パーシヴァルの物語   作:匿名

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またも物語の改変です。
受け付けない方もいるかもしれません。

にしても用事が思いのほか早く終わって良かったです。
待たせてすみませんでした。

今回でる騎士、イーテルですが。
名前がイテールなのか、イーテルなのかよく分からないため此処ではイーテルとします。



10━決闘

 ━━夢を見ている。

 

 通常では、それは夢と自覚できる事の方が少ないが、今回は違った。

 いや、今回に限って言えば夢と気付く確率の方が高い。

 何故なら、今見ているのは『悪夢』なのだから。

 

 これが、大量の菓子を食べている夢なら。これが、面白可笑しい夢なら。これが、華々しい夢なら。

 もしこれが、目標を目指さず静かに村で暮らす夢だったなら……。

 

 しかし今見ているのはそれと真逆。

 幸せや穏やかとは反対の夢だ。

 夜空だと言うのに、目の前は昼間のように明るく、熱く、五月蝿い。

 だがその明るさは、陽の光によるものではなく、燃え猛る紅蓮の炎の光。

 身を襲う熱さは、今にも焼き殺さんとばかりに温度を上げていく熱気。

 耳を(つんざ)く五月蝿さは、炎に焼かれる人々の悲鳴と恐怖の(こえ)

 

 嫌だ、死にたくない、お母さん、様々な言葉が飛び交う。

 最終的に彼らの発する言葉は、助けて、その一言だった。

 その時、彼等を助けもせずただ傍観していたパーシヴァルにギョロッと無数の視線が向けられた。

 

 「はっ、どうしろってんだ。お前らは既に過去の(死んだ)存在。そんなのを救える訳無いだろ……」

 

 何処か諦めを含んだ声音で言う。

 初めの頃は、助ける為に色々した。それこそ無駄な事だと分かっていても、それでもせめて夢の中だけは助けてやりたいと、行動を起こした。

 しかし、何度助けようと何度魔術で癒そうと結局は無駄に終わり、一人も助けられない。

 いつしか助ける事に辟易し、やがては観ているだけとなった。

 

 世界が反転する。

 空が崩れ、地が割れ、上も下も無くなり観ている世界が形を変える。

 次に現れたのは、真っ赤な海だった。

 

 血のように赤黒く気味が悪い。

 その海には、数えることも馬鹿らしくなるほどの様々な死骸が浮いていた。

 見れば骸は共通して、くり抜かれたかのように目玉が無く空洞だった。

 上を見れば、変わらず夜空より暗い空でけれども先程と違い蒼い月があった。その月も普通とは言い難かった。

 月の中心から、外に向かうように罅割れていてそこからドス黒い何かが溢れ出ている。

 

 地平線の彼方まで伸びる、骸が浮かぶ紅い海と割れた月。

 これが、魔導書(ネクロノミコン)が見せる悪夢の最終地点だった。

 

 「久しぶりだな」

 

 ここ二三年見なくなって久しい悪夢。抱いた感情はそれだけだった。

 数年という歳月は、目には見えないが確実にパーシヴァルの中を変えていた。

 

 「ゥゥ……ウぅ……」

 

 足元の骸達が呻き始める。

 これもまた久しぶりだ。気持ちの悪い声で呻き、助けを求める様に腐った腕をパーシヴァルに伸ばす。

 

 「五月蝿い……」

 

 呻きが一層強さを増した。

 パーシヴァルは悲痛に顔を歪め、語気を強くする。

 精神修行で耐えられる様になった、狂気に呑まれず正常で居られるようになった。だが、逆にそれがパーシヴァルを蝕む結果を生んだ。

 狂うに狂えなくなったパーシヴァルは、ただただこの空間に呻きに耐えるしかない。

 

 「ッ……黙れ」

 

 無数の骸、その肉体がパーシヴァルに絡み付く。

 そしてパーシヴァルは身動きが取れない程、骸に纏わり付かれ、海の中に引きずり込まれる。

 沈み行く身体と意識。血のように赤い筈の海、その中は何故か見渡せる程透明で、不気味な程心地が良かった。

 パーシヴァルが最後に見たのは、似合わない程綺麗に輝く罅割れた月だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「朝か……」

