パーシヴァルの物語 作:匿名
※赤ん坊の泣かなかった理由が可笑しいとの事ですので、修正致しました。と言っても一部のセリフを消しただけですが。 2017年7月23日 10︰34
01━誕生
円卓の騎士が一人『パーシヴァル』
アーサー王伝説に登場する騎士の一人で、聖杯関連の話では最も有名な一人とされている。
多くの国で、長い間語り継がれてきた為場所によってはパルジファル、パルツァファルとも呼ばれておりその名の意味は『谷を駆け抜ける者』とされている。
物語によりその出生は異なるが共通して高貴な出生とされ、父にペレノア王あるいはガハムレトをもつ。大抵物語には母の名は出てこないが、重要な役割を担う事が多く、また彼の物語には家族として様々な人物が登場する。
そんな彼パーシヴァルの伝説は簡単に説明すると、15歳迄成長したパーシヴァルは父の死後、母に連れられてウェールズの森に行き。
パーシヴァルはそこで出会った騎士達に憧れて、自分も騎士になるべくアーサー王の元に向う。
そして彼は自らを素晴らしい騎士であると証明できた事で、アーサーに騎士爵を授けられ円卓の騎士の会合に誘われて参加し、それによりパーシヴァルは円卓の騎士の一員となった。
その後の有名な
その他にも伝説はあるが、そのどれもが円卓の騎士と、英雄だと呼ぶに相応しいものだ。
しかし、聞く人が聞けば派手さに欠ける、武勇もなく、つまらないと言うだろう。
━━もし、もしだ。
もしそんな英雄に武勇が加わったら、派手さがあれば、
これは本来とは違う世界線の英雄譚。
これは、聖杯探索の
━━━《誕生》
人生に不満等無かった、かと言って満足した事も無い。
ただ後悔なら少しだけあった、それは家族と喧嘩別れをした事だ。
なら、今すぐに家に帰って謝ればいいと思うかもしれないがそれは出来ない、したくても出来ないんだ。
もう死んでるから……違うな、もうすぐで死ぬからが正解か。
目の前には赤い血溜まりと力が入らなくて上がらない腕、手の中にはコンビニで買った昼飯─と言ってもサンドイッチ等の軽いものだ─が。
耳には悲鳴をあげる周りの女性達の甲高い声と、自分に呼びかけてくる低い男性達の声。
体に痛みはあるが、意識が朦朧としてきたから殆ど感じない。
━━静かにしてくれ、これじゃ寝られない。
そう言おうとしても、口は碌に動かず出る言葉と言えば「あ」や「う」などの呻き声だけ。
いっそ笑えてくる、いや笑える程余裕では無いのだが。でも、どちらにせよこのザマじゃ謝るなんて到底出来っこない。
━━もういいや。
謝りたいけど出来ない、ならもういいや。
買った飯が食いたいけど出来ない、ならもういいや。
周りがうるさいけど黙りそうにない、ならもういいやこのまま寝てしまえ。
重くなった瞼をそのまま閉じて俺は長い眠りに着いた。
「続いてのニュースです。今日午後12時20分ごろ、〇〇市〇〇町の国道12号十字路交差点で、徒歩で横断していた同市の成人男性、幸村時雨さん(21)が信号を無視してきた乗用車にはねられ、全身を強く打ちその場で死亡しました。また━━」
◇◇◇
暗い闇の中から引っ張られる感覚がする。
意識が徐々に覚醒していく感覚が湧き上がってくる。自分はまだ寝ていたいのに、そんな考えとは裏腹に体は段々と目覚めていく。
仕方なく目を開けてみると目の前にポツンと小さな光があり、それは徐々に強さを増し大きさを広げて近づいてくる。
光が強くなり過ぎて堪らなくなった『彼』は、目を閉じるとそれと同時に言い知れぬ開放感に包まれた。
気になって目を開けてみると、目の前には『彼』を抱き上げる老婆とその近くには汗まみれで涙を流す女性がいた。
なんだこれ、と理解が追い付かず辺りを見ていると老婆と女性は話し始める。
「お
「……不味いさね、泣かない赤子は弱っている証拠さ」
何を言っているのか『彼』にはさっぱりだった。
それも当然、彼女らが話しているのは日本語ではないからだ。
では何処の言葉なのか、そう聞かれも答えることは不可能だった。
『彼』は純日本人で海外にも数回しか出た事が無いような人間だ、そもそも英語も得意ではない。そんな『彼』が女性達の話している言語を理解出来るはずもない。
(まて、それ以前に俺は死んだんじゃなかったのか?)
数分して漸く自分の置かれた奇怪な状況を理解し始める。
自分は確か事故にあって、そのまま救急車も間に合わずに息を引き取ったと思っていたのだが違うのだろうか? そんな疑問が脳内を駆け巡る。
しかし、どう考えても今の状況に至る様な過程が思い付かない。
(あれ、そもそも何故この老婆は俺を抱えていられるんだっ!?)
混乱が混乱を呼ぶ。
自分は身長もそこそこあり、平均男性より少し筋肉質だ、体重もそれなりになる筈だが何故だかこの老婆は自分を抱き上げている。
「お願いだから泣いて……」
赤ん坊の傍らで、女性が祈る様に手を組み声を絞り出す。
そんな女性に対して赤ん坊の『彼』は、もはや混乱し過ぎて何が何だか分からなくなっている。
すると手が目に映った、小さく赤子のような手だ。
右に動かしてみる、……動いた。左に動かしてみる、……動いた。
「ちっ! こうなりゃ仕方ない、力技だよ!」
「お
赤ん坊を挟んで老婆と女性が騒いぎ、何故か老婆は赤子を肩に担ぎ手を振り上げているが『彼』に気にする余裕など無い。
この小さい手は間違いなく自分の意思で動いている、それが分かった瞬間だった。
生前は色んなサブカルチャーに手を出していた『彼』はそれだけで自分の状況を理解したのだ。
(おいまさか、これって! これって転……!?)
「フンッ!」
バチーンッ! と大きな音が響いた。
「おっ、オギァァアアッッ(いっ、いってぇぇええっっ)!!!」
「泣いた!」
先程とは打って変わって大きな声で、オギャアオギャアと泣き続ける赤ん坊を見て女性は涙を流し始める。
「良かったさね、これで泣かなかったらどうしようもなかったけど……。この様子を見るにもう大丈夫さね」
良かったと何処か安堵した様子の老婆は、女性に赤子を渡す。
「うん……うん、ありがとうお
女性は泣きながら、消えてしまいそうな弱い声でありがとうと言い続けた。
そんな親の気持ちを知ってか知らずか、赤ん坊は泣き続ける。
女性と老婆からして見れば、まるで自分の存在を主張するようにそれでいて親を励ますかのように。
「オギャア、オギャ、オギャアァア(いてぇ、ケツ痛てぇええ)!!」
まぁ実際は違うのだが……言わぬが花だろう。
「まだ泣き続けて、ホント元気なこさねぇ。所でアンナこの子の名前はもう決めてあるのかい?」
「ええ、決めているわ」
「ほう、なんて名だい?」
「パーシヴァル。パーシヴァルよ」
「フフン、それはいい名だねぇ」
こうして、後に最優にして最強と謳われる伝説の騎士『パーシヴァル』は誕生した。
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