GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ 作:のんびり日和
謁見の間から退室した6人はそのままフォルマル伯爵邸を後にしようと歩き出す。
「さて捕虜は伊丹、お前が見て決めてくれ」
「了解です。あ、ダン中尉。皆の所に戻ってもらったらレレイ達の商談する店に一緒に付いて行ってあげてくれませんか?」
「分かった」
「伊丹さん、俺は?」
「カズヤは必要ないかもしれないけど、機体のチェックだけしておいてくれ。帰り道に何があるか分からないからな」
「了解です」
そしてそれぞれ分かれ、伊丹、健軍は捕虜が集められている場所へと向かい、ダンはレレイとロゥリィ、そしてテュカと共にカトーの友人が営んでる商店へと向かい、カズヤは自身のヴァンツァーのチェックへと向かった。
「―――あの子と、あの子かな」
伊丹と健軍は捕虜が集められている場所に到着すると、捕虜の怪我の具合を見ていた黒川と栗林を見つけた。そして伊丹は連れて行く捕虜を選ぶが、全員女性であり頭に羽の生えた亜人も中にいた。
それには流石に黒川と栗林はジーと伊丹に視線をぶつける。
「女の子ばかりですね」
「偶然だよ、偶然」
「そうは思えないんですが」
「偶然だって」
「偶然、ですか……」
「そっ。偶然」
偶然と言って押し通す伊丹に2人は呆れた顔を浮かべるも、直ぐに顔付を替えた。
「まぁ、女の子をこのまま此処に残して行く訳にはいかないと言うのは分かりますが…」
黒川はそう言いながら自分を納得させる。隣にいた栗林は隣で羊皮紙と睨み合いをしているハミルトンに目を向け、何を悩んでいるんだろうと。首を傾げていた。
そして伊丹が選んだ捕虜たちは健軍達のヘリへと乗せられアルヌスへと連行されて行く。そのヘリを城壁の上から街の人々は手を振りながら礼を述べていた。
「ありがとう!」
「あんた達にエムロイの加護が有らんことを!」
人々に見送られながらヘリは飛び立っていった。
「漸く終わったな」
「あれ、そう言えばお嬢さん方は?」
城壁下で捕虜の輸送を手伝っていた倉田と富田達。倉田は付近にレレイ達が居ない事に気付き辺りを見渡す。
「今ダン中尉と共に商人の所に行ってる」
「あ、そう言えばそれが目的でしたね」
倉田は思い出したような顔を浮かべた。
その頃ダン達はカトーの友人の商人、リュドーの元に来ており交渉していた。
「ふむ、見事な翼竜の鱗。それに牙も」
リュドーは手に取った鱗の状態を確認し、綺麗に光り輝く鱗と牙の値段を割り出した。
「そうですね、鱗と牙を合わせましてシンク金貨400枚、デリラ銀貨4,000枚といった所なのですが…」
リュドーは少し口をつぐんだ後、申し訳なさそうに口を開いた。
「ここの所の情勢で貨幣不足でしてね、シンク金貨はご用意できるのですが、デリラ銀貨の方が1,000枚はすぐにご用意できます。そして残り3,000枚の内2,000枚は為替でご用意できますが、残りの1,000枚の方がどうしても……」
「分かった。それじゃあ、その残りの1,000枚分で仕事を依頼したい」
「仕事? どのような依頼でしょうか?」
リュドーは首を傾げながらレレイの方を見つめる。
「各地の市場相場の情報、それとできる限り広範囲で、多品目を詳細に」
リュドーはレレイの口から出た依頼に一瞬茫然となるも、直ぐに我に返り聞き直す。
「情報を買うという事ですか?」
「そう、1,000枚分」
そう言われリュドーは暫く考えた後、頷いた。
「分かりました。カトーの愛弟子でおられる貴女からの依頼です。それで、調べた情報はどちらに?」
「アルヌスの丘、南の森にあるアルヌス共同生活組合宛で」
そして3人はダンの護衛の元、伊丹達の元に戻っていく。その後姿を窓から眺めるリュドーの部下。
「リュドー様、何故仕事をお引き受けしたのですか?」
