リリィウッドとブロッサムヒルをつなぐ白百合街道を歩いて、リリィウッドの中央区へ向かって歩く。
その最中さっそく違和感を覚える。
それはリリィウッドの城郭都市が、6芒星城塞都市となっていた。
更に上空に待機しているマザーシップから、カメラを通じて城塞都市を上から確認してみた。
するとその内部は以前リリィウッドの城郭都市そのままでありながら、多種多様な守りやすく攻めにくい仕掛けが満載な建築構造が見て取れる。
ほかにも以前あった商店や家屋の配置が若干違っていたり、草木の茂り・連合軍以外の紋章等相違点があった。
まさかと思うが、団長もエクリプスの影響を受けていなくなったとかやめてくれよ?
もしもいなくなったとすれば、あの奇妙な色の果実が虚無へ返されたことになる。
そうなればこの世界においての抑止力、それもかなり大きな力がなくなったということだ。
さすがに以前の『公演会戦』のように行かないと思うが、大きな被害を出してしまっている。
その傷はたった数か月で直ることはない。だから今奴らが再度威力偵察をしてくれば、設定介入が勝った中で、元帥たちがいなければ確実に敗北してしまうだろう。
「まずいな……」
「何がまずいんですか~」
「何って、元帥が……」
私は足を止めていたようで、誰かに呼びかけられた。
そして声がした方へ頭を向けると、セントポーリアがいた。
「……何かかわりました?」
「実はですね~昇進しちゃいました~」
「へ~それはすごいじゃないですか。あれから切磋琢磨したんですね」
「元帥団長の威厳のために~頑張っちゃいました~」
「そうですか。ちなみに自由戦闘ですか?」
「そうですわぁ。それとですね~団長さんが呼んでますよ~」
よかった。団長いるんだ。
ほっと安心。さて、道案内を頼もうか。
「どこにいるんですか?」
「ここですわぁ」
此処って……嗚呼、ここね。
私はいつの間にかリリィウッドの花騎士学校の門前にいたようだ。
なるほど、家屋配置等が変化していたのは、コラテラルダメージ……立ち退きのためか。
今は授業中だから生徒の出入りがないわけだ。
「それでセントポーリアさん。よく私を見つけられましたね。集合場所なんて聞いてませんでしたよ」
「そこはこれで何とかしてますよ~」
セントポーリアが片手に持った黒い奴を指さす。
それはどう見ても無線だった。
あれ?いつの間にこんなに文明が進歩していたんだ?
「こちらセントポーリアです~蠍火さん発見ですわぁ」
<わかった、戻るわ>
<発見です?即刻撤退>
<了解、戻るぞ>
うまく使いこなしてんな。
「というわけで、行きますよぉ」
「頼む」
私はセントポーリアの後ろについて、この大規模な公共施設に入った。
大きな校舎が何棟かあり、状況に合わせた訓練所や大規模な運動場がある。
更に弓場や道場があり、何人かそこに滞在しており射撃訓練を敢行していた。
私が連れていかれた先。
そこには多くの生徒がいた。
ただその生徒が全て女子や女性で、男衆が全くいなかった。
まあ当たり前っちゃそうなんだけれども。
しかしここに唯一の男がいる。
それは多くの女共の視線の先、尊敬や畏怖、他の感情もありそうだが威厳や異彩を放つ人物がそこにいる。
そいつは一人の花騎士と戦闘していた。
正直言ってあそこまで渡り合えるのはすごい。
しかも例の固定戦闘じゃない。自由戦闘だ。
相手はあのウメ。レイピアによる一瞬の突きやペンタゴンアタックが、そいつに容赦なく襲い掛かる。
だがそいつは剣の腹でうまく受け流して、膝や拳で上手く反撃している。
肉弾戦過ぎて以前の固定戦闘をしていた花騎士たちとは違う様相に、少し笑ってしまった。
というか、笑っているのは私だけのようだ。
皆食いってみている。
うーん。しかしこのウメ、どこかで見たことがあるような気がする。
あ、二人とも一瞬笑った。こりゃあ、あいつ負けたな。
そいつの剣や拳、脚を退けさせ最後の突きを放つ。
しかしそいつは、ウメに自身の着る羽織りを投げ、更に剣も投げる。
流石にウメも少し驚くだろうな。でも、熟練した兵士は、そんな小細工なんて一瞬で悟れるもんさ。