 

 パーシヴァルは目覚める。

 久々に見た最悪な夢のせいでテンションは低い。元々朝はそんなにテンションの高い方ではないが、今日は輪をかけて低い。

 最低な気分を変えようと、ベッドから起き上がり大きく伸びをする。

 

 一昨日、アーサー王率いる騎士団の戦に加勢し、見事勝利を齎したと言っても過言では無い働きを見せたパーシヴァルは、昨日着いたキャメロット城にてその功績を讃えられ、食客扱いをされていた。

 

 窓の外にある城下町を眺めていると、トントンと部屋の扉がノックされる。

 視線を城下町から扉に移すと、入ってきたのはマーリンだった。

 

 「おはようパーシヴァル。相変わらず朝早いね」

 「なんだ、マーリンかよ。で、なんか用か?」

 「うん。昨日話しといたアレだよ」

 「あ〜、アーサー王に功績の褒美を賜るんだったっけか?」

 「そうそう」

 

 昨日、マーリンから聞かされていた話だ。

 アーサー達に加勢し、押されかけていた自軍の勢いを返し、更には敵将の首を取り勝利をもぎ取った事と、魔術による治療で負傷兵の7〜8割を治した事による功績。

 式典形式で、その褒美を貰いに行くのだ。それも円卓の騎士達の前で。

 

 「時間はお昼より少し前、使いの者が呼びに来る」

 「分かった」

 

 それだけを伝えると、マーリンは何処かへ行ってしまった。

 さて、こうなれば昼前の式典まで時間がある為暇となってしまう。そこでパーシヴァルは時間を潰す意味でも、アーサーが統治する城下町を見に行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 式典は恙無く進んでいた。

 豪華な装飾がされた開けた間で、王座に座るアーサー王は跪くパーシヴァルを見下ろしていた。

 

 「では、貴殿が望む褒美を与えよう。申すが良い」

 「はっ。私が望むはただ一つ。私めを円卓の騎士、その席に迎え入れてもらいたいのです」

 

 堂々と語られるその言葉に、周りの騎士達が少しざわめく。

 ほうっと興味を持つ者や無理だと嫌味を言う者、様々だが、ざわめく者の殆どがパーシヴァルの戦場での活躍を見ていない騎士達だった。

 それ以外の者達は、彼の働きと力を目の当たりにしていた為何の異議も無く、寧ろパーシヴァルの人柄に触れた騎士達は、彼を円卓の騎士に迎えるべきだと思っていた。

 

 「お待ち下さい王よ! こんな何処の馬の骨とも知らぬ薄汚れた小僧等に、騎士爵を与える必要等ありません!」

 

 一人の騎士がパーシヴァルを指差しながら、侮蔑の眼差しを向け言った。その騎士の言う通り、パーシヴァルの旅服は所々薄汚れていてみすぼらしかった。

 しかしアーサー王自らが褒美を与えると言っている為、そんな事を言っても無駄で、下手をすれば不敬に取られかねないのだが。

 この騎士は面子と力を大事にする貴族の出だった。そんな者がぽっと出のパーシヴァルにいきなり騎士爵が与えられる事が納得出来ないでいた。

 騎士爵とは即ち、準貴族の位を指す。準とは言え平民のパーシヴァルが自分と同じ貴族になる事が嫌なのだろう。

 それに加えて、円卓の騎士と来ればこのボンボン騎士より城内では立場が上になる。

 

(あぁ〜、やっぱりこうなったか)

 

 言われている本人は内心で呟いた。

 世界を転々と旅していたパーシヴァルは、当然その国に居る貴族等も目にすることがある。

 平民を馬鹿にしない真っ当な貴族もいるが、今の様に自分は特別だと思い込む者も居る。

 良くも悪くも貴族と言うのは、平民とは暮らす世界が違う。その為、自分を上位存在か何かと勘違いする愚か者も時折現れるのだ。

 どうすれば、そう育つのかパーシヴァルには不思議だった。

 

 「口を慎め、王の御前であるぞ」

 

 それを諌めたのは、王の近くに控えていた悪人面の騎士アグラヴェイン。

 

