パーシヴァルの物語   作:匿名

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今度は早く投稿出来たかと思います。
それはそうと、Apocryphaのセミラミス戦でモードレッドが鎧を解除するシーンがありますが、モードレッド結構胸あんなって作者は思いました。
あと、Fateには名前しか出てないためオリキャラ? になるのでしょうか、円卓の騎士ガレスが登場します。


16━動き出す物語

 早朝の刻、喧しの鳴き声止まぬ時間に円卓の騎士達は集められた。

 彼らの総称となったお馴染みの円卓、その自分の席の前で立ち上がり騎士達の王の言葉を待っている。

 唯一マーリンだけが円卓から数歩離れた王の傍らに立っており、いつもの胡散臭い笑顔を見せている。

 

「今日は何の為に集められたのだろうな……?」

 

 相も変わらず騎士らしくない、軽装のパーシヴァルの隣席に居るギャラハッドが、呟くようにパーシヴァルにだけ聞こえる声で言った。

 

「だいたい察しは付いてるだろ? ほれ」

 

 ギャラハッドを真似て小さい声量で応えながら、顎でくいッとある場所を指した。

 そこにはまだ誰も居ない、一つの席。

 だが円卓の騎士達は招集に遅刻すること無く、全員この場に揃っている。勿論、間違えて置いてあるということも無い。

 その状況から、恐らくこの日を以て、新たに円卓に加えられる者が現れるのだろう。

 そして、それは恐らく━━━━。

 

「騎士達よ、早朝によく集まってくれた。此度の招集は、貴公らも薄々感づいていると思うが他でもない、新たな騎士をこの円卓に加える事となった」

 

 アーサーが言葉をゆっくりと発する。

 貫禄ある声は部屋に響き、言霊のように不思議な力を感じられる。

 円卓の間に空席がある事から、アーサーの言う事におおよそ察しが付いていたのだろう、その場の誰一人がどよめく事無く、次の言葉を待っている。

 

「来い、サー・モードレッド」

 

 アーサーに呼ばれ姿を現したのは、全身を鎧で包み隠した一人の騎士。全員がその姿に、僅かながら動揺した。

 ただ、王の前で兜を取らない不敬な態度に動揺した騎士達と違って、パーシヴァル一人だけは別の意味でその心中を震わせていた。

 

(やっぱりか……!)

 

 モードレッドが城下町に姿を現さなくなって半年。

 モードレッドが円卓入りするのにはさして時間が掛からないだろうと言う、パーシヴァルの予想がこの日当たった。

 パーシヴァルがかの騎士を凝視していると、心無しか全身甲冑のモードレッドがビクッとした気が来た。

 ジト目で見られている事に本当にびっくりしたのか、将又気のせいかは知る由がない。

 

「王よ」

「何だランスロット卿」

 

 戸惑い困惑する空気を打破するかのように、口を開いたのはランスロットだった。

 

「私は王が新たな騎士をこの円卓に迎え入れる事に、反対はありません。しかし、円卓に座す者が王の前で兜すらも取らないとは、いささか不敬が過ぎる気もします」

 

 要約すると、「皆が一堂に会する場所なんだから、せめてもの礼儀として(それ)をとれよ」と言う事である。

 この場にいるパーシヴァル以外の者達の心境を、ランスロットが代表して言葉にしたのだ。

 

「ああ、その事か。ランスロット卿、このモードレッドには少し事情があってね。出来れば見逃して貰えるかな」

 

 だがランスロットの問いに応えたのは、アーサーではなくマーリンだった。

 余りにも空気の読めない行動に、円卓の騎士達は少しイラッとする。

 いや、お前にきいてねぇよ、と。

 

「ランスロット卿、貴公の疑問は尤もである。だが円卓とは、上座も下座も無くこの場においてはすべて平等を意味する。この場においての私の扱いにおいては……言うまでもなかろう」

「は。分かりました。差し出がましい真似をしてすみません」

「よい」

 