ほら、チェックメイト。物理的な意味の胸三寸で、レイピアの切っ先が止まる。
「参りました」
「フッ……」
その瞬間女学生の黄色い声の応酬。
「凄いな」
「ああやって、たまには正規軍の力を見せているんですよ~」
「……正規軍?」
「実はですね~」
話を聞くところによると、連合国家の軍として花騎士を動かすこと自体は成功した。
しかし軍人になるばかりで、周辺の討伐とか色々おいつかないという。
更に軍人ということで、害虫退治以外は杜撰になってしまって地元住民との諍いも発生。
そこで一か月前に、騎士団という地元の花騎士ではない男性によって構成される自警団が、害虫やその他の雑務の兼用が難しい
ので退治だけでも花騎士に任せたいという要望がよせられた。
もちろんクレームという苦情も来た。
現地のトラブルは物資輸送の観念で言えば、懸念すべき最優先事項。
なにせ当地の住民によって、これらの輸送等が滞りなく行える。
もしもこのまま花騎士の信用が失墜すれば、名声や威厳では発揮されない住人達の応援や援助がなくなってしまう。
最終的には住人によって、物資の強奪が発生するかもしれないからだ。
そこでウメと対峙していたあいつ、元帥は考えた。
連合国家の軍を戦闘に特化した正規軍と住人の信頼関係をつなぐ警察機構を作ろう、と。
それが今の連合正規軍と騎士団というわけだ。
そして囲いはできたが内容だ。
基本的に戦闘能力やセンスで決定している。
根本的に戦闘が上手い花騎士は正規軍へ。その逆でほとんど戦闘せず、住民の安心安全のため働くのが騎士団だ。
また、こうやって分割すると、住民の信頼や土地勘・戦闘の腕に関してばらばらになりがちなので、
全ての花騎士は一応非常時を考慮して、正規軍と騎士団の配置転換を行わせている。
周期は三か月単位。
まだ発足してそんなに経過していないが、成果は上々とのこと。
「きゃあっ!?」
「おっと」
いきなり子供の声が聞こえた。
その子供は吹き飛ばされていて、私の方に来ていたので受け止めた。
普通は吹っ飛ばされると思うだろうが、攻撃判定や吹き飛ばし判定もないので普通に立ち留まれた。
「元帥団長、何があったんだ?」
「ごめんごめん。ウメとの立ち合いを希望する者に、手合いをさせてたんだ」
元帥はこっちに駆けてきた。
「あのウメさん、例の戦闘処理の時味方になってくれた元傭兵だろ?大丈夫なのか?」
「いけるいける。あの人優しいから」
「そっか。なら安心」
お互いに笑った。
「さて蠍火。そのこが君の花騎士だ」
「へぇ。まだ餌に……あ、いや、役立てるほど強くないな」
「(餌?)しかたないよ。あの果実の適合者が彼女しかいなかったんだから」
「そりゃしゃーない」
危ない危ない。思わず戦闘方針を言い出しそうになった。
私はこの子の髪の手触りがいいので、触りながら話す。
「で、どんな戦闘能力を持っているんだ?」
「え、ステータス確認ボタンっぽいのないの?」
「は?」
「本当?」
私はこっちの世界の事、全く知らない事を思い知らされた瞬間だった。
しばらく沈黙した後、おもむろに元帥が口を開く。
後ろではウメさんが、手合いの続きをしている。
「緑の『キャラ』ってのを見るか押して」
そういわれても、何もないんだけど。
<設定介入の順序を変更し、この世界の仕様を発動します>
マザーシップがものすごいことを言い出したと思うと、目の前にいろんな表示が出てきた。
そこで緑枠の『キャラ』を見る。
「あ、出てきた」
「じゃあ、『キャラ確認』」
「はい、押した。アプリコットが一本、一匹、一人いるけど」
「詳細」
「あいよ」
すると現状のアプリコットの容姿が出現し、好感度や出身・所属国家、数値化された戦闘能力、アビリティやスキルを確認できた。
「年齢はないんだな」
「まあ、そんなに必要な情報じゃないから」
アプリコットの戦闘能力は、子供の時点で階級が☆1を考えれば普通……なのか?
「ちなみに、彼女の出身国家見てみてよ。口には出さないでね」
出身?
あ、コダイバナになってるじゃないか。それになにやら神々しい覇気もでているし、なんだこれは?
