GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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9話

コダ村から村民達と共に脱出した伊丹は後ろに果てしなく続く村人達の行列を見てため息を吐く。

 

「村から脱出して3日。次から次へと舞い込むトラブル。増え続ける落伍者に傷病者。本当にこっちの世界でも避難する人達は命がけだね」

 

「この村人達行先あるんですか?」

 

倉田は村を捨てて脱出するのだから行く当てがあると思い伊丹に問うが、伊丹はため息を吐き何とも言えないと言った表情で返した。

 

「無いんだと」

 

「えっ!? 無いんすか!?」

 

「村長さんが言うには、炎龍が襲ってこなくなるまでだってさ」

 

そう言い伊丹はサイドミラーを見て後方を確認する。後ろには永遠と続くキャラバンの列がズラッと続いていた。そしてバックミラーを見る。伊丹が乗っている高機動車にはエルフの村で保護した女の子一人と、妊婦の女性に数人の子供達と老人が乗っていた。子供達の中には村で車軸の折れた馬車から投げ出された女の子もいた。

 

「―――こ、この~‼ 動けぇ~‼」

 

列の後方ではある家族がぬかるんだ地面に馬車の車輪がはまり抜け出せずにいた。

 

「だ、誰か‼ お願い助けておくれ‼」

 

女性は周りにいる人達に助けを求めたが誰もが自分達の事で精一杯の為、他人に手を回すほどの余力はなく、皆見て見ぬふりをして過ぎていく。

 

(やっぱりこの世に神様なんて……)

 

女性は悲しみに満ちた顔で俯いていると、突然聞いた事が無い言葉を話す兵士達がやって来た。

 

「車輪がはまってるだけだ。全員で押すぞ!」

 

「アイリッシュ、お前一人でも何時もの馬鹿力で押し出せるんじゃないのか?」

 

「レッカー、こんな時に冗談言うんじゃねぇよ! ほら、さっさと押すぞ!」

 

「よぉ~し、押せっ‼」

 

緑色の服を着た兵士達と砂の様な色をした兵士達が自分達が押していた馬車の後ろから一斉に押し始め、そしてはまっていた車輪をぬかるみから脱出させた。

 

「よし、次の馬車に行くぞ」

 

「あ、あの!」

 

女性が呼び止めたが兵士達は笑みを浮かべ一礼した後、同じようにぬかるみにはまっている後方の馬車へと向かった。

 

「あの人達は一体?」

 

「何でも炎龍が出たのを知らせに来た異国の兵士だって話だぞ」

 

「兵士にしちゃ優しすぎないかい」

 

女性は夫からの説明に、帝国の兵士とは全く違う事に驚きつつも助けてくれた事を感謝し兵士達が去って行った方向に家族全員で深く頭を下げた。

 

そんな中、ある馬車が車軸が折れ道の端に横たわっていた。ダンから無線を貰った伊丹は村長と共にその場に行く。

 

「えっと、どうですか?」

 

「ダメだ。完全に車軸が折れて治せそうにない」

 

そう言いうと、伊丹は村長にお願いします。と話す。そして村長は馬車の持ち主の元に向かう。

 

「―――そんな!? 荷と財を捨てたらこれからどう暮らせばいいんですか!?」

 

「言いたいことは分かる。だがこのまま此処に居ても死を待つだけじゃぞ? なら持てる分だけの荷物を持って逃げるしかない」

 

そう言われ持ち主は苦渋に満ちた顔で了承した。だがなかなか荷物を捨てることが出来ずにいた。伊丹はダンへと顔を向けると、ダンも静かに頷く。

そして伊丹は持ち主に火を掛けるように伝え、必要な荷物だけを馬へと背負わせ列へと戻した。

高機動車に戻って来た伊丹に黒川が若干怒りを含ませた声で聞く。

 

「なぜ荷物に火を付けさせたんですか?」

 

「だってあぁしないと荷物の前で動かないんだもん。そうするしかないじゃん」

 

「でしたら車両の増援などを頼めないのですか!?」

 

黒川が言いたいことは誰だって分かる。伊丹自身も呼べたらそうしたい。だが

 

『黒川さん、それは出来ません』

 

突然無線機からカズヤの声が響いた。

 

「あ、やべぇ。無線開きっぱなしだったのか」

 

『黒川さん、確かに車両の増援を頼めば今苦しんでいる避難民達は助かるかもしれません』

 

「でしたら‼」

 

