パーシヴァルの物語 作:匿名
棚ぼたです。
なので直ぐに今回の話を書き上げました。
それと、感想にて指摘された事を少し書きました。
※修正しました。9月22日(1:55)
捧げる事しか出来なかった⇒捧げる事を自ら選択した。に直しました。
子鳥の囀りが聞こえる。一つ一つの囀りが重なり、心地の良い音楽を奏で始めた。
陽も高く上り、昼寝するには丁度良い天気だ。このまま小鳥が奏でる音を子守唄代わりに寝てしまいたい。
そんな事を思いながら、木にもたれかかるパーシヴァルは目をウトウトさせる。耐える理由もない為、パーシヴァルは目を閉じた。
「パーシヴァル卿?」
いつものように、暇を見つけてはバレないように郊外に居るパーシヴァルの元へ向かったアルトリアが見たのは、小屋より少し離れた場所にある、一本の木を背に眠るパーシヴァルの姿だった。
暫く動いていないのか、肩や頭には小鳥が乗っている。微笑ましい姿に、アルトリアは笑みを零した。
木影を布団に寝ているパーシヴァルに近付くと、鳥達が一斉に羽ばたく。
「……ん」
そのせいで、パーシヴァルは目を覚ましてしまう。
悪い事をしてしまったと、アルトリアは申し訳ない気持ちになりながらも、彼の側まで近寄った。
「王様か……」
まだ眠いのだろうか、いつもならばアーサー王と呼ぶ彼は、欠伸をしながらアルトリアをそう呼んだ。
「おはようございます。パーシヴァル卿」
「……おはよう。んん!」
眠気を振り払うように、伸びをするパーシヴァル。
彼の作る料理を彼と食べ始めるようになって、二ヶ月程経った。
「今日も来たのかアーサー王様」
「ええ、貴方の料理は宮廷のとは比べ物にもなりませんから」
「そうかい。王様にそう言ってもらえて何よりだ」
そんな会話をしながら、二人は小屋へ歩く。
今日はどんな物が食べれるのだろうか、アルトリアはそんな事を考えながら、彼の料理を待つのだった。
「何故、貴方は騎士になろうと思ったのですか?」
昼食──にしては少し遅いが──を済ませた後、アルトリアは疑問を口にした。
「なんでって言われてもな……。俺の師匠……王様の師匠でもあるか。マーリンの奴に、成ってほしいって言われたからだよ」
「……本当にそれだけですか?」
アルトリアはしつこく聞いた。
少し前に円卓入りした、赤髪の青年パーシヴァル。彼は、言葉遣いはともかく最低限の礼節と言動は弁えている、及第点ではあるが騎士と呼ぶに値するだろう。
だが彼は何処か、騎士の在り方に否定的な部分があるのをアルトリアは感じていた。
それなのに何故、パーシヴァルは騎士を続けているのか、それがアルトリアには疑問だった。
何か理由があるならば聞きたい、それが今のアルトリアの思い。
「それだけなんだけどなあ。でも強いて言うなら、
「夢?」
「ああ、俺の夢は、そのなんだ……
「英雄……ですか」
「そう。困っている人が居るなら助け、悪を討ち善をなす。逆境を跳ね除け困難を打ち破る。化物を倒し安寧をもたらす。既知を覆し未知を踏破する。色んな英雄がこの世に居るが、俺はそんな奴らみたいになりたいんだ。……そのなんだ、安っぽくて子供染みてるだろ?」
そう語るパーシヴァルの顔は、恥ずかしいのか何処かほんのりと朱かった。
然し、はにかむ顔とは裏腹に揺るぎない意思がその瞳には宿っている。
「その夢を叶えるために、騎士ってのは……言っちゃ悪いが、都合がよかったのかもな」
「……そうですか」
アルトリアはどこまで行っても子供のように、無垢で素直な彼の心に感銘を受けると同時に、国を治めるしかなかった己と重ね、羨望と嫉妬を抱いた。
国の為、貧窮に耐える民の為、自らの人間性とその人生を封印し、王としての全てに身を捧げた。捧げる事を自ら選択したアルトリアと。
自らの人間性と
「だから、そのアーサー王には悪いが、俺は王様に忠誠心は持ち合わせていない」
「……」
「流石に不敬過ぎたか?」
気不味く伺うように、アルトリアの顔を覗くパーシヴァル。
