GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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3話

銀座事件から数日後、首相官邸では総理大臣の本居がアメリカ大統領のディレルとテレビ電話で会議を開いていた。

 

『それで本居よ、その門の向こうに自衛隊を派遣するのか?』

 

「えぇ。その門の先がどのような場所かはまだはっきりしていないが、このような惨劇を生み出した者達を、国際会議に出さなければ国民達は納得しないだろうし、私としてもこのまま黙っている訳にはいかないのでね」

 

そう言い本居は目を瞑る。本居の頭には国民の泣き叫びが何度も響き渡っていた。

実は本居は惨劇の現場となった銀座へと赴き、その場で一体何が起きたのか自分の目で確認したのだ。ビルの入り口や壁、そして路面のアスファルトには夥しい程の血が付いており警察や自衛隊が懸命に亡くなった人の亡骸を丁重に死体袋に納め、近くの体育館に運び遺族に確認をとる作業を行っているのも視察したのだ。

息子か娘を失ったのだろうか年配の夫婦が泣き叫びながら死体を揺すっている所もあれば、赤ん坊を抱いて妻らしき女性に泣きながら、名前を叫んでいる男性もいた。

本居はこのような惨劇を二度と起こさせないために、門の向こうに自衛隊を派遣することを決めたのだ。

 

『……だったら我が国の兵士も派遣したいのだが』

 

ディレルは机の上で組んでいた手を強く握りしめ、本居に頼む。

 

「アメリカ軍を? ……そちらの国民達もか」

 

本居がそう言うとディレルは首を縦に振った。

 

『事件当日に、ツアーで来ていた我が国の国民が事件に巻き込まれて、亡くなった者が多く出たのは知っているな?』

 

「あぁ。ツアーには子供連れの親子が多かったの聞いている」

 

『そうだ。そして死者のほとんどがその子連れの親子だ。それで惨劇を生んだ奴らに鉄槌を!と毎日手紙を送ってくる遺族達が居るんだ』

 

そう言われ本居は、しばし考えた後決意した目をディレルへと向けた。

 

「分かりました。アメリカ軍の派遣を認めます。ですが、多くの戦力は回さないでください。周辺国が警戒する恐れがありますから」

 

『感謝する、本居!』

 

こうして日本の自衛隊、そしてアメリカ軍の派遣が決定した。

 

~在日アメリカ軍司令部 通称キャンプ座間~

 

カズヤはOCPの迷彩服である場所へと向かっていた。そして目的の場所へと到着し扉をノックする。中から入室許可の声が聞こえカズヤは中へと入り、机の前にいる上官に敬礼する。

 

「カズヤ・ハミルトン大尉。只今到着しました」

 

「うむ、ご苦労。まぁ座りたまえ」

 

そう言われカズヤはソファーへと座り用件を聞く。

 

「して、自分を呼ばれた要件をお聞きしても宜しいでしょうか」

 

「うむ、君はアメリカ軍と自衛隊を門の向こうへと派遣されることは知っているな?」

 

カズヤは首を縦に振り同意する。

 

「日本は国土防衛の為、WAPの派遣は少数しかできないらしい。そこで我がアメリカ陸軍WAPを派遣することが決まった」

 

「……まさかその派遣するWAPの中に自分が入ってるのですか?」

 

カズヤがそう聞くと上官は首を縦に振った。

 

「君の実力はゴドウィン将軍からもお墨付きを頂いてるそうじゃないか。なら君の力を向こうで発揮してくれ」

 

そう言われカズヤは、深くは考えずただ与えられた任務を全うするだけだと思いソファーから立ち上がり敬礼する。

 

「任務了解しました!」

 

そう言い部屋から退出していった。

 

 

 

それから数ヶ月後シェルターで覆われた門の前にはOD柄の戦闘服に防弾チョッキ2型、そして88式鉄帽を装備し、その手には64式小銃を携えた自衛隊。そしてMCCUUと呼ばれる柄の戦闘服にPCアーマー、そしてECHヘルメットを身に付けたアメリカ海兵隊。彼らの手には多種多様な銃器を携えていた。そんな彼らの背後には、アメリカから派遣されたWAPと日本のWAPが肩を並べていた。

そんな彼らの前に本居総理大臣とディレル大統領が現れ、全員鉄帽等を脱ぎ直立不動になる。

 

「皆さん、遂にこの日がやって来ました」

 

本居はそう言いながら整列している自衛隊、海兵隊をそれぞれ目を向ける。

 

「この門の先は我々が想像したこともない世界が広がっているかもしれません。ですが皆さんが無事に責務を全うし、此処にもう一度皆さんの顔を見られることをディレル大統領と共に祈っております」

 

そう言い本居は演説台から退くと今度はディレルが演説台へと立ち隊員たちに目を向けて話し始めた。

 

「アメリカ大統領のディレル大統領であります。先ほど本居総理大臣が申した通りこの門の先は君達にとって、そして私達にとって未開の土地となっています。ですが此処に居る君達が無事に戻ってくることを願っています」

 

そう演説した後、2人は演説台から下りると88式鉄帽と防弾チョッキ2型を身に纏った自衛隊員が前へと出た。

 

「私が日米特地派遣団指揮官の狭間浩一郎陸将だ。1ヵ月前から幾度も斥候部隊を送り調査したが実態は未だ不明のままだ。つまり門を潜り抜けた瞬間戦闘になる可能性がある為、各自心構えだけはしっかりしておくように! そしてWAP部隊の諸君もだ。門の先にはWAP以上の敵が存在するかもしれない。WAPの実力に過信しすぎず連携して作戦を遂行してほしい!」

 

その言葉に整列していた隊員達は背筋を伸ばす。

 

「間もなく突入だ‼ 各員速やかに搭乗し、配置につけ‼」

 

その言葉を聞いた隊員達はそれぞれ銃にマガジンを挿し、薬室に弾を込め車両に搭乗していく。WAPのパイロット達もWAPに搭乗し起動する。

 

<サクラ指揮車より各車。状況送れ>

 

<サクラ01及び02。準備よし>

 

<サクラ03及び04。準備よし>

 

<こちらオーバーロード(アメリカ海兵隊指揮車)。準備はいいか?>

 

<こちらトゥームストーン指揮官。準備よし>

 

<こちらミスフィット指揮官。準備よし>

 

<こちらキングマスター(ヴァンツァー指揮車)。各機状況を知らせ>

 

<こちらレイブン指揮官。準備よし>

 

<こちらクォックス指揮官。準備よし>

 

各車の準備状況を聞いた指揮者はサクラ指揮車にいる狭間に準備よしの報告を入れる。

 

「陸将、各部隊準備よしとのことです」

 

「よし」

 

そう言い狭間は無線機を取り門を開けるよう伝える。そして金属の重い音を響かせながらシェルターの扉が開き、門が現れた。

そして狭間は無線越しに突入の合図を出した。

 

<各車、突入開始‼>

 

その号令と共に自衛隊を乗せた高機動車、そして海兵隊を乗せたMRAP(クーガー装甲車)やLAVが門へと突入を開始し、その後にヴァンツァーが一機ずつ門へと潜り始めた。

 

 




次回 
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