A.難産でした。
魔王軍。
奴らは常日頃から人間の住む村や街などを破壊し、殺戮の限りを尽くす。多くの冒険者が魔王軍へ挑み、最後にはその命を散らして終わる。
魔王軍の中でもさらに脅威とされるのが魔王軍幹部で、そいつらが出てくると腕利きの冒険者でも対応する事が難しく、一度会ってしまったら死ぬと言われる。
「我が名はベルディア!魔王様の命を受け、この馬車に積まれている秘密兵器とやらを破壊しにきた!」
……会ってしまった。魔王軍が襲ってきたとは言っていたが、そこまでやばい奴が出て来るとは思ってなかった。というかこの馬車の中にそんなものがあるなんて一切聞いてなかったんだが。おいおっさん、顔を背けてないでこっち見ろ。
「無抵抗でそれを渡すならば俺達は貴様らに手出しはせん!それとも、この俺と戦う事を望むか?」
護衛がオレともう一人の紅魔族、ぷんぷくだけである事に気を緩めたベルディアは、格差を見せつけるかの様に余裕ぶっている。ぶっ殺してやろうか。
しかし相手はベルディアだけでなく、その配下であるアンデッドナイトまでいる。もし仮に戦ったとしても、正直自分たちの身だけならばどうにかなるだろう。しかし、馬車のおっさんたちまでは守る事は出来ない。
オレ達が普通の紅魔族だったらな。
「我が名はぷんぷく!紅魔族随一の
自信満々に名乗り出るぷんぷく。ベルディアにターンアンデッドが効くとは思えないし、最終的にオレが仕留めることになるんだろう。
「全く、言われた通りに「『ターンアンデッド』!」差し出しておけば痛い目に合わずに「『ターンアンデッド』!」済んだものを。それでは貴様の願い通り、俺自身が貴様を倒して「『ターンアンデッド』!」ええい喧しい!少しは俺の話を聞け!魔王様の加護を受けた俺でも何回もやられると頭にくる!というかお前どんなレベルしてるんだ?この俺でも少し、ほんの少しだけ痛く感じるんがが」
「だって魔王軍幹部に躊躇してたらこっちがやられるしー。それとも待って欲しいの?魔王軍の幹部ともあろう者が?」
煽る煽る。紅魔の里でもかなり口の回る方であるぷんぷくだが、それでもいつも以上に口が回っている。いや、そうじゃない。少しでも奴の冷静さを欠かせようとしてるのか。
とはいえそんな事がうまく進むわけでもなく。
「まぁ良い!紅魔の娘一人ごときでこの俺をどうにか出来ると思うな。もう一人の娘は……剣士だろうが、この俺に及ぶ訳でもあるまい。さっさと逃げ出していたなら命は助かっていただろうに」
ベルディアの言った言葉にカチンときたので、周りのアンデッドナイトを無視して斬りかかる。
護衛?ぷんぷくにでも任せておけばいい。普通のアンデッドナイトだったらぷんぷくのターンアンデッドでも足止めくらいなら出来るはずだ。
「っつーわけでこいつ殺すから雑魚はお前に任せた!」
「どういうわけか全くわからないし、私の獲物を奪うとはいい度胸じゃないか。ま、ここで仕留められるに越したことはない。雑魚は私に任せてさっさと殺してきな」
いきなり斬りかかったので少しだけ対応が遅れるベルディアだが、それでも魔王軍幹部。焦ることなく対処してきた。でもその少しの隙さえあれば十分だ。
自分の魔力をクラレントに流し込み、一気に増幅させる。そして行き場を失った魔力を溜め込んだコイツでもう一度斬りかかると、わかっていたかのように対応された。
「ひよっこのやろうとしている事などこの俺に通用する筈が……ってなんだこの魔力の量!?」
「逃がさねえよ。ここで死ね」
行き場のない魔力が、剣がぶつかった事で反応して爆発が起きる。これがオレの今できる高威力の攻撃だ。
「増幅」の機能を持つクラレントに、紅魔族であるオレの魔力をぶち込めば大量の魔力が剣の中に発生する。
しかしオレは本物のモードレッドのように、剣の中の魔力を一方向に打ち放つ事ができない。だから一度衝撃をぶつけて起爆しなきゃいけない。
要するに爆弾抱えて特攻ってことだが、何の対策をしなくても不思議な事にこの体はいつも無傷だった。だからこんな無茶苦茶な事が出来る。
「な、何なんだ貴様!さっきのアホみたいな魔力量に馬鹿でかい爆発は!頭おかしいんじゃないのか!?」
