パーシヴァルの物語   作:匿名

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新年明けましておめでとうございます。
お、お久しぶりです……。
本当にお待たせして申し訳ありません。
何故こんなにも遅れたのか、言い訳をさせてもらうとリアルが忙しかった、の一言に尽きます。
そして、漸く投稿したかと思えば番外編……。
本当にすみません。本編は現在筆記中です。
また、お待たせ致す事となりますが、ご了承頂けると嬉しく思います。
では長くなりましたが、どうぞ。


Fate/Cagliostro Order 〜SECOND〜

 立香達一行が、仮の休憩地としている校舎の屋上。

 通常であれば、冬木の町が一望出来るであろう場所では、現在見渡す限り地獄が広がっている。

 なんと勿体無い事か、崩壊した景色を眺めながらカリオストロは落胆した。

 後ろからキィーと、錆びた扉が開かれる音がする。

 

 「カリオストロ?」

 

 高い女性の声が聞こえた。

 扉を潜り屋上に来たオルガマリーは、自分を此処に呼んだ人物の名前を呼ぶ。

 

 「どう思うこれ」

 

 然しカリオストロはこちらに振り向かず、如何様にも取れる言葉を紡いだ。

 カリオストロが言っているのは、恐らく壊滅した冬木のことを指すのだと思ったオルガマリーは、その場で思っている事を出した。

 

 「どうも何も、酷い有様としか言えないわ」

 

 カリオストロは鼻で笑うと、その通りだ、とオルガマリーの言葉を肯定した。

 彼が何を言いたいのか、その真意が分からずオルガマリーは首を傾げる。

 

 「それで、なんで私をここに呼んだの?」

 

 埒が明かないとばかりに、疑問に思った事を切り出す。

 そんなオルガマリーに彼は一度だけ笑うと、今度こそオルガマリーの方を向き、笑う顔を元に戻し真剣に彼女の瞳を見つめた。

 

 「オルガマリー。君は()()()()()?」

 「え?」

 

 言葉の意味が分からずに聞き返してしまう。

 生きたい、とは言葉の通りの意味だろうか。まるで今から殺されてしまうような口振りに、聡明なオルガマリーでさえ混乱を禁じ得ない。

 

 「……ち、ちょっとそれってどう言う意味?」

 「意味も何も、言葉通りだ。これから先、君は生きていたいと思っているか?」

 

 カリオストロの紡ぐ一言一言が重く感じる。それは実際にそうなっているのか、将又カリオストロの雰囲気にオルガマリーが錯覚しているだけなのか、オルガマリーには知る事が出来なかった。

 彼の背で街を薪に揺らめく炎が、感じる凄みを増している。

 

 「……生きたいわよ」

 「本当に?」

 

 執拗に聞き返してくるカリオストロ。

 

 「ええ」

 「これから先、死にたくなるような出来事があるかもしれない。生きることを放棄したくなることがあるかもしれない。あの時死んどけば良かったって思うかもれない。それでもか?」

 「あ、貴方は何が言いたいの……!?」

 

 汗が流れているのに寒く感じる。呼吸が荒くなる。体の芯から震えて止まらない。

 ただただ話し合っているだけなのに、背中を死という虫が這いずり回っている気色悪い感覚が強くなる。

 今すぐにこの場を逃げたいが、カリオストロの金色の眼がそれを許してくれず。

 金縛りにあったように固まってしまう。

 

 「いいから、答えるんだ」

 

 ああ、若しかしたら殺されるかもしれない。嫌な考えが頭をよぎる。

 

 ━━ここで死ぬ?

 ━━何も成し遂げられずに?

 ━━何も出来ずに?

 ━━ 誰からも認められずに?

