パーシヴァルの物語 作:匿名
ふと思い付いたので、番外編として出します。
設定としては、もしパーシヴァルではなく、カリオストロに憑依したら? そこで色々と逸話を残しギルガメッシュやヘラクレス並に有名になったら? という者です。
Fate/Cagliostro Order 〜FIRST〜
燃えている。全てが燃えている。
まるでこの世に、地獄の一部を召喚したかの様な有様だ。
黒色の空は、昇る炎で照らされ、果てまで崩壊した街並みが続く。
その地獄の中で、鼓膜が破れそうなほどの破壊音が轟いた。
「マシュ!」
橙色に近い赤毛をした少女の叫び声。
少女、藤丸立香の視線の先には、立香と立香の隣で震えている白髪の上司を守ろうと、必死に戦う後輩の姿があった。
「大丈夫です!」
立香達を背に大盾を構え、眼前の敵を見据える。
溢れる殺気をこちらに向けてくる、全身を靄に包まれた黒い英霊、シャドウサーヴァント。
そのクラスはアサシン。気配を消し、音も無く人を殺す事に長けた暗殺者の英雄。
一瞬の気の緩みが己の、延いては後ろの者達の命取りとなる。
「っ!?」
アサシンの投擲が、マシュ目掛けて飛んでくる。
それを大盾で薙ぐ事によって吹き飛ばすが、その際に数瞬隠れてしまった視界の隙を突き、アサシンが姿を消した。
幾ら英霊と融合した、デミサーヴァントと言えども戦闘の素人である事に変わりなどなく。しまった! と内心焦る。
昂る気持ちを抑え、冷静に感覚を研ぎ澄ませた。
「マシュ後ろ!」
立香の声が聞こえると同時、背後に気配を感じ振り向く。
敵の気配を感じ取る瞬間に、アサシンより僅かに早く動き始めていたマシュは、瞬時に身の丈を超えるその大盾を振り抜いた。
「やああぁぁ!!」
「グッ!」
遠心力を乗せた一撃が、アサシンの胴に見事な迄に入った。
マシュの攻撃を受けたアサシンは、その重さに後方の瓦礫に吹き飛ばされ、豪快な音を立てて衝突した。
どんな鈍器よりも強力な一撃だ、紙装甲のアサシンでは、そのダメージが内臓の隅々にまで行き渡っているだろう。
幾許かして、感じていた敵意が消えるのを感じると、マシュ・キリエライトは安堵の息を漏らした。
「マシュ無事で良かったよ!」
戦闘を終えた後輩に、走って駆け寄り立香は抱き着いた。
「敵性消滅確認、戦闘終了です先輩」
「うん! にしても流石はマシュだね!」
「い、いえ。それほどでも」
マスターに褒められてか、マシュはその綺麗な頬を赤く染め照れた。
次いで、立香とマシュは近くでヘタレていた自分達の上司の元に行く。
戦闘による緊張感が一気になくなった事で、足腰を支えていた力が一気に抜け、その場で尻餅をついてレフぅレフぅと虚ろに呟く女性、オルガマリーは辛くも勝利したマシュをキリッと睨みつけた。
「マシュもう少しマシに戦えないの! デミサーヴァントでしょ!? 今の戦い見ててヒヤヒヤしたわよ!?」
「す、すみません。次は頑張ります」
涙目でマシュを叱るオルガマリーに、マシュは済まなそうにペコペコと頭を下げる。
その横で立香は苦笑いをした。
「まあまあ、所長。結局は勝ったからいいじゃないですか」
落ち着かせるように、二人の間に入る。
だが、感情が収まらないオルガマリーは、今度はそんな立香をキッと睨んだ。
「貴方も貴方よ! 仮にもマスターなら、支援魔術の一つでもしなさいよ!! ……もうこんな所嫌ぁぁ……レフぅ、助けてよレフぅ……」
「ありゃ、所長がまた泣き始めたよマシュ」
「見てる場合ではありません先輩! 敵はいつ来るか分からないので、早く所長をなんとかしないと」
それから暫く泣きべそをかいて、その場に座るオルガマリーを何とか立ち直らせるのに、一時間程時を要して二人は少しゲンナリした。
♢♢♢
「えっと、後はこのキンキラの石を置けばいいんだっけ?」
「ええ、そうです先輩」
『本来は、召喚の為に長い詠唱が必要になるんだけど、これは特別製でね。そういったややこしい手順を省いて簡略化してくれているんだよ。まあ、その分何が出るかは分からない、縁召喚か完全ランダムになっちゃうけどね』
