パーシヴァルの物語   作:匿名

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前回よりは早く投稿できましたかね?
取り敢えず、出来たので投下です。
それと後書きにお知らせがありますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

言うタイミングが無いので、今ここで言わせてもらいます。
いつも誤字脱字を報告してくださる皆様、誠に感謝致します。なるべく作者の方も見直して無くそうとはしていますが、中々に出来ず本当にすみません。
再度お礼を言わせて頂きます、ありがとうございます。



15━過ぎ行く日常の中で

 快晴だった。

 空に雲は数えられる程しかなく、天高く昇る太陽は皆平等に、その輝きを持って照らしている。

 太陽に見下ろされている人々は変わらず賑やかで、子供は街を走り回り、大人は商売や仕事に勤しみ、老人達はゆったりとした日常を送っていた。

 

 「暇だ」

 

 ポツリとパーシヴァルは呟いた。

 城下町に用意されたパーシヴァルの家。その中の、地味に豪華な寝室のベッドで、ゴロゴロ転がりながら退屈に殺されそうになっていた。

 ほぼ毎日忙しく、ブラック企業も真っ青な──ブラックなのに青とはこれ如何に──程の圧倒的な仕事量をこなし、そして漸く久々に貰った休日。

 だが、悲しきかな。休みを貰ったら貰ったで、過労の次には退屈に殺されそうだ。

 

 「モードレッドも今日は来ないし」

 

 今日、というか最近は街に来なくなったモードレッドの事を頭に浮かべる。

 モードレッドはパーシヴァルと会って以来、度々この街にやって来てはパーシヴァルの元に来ていた。

 パーシヴァルも、お勤めの最中でなければモードレッドの相手をし、何度か下町で一緒に遊んだり、モードレッドたっての願いでモードレッドの剣術の面倒も見ていた。

 しかし、最近になって何故かめっきりと見なくなった。なんかあったのかな、と心配はしているが、生前本で読んだアーサー王伝説を知っているパーシヴァルは、モードレッドがいずれ円卓に来る事を知っていた為、いつかは会えるだろうと思っていた。

 思考を切り替え、暇そうな人物を頭の中で探していく。

 

 「ケイは相変わらず仕事人間だし、アグラヴェインは人と関わろうとしないし……他の円卓組は大体ナンパに勤しんでるだろうし、マーリンは屑だし」

 

 頭の中で、思い浮かべた人物達の現状を口に出していく。最後の方は、ただの悪口になっていた気がしないでもない。

 結局、思い当たる人物が居なかった為、パーシヴァルは気分転換に家の外に出る事にした。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「美味いな」

 

 家の近くの店で買った林檎を食いながら、街の中を散策する。

 

 「ああパーシヴァルちゃん!」

 

 果物を片手に、照りつける日差しの中、商店街の辺りまで歩くと、一つの露店からそんな声が聞こえた。

 その声を皮切りに次々と、旦那! やら、大将! やら、パーちゃん! やら、中には様付けで、親しみを込めてパーシヴァルをあだ名で呼ぶ者達が現れた。

 パーシヴァルをあだ名で呼んだ者達は全て、この商店街で店を営んでいたり、その息子や娘達だったりする。

 キャメロットの下町に置いて、パーシヴァルを知らぬ者は居ない。それは戦での武勇や名声が広まったのもあるが、それとは別に、パーシヴァルの人柄に触れた者達が多いからだ。

 

 ある者は命を助けられ、ある者は潰れ掛けた店を救われ、ある者はその優しさに癒された。

 それ以外にも、この商店街でパーシヴァルは暇だからと店を手伝ったりしている。

 そうしていく内に、あだ名で呼ばれるようになっていた。無論、城務めの騎士故、非番だったり仕事がない休日の日にだけだが。

 

 「おっす、おばさん」

 「今日はどうしたんだい?」

 「家にいても暇でね」

 「そう、ならうちの店の手伝いでもしてく?」

 