「はっ、頭がおかしい?上等じゃねえか。勝てばいいんだよ勝てば」
「……まぁいい。確かにかなりの威力だったが、それでも俺を倒すには足りん。もう少し成長していたならば俺に傷を負わせられただろうがな」
「それじゃ、もう一発いくか」
「えぅ?」
その後、ベルディアは数十回にわたって大規模な爆発に襲われ、捨て台詞を吐いて逃げ出した。
◆◆◆
「なんか大したやつじゃなかったね」
「お前アンデッドナイトに苦戦してたじゃねえか。随一とか言ってたのによーくそんなこと言えるなー?」
「あいつらに撃っても中途半端な所で阻害されてあんまりダメージが入らなかったの。だから私は悪くない」
「ま、足止め出来ただけでも上出来だ。この先は流石に襲ってこないだろうし、あとは紅魔族随一のアークプリースト様に任せても大丈夫だよな?」
それにしてもベルディアが言っていた秘密兵器とやら。オレ達に一切知らされずにいたが、正直魔王軍の幹部が襲ってくるレベルになるともっと護衛が必要な筈だ。
「馬車の宛先は……アルダープって書いてあるな。まーたあいつかよ」
アルダープは紅魔の里にも噂がやって来るレベルで悪名高い領主で、不正をしていない時は無いと言われる程に嫌われている。それでも領主の座に居座っている事が不思議なのだが。
今回の事について予想すると、紅魔の里から高性能な魔道具を購入して魔王軍との戦闘で手柄を立て、領主の地位から更に出世しようとしたのだろう。
馬車を使ってる時点で金を少しでも使いたくないっていう魂胆が見え透いてるんだけどな。もし本当に魔王軍に対抗する気力があるなら割高でもテレポート屋を使えばいい。
「金ケチって強奪されたらそれこそ金の無駄だってわからねえのか」
「輸送に馬車を使ってる時点で大して期待してないっていうのもあるよ。とりあえず現物を確認し……て……」
馬車の中に積まれていた物を見たぷんぷくが真っ青な顔になる。そして馬車のおっさんの所に走って行くとこう言った。
「なんでこんなもの持ってきてるの!?これが奪われたら人間が終わりだったかもしれないのわかってんの!?」
「おい、どうしたんだよいきなり怒鳴って–––––––」
怒鳴りだしたぷんぷくが見た物を確かめようと、オレも馬車の中を覗くと驚くべきものがあった。
そこには、紅魔族が馬鹿みたいな技術力を使いまくった末に完成した物があった。
本来それはここにあってはいけない、というか世に出てはいけないのだ。いつも自重をしない紅魔族でさえ
『あっこれ本当に駄目なやつだ』
と作った当時の紅魔族が考えたレベルの代物。
何がヤバイのかと言うと、一度使うと世界が滅ぶとされている紅魔族に伝承として伝えられて封印されている代物、それを
何故そんな物が此処にあるかは後で考えればいいとして。
「とりあえずこれをどうするかだよなぁ……」
「一回里に帰ってきちんとした管理をしてもらわなくちゃダメだねー。大人の紅魔族が大勢で取り扱うのが普通だし、私達だけでどうこう出来る事じゃない」
「だとしたらこれまでの一週間は無駄になるってことじゃねえか!ったく、最初から知ってりゃテレポートで行ってたのによぉ」
不満を垂れててもしょうがない。依頼は失敗だが依頼主の責任って事である程度の額は貰えるし、それを使って勿体無いがテレポートを使うしかないか。
ベルディアには逃げられるし、こんなヤバい物は見つかる。加えて此処まできた時間は無駄になっちまった。
「そういえばこれって族長の家で厳重に保管されてた筈だけど、なんでここにあるの?」
「あのおっさんこういうの管理すんの向いてねえんだよ。使命だーとか切り札ーって感じで何か言われたらコロッと態度変えるからよ」
「 今頃紅魔族の里は大騒ぎだろうねー。ゆんゆんに見つかって族長さんぶっ飛ばされたりしてないかなぁ?」
紅魔族は大半が高い知能を持っているって言うが、正直こんなことやらかしてるようじゃそんな情報信用できねぇよ。
ったく、なんでこんな事になるかなぁ。
ガチャ大爆死したので更新ペース早めます。
これを書いたら星5が出ると信じて。