「商人と言うのは売れる物は何だって売る。それが情報であろうとでだ。それにあちらに送る情報で向こうが利益を得れば、此方にも利益が回ってくるかもしれないからな」
そう言いながらリュドーはきらびやかに輝く鱗を眺めた。
レレイ達が戻って来たのを確認した伊丹は車両へと乗り込み、第3合同偵察隊はイタリカを出立した。
「ふわぁ~、漸く終わったなぁ」
伊丹は大きな欠伸を零しながらそう呟くと、運転席に居た倉田もそうっすね。と返す。そしてバックミラーで後部座席を見るとレレイとロゥリィ、テュカはスヤスヤと寝息を立てていた。
「よっぽどお疲れみたいだった様です」
「そりゃあ徹夜だったからなぁ。俺達も帰ったらやる事やって休ませてもらおう」
伊丹はそう言い、また大きな欠伸を零した瞬間倉田が突然急ブレーキを掛けた。突然のブレーキは後方の車両も驚き同じくブレーキを踏み込んだ。車両の後部座席に居たレレイ達は突然の急ブレーキで慣性の法則で進行方向に向かって倒れ込んだ。
「おい、倉田いきなり何だよ?」
「前方に煙を確認!」
運転席に居た倉田はそう報告すると、伊丹はまたかよと言った嫌そうな顔を浮かべる。
「まったくまた煙って、あれって土煙か? よく見えないなぁ」
「待って下さい。……見えました!?」
倉田は双眼鏡を取り出し土煙がする方をすると、あるモノを発見した。
「ティアラです!」
「あぁティアラねぇ……ティアラ!?」
「金髪です‼」
「金髪!?」
「縦ロールです‼」
「縦ロール!?」
倉田の報告を復唱するように言った伊丹は倉田の方に近寄り双眼鏡を覗く。
「目標、金髪縦ロール1! 男装麗人1! 後方に美人多数です!」
「ッ!? 薔薇だな‼」
「薔薇です!」
2人はそう叫びながら接近してくる者が何者か見当がついたのか無線機を取る。
「こちら3-1、接近してくる目標は恐らく例の姫さんの騎士団かもしれない。各車警戒態勢を維持しつつ待機。但し発砲は厳とせよ。協定違反になりかねないからな」
『トゥームストーン指揮官、了解』
『レイブン1、了解』
そう言い車両を停車させると、騎士団は車両群の近くへと来た。先頭に居た金髪縦ロールの女性と男装麗人の2人は明らかな敵意を向けながら。
そして金髪縦ロールは先頭車両の運転席に居た富田に顔を向ける。
「お前達何処から来た?」
「えっと……我々、イタリカから帰る」
「何処へ?」
「あ、アルヌス…ヌルゥ!」
富田は現地語でアルヌスの丘と言った瞬間騎士団は馬を降り武器を手にし、スティレットを抜く者やランスを向ける者が現れた。金髪縦ロールの女性は富田の胸倉を掴み上げる。
「アルヌスの丘だと! 貴様ら異世界の蛮族か!」
「総員反撃用意‼」
「レッカー、M2用意!」
「総員待て! 手を先に出させないでよ!」
そう言いながら伊丹は車両から降りゆっくり歩きながら騎士団の元へ向かった。
「えっと、部下が何か致しましたか?」
そう言いながら近付いた伊丹に軍馬に乗った男性麗人はランスを向ける。
「降伏なさい!」
「ま、まぁ落ち着いて「お黙りなさい!」グヘッ」
金髪縦ロールの女性に伊丹はビンタを貰い、その行為を見た隊員達はそれぞれ銃の安全装置を解除した。後方では古田達が車両から降り64式小銃を構えていた。伊丹は咄嗟に大声で叫んだ!
「逃げろ! 逃げるんだ!」
「た、隊長、しかし!」
「いいから逃げるんだ!」
そう言われ桑原とダンはバックだ!と同時に命令した。車両やトラックは急バックしてその場から逃げ出した。遠ざかっていく第3合同偵察隊に伊丹は一息入れるも、後ろを振り向いた瞬間スティレットやランスを向けられた。伊丹は降伏と意思表示すべく両手を掲げた。
次回予告
フォルマル伯爵邸にボロボロの伊丹が連れて来られた瞬間、ピニャは連れてきた2人を叱責した。そして治療の為連れていかれて行く。そんな中第3偵察隊のダン達は伊丹奪還のために動いた。
次回
イタリカ再び