GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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6話

夜襲してきた敵を撃退し日が昇った頃、伊丹は部下の倉田と共に夜襲を掛けようとして兵士達が居たところをしていると見回っていた。

 

「……敵さんざっと6万人くらいの死傷者が出たらしっすよ」

 

「6万人ねぇ。銀座でも6万、合わせて12万かぁ」

 

伊丹は酷い惨状に思わず息を吐きながら辺りを見渡す。87式自走高射機関砲に撃ち落とされたドラゴンの死体や、ヴァンツァーの銃撃や戦車の砲撃を受けたのか腕や脚が欠損している死体などがゴロゴロと転がっていた。遠征団は流石に死体をこのままにしておく訳にはいかなく人の死体は回収し無名墓地を立てて其処に埋葬していた。ドラゴンは現地サンプルという事でその場に放置されたままだが。

 

「敵の心配ですか?」

 

「だってよぉ、12万だぞ。俺達遠征団の敵って一体どんな奴なんだろうな」

 

そう言いながら伊丹は歩き出した。

それから数日後、門からは後続部隊が続々とやってきた。工兵部隊は陣地をどういった形にするか、中世時代に詳しい専門家と議論した結果星形要塞を建造することが決定し、着々と壁なり施設などが建てられていった。

自衛隊、そしてアメリカ軍の兵達が寝泊まりする建物は親交を深めるために共同部屋の建物が可決され、まずそれが建てられた。

 

そんなある日、伊丹は上官に呼ばれ司令テントの一つにいた。

 

「方針会議でこの地の産業、宗教、人種などどういった物を調査することが決まった」

 

「調査ですか……、そりゃあいいですね」

 

「良いですねじゃない、君が行くんだよ」

 

伊丹の反応に上官は頭を抱えるように、伝えた。

すると

 

「……嫌です」

 

「はぁ?」

 

「まさか一人で行けって言うんじゃないですよね」

 

「そんなことするわけないだろ。6個の日米合同深部情報偵察隊を編成するため、君はその一つを率いて現地の住人から情報を貰ってくること。可能なら友好な関係を結んでくるのが君の任務だ」

 

「はぁ、了解です」

 

頼りなさげな了承に、上官は大丈夫かなと思いながらも任務を再度言い渡す。

 

「伊丹耀司二等陸尉、第3合同偵察隊の指揮を命ずる」

 

そう言われ伊丹はまさか部下を持たされるとはな。と思いながらテントを後にしようとした瞬間、上官から待ったを掛けられた。

 

「言い忘れていたが、偵察隊にはそれぞれヴァンツァーが一機ずつ護衛として付くことになっているから班員と一緒に合流するように」

 

そう言われヴァンツァーの隊員もか。と思いながらテントを後にした。そして伊丹は集合しているだろう班員達の元へと行くと、自衛隊の高機動車の前に数人の自衛隊員と海兵隊のLAV-25A2の前にも同じように数人の海兵隊員が集合していた。

 

「第3合同偵察隊、集合いたしました!!」

 

「おぉ~、おやっさん。それと……」

 

おやっさん事桑原曹長に敬礼に続き周りにいた自衛隊員達も敬礼する。海兵隊員達も伊丹に敬礼する。

伊丹はちゃんと指揮できるかな?と心配しながら挨拶をする。

 

「第3合同偵察隊に上番した……伊丹です。ハハハ」

 

その態度に3隊の中で一番背の低い栗林2等陸曹は大丈夫なのこの人?と怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「えっと、そちらの指揮官は?」

 

「私だ」

 

そう言って一人の白人男性が前へと出てきた。

 

「トゥームストーン指揮官のダンだ。階級は中尉で君と同じだが、指揮は君に任せるよ」

 

「自分としては海兵隊は海兵隊で指揮を分断したいんだけどね」

 

伊丹は苦笑いを浮かべると、ダンはハハハ。と笑い出す。

 

「俺は副班長に抜擢されている。だから何時でもアドバイスくらいは出すから心配しないでくれ」

 

ダンの言葉に伊丹は代わってくれないのね。と思いながら辺りを見渡す。

 

「そう言えば、護衛としてヴァンツァーが一機就くことになってるんだけど見てない?」

 

「いえ、我々が到着した時はまだ見当たりませんでしたよ」

 

桑原そう言うと、ダンも俺もだ。と同意するよう返す。すると一機のヴァンツァーが3班の元へやって来た。そのヴァンツァーを見た伊丹はあの時のヴァンツァーだと思いだす。

 

『すいません、弾の補充で遅くなりました』

 

そう言い、コックピットが開かれ一人の兵士が降りてきた。

 

「第3合同偵察隊の護衛に就くことになったレイブン指揮官事カズヤ・ハミルトン大尉です。よろしくお願いします」

 