 暗に特別にモードレッドだけは、兜の着用を許すと言うその言葉に、反感とは行かない迄も、騎士達に多少なりとも思うところがあったようだ。

 その後少しモードレッドが自己紹介をし、今度の蛮族との戦やその費用等を話し合って解散となった。

 

「なんか、寡黙な人でしたね」

 

 凛とした声でパーシヴァルとギャラハッドに声を掛けたのは、ガウェインの妹のガレスだった。

 伝承ではガウェインの()と記されているが、この世界では女性だったようだ。

 桜色の髪に青い瞳、女性にしては少し高いが円卓の騎士達と比べると小柄な背。

 その凛々しくも愛くるしい姿から、あの生真面目なベディヴィエールでさえちゃん付けで呼ぶ、まさに円卓のアイドルと言っても過言ではない女性だ。

 

「寡黙? 寡黙ねえ……。モードレッドが寡黙」

 

 ガレスの言葉にその甲冑の中を知っているパーシヴァルは、さきの招集でやけに静かだったモードレッドを不思議に思っていた。

 普段はガレスの言った寡黙、と言う言葉とは真逆でヤンチャなモードレッド。

 しかしどういう訳か、円卓の会議では一言二言喋っただけだ。しかも喋った言葉が、「蛮族? そんなもん蹴散らせばいいだろ」や「は、オレに任せりゃ直ぐに済む」等の不敬極まりない事だけ。

 

「そう言えばパーシヴァルさんは、随分とモードレッドと親しそうに見えましたが、知り合いなのですか?」

「ん? ああ、まあな。と言うか、アイツに剣を教えてたし」

 

 その言葉に、ガレスとギャラハッドがえ? と驚く。

 今や円卓最強とまで呼ばれるようになったパーシヴァル。その彼の剣技は誰もが認める程であり、ランスロット卿に並ぶ腕だ。

 そんなパーシヴァルに教わっているとすれば、モードレッドの剣技も相当なものなっているだろう。

 

「とういうことは、モードレッド卿はパーシヴァルの愛弟子という事か?」

「そう、なるのかなぁ……」

 

 親友ギャラハッドの言葉に、すこし頭を捻る。

 元々暇が祟って教える事にしただけで、そんなちゃんと弟子として扱ったことはない。

 

「まあそういう事でいいや」

「ふ、相変わらずいい加減だな」

 

 いつも何処か適当な親友に、ギャラハッドは笑みを零す。

 それにつられて笑うパーシヴァルと、二人を微笑ましく眺めるガレス。

 キャメロット内でよく見られる、仲良し三人組のいつもの光景だった。

 

「それはそうと、パーシヴァルさん。この間下町でお話していた女は━━どこの誰ですか? ……事と場合によっては……」

「っ!?」

 

 綺麗な筈なのに、背筋がゾッとするような声音でガレスはパーシヴァルに詰め寄った。

 パーシヴァルは何歩か後ずさりし、ガレスの顔を覗き込むと、彼女の瞳はドロリと底のない闇のように濁っており、ハイライトが消えていた。

 ガレスが言っているのは恐らく、マーリンのナンパで被害にあって弟子のパーシヴァルがフォローした時に、そのパーシヴァルの優しさに彼に好意を持ってしまった女性の事を言っているのだろう。そういう事は何度かあるのだ。

 二人のやりとりに、ギャラハッドはまた始まったと呆れたように苦笑い。

 

「いや、誰も何もマーリンの被害にあった人だ。知ってると思うけど、マーリンの毒牙にかかった女性を慰めてただけだ」

 

 捲し立てるようにそこまで言うと、そうですか、と納得してくれたようにガレスは離れた。変な汗がパーシヴァルの背を伝う。

 

(なんだ、こうガレスちゃんって時々暗黒面に堕ちるよな。怖ぇ……)

 

 先程のダークネスな雰囲気が嘘のように、いつも通りの凛とした清廉潔白で円卓の妹枠のガレスに戻っている。

 そんな彼女を見つめ、女の子こわいと心底思うパーシヴァル。

 

