の人間が対立しそうになっても、私は出来る限り穏便にすましたい。仮に戦闘になったとしても殺生は極力抑えたい。何が起きても私に協力してくれるか』

 ムササビさんだから大丈夫だとは思っている。それでも何かあった時の準備はしておきたい。
 アルベドから了解の返事がくる。アルベドが味方に付いたら心強い。これから初めての公的な人間との接触。どんな人間でどうなるかが、この世界との向き合い方に大きく影響するだろう。オレは支配階級にあまり良い印象を持っていないけど、中にはムササビさんみたいな人もいるのを知っている。できれば、良い人でありますようにと祈るのだった。



地味に原作よりも大事にされるエンリとネム。
モモンガに頼られるアルベド。原作でも本当の事を話していたら、こんな感じになっていたのではないでしょうか。さらには至高の四十一人の捜索隊も結成されずに済んだのではないでしょうか。
ただこの物語のモモンガさんはアンデッドではないので、鈴木悟は残滓ではなく丸々残っています。アンデッドによる冷静さも無いので、アルベドとの関係は遅々として進みません。



次回はいよいよガゼフとニグンが登場します。






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