 恰幅のいい女店主がパーシヴァルにそう言うと、店のあちこちから、ならうちの店を、と声が上がる。

 見慣れた光景なのだろう、買い物をする人々は特に気にした様子もなく、様々な店から煩く湧き上がる声に微笑む者もいた。

 

 「悪いな、今日は働く気分じゃない」

 

 済まなそうに、頭を掻きながらパーシヴァルは言った。

 女店主は分かりきっていた様にそうかい、とだけ言うと豪快に笑ったあと店に並んであった、串に刺さった肉料理を一つパーシヴァルに渡した。

 

 「久々の休日なんだろう? なら、目一杯羽を伸ばすといい」

 「おう、ありがとな」

 

 その後、商店街を抜けて散策を続けた。

 林檎も貰った食べ物も完食して暫く、呑気に口笛を吹いていると、遠くに見慣れた姿を見た。

 

 「ん、マーリンか」

 

 全身を白色の装束で纏めた、胡散臭い宮廷魔術師のマーリンだ。

 一人の女性に何やら語りかけている、恐らくナンパだろう。それを見たパーシヴァルは、またか、と呆れた息を漏らす。

 今回に限らず、マーリンは見目麗しい女性を見つけては度々、今の様に口説きに行く。

 そのため女性関係のトラブルが多々起こってしまうし、そんな時には決まっていつもパーシヴァルが後始末を任される。それもマーリンの弟子と言うだけでだ。

 憤慨する女性を落ち着かせ、話し合い、慰め、多少のアフターケアも施す。トラブルが起きた時の、一連の流れを思い出し、頭を痛めた。

 

 パーシヴァルが頭痛に顔を歪めていると、遠くでマーリンがビンタを食らっていた。

 フラれたようだ。パーシヴァルは小さく、ざまあみろ、と零し口角を釣り上げた。

 ビンタされたマーリンを見れて、少し胸のすく感覚を感じていると、向こうのマーリンがこちらに気付き近寄ってきた。

 

 「やあ、パーシヴァル」

 

 笑顔で近づくマーリンに、パーシヴァルは呆れた目を向ける。

 マーリンの頬には綺麗な紅葉が付いていた。

 

 「やあ、じゃねえよ。また女にちょっかい掛けやがって」

 「ははは、これは恥ずかしい所を見られた」

 「今回は失敗したからいいものを、毎度お前の面倒事の後始末をするのは俺なんだぞ」

 「うん、本当に頭が上がらないよ。ありがとう」

 「……そう思ってんなら、言葉じゃなくて態度で示せっての……」

 

 言っても無駄と分かっていたが、やはりどうしても愚痴愚痴言ってしまう。

 もういっそ殴って懲らしめてもいいんじゃね? とか最近は思わないでもない。

 きっと今ここでマーリンを殴っても、パーシヴァルに罰は当たらないであろう。

 

 「それはそうと、君は散歩かい?」

 「ああ、暇だったからな。それに今から、厩舎に向かうところ」

 「そうか」

 「なんなら、マーリンも来るか?」

 

 なんだかんだ言って、マーリンを誘うあたり、パーシヴァルはマーリンを嫌いになれないのだろう。

 マーリンもそれを分かっていて、いつもパーシヴァルに面倒事を頼むのだから。

 まっこと上手い具合に成り立つ師弟である。

 

 「いや、遠慮しておこう」

 「そっか。じゃ、俺は行くわ」

 「うん」

 「それと、ナンパはするな、と言っても無駄だろうから。程々にと言っとく」

 「善処するよ」

 

 パーシヴァルの言葉に、笑いながら答える。

 自分の言う事を守りそうに無い、己の師匠の顔に、諦めたようにパーシヴァルは顔を手に当てため息を吐いた。

 