そう言い敬礼すると、自衛隊側は全員驚いた表情を浮かべていた。海兵隊側は久しぶりだなと言った感じでフレンドリーに会話を始める。

 

「よぉカズヤ。イスラエルの作戦以来だな」

 

「えぇお久しぶりです、アイリッシュさん。パックさんもレッカーさんもお久しぶりです」

 

「あぁ久しぶりだな」

 

「また同じ部隊になるとはな、今回もよろしく頼む」

 

それぞれ海兵隊挨拶が済んだところで、カズヤは伊丹に敬礼し着任の挨拶をする。

 

「お久しぶりですね、伊丹さん」

 

「あれを操縦していたのはカズヤだったのか?」

 

カズヤは伊丹の驚いた顔を見てくすくすと笑いながら同意する。

 

「えぇ。貴方が銀座で市民を避難させているときにあれを操縦していたのは自分ですよ」

 

「そ、そうだったのかぁ。あの時は本当にありがとうな」

 

「いえいえ、偶々近くにいただけでしたから」

 

カズヤはそう謙虚な雰囲気で伊丹に話していると、近くにいた桑原が伊丹に申し訳なさそうな感じで話しかける。

 

「あの、隊長。一応上官ですからため口とかは不味いのでは」

 

そう耳打ちするが、カズヤはそれを不要だと伝える。

 

「自分、あまり堅苦しいのは苦手なんですよ。ですからため口でも構いませんよ」

 

そう言うと伊丹はこういう奴だから。と言われ、桑原ははぁ。と納得する。

 

「よし、それじゃあそろそろ出発しますか」

 

そう言われ、副班長の桑原とダンは部下達に乗車するよう指示を出す。

 

「よし、全員乗車!!」

 

「お前達も乗車しろ!」

 

その指示に全員乗車し始めた。第3合同偵察班の車両編成は自衛隊は国際仕様の高機動車、軽装甲機動車。海兵隊はLAV-25に、クーガーHで編成されていた。

そして第3合同偵察隊は基地から出発し、担当区域へと向かった。

 

基地を出発して数時間後、高機動車を先頭に道に沿って走っていた。因みにヴァンツァーは一番後ろの米軍が設計した輸送用の車両に載せられていた。

 

そして第3合同偵察隊はコダ村と呼ばれる場所へと着き、問題なく現地の人達の仲良くなり方角と、経済など教えてもらえた。

 

「それにしても青空が広がってるねぇ。流石異世界だぁ」

 

コダ村の村長に教えてもらった近隣の村へと向かっている中、伊丹は頭上に広がる青空を見ながらそう呟く。

 

「こんな光景だったら北海道にだってありますよ。俺はもっと妖精だとかドラゴンが飛んでいたり、スライムがその辺をさまよっている光景を想像したんですけどね」

 

ハンドルを握っている倉田はそう呟きながら道を走っていた。

後方のクーガーH内も同じような会話が広がっていた。

 

「はぁ~、なんか都会の喧騒を聞き続けていた俺としては静かすぎる光景だなぁ」

 

ニューヨーク出身のアイリッシュはそう呟きながら外を見ていた。

 

「ミシガン出身の俺は地元を思い出すから良い所なんだがな」

 

レッカーはそう言い故郷を思い出すように外を眺める。すると無線から何かが聞こえ始めた。

 

「ん? パック何か無線から聞こえるんだが、なんだ?」

 

「これは伊丹隊長の声と、あと倉田っていう奴だと思うが、何を歌っているんだ?」

 

ダンとパックは伊丹が無線を開けたままでで何か歌を歌っている事に気付き、何の曲だ?と頭に疑問符を浮かべながらも、何もない現状ではいい暇潰しになるかと思い特に注意を飛ばさなかった。

その歌は一番後ろにいたヴァンツァーを輸送していた車両でも聞こえていた。

 

「伊丹さん、何故に今メイコンの歌を歌ってるんだ?」

 

カズヤは苦笑いで助手席で伊丹達の歌を聞いていると、隣にいたアステック上級曹長はノリノリでいた。

 

「別にいいんじゃないんでしょうか? 自分としては同じ趣味を持っている人が居て大変喜ばしいです」

 

アステックは日本のアニメなどが好きで、自身の趣味をやっていくだけの給料のいい仕事を探していたのだ。そんな時に大学で出した論文『空輸以外でのヴァンツァーの運び方』が軍上層部の目に留まり、開発部へのスカウトマンがアステックの元へ訪れたのだ。アステックは給料が良いことに目を付け、その話に喰いつきこうして輸送用のトラックを開発し、今回実地テストという事でこの地にやって来ていたのだ。

 

そんな第3合同偵察隊が向かっている方向は、酷いことが起きていた。




次回
 たった一人の生存者

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