パーシヴァルの物語 作:匿名
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「ほらほら、ちゃんと躱さないと直撃しちゃうよ」
「く、はっ、あ、あっぶね!」
四方八方から迫り来る、マーリンの魔術で出来た光の球。それを避ける避ける、死ぬ気で避ける。
そんな避けているパーシヴァルを見れば、滝のように流れ出た汗でビッショリと濡れており、吐き出す息も荒くなっている。
もうかれこれ修行を始めて半日、その間に飯を食う為の休憩しか無く、動き続けていればこうなるのも納得だ。
では、何故このような状況になったか。それを説明するには、今日の早朝に遡る必要がある。
と言っても、語る程の出来事が起きた訳では無く。
強いて言うなら、パーシヴァルの日課である朝食前の修練にマーリンが面白半分に手を出しただけの事。
それだけの事なのだが、段々とマーリンのちょっかいはエスカレート。
初めは横で好き勝手言って邪魔する程度が、意に介さないパーシヴァルを見て、次第に直接邪魔してくるようになった。
気が付けば、『マーリンと修行』の状態になっていた。
「避けてばっかりじゃ、これは終わらないぞ」
パーシヴァルを狙う光球が数を増やしていき、身体をかすめてくる。
少しづつパーシヴァルに小さな傷が蓄積されていく。
「ぬあっ!」
必死の形相で光球に当たらぬ様回避をする、がそれでも避けきれぬものは手に持つ剣を盾に使い、僅かなダメージを覚悟で弾く。
「━━ぬぐっ!?」
脇腹に光球が当たる。
防御で一方を防ぐと同時に、もう一つが横から高速で突っ込んで来たのだ。
激痛が体を伝う。苦痛によって生じた硬直、それを見逃す程マーリンは甘くは無かった。
パーシヴァルを囲む様にして、空中で常に動き回っていた光球全てが雨の如く降り注ぐ。
「ア、ガァア”ァッ!!」
「おや、ここまでのようだね」
「ぐ、くそったれ……」
地に這いつくばり、笑みを浮かべるマーリンを見上げる。
次こそは……次こそはその透かした顔を歪ませてやる、そう心に決めて暗闇に身を任せた。
「ふむ、これはなかなか」
剣を握り締めながら、気絶したパーシヴァルを面白そうにマーリンは見ていた。
今彼の胸中は、新しい玩具を見付けた子供のように舞い上がっていた。
理由は目の前で倒れているパーシヴァルだ。
最初こそ、暇だからと言う理由で修練の邪魔していたのだが、邪魔する際に垣間見た彼の隠れた才能。
間違いなく目の前の少年は自分、引いては己が仕えている王に影響を与えるそんな存在に成り得る、理性ではなく『育てる側』の本能が直感が、そう理解した。
そこからだ、段々とパーシヴァルの修練を手伝っていたのは。
「うんうん、これは面白くなってきたぞぅ!」
どう転ぶかは分からない、マーリンの持つ千里眼は現代を見渡すものであり未来を見るものでは無い。
しかしだからこそ、胸踊るものがある。願わくばこの出会いが自分の望む『ハッピーエンド』になってくれる事を。
そう期待しながら、眠る少年を起きるまで眺めていた。
◇◇◇
「うぅ、まだ身体が痛い」
動かす度に身体の節々から鈍い痛みが走り、口を尖らせてごねる。
対して横にいるマーリンは相変わらずニコニコと、パーシヴァルからしたら腹の立つことこの上ない顔で、まぁまぁと微笑んでいる。
気絶から覚めたパーシヴァルとマーリンは現在、家に帰って夕食を済ませパーシヴァルの部屋で寛いでいた。
「にしても君は意外と非常識だなぁ。剣で害獣を討伐しようとしているなんて」
「違うって、飽く迄護身術の為だ」
「だとしてもだよ、特殊な力がある剣ならまだしも。唯の剣だけで身を守ろうとする事が可笑しい」
マーリンの言葉を聞いてパーシヴァルは少しムッとする、自分のやってる事など無意味だ、そう言われている様に聞こえたからだ。
事実、マーリンの言い分は正しかった。神代程では無いにしろ、この世界は神秘で溢れている。
そんな場所には当然普通の害獣など少ない、逆に魔猪等の魔物が多い時代なのだ。