この辺りで最も良質な霊脈のその上に、マシュの持つ大盾を置き、それを媒体に英霊召喚の魔術を行おうとしていた。
これから召喚する立香の両手には、掌より少し小さい虹色の金平糖の様なものが抱えてある。
俗に聖晶石と呼ばれる、簡略召喚に必要となる魔力を秘めた石だ。
そして、英霊召喚についてドクターロマニから説明を受けた立香は。
「なるほど、つまりガチャか!」
「……? すみません先輩、生憎とガチャ? というものを私は知りません」
「ああ、別に知らなくてもいい事だから」
「そうなのですか?」
「そうなの!」
「貴方達何を呑気に話してるのよ、さっさと召喚しなさい!」
戯れる立香とマシュに、オルガマリーは厳しく言い放った。
ここは一応、敵がいつ来てもおかしくない戦場だ。オルガマリーがピリピリするのも無理は無い。
立香もそれを分かっていた為、素直に謝り、召喚サークルに向き直った。
『所長も御機嫌斜めだし、さっさと済ませよう』
余計な事を言うロマニに、オルガマリーは後で覚えてなさい、とドスの利いた声で呟く。それを聞いたロマニは、ひっと軽く悲鳴を漏らした。
それを横目に笑いながら、立香は聖晶石をサークルの中心に置いた。
瞬間、石の中に宿る魔力がサークルを循環し始める。
すると突然。
「ギャルのパンティーおくれぇぇぇ!!」
「ドクター大変です! 先輩が壊れてしまいました!」
魔力の輝きが強さを増し、眩くなっていく横で、立香は右手を上に突き上げ声高らかに訳の分からないことを叫び始めた。
横にいたマシュは極限状態が続くこの状況に、とうとう立香が壊れたのだと思い、本気でロマニにどうにかするように助けを求めるが、ロマニはオルガマリーに先程の事で色々と言われていて聞く余裕が無い。
「私は大丈夫だよマシュ! ただ神龍に願いを言ってるだけ!」
「すみません先輩、私には神龍とは何か分かりません!」
「分からなくてもいいのさ! ただ感じてノリを合わせるんだ!」
若干カオスである。
召喚で謎のテンション上昇により、本人ですら何を言っているのか分からない程、意味不明な事を言い始める。
己の先輩が壊れたのではなく、精神的攻撃を受けているのではないか、と本気で考えるマシュはどうすればいいのか分からず。
もうやけくそ気味に、右手を大きく上げ立香の真似をし始めた。
「行くぞマシュ! せーの」
マシュの肩に手を起き、気持ちのいい笑顔で。
「ぎ、ぎゃるのパ、パンティーおく……!?」
「ギャルのパンティーおくれ……!?」
召喚の煌めきが臨界点に到達。刹那、二人が言い終わる前に二人の頭の間を何がすり抜けた。
立香とマシュは、すり抜けた物が飛んでいった後方に顔を向けると、そこには額にナイフが刺さったシャドウサーヴァントが居た。
「敵!」
マシュは急いで身構えるが、その必要はなかった。
何故なら、アサシンと思われるそのシャドウサーヴァントは、既に倒されていたからだ。
「たく、召喚されて出てきてみれば、お前達は何してんだ」
凛とした声が、後ろから聞こえた。
立香とマシュは、消え逝くシャドウサーヴァントから目を離し後ろへと移す。
声の発信源と思われる召喚サークルの上には、一房赤髪のメッシュが入った年若い黒髪の男の姿があった。
「生憎と、俺は神龍じゃないんでな」
黒の下地に赤と白の入り交じるロングコート、黒のシャツに白のラインが入った黒いズボン。
右手にはナイフを三本持っている。
「んじゃ、一応の様式美として……」
そう言って、男はニヤリと笑い。
「サーヴァント、キャスター。真名アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。稀代のペテン師にして錬金術師だぜ」
世界最大のペテン師が、今ここに姿を現した。
♢♢♢
『まさか、カルデアの探知にすら引っかからないアサシンが居たとはね。いや、本当にすまない』
適当に自己紹介を済ませた後に、ロマニは、真剣な面持ちで謝罪した。
