『正義の味方』の原材料   作:Wbook

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生まれ変わった先で記憶を持っているという不自然は是正した。(元も子もない台詞
しかし名前が同じという不自然は許容した。


雄英入試

『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』

(プレゼントマイク……人選間違ってないか……?)

 

 

 周到な準備を重ね、万全の状態で迎えた雄英高校入学試験。主な項目は実技と筆記。

 今は丁度、実技試験の内容についてレクリエーションを受けているところだ。ここに集まった受験生の数を見る限りでは、相当に厳しい試験になることが容易に予想できる。

 

 当初の不安を他所に、プレゼントマイクは無駄に高いテンションながら、それなりに分かりやすい説明をしてくれた。人選云々に関しては訂正せねばなるまいと、士郎は心の中で少しだけ頭を下げる。

 

 試験内容を要約すれば、強さの異なる三種類の仮想敵を倒し、それぞれに設定されたポイントを稼ぐ競技のようだ。他に0ポイントの妨害ギミックが配置されているらしいが、詳細は不明。

 まるで……というか、まんまゲームのような試験内容である。

 

 ヴィランという明確な敵が居る以上……それが全てではないにしろ、戦闘能力は必要なのだろう。

 天下の雄英にしては在り来たりに思えるが、倒せというならいくらでも倒してみせよう。荒事はむしろ、得意分野だ。

 

 この時代、たとえ人助けであっても個性を使うには資格がいる。資格無しで能力を行使し、人助けを行うイリーガルヒーローたちも居るが、彼らは世間的に見たなら、ヴィランと同じく犯罪者でしかない。行いは素晴らしくとも、罪は帳消しにはならないのだから。

 

 非合法では……万人を救うという士郎の目的は果たしづらくなるだろう。故に、その道は選べない。選べなかった。

 

 そして、ここに居るのは——責務である以上に、憧れもある。

 

 

(オールマイト。彼は俺の想像できる限り、最高の正義の味方だ)

 

 

 自らを象徴とすることで、手の届かない範囲の悪事をも抑制し、駆逐する。絶対無敵の戦闘力もさる事ながら、彼が来た!彼が居る!という事象自体が人々を安心に導いている。

 だから、幼き頃より彼の姿を理想の一つとして見据えてきた。目指すべき頂点の一つとして。

 そして、常にその先を求めてきた。

 

 ——イメージしていた。彼をも凌駕する、最強の正義の味方(自分)の姿を。

 

 衛宮士郎はこんなところで躓く訳にはいかない。立ちはだかる全てを上回り、勝利しなければならない。

 最高のスタートダッシュ。平和の象徴、オールマイトと同じ場所。

 

 ここに来れば、彼に通ずる何かが……掴み取れるはずだから。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 衛宮士郎の“個性”は、数ある“個性”の中でも一際異質な代物だ。何しろ、原理がまるで理解できない。

 身体的には“無個性”の人々と大して変わらないくせに、その能力は“無個性”には有り得ないものだ。医学的な解明は不可能と匙を投げられた時には、両親も頭を痛めていた。

 

 使い方を一つ誤れば、たちまち人々を殺傷し尽くしてしまうその“個性”。悪人に発現したなら脅威と数えられていただろう。

 

 しかし、衛宮士郎という少年に限って言えば。

 

 

「伏せろぉ!!!」

「へ!?」

 

 

 ——それだけは、断じて有り得ない。

 

 突然現れた巨大な西洋剣に、“助けられた”男子受験生は度肝を抜いた。伏せろとは言われていたが、それに反応したというよりは驚きのあまり尻餅をついた形で姿勢を下げ。

 

 次の瞬間、轟音が響く。

 

 戦闘の余波で脆くなっていたビルの外壁が崩れ落ちてきたのだ。

 

 

「あ、あぶな……。わ、悪い! 助かった!」

「礼はいいさ。ヒーロー志望なら助けて当然だろ?」

「こ、この試験でそれを言えるかぁ……」

 

 

 彼は感心したような……そして、呆れたような苦笑いを漏らす。

 

 

「そんなにおかしいことか?」

「いや、違うさ。そんなことない。おかしかったのは俺の方だ。まあ、お互い頑張ろう! 時間もそんなに長くないんだからな!」

「おっと、そうだったな!」

 

