GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ 作:のんびり日和
失踪とかはするつもりは毛頭ありませんで、ご心配なく。
では本編をどうぞ
伊丹に向かって盛大なビンタをお見舞いしたボーゼス。伊丹の顔にはデカデカと真っ赤に腫れた手形が出来ていた。
無論そのような行為が許されるはずもなく、カズヤ達は拳銃を抜きボーゼスへと向ける。
「動くな!」
「両手を頭に付けて、膝をつけ!」
「なぁっ!? 私は「栗林、拘束しろ!」「りょ、了解!」お、お待ちなさい! ちょっと!」
栗林にボーゼスを拘束するよう指示したダンはカイネの方へと顔を向ける。
「申し訳ない、メイド長。今すぐにピニャ殿下とお目通りできるよう手配していただきたい」
「畏まりました。すぐに起こして参ります」
一礼をしたカイネは足早に部屋から出てピニャが寝ている寝室へと向かった。
~フォルマル伯爵邸・応接間~
応接間の椅子に腰を下ろすピニャは、現在の状況が悪い夢だと思いたかった。突然部屋にカイネが現れ、ボーゼスが伊丹に対し暴力を振るったと報告を受けた瞬間、頭の中が真っ白になってしまったからだ。
(わ、私はい、一体何を間違えたのだ!?)
頭を抱えていると、扉が開く音が響きピニャは伊丹とメイド達が来たと思い顔を上げた。
「ッ!?」
だが、その視線の先には信じられないものが映っていた。それはぞろぞろと伊丹の仲間達が入って来たからだ。
(い、一体何時この屋敷に入ったのだ? それどころか、どうやってこのイタリカに入ったのだ!?)
ピニャは到着した騎士団が民兵の代わりに警備についていたはずなのに、遠征団がイタリカに入った報告など一度も聞いていない。つまり彼らは厳重な警備の中、それを掻い潜ってこの屋敷に侵入したことになる。
ピニャはそれだけ彼等の戦闘力が高いと考え、恐怖した。
その為、出来るだけ穏便に事を進めようと、ピニャは低姿勢から話を始めた。
「そ、そのメイド長からは大体の話は聞いた。此方の部下が伊丹殿に暴力を振るったと…」
「えぇ、まぁ。その通りなんですがぁ…」
カズヤは若干困惑の表情を浮かべており、伊丹の方に視線を向ける。伊丹の顔にはでかでかと真っ赤に腫れた手形が出来ており、栗林とレッカーに拘束されているボーゼスは申し訳なさそうな表情で俯いていた。
「……そ、それで何か報復など考えておられるのか?」
「は、はい? いえ、今回の一件は単なる事故だと此方は考えておりますので、何か彼女に罰とかあるのでしたら、そちらでお願いします」
カズヤもピニャ同様に低姿勢でレレイに翻訳してもらいつつ伝えた。
レレイの通訳を聞いたピニャは酷く慌てた表情を浮かべた。
(此方が協定違反の一件を無かったことしようとした上に、暴力を働いたのだぞ。それを単なる事故で済ませる!? ぜ、絶対何か裏があるはずだ)
「で、では一緒に朝食をとらんか? それと騎士団と歓談の場も……」
「その申し出は有難いのですが、俺達急いで戻らないといけないので。伊丹は国会に参考人招致として呼ばれているから、早く戻らないといけないんです」
ダンの説明を聞き、レレイは国会を此方の世界風に翻訳した言葉で訳した。
《元老院に報告しないといけないことがある為、伊丹隊長は今日にも帰らないといけない》
レレイの通訳にピニャは顔が真っ青に染まった。
(元老院!? ま、まさかあの者は、それほど地位の高い武官なのか!?)