カルデアの探知網すら掻い潜る程の、気配遮断スキルを持った先程のシャドウサーヴァントのアサシン。
もしあの時カリオストロの召喚が間に合わなかったら、そう考えただけで肝が冷える。
再三言うが、ここは戦場なのだ。いつ命を落としてもおかしくない世界だ。
一同は、先程の件でそれを改めて思い知らされた。
「こっちこそ気を抜いてた、ごめんなさい」
「それを言うなら、私も警戒を解いてしまったことが原因です。すみません、サーヴァント失格です」
ロマニに続いて次々と謝っていく。その中には珍しくオルガマリーの姿もあった。
沈んでいく空気の中、パンパンと柏手を叩く乾いた音が響いた。
「はいはい、暗くなるのはそこまでだマスター。この先そんなんじゃやってけないぜ? ほら明るく明るく。一度失敗したなら次に活かせばいい」
召喚されたばかりのサーヴァント、カリオストロが人懐っこい笑顔を向ける。
カリオストロの言葉に立香は、そうだね、と気を取り直し沈んだ空気を元に戻した。
そんな中、ロマニがふと呟く。
『それにしても、カリオストロかぁ』
「どうかしたのロマン?」
『いや、カリオストロがあんなにも戦えるとは思えなかったからね』
しみじみと言うように、ロマニはカリオストロをモニター越しに見つめる。
ロマニの言葉に補足するようにマシュが、カリオストロについて語り始める。
「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。本名はジュゼッペ・バルサモという方で、世界的に見ても有名な逸話を数々と持っている英雄ですね」
「私でもカリオストロの事は知ってるよ!」
「当然私も知っています。カリオストロと言えば魔術師としても有名ですからね。こんな大英雄を呼び寄せるなんて、立香貴方を褒めてあげるわ」
「お、そりゃ嬉しいね」
マシュ、立香、オルガマリーの言葉に嬉しそうに笑うカリオストロ。
アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。
“
ただその偉業は怪物を倒したり等の武勇では無く、ペテン師としての逸話が殆どであった。
曰く、一つの国を騙し金を巻き上げその国を滅ぼした。
曰く、口先一つで戦争を終わらせた。
曰く、彼は世界すらも欺く最凶最悪のペテン師である。
その他にも錬金術師や魔術師としての偉業、武勇もままあるが、やはり詐欺師としての逸話が多く目立つであろう。
その事から、ロマニはカリオストロは武闘派では無いと踏んでいたが、先程竜牙兵の群れやシャドウサーヴァントを軽くあしらったのを見て考えを改めた。
「私、あれ好きだよ『詐欺師とお姫様』」
「カリオストロさんを主人公とした絵本、童話ですね。私も好きです」
カリオストロの偉業や逸話は、マスメディアにも取り上げられており、絵本やアニメの他にも、舞台やドラマのエンタメとなって全世界に知られている。
数ある話の中でも、更に有名なのが立香の言った『詐欺師とお姫様』なのだ。
「あー、あの話か」
立香の出した話題に、何処か気不味そうに頬を掻くカリオストロ。
それを見た立香は、どうしたの? と顔をのぞき込む。
「いや、何でもないさマスター」
「そう。……ところで、所長はどんな話が好き?」
「そうね。私は、『笑顔の魔法』かしら」
『ああ、カリオストロ作品にしては珍しく魔術師として活躍する本か。……それにしても……』
途中で言葉を切ったロマニは、まじまじとオルガマリーを見つめた。
変な視線を感じたオルガマリーは、ロマニに対して声を荒らげる。
「何よロマニ!」
『い、いやあ。所長も童話を読むんだなあと』
「それってどういう意味よ!」
またギャーギャーと騒がしくなり始める一同。
それを笑顔で見守っていたカリオストロは、その時気配を感じた。
「話はそこまでだ、何か近付いてくる」
カリオストロの真剣味を帯びた声に、一瞬で全員に緊張が走った。
『ホントだ! 二時の方向にサーヴァント反応!