 

 時間はたったの十分。のんびりしてられる余裕はない。

 

 

投影、開始(トレース オン)

 

 

 自分なりの、“個性”のトリガー。これを言うと言わないでは、不思議と“個性”の精度が変わる。

 時間は限られているのだ、温存は無意味。

 

 剣は既に選別した。あとは——全力の投影で、殲滅する。

 

 

工程完了(ロールアウト)全投影、待機(バレット クリア)

 

 

 最低限、狙いは定める。流れ弾が他の受験生に当たりでもしたら洒落では済まない。

 

 

「さあいくぞ、ガラクタ。

——停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層射(ソードバレルフルオープン)!!」

 

 

 虚空より現れた無数の剣軍、目を奪われる受験生も少なくはない。——しかし直後、そこは地獄と化した。

 

 槍衾という言葉があるが、これはまさに剣のそれ。

 絶え間なく突き出される切っ先は非常に鋭利で、高速で射出されることにより鉄筋コンクリートのフィールドをズタズタに引き裂いている。

 

 当然、その中間に置かれたエネミー達など紙切れの如く。

 

 刃の嵐が止んだ頃には、周囲のエネミーは一掃されており、金属片と無数の刀剣のみが残されていた。その剣が塵と消えた様を見たなら、夢まぼろしのようにも見えるだろう。

 

 遅れを取り戻して有り余る殲滅力。

 

 本人としては甚だ遺憾であろうが、衛宮士郎は“個性”柄、格下との多対一の戦闘に秀でていた。

 強力な“個性”ではあるものの、正面からの正々堂々とした戦闘では、シンプルな増強型や異形型の“個性”には歯が立たない。結果として、千差万別な性質を生かし中〜遠距離戦をも視野に入れた、汎用性の高いスタイルを確立しつつあった。

 

 ——もっとも、本人の気性も相まって、得意の間合いよりも近接戦を好む傾向にあるのだが。

 

 投影した全ての剣を打ち出した後には、双剣を手に本人が飛び出していた。

 古来、中国の伝承にある夫婦剣——その名を干将・莫耶。何故この中華剣を選んだのかは自分でも分からないが、この剣は非常に手に馴染む。

 

 突出した技量こそ無いものの、持ち前の無鉄砲さでエネミーを一体ずつ確実に斬り捨て、より深く……敵陣へと潜り込む。勇気というよりは無謀に近い特攻だが、常人よりも一歩深い位置に踏み込める精神は、大きなアドバンテージとなっていた。

 必然的に巡り合うのは、この区画で最も高い実力を発揮していた者。

 

 より高みを見据えた者同士——この出会いは、必然であった。

 

 

「んだよテメェは! 端役が出しゃばってんじゃねえぞコラァァ!!」

 

 

 爆発の“個性”を操る男子受験生。その言動はおよそヒーローのそれではなく、粗野と粗暴を自尊心で煮詰めたような歪なものだ。

 明らかにヴィラン向きに見えるこの少年は、どうにも自己を犠牲に出来る“正義の味方”の器には見えなかった。

 

 元来、穏やかではあれど喧華っ早く、激情家な面も持つ士郎は、これに応えた。

 

 

「お前こそなんだ! お前の爆発は周囲を巻き込む。それじゃ周りの連中はポイントを狙えないじゃないか。妨害のつもりでやってるなら性格悪いぞ!」

「るっせえんだよ端役のくせに! テメェどこ中だ、ああ!?」

「会話の通じない奴だな……!!」

 

 

 まるで爆心地のような激しさを持つ少年。

 この男子受験生は“個性”と同じく、触れるだけでも危険と思わせる危うさを感じさせる。

 

 しかしその態度、口調とは異なり、動きの一つ一つに合理性が見て取れた。驚くべきことに彼は、これほど荒れ狂っておきながら、心中をクレバーに保ち続けていたのだ。

 爆発に関しても、士郎が突っ込んできた際の脅しの一発以外は全て、エネミーを破壊できる程度の威力に抑えられており、ただのチンピラでは無いことが徐々に如実となっていく。

 

 

「言ってることは酷いがまあ、悪い奴では無いってことか……!」

「訳わかんねえことぶつくさ言ってんじゃねえぞぉ、モブ野郎が!! 耳障りなんだよ!!」

 

 

 前言撤回。

 

 

「根っから悪人じゃ無いのかもしれないが……やっぱり性格は悪いぞ、お前!!」

「るっっっせええええええ!!!!」

 

 

 ——BOM!!!