 

 オルガマリーは、己の生に意味が無いと想像した時、死よりも恐ろし絶望に襲われた。

 無意味に、無価値に、このまま死んでいけば、大多数にはオルガマリーと言う人間が居た事が忘れられる(居なくなる)

 そんな事になれば、今迄努力してきた事が意味の無いものになってしまう。後世に残したものも無く、自分が生きていた痕跡すら残らない。いや、記録上には残るだろうが……結局はそれだけ。

 

 「……や……」

 

 気が付けば声が出ていた。

 

 「……いや、よ。……そんな、嫌よ! 何も出来て無い! 何も残せてない! 友達も好きな人も! ……誰からも認められずに死ぬなんて嫌ァ……!」

 

 心の底から出てきた言葉だった。

 アニムスフィアでは無く。オルガマリーと言う一人間の少女の叫び。

 誰かから認められたい、友人を作りたい、生きていた証を残したい、そんな誰にでもあるようなちっぽけで、だけど大切な願い。

 

 「生き……た……い。私は生きたい。どんな困難があろうとも、それ、でも、生きたい……」

 

 涙が溢れていた。

 視界がぼやけ、声が震え、嗚咽が止まらない。

 その時、暖かい何かが体を包んだ。

 

 「そうか。それを聞けただけで充分だ」

 

 視界は黒一面で塞がっている。抱きしめられているのだと、遅れて理解した。

 だがどうして? そんな思いが湧いてくる。

 

 「わ、私を、殺そうとしたんじゃないの?」

 

 震える声で精一杯絞り出す。

 見上げた先には、美しく整ったカリオストロの顔がある。その顔は、先程とは違い優しいもので、その瞳はまるで、努力を怠らず頑張ってきた子供に向けるような、暖かいものだった。

 

 「殺す? なんで? 俺はそんな事を一言も言ってないぞ?」

 「で、でも、さっき」

 「生きたいかどうかを聞いただけだろ?」

 

 その言葉で緊張が一気に抜ける。立てるだけの力が抜けて、崩れ落ちそうになるが、カリオストロが抱きしめいる為何とか持ちこたえている。

 頭に何かが乗っかった。同時に、言葉が聞こえる。

 

 ━━━━今迄頑張ってきたんだな。

 

 「ああ……ァ……」

 

 瞬間、ダムが決壊したかのように涙が溢れ返る。

 限界だった。亡き父の後を継ぎ、その父が非人道的なことを行ってきたことを知り、マスターになれないことを知り、カルデアが爆破された事を知り、心が限界だった。

 誰にも認められない事に、劣等感を抱いて努力もしたが……やはりダメだった。

 ━━━━けど、漸く認めてもらえた。

 オルガマリー・アニムスフィア()を肯定してくれた。オルガマリーと言う少女は救われた。

 

 「ひぐ……っ……嗚呼ァァ━━!」

 「よしよし、泣ける内に泣いとけ」

 

 オルガマリーはカリオストロの胸に顔を埋め、目一杯泣き叫んだ。

 カリオストロは、周囲に音が漏れないように結界を張り、今の今まで人知れず頑張ってきた少女の頭を、泣き止むまで撫で続けた。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「おかえりなさーい」

 

 保健室に戻ると、立香の緊張感のない声が出迎える。

 ただいま、とカリオストロは短く応えた後、何処か落ち込んだ雰囲気のマシュに視線を移した。

 

 「二人とも、お楽しみでしたね」

 

 立香はにやっと笑い、オルガマリーに顔を近づけ肩に手を起きサムズアップをする。

 なっ! とオルガマリーは反応するが、立香はなにかに気付いた様にハッとして、直ぐに揶揄う事を止める。

 オルガマリーの両目が赤く腫れてる事に気付いたのだろう。それを見ていたカリオストロは、気遣いの出来る子だ、と立香への好感度を上げていた。

 

 「ところで立香、マシュはどうしたんだ?」

 「あー、うん。今その事で話してたんだけど……」

 

 立香が言うには、マシュは自身の宝具が使えない事を気にしているらしい。

 ロマニがその事で慰めた様だが、クー・フーリンに宝具がどう言う物かを教えられた時に、どうやっても宝具を発動出来そうにないという事で落ち込んでいるんだとか。

 

 「仕方ねえ。こうなりゃ特訓だ」

 

 クー・フーリンが唐突にそう言った。

 その言葉に立香が、オウム返しに聞き返す。

 

 「そう特訓だ。とりあえず表に出るぞ」

 

 クー・フーリンが校庭に出たのを追うように、全員で外に向かった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 学校の校庭の中心に、マシュとクー・フーリンは相対する様に向き合っている。

 少し離れたところから、オルガマリー、立香、カリオストロの三人は二人を見守っていた。

 

 「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

 マシュを案じる様に、オルガマリーが聞く。

 

 「分からない。こればっかりはマシュの問題だ」

 

