GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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8話

「生存者発見!」

 

その声に付近で生存者の捜索をしていたカズヤ達は直ぐに伊丹の元へと駆け寄る。

 

「伊丹さん、生存者が居たって本当ですか!?」

 

カズヤは驚いた表情を浮かべながら伊丹にそう聞くと、伊丹は首を縦に振って軽装甲機動車を持ってくるよう伝える。そして機動車に備えられているワイヤーを体に巻き井戸の底へと下りていく。

 

「まさかあんな災害があったにもかかわらず生存者が居たとはな」

 

「全くだ。余程運が良かったんだろ」

 

ダンやレッカーはそう言いながら井戸の底に降りていく伊丹が無事に降りていくか覗き込む。

そして底へと着いた伊丹は生存者を背負い、落ちないようにワイヤーを生存者に結び合図を出す。

 

「よし、引き上げてくれ!」

 

「了解! 倉田、ゆっくりと前進させろ!」

 

そう言われ倉田は装甲車のアクセルを軽く踏み込み、ゆっくりと前進させた。

装甲車の引っ張る力によって井戸の底にいた伊丹と生存者は這い上がって来る。

偵察隊のメンバーは伊丹の背中に居た生存者に驚きが隠せなかった。

 

「人命救助! 急げ!」

 

伊丹の指令にすぐに我に返った偵察班のメンバーは了解!と叫び車に積んでいる毛布などを取りに走った。

 

「……人ではなくてエルフなんだが」

 

伊丹の背に居たのは耳の尖ったエルフだった。

その後、伊丹が救助したエルフの少女は低体温症になっていたが、迅速な治療により峠は越え命の危機は脱した。

そして伊丹はダンと桑原、そしてカズヤを集めて相談を始めた。

 

「さて、これからどうします?」

 

「俺としてはあの子をコダ村まで連れて行って保護してもらうのが良いと思う」

 

「私もダン中尉に賛成です」

 

「カズヤは?」

 

伊丹に呼ばれ、カズヤはう~んと頭を捻っていたが、直ぐに答えを出した。

 

「そうですね、ダンさん達の言う通りコダ村の方々に保護してもらいましょう」

 

そう言われ、伊丹は頷きそれじゃあコダ村に行きましょう。と言い偵察班全員に今後の方針を伝え、軽装甲機動車に乗り込んでいきコダ村へと進路を向けた。

 

 

数時間後、コダ村へと着いた伊丹は村長を探しメモ帳を取り出して慣れない現地語で状況を説明を始めた。

 

『大きな鳥いた。火吐いた。村全滅した』

 

そう言うと、村長は驚いた表情を浮かべ本当かと伊丹に聞いた。伊丹は炎を吐いたドラゴンを書き村長へと見せる。

 

『これ、村焼いた』

 

『これは炎龍じゃないか!?』

 

村長の叫びに近くに居た村人達はざわざわと騒ぎ出し大慌てで家へと向かった。伊丹はそんなにヤバいヤツなのかと思いながら、村の生き残りを引き取ってもらおうと村長を車へと連れて行く。

 

『この子、生存者。村で預かってもらえないか?』

 

そう聞くと村長は首を横に振った。

 

『申し訳ないが、エルフと儂ら人種とでは生活がまるっきり違う。それにワシ等も村か出て行かなくては』

 

『村捨てる?』

 

伊丹は神妙な顔で村長に聞くと、村長は悲しそうに頷いた。

 

『一度、人を襲った炎龍はその味をしめて村等を襲うんじゃ。済まぬが儂も荷物を纏めなきゃならんので、これで失礼する』

 

そう言い村長は一礼してから家へと足早に向かった。

困った表情になっている伊丹にカズヤはそっと声を掛ける。

 

「伊丹さん、これからどうするんですか?」

 

「まぁお手伝いできることをしましょうや」

 

そう言い班員の元へと向かう伊丹。カズヤはやれやれと苦笑いで伊丹の後を追う。

 

その頃、村から少し離れた森の奥にある魔導士カトーの家から一人の老人、カトーが足元が見えないほどの高さの本の束を運び出していた。階段を降りている途中、足を踏み外しカトーはそのまま一気に下まで落ち持っていた本をぶちまける。

 

「あぁあぁ、全く! 傍迷惑にも程があるぞ炎龍め! 50年も早く目覚めおって!」

 

そう叫びながら落とした本を集め、荷台へと乗せるカトー。

 

「師匠、早く乗って欲しい」

 

水色の髪の少女がそう言うと、老人ははぁ?と呆れた様な顔になる。

 

「何故儂がお主に乗らねばならんのじゃ。せめてのお主の姉の様な、ボン、キュッ、ボンの女性グホッ!??!」

 

卑猥な発言を始めたカトーに少女は容赦なく水の魔法をぶつけた。

 