それが可笑しかったのか、真面目な顔を崩しアルトリアは少し笑みを浮かべた。
「いえ、パーシヴァル卿が忠義や愛国心を持ち合わせていない事は前々から気付いていました。それなのに何故騎士をしているか疑問に思いましたので。……貴方の答えを聞けてよかった」
「そ、そうか」
輝かしいアルトリアの笑顔に見惚れていたパーシヴァルは少し返答に詰まる。
「どうかしましたか?」
「いや、そのさ、前々から聞きたかったんだけど……アーサー王って女? だよな?」
予想外の質問にアルトリアは目をぱちくりさせた後、パーシヴァルの問に答えた。
「確かに私は女性の身ではありますが、それ以前に騎士であり王です」
「あぁ、やっぱり女だったんだ」
「ええ、それが?」
「いや、どう見ても女なのに、周りの連中が男だって否定するから。もしかして本当に男の娘なのかなって思って。……にしても、辛くないのか?」
余計な事だと分かっていたが、パーシヴァルは聞かずにはいられなかった。
聖剣の呪いにより中身は大人だが、見た目は少女のそれで止まっている。それはつまり時が止まった少女の頃から周りを欺き続けていたという事。女である事を殺し、王に徹する。
アルトリアとは反対の道をゆくパーシヴァルには、到底理解できるようなものでは無かった。
「心配は無用です。始まりはどうあれ、私は今の道を選んだ。例えそれが辛いものであっても……。ですから、私は大丈夫です」
「……そっか……」
「ですが、ありがとうパーシヴァル卿」
パーシヴァルの思いとは反して、アルトリアの顔は覚悟を決め己の道を受け入れた者の顔だった。
強いな。パーシヴァルはただ一言そう思った。
「所でアーサー王様、その卿ってのやめてくれ。人前ならいざ知らず、二人だけの時に堅苦しいのは好きじゃない」
少し重たい空気になっていた為、パーシヴァルは話題を変えた。
「む、それはすみませんでした。では何と呼べば……」
「パーシヴァルでいいよパーシヴァルで」
「了解しました、パーシヴァル。……その、では私の事もアルトリアと」
「アルトリア?」
「ええ、私の幼名です。貴方にはそう呼んでほしい」
少し照れるようにしてそう言うアルトリアに、パーシヴァルは少し困った表情を浮かび上がらせる。
「おいおい、流石にそれは。二人きりとは言え王様をそう呼ぶのは不敬過ぎんだろ、幼名だとしてもな。まぁ、現にこの瞬間も敬語じゃないし、何を今更って言われればそれまでなんだが……」
本当に困った時の癖で、パーシヴァルは頬を指で掻いてしまう。
既に不敬な事ばかりしてきたパーシヴァルだが、その殆どは目を瞑れる程度だ。
だが、王を例え幼名だったとしても呼び捨てにするなどの明らかな不敬行為は少し戸惑われた。
「此処には強力な人払いの魔術が掛けてあるのでしょう? ならば問題ありません。……今後二人きりの時はアルトリアと呼んでください」
「いや、まぁそうなんだけどさぁ……」
(人祓いのルーンを易々と突破した王様がそれを言うか……)
畑を中心に、円を描くようにして一定距離に強力な人払いのルーン魔術が周辺に施されている。この畑に盗みが入らないようにする為だ。
竜の概念を孕み、生まれ持った高過ぎる対魔力のせいでアルトリアは突破出来てしまったが、本来ならば、世界有数の魔術師マーリン以外の誰も破る事は出来ない強力な
お代わりの皿を差し出すアルトリアを見ながら、パーシヴァルは本当に困ったと苦笑いを浮かべた。
♢♢♢
「…………夢か」
早朝、パーシヴァルは目を覚ました。
窓からは昇ったばかりの陽の光が差し込んでいる。
アーサー王をアルトリアと呼ぶようになった日の夢を見て、懐かしい気持ちになっていた。
と言っても、今から三ヶ月前の出来事の話だが。しかして、夢見も良く、実に心地の良い朝だ。
そんな事を思いながら、パーシヴァルはベッドから起き上がった。
「来たか。早いなパーシヴァル卿。もう少し遅れてくるかと思ったぞ」