 「し、しかし!」

 「二度は言わぬ」

 「……ッ、申し訳ありません」

 

 アグラヴェインから発される威圧感が増していき、騎士は黙らざるを得なかった。

 そして、黙った騎士は親の敵のようにパーシヴァルを睨みつけている。

 その視線を感じ取ったパーシヴァルは、理不尽だと口を引き攣らせるのだった。

 

 「うーん、それは実力に対しての不満かい? それとも騎士に相応しくないからかい?」

 

 横からマーリンが入ってくる。

 認められない理由を聞いているのだろう。

 

 「全てだ!」

 「なるほど。なら、やる事は決まったね」

 

 マーリンはそう言うと、座るアーサー王に向き直り微笑んだ。

 アグラヴェインはそんなマーリンに、次は何を考えていると、警戒を顕にし、眉間に皺を寄せた。

 

 「王よ、私から一つ提案がある」

 「ふむ、申してみよ」

 

 偉大な風格を纏い、アーサー王が答える。

 

 「あの騎士はどうやら、パーシヴァルの実力と相応しさに疑問があるらしい。ならどうだろうか、此所に居る騎士の一人と戦わせて、彼の格を測ってみては?」

 「ほう……なるほど」

 

 考え込む様な仕草を見せた後、アーサー王はそれを受け入れた。更には戦うだけでなく、追加条件にアーサー王は騎士に相応しい格好を揃える、というものを加えた。

 面倒な事になったと、パーシヴァルは心中愚痴るが、提案した本人(マーリン)はこちらを見てニヤニヤしている。

 

 「マーリン殿、ならばその相手を(わたくし)めに任せて貰えないだろうか」

 「おや、君は……」

 

 名乗り出てきたのは、赤い甲冑に身を包んだ騎士だった。

 初老で威厳がある堀の深い顔をした男。彼がパーシヴァルの決闘相手になると、自ら申し出たのだ。

 

 「ふむ、私は構わないよ。━━━━イーテル卿」

 

 直後、周りの者達が先程以上にざわめき始める。

 それもその筈、イーテルと呼ばれたこの男は、ランスロットに負けた事はあるもののそれを除けば、ほぼほぼ無敗の騎士だ。剣の技術もそれなりで、円卓の騎士でも屈指の実力者である。

 マーリンがアーサー王に視線を向けると、アーサー王は頷き返す。

 

 「ふむ、では急ではあるけど今日決闘を行うよ。時間はそうだね、今から二時間後」

 

 マーリンが時間と場所を告げると、その後は何事も無く解散となった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 ログレスの外、荒野の開けた場所で一人の男が立っていた。

 離れた場所から、その男を囲むようにして周りの騎士達は円を描いている。

 男の名はイーテル。赤の騎士と呼ばれ、優れた騎士であり名誉高く周りの騎士からも尊敬されている人物だ。

 

 「来たか」

 

 人混みを掻き分けるようにして、一人の男がやって来る。

 自身の赤き鎧と同様に美しい赤髪と赤い瞳をした青年、イーテルの決闘相手であるパーシヴァルだ。

 

 「遅れて悪い」

 

 パーシヴァルは目の前まで来ると、申し訳なさそうに軽く頬を掻きながら謝罪をする。

 

 「気にするな。貴殿は時刻丁度に来ただけであろう? (わたくし)めが早く来すぎただけだ。……にしても」

 「……?」

 

 イーテルは少し目を細め、観察するようにパーシヴァルの頭のてっぺんから足の爪先迄を見る。

 そしてイーテルの視線は、パーシヴァルが持つ朱き槍へ注がれた。

 

 「貴殿は槍を使うのだな」

 「嫌だったか?」

 

 少しおちゃらけた風に聞いてくるパーシヴァル、イーテルはフッと少しだけ笑い、朱槍からパーシヴァルへと視線を戻す。

 

 「いや、なに。戦場にいた騎士達からは貴殿は剣を使うと聞いていたのでな。少々驚いた迄だ」

 「そうかい。じゃ、俺の槍捌きを見てもっと驚いてもらいましょうかね。もっとも、直ぐにリタイアして見れませんでしたってならない様に気を付けてくれよ」

 

