GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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10話

避難民達と共に第3合同偵察隊が戻って来た話は瞬く間に基地全体に広まり、伊丹は上官に呼び出されていた。

 

「君は一体何を考えているんだ!?」

 

「え、えっと連れてきちゃ不味かったですか?」

 

その言葉に伊丹の上官、檜垣三佐は頭を抱え込んでしまった。

 

「不味いに決まっているだろう。……陸将に報告してくる」

 

そう言い檜垣は陸将に報告すべく席を立った。そして暫くして檜垣が戻って来て椅子に座りはぁ~と息を吐き、俯きながら口を開く。

 

「人道的考慮から、現地民達を避難民として受け入れを許可する。伊丹二尉は避難民の保護と観察をするように」

 

檜垣は震える体を抑えながらそう言うと、伊丹は頭を掻くような仕草を取りながら了承の言葉を口にする。

 

「は、はぁ了解です」

 

「……分かったら、さっさと行かんかぁ‼」

 

「は、はい!?」

 

そう言い部屋から退出していく伊丹。

その頃カズヤもヴァンツァーの整備場にて年配の整備班長、レナードに怒鳴られていた。

 

「炎龍って言う馬鹿でかいドラゴンと戦ったなら分かる。だが何で腕が破壊寸前までやられたんだ‼」

 

「い、いや~。炎龍が炎を吐いてきたんで、それを防ごうと咄嗟に腕を盾に……」

 

「腕を盾にするくらいなら、最初から肩盾を付けろ‼」

 

その叫びと同時に拳骨がカズヤの頭に落ちてきた。

 

「あぎゃっ!??! す、すいませんでした!」

 

拳骨が落ちてきた所を撫でながら、謝るカズヤ。そしてレナードは積み立てられた木箱の上にドカッと座る。

 

「で? その炎龍っていう奴はそんなに強いのか?」

 

「えぇ。セメテリーの弾丸をはじき返しちゃいましたし、対戦車兵器のパンツァーファウスト、そしてAT-4で漸く退けられたものですから」

 

そう言うとレナードはそうか。と呟き、カズヤの機体ゼフィールを見上げた。

 

「俺達の世界で最強に名高いヴァンツァーをこうも傷物にされちゃあ堪ったもんじゃねぇな。カズヤ、もしまたソイツと会ったら今度は必ず仕留めろよ」

 

「イエッサー」

 

そう言い、整備場を後にしようとするとレナードが何かを思い出し、カズヤを呼び止めた。

 

「そうだ、カズヤ! お前さんの機体は一度全てのパーツを取り外すからな! その間はゼニスに代えておくぞ!」

 

「分かりました!」

 

そう言い今度こそカズヤは整備場を後にした。

 

 

場所は代わりにアルヌスの丘から数十キロ離れた街にある酒場では大勢の客がある話題で持ちきりだった。

 

「「「「「炎龍を撃退した!?」」」」」

 

「あぁそうさ。この目で確かに見たからね!」

 

炎龍に襲われそうになった女性、エルザは自慢するかの様に話す。

 

「炎龍と言えば、古代龍の中でも最強に名高い龍なんだぞ。エルフや魔導士でさえ倒すのは不可能と言われているんだぞ。新生龍や翼竜の見間違いじゃないのか?」

 

「だがその炎龍にコダ村の4分の1の被害で済ませたんだぞ」

 

「一体誰が?」

 

そんな話題が持ち上がっている中、酒場の一角でコップに入った酒を口にする4人の騎士達。茶髪で水色のヘアバンドをした女性騎士ハミルトンは、向かい側に座っている金髪の騎士ノーマに声を掛ける。

 

「緑色の斑服に砂色の斑服を着た正体不明の人種の傭兵団……。騎士ノーマはどう思われますか?」

 

そう聞かれ、ノーマはため息を吐き店の様子を見て口に出さず心の中で悪態をつく。

 

(何でこんな安酒場で、まずい酒を飲まなきゃならねぇんだろうな)

 

そう思いながらハミルトンの問いに返す。

 

「さぁな。だがこれだけの避難民が同じことを口にするんだから噂は本当だろう。だがその炎龍って言うのが信じがたいがな」

 

「ですがこれだけ多くの者が口にしているのですから、信じてみる価値はあるかと……」

 

そう言っているとエルザがノーマ達の元へとやって来た。

 

「本当だよ、騎士の方たち」

 

「ハッハハハハ! 私は騙されんぞ女給」

 

ノーマの言葉にエルザはムッとなると、ハミルトンは懐から金貨一枚を取り出しエルザに差し出す。

 

「私は信じますから、詳しく教えてくれませんか?」

 

そう言われエルザはありがとうね!と言い、金貨を懐に仕舞う。

 

「それじゃあ、とびっきりの情報を教えようかね。私達を助けてくれた傭兵団にはいろんな人が居たんだ。肌が黒い人や白い人とかね。しかもその中には女性も居たんだよ。そして炎龍が現れて私と私の家族が炎龍に襲われてもう駄目だと思った時に、その傭兵団と一緒に居た巨人が助けてくれたんだよ」

 

「「「「きょ、巨人!?」」」」

 

エルザの口から出た巨人と言う言葉に酒場の人間は全員驚いたように口を開く。

 

「そうなんだよ。その巨人はね、白い鎧の様な物を身に包み傭兵団の人達と同じような鉄の杖を持っていたんだ。大きな音がたて続けに起きて、炎龍の気を逸らさせてくれたんだ。そして傭兵団の2人が見たこともない大きな魔法の杖を取り出したんだ。そしてなんだったかしら、『アンゼンカクニン』とか呪文みたいなことを言った後、轟音と共に炎龍の腕と脇腹を吹き飛ばしたんだよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

エルザの話を聞いた酒場の人間は唖然となるような内容に一言もしゃべらなくなり、只本当に炎龍を撃退した傭兵団に大きな関心と興味がわいた。

その一人、ピニャコラーダは一人傭兵団こと、第3合同偵察隊が持っていた鉄の杖について興味が湧いていた。

 

(その傭兵団とは一体? そして鉄の杖に、白い鎧をまとった巨人。一体何者なのだ?)




次回予告
連れてきた避難民達の家やら食事の準備を終え、名前登録の為全員を集めた伊丹達。その日の夜、カトーの元に集まった避難民達は遠征団の負担を少しでも軽くすべく生活費だけは自分達で稼ごうとアイデアを考える。
その頃ピニャはある修道院で治療を受けている人物に会っていた。
次回
久々の平穏

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