 

 一際大きな爆発が起こる。どうやら彼の忍耐が限界を迎えたらしい。

 士郎をも巻き込みかねないほど規模の大きいそれは、爆風だけで士郎の身体を吹き飛ばし、前線から遠ざけた。

 

 しっかりエネミーを破壊することで妨害では無いとアピールしている辺りが、妙にみみっちく狡っからい。

 あんな殺気の篭った形相でも、まだ冷静な部分が残っているらしい。

 

 

「ったく……むちゃくちゃしやがって……!」

 

 

 それならば、こちらにも考えがある。

 

 

投影、開始(トレース オン)

 

 

 爆風の圏内から退避した士郎は、干将・莫耶を爆風の中に投げつけ、残存エネミーによる奇襲を牽制。距離を取りながら新たな投影を完成させる。

 現界したのは、漆のように何処までも黒い大弓。その形状から和弓であることが伺えた。

 

 “個性”によって生成した剣を、同じく“個性”によって歪め、弓矢としてつがえると、弦を目一杯まで引き絞り。

 

 ——放つ。

 

 特別に貫通力を高めた矢は、エネミーを易々と貫き通し、射線上に存在した彼らをまとめて粉砕した。

 

 

(……が、そろそろ打ち止めか……)

 

 

 かなりの数のエネミーを撃破してきたはずだが、そろそろ“個性”の限界も近い。残り時間も既に一分を切っている。となれば、破れかぶれでも無いが……“このまま泣き寝入りして、引き下がるのも癪に触る”。

 

 故に、最後にやることは決まっている。

 

 

投影、開始(トレース オン)……!」

 

 

 まとめて投影した剣の数々。それらをまとめて弓矢へと変換すると、すぐさま弓を引く。狙うは“頭上”。遥か空の彼方を見据えて放たれたそれは、鏃の重さを調節されており。

 

 ——爆発の“個性”に破壊される寸前のエネミー達を、真上から仕留めるに至った。

 

 その数瞬のち。

 

 

『終了〜〜〜〜〜〜!!!!!』

 

 

 一段とけたたましく鳴り響くプレゼントマイクのアナウンスが、士郎の何処かスッとした気持ちを加速させた。

 衛宮士郎は人畜無害な少年だが、無抵抗主義ではない。憤りも感じるし、反感だって抱く。

 

 そして何より、酷く負けず嫌いなのだ。

 

 そんな彼に火をつけた少年が、ズカズカとこっちに向かってくるのが見える。傍目に見ても、友好な雰囲気とはとても言えなかったが、ここでイチャモンをつけたら入試に響く可能性もある。

 それを彼は分かっているのだろう。すれ違いざまに肩をぶつけ、こう呟いた。

 

 

「てめぇ授業で絶対泣かす……!!!」

 

 

 やはり、どう見てもヒーロー志望の夢に溢れる少年では無かったが、行動の一つ一つから才気溢れる人物なのは理解できた。……あの言動だけは後々不利になると思えたが。

 

 

「しかし、俺が合格するのが当然みたいな口ぶりだな……」

 

 

 その断定的な言い草だけは、思わず苦笑いを浮かべてしまう代物だった。実技はそれなりの成果を出せたと思っているが、まだ筆記が残っている。

 落ちる気もないが、確実に受かる自信だってある訳じゃない。

 

 気の早い話だ……と、士郎は独りごちたが——その一週間後に届いた通知のことを思えば、爆発少年は案外慧眼だったのかもしれない。




今回と前回に誤表記はとりあえず無いとだけ(見落としてる可能性はある

前回、士郎の身長をそれなりとしたのは無茶な魔術鍛錬をしてないため、成長阻害されてないだろうという考えから。
記憶を持ってない設定だと本編で語れないから誤表記を疑われるかもしれないので、何処かでまとめてプロフィールだすかもしれません。

“個性”について曖昧なままにしてるのは仕様です。今後本編で解説します。

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