『ですがそうなれば、帝国と武力衝突する可能性が飛躍的に上がるんです。そうなった場合一番被害を受けるのはこの世界の住民の方達です。我々みたいに少数なら見逃すかもしれませんが、更に多くの敵がフロントラインを越えたと知れば敵も動かざる負えません。そうなったら偶発的な武力衝突、無計画な兵力の投入、拡大する戦域、巻き込まれる住民達。だから増援は呼べません』

 

カズヤの言葉に黒川は自身の考えが浅かった事を気付かされた。

 

「申し訳ありません。私の考えが甘かったです」

 

『いえ、この状況を打破したいのは誰もが思っている事なんです。ですから我々が出来ることを精一杯やりましょう』

 

「はい‼」

 

黒川の表情を見た伊丹は流石カズヤだなと思い、後方の様子を確認しようとサイドミラーを覗き込んだ瞬間運転していた倉田が前方の異変に気付き伊丹に報告する。

 

「隊長、前方にカラスの群れが居るっす」

 

「は? カラスの群れ?」

 

そう言い双眼鏡でカラスの群れを見る。そしてその下に何かあるのかと思い地面へと双眼鏡を向けると其処には

 

「は? ゴスロリ少女?」

 

「何ですと!?」

 

運転席に居た倉田は伊丹の報告に驚き自身の双眼鏡を取り出し前方を見ると確かにゴスロリの少女が居た。その背中には少女の身長よりも大きな鎌を持っていた。

 

「マジで等身大サイズのゴスロリ少女っす‼」

 

倉田が興奮している中助席に居た伊丹は無線機に手を掛ける。

 

「こちら3-1、トゥームストーン指揮官送れ」

 

『こちらトゥームストーン指揮官』

 

「前方にゴスロリと言うか、銀座事件で誘拐されたかもしれない少女がいて車両を止めて確認に向かう」

 

『了解した。此方は警戒態勢をしく』

 

「勝本、古田。もしかしたら銀座事件で誘拐された女の子かもしれないから確認に向かってくれないか」

 

『了解です』

 

後続の車両に居た勝本と古田は車両から降りて少女の元へと向かう。

 

「なんか家出少女の保護に向かう警官みたいっすね」

 

「止めろよ、それっぽく見えちまうじゃねえか」

 

その頃、勝本と古田は少女の元へと到着し声を掛けようとした瞬間

 

「ねぇ貴方達何処からいらしてぇ、どちらへ行かれるのかしらぁ?」

 

と、突然現地語で話し始めたのだ。2人はその言葉に連れて来られた少女ではなく現地の子だと判断し、どうすべきだと互いに見合っていると伊丹達が乗っている車両から子供達が突然降りた。

 

「神官様だ‼」

 

「神官様?」

 

伊丹は子供達が言った神官様と言う単語に頭に疑問符を浮かべているとぞろぞろと車両に乗っていた老人や妊婦が降りていき少女に祈るような仕草をとる。

 

「貴方達何処から来たのぉ?」

 

「コダ村からだよ! 炎龍が現れて逃げてるところだったの‼」

 

「そう。それでこの人達は?」

 

「僕達を助けてくれた人達‼」

 

子供達がそう言うと少女はそう、無理矢理じゃないのね。と微笑みを浮かべながら呟く。すると少女の目線は次に伊丹達が乗っている車両へと向けられた。

 

「これどういう原理で動いてるの?」

 

「分かんない。けど荷車よりずっと快適なんだ!」

 

そう言うと少女はそぉう。と笑みを浮かべ伊丹の方へと顔を向ける。

 

「私も感じてみたいわぁ、その乗り心地」

 

「へ?」

 

少女の言葉に伊丹は頭に疑問符を浮かべ、変な顔を浮かべる。

その頃後方に居たカズヤは輸送車に乗せられたヴァンツァーに何時でも起動できるようコックピットに乗っていた。

 

「さっきの伊丹さんが言っていた少女、結局連れて来られた少女だったのか?」

 

最初の報告以降、全く報告が来ない事にカズヤは心配しているとまた無線機から声が入って来た。

 

『こら! 小銃に触るなって!』

 

『隊長羨ましいっす!』

 

『ちょ、ちょっとそれを彼女の上に置こうとしないで!?』

 

『お、おい! 何処に座ってんだよ!?』

 

『羨ましすぎます隊長‼』

 

無線から聞こえる声にカズヤはまたトラブルに巻き込まれてるや。と苦笑いを浮かべていると、伊丹がちゃんとした報告をしてきた。

 

『…ダン中尉、カズヤ。現地の少女を保護。これより移動を再開します』

 

『あぁ~、了解だ』

 

「了解です。……伊丹さん、ご愁傷様です」

 

