GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ 作:のんびり日和
「この、愚か者共がぁ‼」
フォルマル伯爵邸の謁見の間にて、ピニャの怒号と共に騎士団の一人の額に装飾された器が投げられ鈍い音が鳴り響いた。
「え?」
突然の怒号と額に器を投げつけられ、血が流れだす女性騎士ボーゼス。茫然と言った表情を浮かべたボーゼスはそのまま膝から崩れ落ちると、隣にいたもう一人の騎士パナッシュが慌ててハンカチを取り出しボーゼスの額に出来た傷に押し当て、顔をピニャへと向けた。
「ひ、姫様何をなされるのですか!? 戦に遅れたとはいえ敵将の一人を捉えたのですよ!」
そう言われピニャは椅子にもたれ、重いため息を吐いた。そしてその捕虜の方へと目を向けると其処には、ズタボロの伊丹が目を開けたまま気絶していた。
「……メイド長、彼に治療を」
「畏まりました」
そう言いメイド長のカイネは、部屋にいたメイドたちに命令し伊丹を別室へと運んで行った。
メイド長達が出て行ったのを確認したピニャはゆらりと立ち上がる。
「お前達…、一体何をした!」
低い声でピニャがそう怒鳴ると、恐怖から震えあがる二人。
そして二人は震えながらも、伊丹に何をしたのか白状した。
「――――つまり、お前達は捕虜となったイタミ殿を馬で引き摺ったり、蹴り飛ばした。そう言う訳か?」
「「は、はい」」
二人の説明を聞いたピニャははぁ~。と二回目の重いため息を吐き、椅子にまたドカッと座り込んだ。
「あ、あの姫様。一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
パナッシュは恐る恐ると言った感じ、ピニャに質問の許しを請うと「何だ?」とぶっきらぼうに返す。
「その、先程から隅の方で震えておられるハミルトン殿は一体どうされたのでしょうか?」
そう言われピニャは顔をハミルトンの方へと向けると、部屋の隅で縮こまりガタガタと震えていた。
「あぁ、ガリウス。先に逝く私をどうか許して…」
そう呟いていた。
2人は何故あぁなっているのか疑問一杯の顔を浮かべ、ピニャがその訳を説明した。
「イタミ殿はこのイタリカを襲っていた盗賊団を撃退した者達の一人だ。そして妾は協定でこのイタリカとの往来の自由を認めたのだ」
「そ、そんな私達は協定の事など……」
「……そうだろうな。そしてハミルトンが恐れているのは、伊丹殿の仲間に巨人を使役する者がいるからだ」
そう言われ2人は顔を青染めた。自分達は知らなかったとはいえ、とてつもない事をしてしまったと。
2人が顔を真っ青に染めている中、ピニャは冷や汗を流しながら最悪なシナリオが頭をよぎる。
(帝国なら協定破りを口実に、真っ先に戦端を開く。もし、ハケンダンが同じ事をすれば滅ぶのは…)
最悪なシナリオを想像したピニャに焦りの表情を浮かべていると、傍に居たグレイが話しかけた。
「あの、姫様。此度は死人が出ておりません。此方の不手際と言う事で素直に謝罪をされてはいかがでしょうか?」
「な!? 妾に頭を下げて許しを請えと言うのか!」
そうピニャが言うと、グレイは真剣な表情を浮かべる。
「では、戦いますか? エンセイダンの者達と巨人、そして死神ロゥリィと。……小官は御免被りますが、最終的にはイタミ殿のご機嫌次第なんでしょうが…」
そう言いグレイは口を閉ざし、ピニャ達は苦悩に満ちた表情を浮かべるのであった。
その頃、第3合同偵察班はイタリカから少し離れた小高い丘の上からイタリカの様子を伺っていた。
「隊長、もう死んでたりして? あれだけボコボコにされてたらさぁ」
栗林は丘から見えた伊丹の様子に、そう呟くと隣で双眼鏡を覗いていた富田とカズヤが口を開く。
「隊長だったら大丈夫だろ、多分」
「自分もそう思います」
2人が伊丹は無事だろと言うのに、首を傾げる栗林に倉田がその訳を話した。
「そりゃあ、あのベルばら団たちは隊長の趣味じゃないからっす」
「あほか」
倉田の言葉を聞いた、富田は呆れて倉田の頭にチョップをかます。
「はぁ~。で、カズヤ。伊丹が無事な理由って何だ?」
「実は伊丹さん、あぁ見えて
「マジかよ。全然見えねぇな」
ダンの問いにカズヤがそう説明すると、栗林は持っていた双眼鏡をボトッと落とす。
「か、カズヤ大尉。…誰が?」
「だから伊丹さん」
「じょ、冗談ですよね?」
「マジマジ」
信じられないと言った表情でカズヤに聞く栗林。そしてプルプルと震え出し、そして
「うそよぉ~! ありえない~! 勘弁してぇ~!」
と、顔を手で覆いながらゴロゴロ転がり出した。
「イタミがレンジャーと言う物を持っていたらいけない?」
レレイは転がっていた栗林にそう聞く。
「んー、キャラじゃないんだものぉ」
栗林はそう返す。
「レンジャーってのは血反吐も吐くほどの厳しい訓練乗り越え、重さ数十㎏の装備を担ぎ少数で敵地奥深くに潜入しあらゆる任務をこなす。それがレンジャーなのよ」
栗林からレンジャーについて説明を受けたレレイはクスッと笑みを浮かべた。普段木の下で薄い本を読んでいたり姿をよく見かけている為、精強な戦士とは思えなかったからだ。テュカやロゥリィは我慢できなかったのか、大笑いを上げた。
「イタミが精強な戦士?」
2人が可笑しそうに笑っていると、ダンは腕の時計を確認する。時刻は1時を指そうとしていた。
「さて、そろそろ行くか。サージェント桑原、此処を頼む」
「了解しました、お気を付けて」
ダン、カズヤ、パック、レッカー、富田、古田、栗林、勝本、そしてレレイ達はイタリカに侵入すべく丘を降りていく。
次回予告
その頃伊丹はメイド長のカイネとそのメイドたちに手厚く看病されていた。そして伊丹を救出すべくイタリカへと侵入を始めたダン達。
次回
伊丹救出作戦前編