 パーシヴァルは、八重歯を剥き出しにして獰猛に笑い挑発をする。

 その挑発にイーテルは少し不快感を覚えるも、表には出さず、応えるようにしてパーシヴァルに溢れる闘志をぶつけた。

 

 「言うではないか。……これは俄然負ける気が無くなった」

 

 そう言って、イーテルは己が持つ剣を構える。元々イーテルに負けるつもりなどなかった。

 イーテルはある日、アーサーの目の前で円卓から黄金の盃を奪い去る事で挑戦者を募ったが、この際動作が乱暴だったために葡萄酒を王妃に溢してしまった。

 非礼を嫌う彼は、態とでないとは言え王妃に深い謝罪をし、その償いとして王妃に代わり自分と戦ってくれる騎士を待っていた。

 だが、彼の剣の腕は宮廷でも有名なほどであったので彼に挑戦しようという無謀な輩はなかなか現れなかったが、そこに現れたのがパーシヴァルだったのだ。

 

 「それじゃ二人共、準備はいいね?」

 

 いつの間にか現れたのかマーリンは、少し離れた場所で両者の間に立っていた。

 立会人をする為だ。

 

 「少し待ってくれ」

 

 さぁいざ勝負! とはならずパーシヴァルが待ったを掛けた。

 雰囲気的に戦う感じだったのに、待ったを掛けられ剣を構え準備していたイーテルは少しコケる。

 

 「なんだい?」

 

 マーリンはパーシヴァルに質問をする。

 問われたパーシヴァルは、マーリンからイーテルに視線を戻すと。

 

 「イーテル卿、賭けをしないか?」

 「なに?」

 「この決闘、俺が勝ったら━━━━あんたの鎧を貰う。けど俺が負けた場合……そうだな、何も思い付かないし命でも賭けるか?」

 

 その言葉にイーテルは目を見開き、驚愕に顔を歪める。

 何も無いからと言って、いとも簡単に自分の命を賭けの道具(チップ)にする、その事に驚いたのだ。

 

 「……良かろう。その賭け乗った。しかし、一つ訂正がある」

 「なんだ?」

 「命などいらん。貴殿はまだまだ若い、そう易々と己が命を賭ける等とは口にするな。勝利報酬の変更だ。私が勝った場合、貴殿は私に仕えろ」

 

 戦士である前に自分は騎士。如何に決闘とはいえ、害を成す敵でもない青年の命を奪う事は、イーテルが信じる騎士道に反していた。

 イーテルの言葉に、今度はパーシヴァルが僅かに驚く。と同時に感心した、流石は騎士だと。

 スカサハとの修行から、何処か少しパーシヴァルはケルト脳に染まったきらいがあり、こう言った戦闘行為に己が命を賭けてしまう節がある。

 その事にパーシヴァルは、直さないとなぁ、と心で反省した。

 

 パーシヴァルの話は承諾され、改めて両者は自らの得物を構える。

 二人からは言葉は無く、聞こえるのは遠巻きにこの決闘を眺める騎士達の囁きだけ。

 だがそれすらも、目の前の相手だけに集中している二人には聞こえていない。

 

 「それじゃあ、始め」

 

 マーリンの呑気な声が始まりの合図を告げる。

 それと同時に、パーシヴァルは構えた槍を突き出し一瞬でイーテルとの間を詰めた。

 

 「ッ!」

 

 頬を槍が掠める。

 イーテルは頭を僅かにずらす事で、瞬足の突きをギリギリで回避する。

 槍を躱されたパーシヴァルは、すぐさま一歩踏み出しイーテルの胸元に入り剣を振らせないようにし、槍を持ち変え横薙ぎに胴への一閃。

 今度はよけられないと悟ったイーテルは、槍が当たる寸前に剣を間に入れ盾とし、衝撃を緩和させる為横に跳んだ。

 

(重いッ!!)

 

 予想外の威力で吹き飛ばされるイーテルは、軽い嘔吐感をもよおすが歯を食いしばりそれを殺す。

 地を二転三転と転がりながら、すぐさま立ち上がり体勢を直し視線を戻す。

 

(ッ? 居ない……!)