「おい、パーシヴァル」

 

 ドキドキと未だに鼓動激しい心臓に胸を当てていると、ガレスでもギャラハッドでも無い声がパーシヴァルを呼んだ。

 振り向いてみれば、そこには白の甲冑を着込んだモードレッドが立っていた。

 

「よ、モードレッド」

「少し、面を貸せ」

 

 ヤンキー然とした物言いに、相変わらずだなと少し安堵する。

 会わなくなって半年、たったそれだけで人は変わらないと分かっていても、何処か心配になるものだ。

 パーシヴァルはガレスとギャラハッドに視線を向けた。

 彼らはパーシヴァルの言わんとしていることを察して、一言だけ行ってこいと言った。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「改めて、久しぶりモードレッド」

「ああ、久しぶりだなパーシヴァル」

 

 郊外にあるパーシヴァルの畑、その近くにあるそこそこ大きい木の元まで、二人は移動していた。モードレッドは兜や鎧を脱ぎ、その顔を顕にしていた。

 鎧までも脱いだせいで、ほぼ上半身裸と言ってもいいその格好にパーシヴァルは目のやり場に困った。

 と言うか、モードレッドはそこそこ胸があることが今この時わかった。

 

「漸く、漸くだ。追い付いたぞパーシヴァル!」

 

 嬉しそうに興奮して、天真爛漫な笑顔を咲かす。

 パーシヴァルと邂逅し、彼の人柄を知っていく内にモードレッドは惹かれるようになっていた。

 アーサー王に並び、モードレッドが憧憬する人物の一人。それがパーシヴァルだった。

 そしていつしか、パーシヴァルと同じ舞台に立ちその横に並びたいと言う思いが芽生えるようになった。

 その思いが今日、漸くかなったのだ。円卓入り(ここ)に来るまでに一年、長かったと。

 

「そうか。よく頑張ったなモードレッド」

 

 喜ぶモードレッドの頭を撫でる。

 弟子の成長を喜ぶ師。なるほど、ギャラハッドの言っていたことはあながち間違いではないらしい。何故ならこんなにもパーシヴァルは、自分の事のようにモードレッドの円卓入りを嬉しく思っているのだから。

 

「にしても、髪型」

 

 撫でるのをやめ、モードレッドの髪を見る。

 前はただ伸ばしていただけの髪が、後ろで束ねられている。所謂ポニーテールと言うやつだ。

 

「んあ、髪がどうした?」

「いや、変えたんだなと思って。似合ってるぞ」

「あ、ああ! んだよ気持ち悪い!」

 

 言動とは裏腹に、パーシヴァルに褒められたモードレッドは顔をにやけさせている。

 通常褒められれば傲慢に調子に乗るモードレッドだが、女の子らしい部分を褒められると照れ隠しに少し口調が乱暴になる。

 その事を分かっていたパーシヴァルは、ニヤニヤと笑う。

 

(さて、俺もそろそろ気張らんとな)

 

 モードレッドが円卓に席を置いた。

 この出来事はアーサー王伝説瓦解への、カウントダウンの始まりを告げる鐘だ。物語は緩やかに、されど確実に動き出している。

 この日を以てパーシヴァルの日常は、最悪の結末を覆す為忙しくなる。

 モードレッドと共に語らいながら、何度目か分からない覚悟を固めた。

 

 

 

 




一応説明しておくと、モードレッドと知り合ってから一年が経っています。
次回から駆け足気味に物語を進めていきます。

久しぶりに小説情報を見たら読者評価共に離れていました。うーん、遅すぎるのがいけないのかそもそも自分の実力不足なのか、或いは両方なのか。
何か思うところがあればご指摘頂けると嬉しいです。

それと誤字脱字を直してくださる読者様、変わらずこの様な稚拙な作品を読んでくれている読者様、そして新たに手に取り読んでくれている読者様、誠にありがとうございます。



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