 城の近くに建設された厩舎、その奥に用意された特別な空間に、パーシヴァルの相棒は居た。

 夜の様に黒い肌と、岩のような屈強な筋肉、そして他の馬と比べ何回りも違う巨大な体躯を持ち、神秘的を超え幻想的な雰囲気すら感じる黒馬。

 旅の最中に、死徒や魔獣、果てには幻想種の血肉を喰らい、半ば幻想種(神獣)の領域に至ったパーシヴァルの相棒、スレイプニルだ。

 

 「よおスレイ」

 

 自分の主がそう言うと、スレイプニルは応えるようにブルルと鼻を鳴らした。

 パーシヴァルの右手にはブラシが、左手には布が握られており、スレイプニルの毛の手入れをしに来たのだとわかる。

 

 「にしてもお前、凄い事になったな」

 

 ブラシを丁寧に、毛の流れに沿って滑らせながら、パーシヴァルは語りかけた。

 パーシヴァルの言った凄い事とは、スレイプニルが幻想種に至った事だ。

 スレイプニルは世界を転々とする旅の中で、どうしても食い物に困った時、魔獣に限らず食えそうな物は何でも食べていた。それだけでもヤバい事ではあるが、ある日、主たるパーシヴァルはとんでもない物を食料に持ってきた。

 馬にしては大きいスレイプニルより何倍もある巨躯をもった幻想種、龍だ。竜ではない、龍だ。

 大事なことなので二回言った。

 

 強弱を語る事自体が無意味、とまで言われる程の存在。幻想種の中でも頂点に位置するその最上位たる生物。

 パーシヴァルもこれは流石に……と、ボロボロの状態で思っていたが、背に腹は変えられず仕方なくスレイプニルに食わせた。

 そして食したスレイプニルに異変が現れたのは、最早必然だったのだろう。

 巨躯だった身体は更に成長、毛並みは馬とは思えぬ程綺麗になり、その身には神代最盛期の頃の様な神秘を内包してしまった。

 その日、スレイプニルは幻想種に生まれ変わったのだ。勿論他の要因に、その名からある主神の愛馬と同一視された、という事も大きい。

 

 「よっし、大体は終わったか」

 

 一時間程掛けて、スレイプニルの身体を磨き終わったパーシヴァルは、額の汗を拭った。

 すると、後ろからふと気配を感じる。振り向いてみると、そこには兄妹の姿があった。

 

 「ケイ、アルトリア!」

 

 笑顔で二人の名前を呼び、小走りで近寄っていく。

 この厩舎には今はパーシヴァル、アルトリア、ケイの三人しか居らず、アルトリアを呼び捨てにしても大丈夫であった。

 

 「パーシヴァル」

 「お前か」

 

 二人はそれぞの反応を示すと、アルトリアはパーシヴァルの方に向き、ケイは興味無さそうに自分の馬の所に行った。

 ケイの態度に、パーシヴァルは苦笑いする。

 

 「二人とも仕事は?」

 「今しがた終わったところです」

 

 アルトリアが答えるとパーシヴァルは、そっかと呟く。

 

 「で、ケイ。珍しいな、お前が馬の手入れをするなんて」

 

 普段は多忙であるが故に、馬の手入れ等は自分の部下に任せていた。

 そのケイが、こうして厩舎に来て、自分の馬を相手にするのは中々に珍しい事だとパーシヴァルは思っていた。

 

 「ふん、そこの小さいのが、偶にはやれと煩くてかなわなかっただけだ」

 「まったくケイ兄さんは……」

 

 素っ気ない態度で仕方なくやっていますと言うケイに、アルトリアは少しムッとする。

 そんな兄妹のやりとりを見て、パーシヴァルは生前の妹の事を思い出し、懐かしく感じてしまう。

 

 「パーシヴァル?」

 

 切なさを含んだパーシヴァルの顔を見たアルトリアは、思わず声を掛けた。

 

 「……あ、ああ、どうした?」

 「いえ、その。パーシヴァルの顔が何処か悲しそうだったので……」

 「そうか? 俺は大丈夫だ」

 「ならいいのですが」

 