 

 そこにパーシヴァルは居らず、見えるのは最早背景と化したギャラリーだけ。

 何処だ、と視線を泳がすが姿は見当たらず、直後左背後から気配を感じる。

 

 振り向いてからでは遅い。

 そう判断したイーテルは、振り向きざまに勢いを付けてそれを利用し剣を振った。

 

 「クッ!?」

 

 急に現れた剣を、パーシヴァルは咄嗟に身体を捻って(しな)らせ回避する。

 数本。髪が斬られ、眼前を剣線が過ぎる。

 無理な体勢で避けた為、バランスを崩し地を転がるが瞬時に起き上がり、距離を取る。

 

(やっぱり簡単には取らせてくれないか……)

 

 心地よい汗がツーと流れる。

 戦闘にも種類がある。旅の最中、戦いに明け暮れることもあったが、その殆どは魔獣討伐や小さな戦争等で、どれもが殺し殺されるだけの血生臭いものだった。

 そんな戦いに比べ、今回の決闘は高尚で酷く胸が躍る類のもの。

 温まる身体、早く脈を打つ鼓動、ピリピリと感じる戦闘の空気、その全てが心地よい。

 自然と笑みが零れた。

 

 「口にするだけはあるな。流石だ」

 

 イーテルが称賛の言葉をパーシヴァルに送る。

 いきなり言われたパーシヴァルは、へ? と一瞬呆けるが褒められたのだと理解すると、恥ずかしそうに笑った。

 

 「いやまぁ、文字通り死ぬ気で修行してきたからな」

 

 はにかむ笑顔に、残った幼さが垣間見える。

 パーシヴァルは、偶にこうして子供っぽい仕草をする時がある。

 それを見たイーテルは、大人びた雰囲気を持とうとやはりまだまだ子供なのだと感じた。

 

 「そろそろ、本気でやろうぜ?」

 

 堪らなくなって仕切り直すように、パーシヴァルは槍を構える。

 そうだな、と一時の会話を終わらせ両者は神経を尖らせた。

 

 ………………。

 

 長い沈黙が場を包む。

 初めはざわついていた騎士達の声も、いつの間にか無くなっている。二人の均衡を、周りは固唾を呑んで見守る。

 均衡を破ったのは、パーシヴァルだった。

 

 「ッ!!」

 

 大地を踏み砕く様な爆音。

 先程よりも遥かに速い速度で、胸元に飛び込んだパーシヴァルは、嵐の如き怒濤の連撃を繰り出す。

 それは常人が視認できる速度を超越していた。

 

 「ぬッ!」

 

 数回この連撃と打ち合って、イーテルは理解する。

 全てを防ぐ事は不可能━━!

 ならばと、致命に成り得るものだけを剣で打ち払い、傷を最小限で抑えた。

 

 「槍の腕もあれ程とは、流石だな」

 

 遠巻きに激突する二人を見ながら、湖の騎士はそんな感嘆を漏らした。

 

 「ええ、サー・ランスロットの言う通りです。パーシヴァル殿の腕を侮っていた訳では無いのですが、まさか槍の扱いにも長けていたとは」

 

 同調する様に、横に並んで立っていた太陽の騎士ガウェインが言った。

 今も尚繰り返される、剣撃と槍撃の攻防。円卓の騎士以外の者からしたら、微かに残像を捉えるのがやっとだろうと言う程の速さ。

 イーテル卿は円卓の中でも歳を重ねている方であり、それなりの場数を踏んでいる。

 それは比例して、剣の技量や戦術に直結するものであり、その高さは推して知るべし。

 

 それをパーシヴァルは、十七と言う若さで同等以上にやり合っている。

 それは、イーテル卿よりも数多の修羅場をくぐり抜けた事から来る実力である。

 ガウェインとランスロットが感嘆するのも頷けた。

 

 「むッ」

 「どうやら、そろそろ決着のようですね」

 

 お互い距離を取った二人の雰囲気が変わり、ランスロットとガウェインはこの決闘の終わりの気配を感じ取った。

 

 「ふぅ」

 

 後ろに跳び距離を取ったパーシヴァルは一息吐く。

 何十分何時間と感じる攻防をし、イーテルのおおよその実力を把握したパーシヴァル。

 彼は、次の一撃で勝負を付けるつもりでいた。

 無駄な力を脱力させ、今の自分が出せる最大のパフォーマンスを見せるつもりでいた。

 

 その宝石の様に綺麗な赤い双眸で、イーテルを見据える。

 向こうもこちらを向き、“殺気”を放ってきた。

 

(ッ!!)

