私立探偵事務所の調査員。
新事務所の設立の為、舞台となる町に越してきた。
実は、子供の頃に原作の少女と似たような体験をしているが、その記憶は無い。
お話に出てくるランタンは、その時に使っていた物を直し直し使っている。
性別は、ご自由に。
○月×日
○○県○×町に仕事の関係上引っ越す事になり、越してきてから早数ヶ月。
新参者が何を言うのかと非難を覚悟して記す。
この町は何かおかしい。
この○×町は、お世辞にも栄えているとは言い難い町だ。観光資源も無く、大規模な雇用を生み出す産業や施設も無い。否、施設は十年以上前に倒産した製鉄工場があったらしい。
話を戻そう。
私がこの町に違和感を感じ始めたのは、町に越してきてすぐだった。
この町の住人は、日暮れから外出をしないのだ。
何の娯楽も無い町だから、出歩く者が居ないのだと、最初は私もそう思っていた。
だが、それは違った。
あれは、何時の頃だったか。確か、越してきて三日目位の頃か。私はうっかり夕飯を買い忘れてしまった事を、家に帰り着いてから思い出し、急ぎ近くに有るだろうコンビニかスーパーマーケットへ足を向けた。
半額弁当か百円おにぎりでもあればいいと、街灯が少なく薄暗い町並みを、子供の頃から大事に使っている古ぼけたランタンを片手に急いだ。
そして、私は知った、理解した。
この町の住人が何故、夜に外に居ないのかを。
何故、この町には夜を照らす灯りが少ないのかを。
この町の夜は、あの〝ナニカ〟に支配されている。
灯りが少ないのは、あの〝ナニカ〟を下手に刺激しない為。
私は黒い靄の様なナニカに追われながら、命からがら自宅まで逃げおおせた。
あれは一体、何だったのか。
○月□日
この町には〝よまわりさん〟と呼ばれる存在が居るらしい。
と言っても、子供達の間で語り継がれているだけに過ぎない。だが、この〝よまわりさん〟は、一体何時から語り継がれているのかが定かではないのだ。
黒い体に大きな袋を背負い、夜出歩く子供を拐ってしまう。
しかし、町の歴史を纏めた資料には、その名前は影も形も無いが、確かに〝よまわりさん〟は存在し語られている。
そしてもう一つ、〝山の上の神さま〟。
嘗て、この付近で奉られていたと記録されているが、具体的な内容は無く、この付近の何処に奉られているのかさえ解らなかった。
ああ、いけない。夜だ。
早く、帰ろう。
また、あれらに追われるのはゴメンだ。
○月△日
この町に越してきてから、奇妙なものばかり見る。包帯で覆い隠した頭に幾つもの釘が刺さった黒い影、パトランプの様に頭部が点滅回転している奴、首の無い黒い馬、歪な顔のある蟲の様な脚を生やした巨大な毛玉、首だけの化け猫。
そして、手首の辺りに一つ目がある黒い手。
どれもヤバそうだが、特にあの黒い手が厄介そうだ。
此方を追いもせず、ただ見てきて近付けば消える。
あれは一体、何なのか。
また、次の休みに調べてみよう。
×月○日
この町に越してきて半年が経った。しかし、あの〝ナニカ〟共が何なのかは、未だに解らない。
此方を殺すつもりで追ってくるのだ。良いものではない事は確かだ。
確かなのだが、はっきり言って資料が少なすぎる。あの〝ナニカ〟に話を聞こうにも話が通じる相手ではない。手詰まりだ。
最近は、子供の行方不明事件や女性の失踪事件が起きている。この機会に少し、頭を冷やしてみるか。
×月△日
この町に越してきて奇妙な事が連続している。
遅々として進まぬ行方不明事件の捜査、失踪した女性の行方、話だけが進んでいるショッピングモール建設による、もう誰も住んでいない筈の商店街に対する立ち退き勧告、一体誰に対する立ち退き勧告なのか。
×月□日
今日は仕事が休みだったので、少し近所を散歩してみる事にした。
思えばこうして、昼間にこの町を歩くのは初めてに近いのではないだろうか。こうやって見ると、この町もどこか懐かしい雰囲気が漂う町並みで、昼間なら良いものだ。
新しい部署にも慣れたし、暇な時は町を歩くのも悪くはないかもしれない。
×月×日
人間関係というのは、実に複雑怪奇であると、ものの本で読んだ記憶があるが、まさか自分でそれを実感する事になるとは思わなかった。
誤解の無い様記す。
私は決して、そういった趣味嗜好は持ち合わせてはいないし、休日の昼間に公園でかなり遅い昼食がてら、缶コーヒー片手に菓子パンの詰め合わせを食べていただけで、無職ではない。
まあ、確かに昼食には遅い時間帯だった。どちらかと言えば、夕食前の間食と言っていい時間帯で、人通りも少くなっていた。
そんな夕陽が見える公園で、中年期が近付いてきている大人が、缶コーヒー片手に菓子パンの詰め合わせを食べていたら、まず誰も近付かない。私も近付かない。
おまわりさんを呼ぶ。