 アルトリアの言葉に、頭を振り、感傷を振り払う。自分が生きているのはこの世界だ、と心で言い聞かせて。

 三人はその後も暫く談笑に花を咲かせ、時にはパーシヴァルの冒険譚とも呼ぶべき旅の出来事を話した。

 その度にケイは馬鹿げてる、ありえない、等と言ってあまり信じていなかったものの、話を邪魔するような真似はしなかった。

 

 「ん、どうした?」

 

 話し込んで一刻の時が過ぎた頃、ケイがそわそわし始めたアルトリアに向けて言った。

 身体をモジモジさせては、パーシヴァルとケイを交互に見ている。

 なんだ、と首を捻るケイの横でパーシヴァルはピンっと何かが分かったような顔をした。

 

 「ケイ、この後時間あるか?」

 「ああ、今日の分の仕事はもうないな」

 「それはよかった」

 

 パーシヴァルの質問の意図が分からず、何だと訝しげな視線を向ける。

 それをナチュラルに無視し、次はアルトリアに顔を向け。

 

 「なら、アルトリアは?」

 「ありません!」

 

 即答であった。

 この事にパーシヴァルは、やはりな、と確信を得たように微笑んだ。

 

 「じゃ、小屋の方に行くか」

 「小屋、と言うとお前が前々から言っていた……」

 

 パーシヴァルが言ったことに、未だ何が何なのか分かっていない様子のケイ。

 そこでパーシヴァルはああそっか、とケイを郊外の畑に連れて行ったことが無い事を思い出し、説明をした。

 

 「ふん、そういう事か」

 「ああ」

 

 どういう事か、アルトリアがソワソワしていた原因と小屋の事を聞いたケイは、眉間に皺を寄せ目頭を押さえた。パーシヴァルがマーリンに呆れている時の様子にそっくりだ。

 パーシヴァルが、アルトリアに暇かと聞いて即答したという事はつまりそういう事で、尚且つ小屋に行くと言った瞬間に目に見えて喜び始めたとはそういう事だった。

 

 「何をしているのですか二人とも、さあ早く行きますよ!」

 「あぁハイハイ」

 「く、お前という奴は……」

 

 目を輝かせるアルトリアと、苦笑いするパーシヴァルに、義妹の事で呆れるケイ。

 三人しか居ない厩舎で起こるありふれた日常。パーシヴァルは、願わくばこの瞬間がずっと続いて欲しいと、心で思っていた。

 

 「今日は何がいい?」

 「ハンバーグで!」

 「……」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 その日の夜、城下町にある家の寝室で、窓を開けそこに座りパーシヴァルは夜空を見上げていた。片手には自家製の葡萄酒。

 

 「……」

 

 暗い空には、街を仄かな明かりで照らす月と、そのままでは不気味な夜空を美しく魅せる星々。

 ヒヤッとした夜風が少し火照った頬を撫でる。

 パーシヴァルは夜空に煌めく月を眺めながら、ある一つの決意を抱く。

 

 「俺が、やる……やらなきゃ……」

 

 今では微かにしか思い出せなくなったアーサー王伝説。だがその結末だけは頭に色濃く残っている。伝説の瓦解。

 円卓の崩壊、その結末を防ぐ事。

 ランスロットの不義と、モードレッドの叛逆、他にもいつ来るか分からぬが、止められるなら止めたい。

 尊い日常を、今ある平和を、そして大好きな皆を守る為に最悪の結末だけは何としても回避する。

 世界の運命に抗う事を覚悟し、パーシヴァルは残った葡萄酒を一気に飲み干した。

 

 

 




スレイは完全な神獣ではありません。
飽く迄半ばです。まあ最終的には神獣になるんですけど……。

最後に、矛盾誤字脱字等ありましたらお手数ですが報告御願い致します。
感想も待ってます!


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