ピニャはもはや小細工などして無かったことにする事は出来ないような状況だと考えつき、悩みに悩んだ末にある決断をした。
「分かった。なら、わらわもアルヌスの丘に同行したい! 此度の一件は此方に非がある故、上位の指揮官に正式に謝罪を行いたい」
そう言われ伊丹達は驚愕の顔を浮かべた。
「あの姫さん、本気で来る気なんですかね?」
「顔がマジみたいだな。さて、どうする伊丹?」
「うぅ~ん。どうしたものかぁ」
突然の申し出に伊丹は勿論、ダンやカズヤは早く戻りたいと考えていると、突然部屋の隅に居たカイネが伊丹に声を掛けた。
「伊丹様、失礼を承知でお伺いしたいのですが、元老院では一体どのような報告をされるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「えっとぉ、恐らく自分達がこの世界でどの様な活動をしているのかを報告するくらいですが…」
「なるほど。……では、無理を承知で一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「は、はい?」
「うちのメイドの一人をアルヌスへとお連れして頂けませんでしょうか?」
「「「はいぃ?」」」
カイネの突然の願いにはカズヤとダンも思わず聞き返してしまった。
「えっと、それはまた何故?」
「はい。此度のイタリカでの襲撃を守って下さった皆様に少しでも恩が返せればと思いウチのメイドの一人連れて行って欲しいのです」
「は、はぁ、なるほど」
カイネの説明に伊丹達は納得の表情を浮かべるも、少し困惑の様子を醸し出す伊丹。
そして暫し考えた後に、伊丹は申し訳なさそうな顔でピニャの方に顔を向けた。
「えっとぉ、何と言いますか。車両に乗れる人員なんですが、カイネさんの方から一人出されるので、あと一人「伊丹さん、だったらこっちのトラックに一人乗ってもらうのはどうでしょうか? そうすればあと二人は乗せられると思いますよ」輸送トラックにか?」
「はい。後部座席でしたら、空いているので一人くらいなら問題ありませんがどうします?」
カズヤはそう言いながら伊丹の耳元に口を近づける。
「それに、下手に殿下一人をアルヌスに連れて行った場合誘拐だなんだと騒がれるより、彼女の護衛人が一人就いていた方が何かとトラブルを避けられるのでは?」
カズヤの提案に伊丹は更に悩んだ表情を浮かべた後、諦めた様なため息を吐きピニャの方に顔を向ける。
「では殿下、殿下とあと護衛の方一人でしたら乗せる事は可能です」
「そ、そうか。了承、感謝する!」
そう言いピニャは急ぎハミルトンやパナッシュに指示を出していく。
「よろしいんですか、隊長?」
「此処で断ったところで、無理にでも付いてくる恐れがあるからね」
そう言いため息を吐く伊丹であった。
その後ピニャの護衛に就いたのは、自身の失態を挽回するチャンスを頂いたボーゼス。そしてフォルマル伯爵邸のメイドからはペルシアがともに来ることとなった。
それから暫くして自衛隊の高機動車両、軽装甲車両に海兵隊のMRAP、そして輸送トラックが到着した。
「隊長、無線で聞きましたけど本当に帝国のお姫様アルヌスに連れて行くんすか?」
「おう。向こうさんも何か必死って感じだったし、断っても無理にでも付いて行こうとする感じだったからぁ」
伊丹は後方から乗り込む険しい表情を浮かべるピニャ達を眺める。
すると後方に居た富田が無線機を片手に、伊丹に報告する。
「伊丹隊長。檜垣三佐から通達。『受け入れOK。丁重にご案内しろ』とのことです」
「了解、到着予定時刻伝えておいて。カズヤ、そちらのメイドさんは無事に乗られたか?」
『こちらカズヤ。はい、無事に乗られました』
「了解。よし、各車前へ!」
伊丹の号令と共に車両は出発し、イタリカからアルヌスへと向け走り出した。
次回予告
イタリカを出発してからの間、初めて乗るトラックに驚くペルシアと談笑をするカズヤ。
そしてアルヌスが見えて来ると、ピニャは派遣団の力に圧倒するのだった。
多くの謎が生まれる中、ピニャは派遣団指揮官である狭間と交渉するのであった。
次回
ようこそ、アルヌス駐屯地へ