遅れてカルデアで探知したロマニの声で、全員は身構える。
マシュは盾を構え、立香とオルガマリーはその背に隠れるようにして下がる。
カリオストロも、腰に付けてあった六つのナイフを両手に構えた。
来るのは敵か味方か、間近まで迫ってきた気配にカリオストロは身を引き締めた。
「ああ、待て待てお前ら! 俺は敵じゃねえよ」
出て来たのは杖を持った青髪の魔術師だった。
靄を纏っていないことから、シャドウサーヴァントじゃない対話の可能なサーヴァントだとカリオストロは判断し、構えた武器を下ろす。
「ち、ちょっと!」
まだ敵かどうかも分からない相手を前に、武器を下ろしたカリオストロにオルガマリーは声を震わせた。
小鹿のようにプルプルと体と声を震わせるオルガマリーに、優しい眼差して大丈夫と声を掛ける。
言霊で無いただの言葉なのに、何故かそれはオルガマリーの心に浸透しオルガマリーの不安を取り除き落ち着かせた。
「……確かに敵意は感じないな。マシュ、武器を下ろしていいぜ」
「……はい」
「そんな不安そうな顔をすんなよ、大丈夫だ。
右三本のナイフを仕舞い、空いた右手でマシュの頭を撫でる。
マシュは照れくさそうに、はい、と答えた。
……因みにその後ろでは、マシュが立香に今の事でからかわれている。
「で、御宅は何者だ?」
「なに、怪しいもんじゃない。━━俺は、この聖杯戦争に呼ばれたキャスターだ」
♢♢♢
自身を聖杯戦争に呼ばれたキャスターだと自称した男、教えて貰えた真名によればクー・フーリンと、ある程度の情報を交換し、仮契約をしたあと、一先近くにあった学校へ立香達は移動した。
「いやっふいーベッドだぁ!」
保健室に備え付けてある小綺麗なベッドに、立香は頭から飛び込んだ。
ベッド一つで子供のように喜ぶ立香を置いて、マシュ、オルガマリー、カリオストロ、クーフーリン、ロマニは現状の確認を始める。
『では、僕達の目的を改めて確認しよう。まずは冬木の大聖杯に向かう事。そして、そこにいるであろうセイバーを倒す事、この二つだ』
「道中で必ずアーチャーの野郎が出て来るが、それは俺が何とかするとしてだ。問題はそのセイバーの奴だ」
「ちょっといい? キャスター」
『何だ?(ん?)』
オルガマリーの言葉に、同じクラスであるカリオストロとクーフーリンは一緒に反応してしまう。オルガマリー本人は、クーフーリンの方を指さし話しかけるが、その前にこのままではややこしいという事で、カリオストロの事はクラスでなく名前で呼ぶようにカリオストロは提案した。
「キャスター、貴方はセイバーの
「ああ、知っている。奴の宝具を食らえば、誰だってその正体に突き当たるからな」
「つまり、それ程有名なサーヴァント、ということでしょうか?」
「ああ、有名も有名」
語るキャスターの顔には険しさが滲み出ていた。
ランサーでは無いとは言え、ケルト神話に名高い大英傑クー・フーリン。そんな彼でさえ顔を歪ませるほどの難敵に、カリオストロは直感的にマシュの宝具が切り札になると予感した。
「王を選定する岩の剣のふた振り目、お前さん達の時代に置いて最も有名な聖剣……その名は」
「
キャスターの言葉に続く様に、カリオストロが口にしたその宝具に、相手が何者かを知った全員が息を飲んだ。
主人公は戦闘能力もずば抜けて高いですが、詐欺師と言われている通りどちらかと言うと頭脳派です。口先で敵を惑わします。
それとオリジナル小説を投稿すると言いましたが、近日中には無理そうです。本当にすみません。
再来週迄には投稿しますので、ご容赦下さい。