 これから行われるのは、特訓という名の死闘。

 クー・フーリンは殺す気で来るだろう。その中で、どれだけマシュの覚悟が形となって出てくるかが、この特訓にかかっている。

 カリオストロの言葉に、オルガマリーの不安は増していく。

 

 「大丈夫だよ。マシュは大丈夫」

 

 然し、マスターの立香は違った。

 立香の目には、確信にも近い自信が宿っていた。己のサーヴァントは負けない、こんな所で躓くような相棒ではないと、確と二人を見据えていた。

 

 「さあ、行くぜ嬢ちゃん。構えな」

 「はい……!」

 

 マシュが構えたと同時に、戦闘が始まった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「はあ……はあ……」

 「こいつは驚いた。なんとか一命だけは取り留めると思ったが、まさかマスター共々無傷とはね」

 

 肩で息をするマシュの後ろで、立香とオルガマリーはカリオストロを盾にするように隠れていた。

 ただ、ビビって背に隠れたオルガマリーと違って、立香は舞い上がった煙等で汚れないように隠れていただけだが。

 カリオストロは貼り付く二人を剥がし、マシュの方へ近づく。

 

 「良くやったな」

 

 それ以上の言葉は不要だと、マシュの頭を撫でた後、幾らマシュの宝具を発動させる為とはいえ、立香達をも巻き込むと言うとんだ無茶をしでかしてくれた冬木のキャスターに、批難めいた視線を向ける。

 

 「やり過ぎだと思うんだが、そこんとこどうなのかねキャスター君?」

 「堅いこと言うなって。確かに派手にやり過ぎたとは思うが、そら宝具を使えたんだ、いいじゃねえか。この島国風に言うなら、終わりよければってやつだ」

 

 反省のはの字も見受けられない、ヘラヘラとした態度にカリオストロは呆れたように息を吐く。

 これがケルト流なのだ、自身を無理矢理納得させさて準備は整った、と疲れるマシュと戯れる立香達に視線を向けた時……星が煌めいた。

 

 「━━っ!」

 

 辺りが衝撃と爆発に震えた。

 舞い上がられた砂塵と身体に襲い来る余波が、立香達に状況の理解をさせてくれない。

 やがて全てが収まると、周囲の姿が露になる。瞳に映ったのは、無惨に破壊されひび割れた校庭と、粉砕された宝具と思わしき剣の様な数本の矢。

 星の煌めきに見えたのは、この矢達が放出した魔力だろう。

 

 「カリオストロ!」

 

 立香の叫ぶ声が聞こえる。

 

 「大丈夫。それよりもマシュ、二人を守れ!」

 

 直後、再び空から無数の光が降り注ぐ。

 マシュはカリオストロの指示通り二人を庇い、クーフーリンはルーン魔術を発動させ自身とマシュの周りに防護結界を展開。

 カリオストロは、いつの間にか抜かれていた禍々しい印象の六本のナイフを使い、飛来する宝具を切り刻み、砕き、破壊する。

 流星の如き速度と量で放たれるそれを、音を超える速さとナイフという小振りで扱い易い武具の手数を持ってして、悉く。その小さき星を殺す。

 

 「いい加減出てこいよ」

 

 最後の矢を弾いて、カリオストロは言った。

 後ろにいた立香達は首を傾げるが、少しもしない内にその疑問は解消される。

 青い粒子を散らしながら、すぅっと姿を晒す黒い弓を持った白髪の英霊。敵を視認した途端、けっとクーフーリンは吐き捨てるようにその英霊を睨んだ。

 

『霊基を確認した、アーチャーの英霊みたいだ。素直に姿を見せた理由は不明だけど、何か隠し玉があるかもしれない。皆気を付けて』

 

 ロマニの口調には不安が混ざっていた。

 

 「は、信奉者がノコノコと姿を表すとはね」

 「……ふん。信奉者になった覚えは無いのだがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

 クー・フーリンの言葉に、アーチャーは淡々と応える。

 目の前にいる英霊が、話に出ていたシャドウサーヴァントだと分かったカリオストロは、常に動ける様にし相手を観察した。

 

 「お前、面白い芸当をするな。投影魔術でありながら、宝具すらも写し出すとは」

 