「止めんかレレイ! 魔法とは神聖な物でアギャーー!!??」

 

それからしばらくして漸く止んだ後、カトーとレレイと呼ばれた少女は荷台へと乗る。

 

「全く、冗談の通じん娘じゃのう」

 

「師匠の教育の所為かも」

 

そう言われカトーは、うっ!と痛い所を突かれ明後日の方に視線を向ける。レレイはロバに鞭をうって動かそうとしたが、ロバは重すぎる荷台に動くことが出来なかった。

 

「動かんのぉ」

 

「荷物が多すぎて動かないのは予想された事」

 

レレイがそう言うと、カトーは懐から杖を取り出し高らかに叫んだ。

 

「慌てることは無い。ワシ等は魔導士「魔法とは神聖な物。乱用するものじゃない。お師匠のコトバ」……し、しかしのぉ」

 

レレイの言葉にカトーは自身の失言に落ち込むがレレイはこの際仕方がないと呟き自身の杖を振る。すると重かったはずの馬車が宙に浮き、ロバは難なく歩き始めた。

 

「……すまんかったのぉ」

 

「いい。お師匠がそう言う人だって知ってるから」

 

そしてレレイ達は村から出る唯一の大通りへと来ると、其処には馬車の行列が出来ていた。

 

「ん? なんじゃあこの行列は?」

 

カトーはそんな疑問の声をあげていると、2人に気付いた一人の村人が走り寄ってきた。

 

「カトー先生、レレイ! 実は道の真ん中に車軸のおれた馬車が横転して道を塞いでいるんだ」

 

そう言われ、カトーはなんと!と驚いていると、突然2人が聞いた事もない言葉を話す人たちを見つける。

 

「勝本とおやっさんは村の人達に迂回するよう伝えまわってくれ! 黒川は負傷者の治療を!」

 

「「了解!/了解です!」」

 

「し、しかしどうやってですか!! 言葉通じないんですよ!?」

 

「ジェスチャーやら地面に絵を描くなりして何とかしろ! カズヤ、ヴァンツァーで周辺警戒をしてくれ‼」

 

「了解です‼」

 

その言葉を聞いたカトー達は首を傾げる。

 

「聞いた事が無い言葉じゃのぉ」

 

そう言っていると隣にいたレレイが馬車から下り行列の先頭に向かう。

 

「お、おい、レレイ!?」

 

「ちょっと様子を見てくる」

 

そう言いレレイは先頭へと向かって行った。

先頭へ着くと、其処には車軸のおれた馬車が横たわっておりその傍には馬が横たわった状態で興奮し暴れていた。レレイは地面に倒れていた少女に近寄り、症状を見る。

 

(危険な状態)

 

そう観察し、どう治療したらといいかと悩んでいると黒髪の緑や茶色の入った斑模様の服を着た女性が少女に近寄り肩や頭を触って観察を始めた。

 

「この子脳震盪を起こしてます‼ もしかしたら肋骨にヒビがあるかもしれません‼」

 

「……医術師?」

 

「君、危ないから下がって」

 

レレイがそう呟いていると、背後から別の色を着た人に話しかけられた。レレイは立ち上がって下がろうとした瞬間興奮していた馬が突然立ち上がり、レレイを踏みつぶそうとした。レレイは咄嗟の事に動くことが出来ず腕で顔を守ろうと前に出すと、突然大きな音がする。その近くでベチョッと言う音が聞こえレレイはそっと腕をおろすと其処には血の海が出来ており、その近くには馬の残骸と思われる物が家の壁にぶつかっていた。

レレイは音のした方向へと目を向けると、其処には黒い杖の様な物を構えた巨大な人が立っていた。

 

「……巨人が、私を助けた?」

 

レレイはキョトンとしている中、ヴァンツァーに居たカズヤは冷や汗を流していた。

 

「あっぶねぇ~、もう少しズレていたらあの子に当たってかも」

 

カズヤは冷や汗を拭っていると、無線が入りそれに出ると相手はダンだった。

 

『ナイスショットだ、カズヤ。あれを当てるとは流石だな』

 

「まぐれですよ。下手したらあの子にも当たっていた可能性だってありましたし」

 

そう言いながら周辺警戒に戻るカズヤ。

 

レレイはキョトンとしていると肩に手を置かれ我に返る。

 

「貴女、怪我とか無い!?」

 

黒髪の女性にそう言われレレイは何を言われているのか分からなかったが、自分を心配してくれている事はその必死さで分かり、首を縦に振る。

 

そして自衛隊と海兵隊員達は車軸のおれた台車をどかし、村人達と共に村から脱出した。




次回予告
村を脱出した第3偵察隊と村人達。宛ての無い中、伊丹達の前にゴスロリの少女と遭遇。そして成り行きでその子と共に移動を再開。そしてその道中、背後から炎龍が現れた。
次回
エムロイの神官と炎龍

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