そう言うと伊丹はなんで俺ばっかりと落ち込んだ声で呟き無線を切った。それから少女を拾った第3合同偵察隊は道なりを進み、広い荒野の様な場所へと到着した。太陽からさんさんと降りそそぐ太陽光に歩きながらも、避難を続ける避難民達。多くの避難民は喉の渇きを訴えるも、我慢をし前へと進み続けた。

 

「お母ちゃ~ん、喉乾いたぁ」

 

「御免ねぇ、もう少し我慢しておくれ」

 

子供が水をねだるが、母は我慢するよう言いふらつく足を必死に我慢しながら前へと進む。

 

(この子だけでもあの緑と砂色の服の人達に頼めたら…)

 

そう思っていると、突然足元が暗くなる事に気付き空を見上げると、自分達が村を棄てる原因となった炎龍が其処に居た。

突如現れた炎龍に避難民たちは大慌てで蜘蛛の子の様に散らばって逃げ始めた。炎龍は炎を吐き荷車や人焼き始めた。

 

「二尉‼ 後方に炎龍出現‼ 村人たち襲ってます!?」

 

「全車、炎龍に対し攻撃を開始‼ カズヤ、ヴァンツァーを起動してヤツを抑えろ‼」

 

伊丹は無線機越しにそう叫び、倉田に炎龍に向け車を走らせた。

 

「お母ちゃん、逃げないと!?」

 

「エルザ早く立つんだ!」

 

「あんた。この子を連れて、…先に行っておくれ。私はもう…。」

 

足に力が入らず立つことが出来ず座り込んでいる女性を必死に家族は立たせようとしていると、その背後に炎龍が迫っていた。家族は死を覚悟し目を瞑った瞬間、雷が落ちたような音が数回起きた。そして家族はそっと目を開け顔をあげると炎龍は自分達ではなく別の方へと顔を向けていた。其処には村で見た巨人が鉄の杖の様な物を炎龍へと向けていた。

 

「そら、来いよトカゲ野郎。お前の相手は俺だ!」

 

そう言いカズヤはゼフィールに装備していたセメテリーを炎龍に向け撃つ。だが門付近で遭遇したドラゴンとは違い、炎龍に命中した弾は弾かれるように火花が発つだけだった。

 

「チッ! セメテリーじゃ歯が立たないのかよ!?」

 

カズヤはもっと大きめ銃を持ってこればよかったと思いながらもセメテリーを撃ち続けた。すると自身の攻撃とは違い更に細かい火花が立つのが見え、伊丹達が来たと思い攻撃の方向を見る。

 

『カズヤ、ミサイルランチャーは?』

 

「駄目です! 下にはまだ避難民が居ます。避難民が居ない事を確認できるまでは撃てません‼」

 

カズヤは無線機越しにダンにそう叫ぶと、ダンは舌打ちをしながら作戦を伝える。

 

『分かった! こっちも牽制射撃をして避難民が逃げる時間を稼ぐ。お前は避難民が居なくなったのを確認した後ランチャーを撃て!』

 

「分かりました!」

 

ダンからの指示にカズヤはセメテリーを撃ち続けた。その頃高機動車に乗って同じように伊丹は助席から64式を構え炎龍の気を逸らそうと撃ち続けていた。

 

「撃て、撃て、撃て‼ 撃ち続けろ!」

 

大声をあげながら指示を飛ばす伊丹。すると炎龍が突然口を膨らませる動作を見せ、伊丹は咄嗟に指示を飛ばす。

 

「ブレス来るぞ!? 全車、ドラゴンの射線から退避‼」

 

その指示を聞いたクーガーにLAV、そして軽装甲機動車は横へと急旋回した。そして車両が居たところに炎龍はブレスを吐いた。ブレスが当たった地面は真っ赤に染まっており、それを見た伊丹達は戦慄する。

 

「あんなの当たったらタダじゃすまないっすよ!?」

 

「キャリバーもダメ、ヴァンツァーの武器も歯が立たない。……どうすれば」

 

伊丹は苦渋に満ちた顔で炎龍を睨んでいると、突然眠っていたはずのエルフが起きた。

 

「えっ!? 起きた!」

 

「……! オーノ!」

 

突然少女が現地語で何かを訴えかけ、伊丹は分からずにいるとエルフの少女は自身の目を挿し同じ言葉を繰り返した。その行動に伊丹は何を伝えたいのか理解し、炎龍の顔を見る。炎龍の左目は矢が刺さっており、目が壊死していた。それを見た伊丹はすぐさま無線機を取り叫んだ。