 消えていく壊された宝具を一瞥した後、警戒を解かず、されど軽い口調で白髪の英霊に話しかける。

 カリオストロは目の前の英霊の使う魔術を一瞬で見抜き、その異端さも直ぐに理解した。

 白髪の英霊は一瞬、むっ? と反応し皮肉気味の笑いを零す。

 

 「面白い、か。貴方程の英霊(じんぶつ)にそう言われるとは、いやはや私にも人を笑わせるだけの才はあるらしい」

 

 笑いに限らず、この言動はカリオストロに対しての皮肉を含んでいた。

 稀代のペテン師カリオストロ、彼の在り方は一部の歴史学科から道化と呼ばれていた。

 道化とはそれ即ち人を笑わせたりする者のこと、誇りある英霊ならば、己の生涯を道化呼ばわりされれば憤慨するであろう、しかし生憎とペテン師である彼は憤る事は無かった。

 が、英霊の言葉に多少なりとも思う所があったのも事実。へぇ、とカリオストロの目はすっと細められ、三日月に口を歪ませた。

 

 「言うじゃん。いいね。……その三流詐欺師の様なふざけた口、今ここで強制的に黙らせてもいいんだぜ?」

 

 空間が歪んで見える程の殺気が放たれた。

 殺気を向けられていない、後ろにいるマシュ達でさえ、重力が何十倍にもなったかのような倦怠感に襲われる。

 そこに恐怖が無かったのは、殺意の対象ではないからだろうか。傍に居たクー・フーリンでさえ汗が流れ出た。

 そして白髪の英霊は、己の生を否定されかのような、心臓でも握り潰されているかのような苦しさに襲われる。

 死んだ方が楽になると脳が訴える中、それでも踏ん張り続けているのは、英霊としての意地だ。

 

 「……なんてな。今ここで相手してやってもいいが、今回は役目が違うんでね。それに、贋作(偽り)のお前さんの方が、詐欺師(ペテン師)より余程面白いぜ?」

 

 途端に、殺意の呪縛から開放された。

 アーチャーは放たれた言葉に眉間をピクリと動かす。

 だが、目の前でヘラヘラ笑うカリオストロを見据える白髪の英霊は、その瞳に畏怖が宿っていた。

 これが世界で最も有名な英傑の力か、と。

 

 「んじゃ、ここ任せたぞ」

 「あいよ」

 

 くるっと身体を回転させ、英霊アーチャーから離れていく。

 そして、マシュ達の傍らにいたクー・フーリンの肩に手を乗せ短いやり取りをした後、カリオストロと立香一行はその場を後にした。

 

 「さてと、弓兵。いい加減、ケリを付けようや!」

 

 立香達が見えなくなるのを確認し、杖を構えアーチャーを見た。

 

 「いいだろう。私もいい加減、的当てには飽きていた所だ!」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 暗い洞窟を歩いていく。

 ジメジメとした中に不快な思いをするが、我慢をして一同は進む。

 結構歩いた筈なのだが、出口が見当たらず、どこかで道を間違えてしまったのではないかと心配になっていく。

 

『そう言えば、カリオストロの宝具ってなんなんだい?』

 

 唐突にロマニが切り出す。

 そう言えば教えてなかった、とカリオストロは思い出したようにポンと手を叩く。

 

「言われてみれば、まだ聞いてなかったわね」

「あ、確かに聞いてなかった」

「ドクターの言う通り、生き延びるのに必死で、肝心な事が抜けていました」

 

 カルデア三人娘は、それぞれの反応を漏らす。

 

「そうだな。俺も教えるのを忘れてた。俺の宝具は━━━━」

 

 カリオストロの口から説明された宝具、その効果を知った一同は今までに無い程、驚愕に顔を歪めた。反則すぎる、と。

 だが同時に説明されたその恐ろしい迄の燃費の悪さに、ロマニとオルガマリーは、この宝具は本当に窮地に陥った時に切るべきだと瞬時に判断する。

 大体説明し終えカリオストロは話を切り上げ、そして一同はこの特異点最後の戦いに歩みを進めた。

 

 

 

 

 




さすがカリオストロ先輩。所長の事で何か感づいている様子。
あまり深くは考えていないのですが、FCO(この番外編の略称)のヒロインは、強いて言うなら所長ですかね。
もしくは所長含める、マシュ立香のカルデア三人娘です。
そして、今年も作者作品共々宜しく御願いします。

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