 

 向こうも次で片をつける気であると、その殺気が物語っていた。

 

 「イーテル卿。アンタとの決闘、楽しかったぜ」

 「……まるで勝ったかの様な口振りだな」

 

 パーシヴァルの言葉に、イーテルは目を細め、渋く低かった声が迫力を増した。

 

 「当然。次の一撃で俺が勝つからな」

 「……ほざいたな、小僧」

 

 この時初めてイーテルは、言葉の中に怒気を含んだ。

 確かに、傷だらけのイーテルに比べパーシヴァルは無傷だ。先程の打ち合いからも、あの歳でイーテルの技量を超えている事が知り得た。

 

 ━━━━━━だからなんだッ!!

 

 如何に技量が上回ろうとも、如何に才能があろうとも、命を対価に出来る青二才に負けていい理由にはならない! まだ勝負のさなかだと言うのに既に己の勝利だと、慢心する子供に自分は負けていられない━━!

 パーシヴァルの言動や彼が生命(いのち)を軽く見ている事に、イーテルは自分でも知らず知らず鬱憤を貯めていた。

 それが最後の言葉で、静かに爆発した。

 

 辺りが再び静寂に包まれ、二人の集中力は極限まで高まる。

 そこに、合図を告げるかのように一陣の風が吹いた。

 

 ━━━━『ッ!』

 

 刹那、二人は同時に駆けた。

 

 「『刺し砕く朱蓮の槍(ゲイ・ボルク)』!!」

 

 「はああぁぁぁァ゙ァ゙ァ゙!!」

 

 真名を解放した必殺の朱槍と、全ての魔力を剣に上乗せした全てを両断する一撃。

 どちらも最高と呼ぶべき力が衝突し合い、周りの地形を吹き飛ばす。凄まじい爆音と、突風が辺りを襲い、砂塵が天高く舞い上げられた。

 

 その劣化版とは言え、片や伝承でも語られる必殺の宝具、そして片や魔力を乗せただけの斬撃。

 どちらが勝つかなど、火を見るより明らかだった。

 そして、砂塵が消えると同時に姿を見せたのは━━━━。

 

 「……ガフッ」

 

 右肩から左腰にかけて大きな傷のあるパーシヴァルだった。

 その口からは吐血し、身体の傷からは相当量の血が流れている。

 

 「……イーテル卿が勝ったの……か?」

 

 誰かがそう言った。

 目の前には血を流し僅かに虚ろな目で片膝を付いているパーシヴァルが居る。誰の目からもイーテルが勝ったように見えただろう。

 しかし、また何処からか誰かの声が聞こえた。

 

 「いや待て! あれを見ろ!」

 

 一人の騎士が、少し離れた場所を指さす。

 指された方向に視線を移すと、倒れた人影が小さな赤い血溜まりを作っていた。

 ━━イーテル卿だった。

 

 「勝負は付いたみたいだね。━━━━この決闘、勝者はパーシヴァルとする!」

 

 立会人たる花の魔術師が、声高らかに勝者の名を告げた。

 

 




※原典との相違点。
イーテル卿が死んでない。
イーテル卿を襲うのではなく決闘で下す。
etc……

イーテル卿は乱暴者として書かれることがありますが、元々は礼儀正しく尊敬されていた騎士らしいですね。
当作のイーテル卿は、礼節正しい方です。

あれ、可笑しいなぁ。マーリンが何だかいいやつに見える。
本当は打算目的全開でパーシヴァルを鍛えていたのに、普通にいい人に見える。何故だろうか……。

あ、因みに最後の真名解放は刺しボルグの方です。

ケイと微笑まない乙女(クンネヴァール)のお話は次回やります。

誤字脱字矛盾等ありましたら、御報告お願いします。

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