 

「全員目を狙え! 目は柔らかいはずだ!」

 

その指示に全員銃口を炎龍の顔に向け引き金を引いた。攻撃が自身の顔へと向けられた事に気付いた炎龍はまだ見えている右目を守ろうと攻撃を避ける動作をする。伊丹は動きが鈍ったこと、そして周囲に民間人が居ない事を確認し指示を飛ばす。

 

「よし、動きを封じたぞ! 勝本! パンツァーファウストだ!」

 

「レッカー! AT-4準備‼ 奴にデカいのを一発お見舞いしてやれ‼」

 

伊丹、そしてダンの指示を聞いた勝本、そしてレッカーはすぐさま対戦車兵器であるパンツァーファウストⅢ、AT-4CSを構える。レッカーは後方に人が居ない事は明白の為何も言わなかったが、勝本は自衛隊の癖が抜けなかった為か

 

「おっと、後方の安全確認」

 

と、悠長に後方を確認した。

 

「「「「「さっさと撃てっ!!!!」」」」」

 

「「「「「Die you son of a bitch!!」」」」」

 

全員からツッコミを入れられながらも、勝本はパンツァーファウストを構える。レッカーも同じように構え狙いを付ける。それぞれ狙いを付けた後、レッカーと勝本は引き金を引いた。だが勝本のパンツァーファウストは引き金を引く際に悪路によって車体が跳ね上がり照準がズレてしまい、弾頭はあらぬ方向に飛んで行く。

全員外れたと思っていると、突然炎龍の足元にゴスロリの少女が持っていたハルバートが突き刺さり地割れが起こった。それにより炎龍の足がすくわれ外れると思っていたパンツァーファウストの弾頭は左腕に命中し、レッカーが撃った弾頭は脇腹に命中した。抉られた脇腹と撃ち落とされた左腕に炎龍は悲鳴のような咆哮をあげ翼を広げ飛び去ろうとした。

 

「逃がすか‼」

 

カズヤは漸く避難民が居なくなったことを確認し、炎龍に向け無誘導ミサイルを撃ち込もうとした。だが炎龍は攻撃される前にブレスを吐く。ブレス攻撃にカズヤは咄嗟に腕を盾にして防ぎ、その間に炎龍は飛び去って行った。

 

「チッ、逃げられたか」

 

カズヤはそう呟きながら自身の機体を確認する。炎龍が吐いたブレスを防いだ腕は真っ赤になっており中の回路や油圧システムなどが全て破損。それ以外は特に問題はなかった。

 

炎龍が飛び去った後、カズヤは機体を車両に乗せ機体から降りて来て伊丹達と共に炎龍の攻撃に巻き込まれ亡くなった方々を埋葬する手伝いをした。そして村人達と共に黙祷を捧げた後、カズヤは伊丹と副隊長の桑原、そしてダンが集まっているところに向かう。

 

「それで、伊丹さん。彼らはこれからどうすると?」

 

「村長が言うには、残った人々は近くに住んでいる親戚の所に向かうか、大きな街に向かうだと」

 

「街って言っても知り合いでもいるんですか?」

 

カズヤの問いに伊丹は力なく首を横に振る。

 

「まだ街に行けるだけ問題は無いだろ。だがそれよりもっと厄介な問題がある」

 

そう言いダンは顔をクーガーや高機動車の方へと向ける。其処には親や身寄りが居ない子供や老人、そして自力では動けない負傷者達が居た。カズヤは如何にかできないのかと村長に顔を向けるが、村長は顔を横に振る。

 

「薄情と思われるかもしれが、今は自分達の事で精一杯なのじゃ。……だからあの者達の事までは手がまわせんのだ」

 

「……彼らを見捨てるんですか?」

 

「……申し訳ないとは思っておる。それとお主達には心から感謝しておる。本当に……」

 

村長は帽子を脱ぎそう感謝の言葉を送っている中、帽子を握る手がギュッと力強く握りしめられており震えていた。カズヤや伊丹達はこの人も助けてやりたい気持ちは大いにあるんだと思いそれぞれ顔を見合い、頷いた。そして自力で街に行ける避難民達とは其処で別れ、残った避難民たちと共に伊丹達はアルヌスへと帰還した。




次回
避難民達と共にアルヌスへと帰還した第3合同偵察隊。伊丹は上官に、カズヤは整備班長にそれぞれ叱られながらも避難民達の為の住居を用意した。
その頃ある酒場では炎龍を撃退した特地派遣団の話題が広まっていた。

次回
第3合同偵察隊帰還

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