「習慣でね。どんなに遅く寝ても早く起きるんだ」
「なるほど」
人々が眠りから覚め動き始める時間。
そんな朝早くから、ある騎士の元に来ていた。
「で、俺を呼び出した理由はなんだイーテル卿」
元赤の騎士イーテル卿だ。
昨夜、イーテルはパーシヴァルの所に訪れ次の日の早朝に自分の元に来るように言っていたのだ。
理由は教えてもらえなかった為、パーシヴァルは何故呼ばれたのか未だに分かっていなかった。
「ふむ、私は長い御託は好みではない。単刀直入に言おう。……貴様は礼儀がなっていない、王に対して不敬が過ぎるぞ」
言葉を言うのと同時に、イーテルの目と雰囲気が鋭さを増す。
パーシヴァルは、少しムッとしたが思い当たる節があった為黙ってイーテルの言う事を聞くことにした。
「言動一つ、態度一つに問題がありすぎる。最低限の礼節はあるが、逆を言えばそれまでだ。今も皆の者が大目に見ているが、それがいつまでも続く訳では無い。一刻も早くお前には宮廷の作法、騎士の矜持を覚えてもらう」
これまでも不敬に当たる行為は幾度もあった。
然しそれは、パーシヴァル卿の実力と円卓の騎士と言う立場から、誰もが──ケイ卿辺りはグチグチ言っていたが──黙っていた。
だがそれでは騎士として駄目だ、と思いイーテルは決闘により負った傷が完全に癒えた頃を見計らって先日、パーシヴァルに声を掛けたのだ。
「無論、教えるのは私だ」
「……ありがとう」
何であれ、作法を教えてくれるのだからと、取り敢えずパーシヴァルはお礼を言った。
「うむ。素直に感謝を口に出来るのはいい事だ。……その前に、パーシヴァル卿。貴殿が周りからどう思われているのか知っているか? 言い換えれば評判だな」
「知らん。一々そんなの気にしないしな」
「有り体に言って、悪い」
タダでさえ強面の顔を難しい表情で歪めながら、吐き出すようにそう言った。
「そうなのか? でも、そんな風には見えなかったが……」
「お前と親しい者からはな。しかしそう出ない者達からは、作法も知らぬ癖王に取り入ろうとしている無礼者、と言う評判だ」
ガウェインやランスロットと言った円卓の騎士達、若しくはパーシヴァルと共に戦場を駆け巡り彼を理解した者達からはパーシヴァルの評価は高かった。
だがそうでない下の木っ端騎士達や古参の騎士達からは、ぽっと出の生意気な騎士モドキと陰口を叩かれている。
気にせずほっとく事も出来るだろう。だがそんな事をすれば、いずれボロが出る。その時が最後だ、下手をすれば周りから糾弾される恐れすらある。
「これを払拭するには、お前自身が作法の諸々を覚える他ない」
「それは分かったけど、何であんたは俺の為にそこまでしてくれるんだ?」
僅かな繋がりしかない筈の自分に対して、何故そこまでしてくれるのかパーシヴァルは疑問に思った。
「理由など些細なもの。何、私がしたいからするのだ」
自分を打ち負かした相手が、そんな些末で、くだらない理由から円卓を降ろされる事が、誇り高きイーテルが納得出来る筈も無かった。
だから、そんなヘマをやらかさない為にイーテル自身がパーシヴァルに指南する事を決めたのだ。
「ふぅん。んじゃ、これから宜しくな先生」
「先生?」
「あぁ。メリハリとか付ける為にだよ。気合いもその方が入るしさ。俺に作法を教授してくれるんだろ?」
「ふむ、なるほど。確かにその通りだな。……先生か、存外悪くないものだ」
その日から始まったパーシヴァルとイーテルによる授業は、殆ど毎日行われた。
これにより、後にパーシヴァルは礼節の騎士と呼ばれる様になる事を、本人は知る由もない。
今回の内容は、パーシヴァルがアルトリアをアルトリアと呼ぶようになった切っ掛けとパーシヴァルの評判を払拭する為に作法を学ぶというものでした。
どうでしょうか? 納得頂けてると幸いです。
もし何か可笑しいところがあればドンドン指摘して欲しいです。
……次回からはケイ卿とも上手く絡ませたいなぁ……