悪い子供を拐うのが〝よまわりさん〟なら、悪い大人を連れて行くのは〝おまわりさん〟だ。
一文字違うだけでこれとは、日本語とは実に複雑怪奇な言語だ。
話を戻そう。
私が昼食兼間食兼夕食という、何とも言い難い食事を公園で摂っていた時だ。
私は白い犬を連れた一人の少女に出会った。
菓子パンをかじる私を見詰める少女はどうやら、飼い犬の散歩中にこの公園を通りがかり、私を見付けたらしい。
本当ならここで話が終わる筈なのだが、そうもいかない。
前述した通り、時間帯は既に夕方と夜の間に差し掛かっている。
早く帰らないと、暗闇から〝ナニカ〟が湧き出てくる時間帯になる。
その前に帰らないといけない。
なので、緊急避難策として、少女と飼い犬のポロを家まで送る事にする。
まあ、単純に帰り道が一緒だっただけなのだが、えらくポロに懐かれた。ズボンが肉球の跡だらけだ。
少女の家の近くまで行くと、少女によく似た娘が家の前に居た。
私を見るとかなり驚きながらも、ポケットに手を入れていたが、実に正しい判断だ。
〝おまわりさん〟は呼ばないでください。お願いします。
でもまあ、帽子を脱ぎ会釈をし、少女に帰りを促すと警戒を少し解いてくれた。
帰り道が一緒で、飼い犬がえらく懐いてきた好で、送迎をしただけであると、説明をしたらもう少しだけ警戒を解いてくれた。
△月○日
あれからというもの、私の趣味が休日の散歩だとバレてしまったのか。あの少女と飼い犬が度々、散歩中の私に着いてくるのだ。
その度に、ジュースや菓子パンを与える私の財布の身にもなってほしい。まあ、安い紙パックと何時もの詰め合わせの菓子パンだから、言う程出費は無い。
無いのだが、中年期が見えてきた大人が少女に会う度に、菓子パンやジュースを与えるのは、あまり外聞が良くない。
この子の姉にも、少し言ってもらうか。
後、ポロの飛び付き癖も直してもらおう。ズボンが肉球跡だらけだ。犬好きだからいいけどさ。
△月×日
どうやら私は、あの子の姉に無職だと思われていたようだ。
それはまあ、休みの度に町をフラフラ散歩している大人が居たら、無職と思うだろう。
しかし、私は無職ではない。私はこれでも探偵事務所で調査員をやっている。この町には、新事務所の設立の為のスタッフとして越してきている。
名刺に仕事道具に事務所の連絡先まで必死に証明して、漸く信じてもらえた。
探偵事務所という単語が出た瞬間、少女の目の輝きが増した気がする。
すまない。私は探偵事務所の調査員であって、探偵ではないんだ。
△月□日
休日の趣味の散歩に二人の同行者が増えてから、早一ヶ月が経とうとしている。
あの子の姉とも、世間話をする程度の仲になり、一応は親御さんに顔を見せた方がいいかと、今更ながらにおもったが、二人の御両親は不在らしい。
母親は他界、父親は単身赴任。現在、この一軒家には少女と姉とポロの二人と一匹で住んでいる様だ。
大丈夫なのかと思うが、近所の親切な人々の助けもあって、今のところは問題なく過ごせているらしい。
しかし、幾分しっかりしているとは言え、二人はまだ子供だ。念の為、私の自宅と携帯の番号と自宅の場所を教えておいた。
割りとよく、電話が掛かってくる様になった。
どうやら、姉は進路に悩んでいる様だ。
□月○日
最近は仕事が忙しく、休みが取れなかった。
二人には事前に忙しくなると伝えていた為、電話が鳴ることは少なかった。
少し寂しさがあるが、私達は大元は赤の他人だ。あまり、互いの家庭に深入りしない方がいいだろう。
だが、明後日からは貯まりに貯まった有給を消化しなければならない為に、ほぼ一ヶ月休みになる。
初めはクビになるのかと思ったが、新事務所の件で私に無理をさせたと、所長の意向らしい。
二人の相談事に乗るなり、町の歴史を調べるなり、好きに過ごすとしよう。
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「ん、手紙? 誰からだ?」
長期休暇に入り数日、溜まっていた本や資料、あの姉の相談事に少女のお話とポロの飛び付き肉球アタックに晒される日々。
悪くない日々が過ぎていた。新事務所も無事軌道に乗り、新しいスタッフも増えて慣れ始めたらしい。
よく晴れた今日も、きっと良い日になる。
そう、思っていた。
「差出人は無い。宛先もか」
この差出人も宛先も、何も書いていない手紙が届くまでは。
「中身は何か・・・ なんだ、これ?」
私の日々はこの手紙で崩れ、私は少女と共に〝ナニカ〟が蠢く夜を往く事になる。
夜の怖さを覚えていますか?
これは、〝私〟と〝少女〟が大切な者を探して、二つの灯りを頼りに夜を往くお話。
続き?
無いです。
これは、昔にメモ帳に書いていたネタを切り貼りしたものなので、ゲームも昔に友人にビータ借りてやっただけだし、書けないかな?