手練の武人ならまだしも、何の力もない少年が、そんな物相手に剣で何とかしようとする方が間違っている。
「それに普通なら、護身術を覚えようとはしない。そんなもので立ち向かうより、逃げる方が助かる可能性が高いからね」
元々出会うような場所に行かないのが一番だ、と最後に付け加える。
「……えぇ、じゃあ俺のやって来たことは無駄だったって事かよ……。マジかぁ」
マーリンの言葉に気を落とす。
何年も続けてやってきた修練が、この世界では気休めにもならないと言われたのだ。
落ち込むのも当然だろう。
それでも落胆が少ないのは、パーシヴァル自身薄々気付いていたからだろう。
「はぁ……鬱だ。もう寝よう……」
マーリンに言われて、修練を続けるべきかどうか、もし辞めた場合、今後何をするか。
考えれば考えるほど、悲しくなってくるため思考を振り払って、夜具を用意して睡眠に入ろうとする。
「パーシヴァル」
「あぁ? なんだよ」
折角微睡んできた所でマーリンが自分の名前を呼び、仕方なしに起き上がる。
マーリンを見ると真剣な顔をして、こちらを見据えていた。
「これは、提案なんだが。もし、君さえよければ私が鍛えてあげよう」
何を言うかと思えば、パーシヴァルはそう心で言いながらその発言の意図を聞いた。
「なんだよ急に、鍛えるって。それに剣を鍛えたって意味がないって言ったのはお前だろ?」
「うん、確かに意味が無いよ」
「じゃ……」
「けれど」
言いかけたパーシヴァルの言葉を遮りマーリンは続けた。
「けれどそれは、君一人で修練を続けていた場合だ。私が君に手解きをすればその限りではないよ。こう見えても私は、かのアーサー王の剣術の師匠なんだからね」
どうだと言わんばかりに微笑むマーリン。
それを聞いたパーシヴァルは。
「マジか、……それって凄いの?」
これだった。
マーリンがあの伝説の魔術師という事には何となく気付いていた、そしてどんな事も出来る凄いやつだと言うことにも。
アーサー王伝説を読めばマーリンの凄さなんて分かる、分かるが……それは飽く迄も魔術師としてだ。
剣術を扱えるなんて聞いたことないし、そもそもマーリンの言うアーサー王自体どのぐらい剣達者なのか知らない、なのにそんな事を言われても、どう反応していいのか困るのだ。
「なっ!? ……君もしかしてアーサー王を知らないのか?!」
「いや、アーサー王は知ってるよ。そしてお前がその王様お付の魔術師って事も。けれどなぁ、魔術師に魔法じゃなくて剣術教えてあげるって言われても」
尤もであった。
少し考えてみてくれ、もし国語の先生にいきなり「今日は数学の授業をしよう」と言われたら。
出来ない事は無いだろう……だろうが、数学の教師より上手に授業出来るか、と言われれば首を横に振らざるを得ない。
そもそも、アンタ国語の教師なんだから国語を教えろよと普通は思う。
パーシヴァルからすれば、まさにマーリンは国語の時間で数学を教えようとする国語教師そのものだった。
「ああそれは確かに、うん」
パーシヴァルに、言われて自分がどう思われているのかを理解し始める。
「確かに私は魔術師ではあるが、何方かと言えば剣術の方が得意なんだ」
「は、は? なんだよそれ魔術師が魔術よりも剣が得意だなんて、頭可笑しいだろうが」
「いやぁ、だってほら詠唱って噛んじゃうだろ? それにそんな事よりも、剣で叩く方が早いじゃないか」
「じゃあ、何で魔術師やってんだよ」
魔術では無く、剣を使う。
それは魔術師と言えるのだろうか、それに詠唱を噛むからと言う理由で魔術を使わないとは、世の中の魔術師に中指立てて馬鹿にしている様なものだ。
パーシヴァルは無性にマーリンの顔面を殴りたくなった。
「まぁまぁ、取り敢えず騙されたと思って明日私の修行を受けてくれ」
「……分かったよ」
どうあがいても今の自分だけでは成長しない。
それならばダメで元々、マーリンの言う通り騙されたと思いながら修行を受けてみるのも一つの手だ。
どうなる事やら、不安に似たけれども違う何かが、胸の中で燻るのを感じながらパーシヴァルは深い眠りについた。
駆け足駆け足