「気付いたと思うけど、その覇気は素質だよ。それは団長でしかわからない仕様だから」
「仕様って……まあ、深く突っ込まない事にする」
「そうして。お願い」
お互いに黒歴史を見たかのようなくらい雰囲気になってしまう。
しかし手元にいた元気の塊が、唸り声をあげる。
「うああああっ!」
「ん? どうした?」
「あなた、わたしの団長さんなんですよね!?」
「そうだよ。初めまして、蠍火です」
私は彼女の目線に合わせるように座って会話をする。
これは旅館でお母さんに、お客さんへの対応として教えられたものだ。
当時は小さなもので、お手伝い感覚だった。だから気軽にできたなぁ。
「え、あの、えっと、アプリコット……です。戦闘はちょっと苦手です……でも、団長さんが励ましてくれたら、
頑張れますので! あの……よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
私は彼女と握手した。優しくなんざやらない、ちゃんと握る。そして頭を撫でてから立ち上がる。
正直ヘルメットをかぶった奴が団長だなんておもわないし、素性も見えないし伺えないから怖いだろう。
だからその胆力を褒めるため、撫でただけだ。他意はない。
さて、餌になるよう、教育するか。
「よーし、最初の花騎士が決まったついでに、騎士学校を見ていってくれないか?」
「騎士学校。養成所か。これから必要なものだからなぁ。見ていこうか」
「流石蠍火。誘いに乗ってくれると思ってたよ」
そういって次の休み時間まで、ウメの戦闘術の講義を聞いて暇つぶしをした。
この戦闘術はある一定の範囲に収まっている花騎士しか通用しないらしい。
例えば、持っている武器の特性が槍やレイピア等、突くことに特化しているまたはそれに適している武装。
上記の武器を持っている花騎士見習いが、この講習を受けている。
また、こういう上級騎士による講習は、結構な頻度で行っているとのこと。
まあ元帥なら余裕でできる事だろうし、この騎士学校自体が元帥が押し通したものだろうと思おう。
「ここは花騎士未満の見習いが、自分を高める場所だよ。クラブとか部活とかって名前で活動してる」
長期の休憩時間なので、昼食を取ったまたはとろうとしている子がそれぞれの活動内容の主要拠点である
部室に集まっている。
そこでは自分たちが好きな事をして自分らの特性を掴み、花騎士として成長できるように精神も養う場所らしい。
確かに好きな事をしているが、花騎士は花言葉につながる人間にならなければ、花騎士になれなんじゃないか?
そんな疑問を元帥にぶつけてみた。
すると元帥は過程を吹っ飛ばして、とある場所に連れて行ってくれるという。
それはこの学校のある課程を修了した見習いを連れてくる、特別で神聖な場所であるとのこと。
その場所は校長室から地下へ直に行けるが、校長である人間、つまり元帥がいなければ扉ところか地下への道は開かない。
暗くジメジメした場所。しかし途中にある鉄格子にある扉や壁と思っていた扉が開いていくにつれて、
空気が重くなり湿度や温度が適温になっていくのを感じた。
マザーシップとの交信は問題ないな。さすがフォーリナーの技術を流用しただけある。
「ここがその場所だよ。外ではここの主を、主水司って呼んでいるんだ」
「……なるほど。そりゃそう呼ばれるだろうな」
アプリコットは、外でウメさんと共に待っている。
その理由は神聖だからという意味もそうだが、ここは花の力が強すぎるんだろう。
目の前にはリリィウッドの世界花が咲いていた。
大中小そろいそろって開花している。
周辺には澄んでいる水が溜まり地下水が湧き出ていて、苔や淡く光っている草木が生えている。
中央には例の世界花が生えていて、まばゆい光を放っている。
「分かってると思うけど、男は”基本”花騎士になれない。それは花とは種を作るものだから」
「しってるさ」
ここの光を浴び、水を飲むことで自身に一番合う花の力を授かる。
もしもそれがないというものはない。それは元帥が見極めるからだ。
だが例外が少なくともいる。その場合、花騎士の力を受け止められる器がなっておらず、
花言葉そのものが自己を侵食し自分が自分でないように思い、自己嫌悪に陥ったり自己崩壊を齎してしまう。
崩壊が発生するより前に、花騎士の力が抜けることが多い。
しかし抜けなかった場合、自分の容姿も相まって廃人になるという。
「容姿?」
「外で花騎士の力が漏れ出したアブラナたちがいたでしょ?十分に自分に合っていれば、容姿の変化はないんだよ。
他にもその一族であれば、容姿の変化は全くない」
「ちょっとまて、一族? どういうことだ。今まで思ったこともなかったが、花のあの容姿はどうやって決めているんだ」
「……」
話によると数年前の戦争で、花騎士の前身である花使いの血筋が粗方死んでしまったらしい。
だから人為的な処置を施して、『花の力』=『世界花の恩恵』を与え害虫を殺せる強大な力を取得させ、
戦力を増強させているんだとか。
そしてその花使いこそが、この花ごと決まっている容姿の大元だということだ。
「そういえば、トイレに鏡なんてなかったな。そういうことか」
「そういうことだよ。そんなのあれば、自身の顔が変化したと気づかせれば発狂待ったなしだからね。
だからどんなに過程が終わっても課程を修了しなければ、ここに来られないようになっているんだよ」
三年間でとれる単位を一年で取得しても、飛び級できずにそのまま三年まで過ごして卒業できるということと同義だ。
「花騎士は自身に花の力を保持できる性格になる。性格であるだけで、個人の好き嫌いとか個性とかは死ににくい。
たとえば恋に臆病になっても、部屋の掃除は大好きだとか。そういうのは変わらないもんだ」
他にもマイペースだったり寛容であったり、器が大きい尊大な人物であれば容姿の変更はないらしい。
今までそんな奴見たことがないんだけどなぁ。
「一応この騎士学校は前からあったんだけどね」
「あったんかい」
「それの所有権を統帥権で使って、僕に移譲させたんだ」
元々、花の力を軍事的に使わせるための育成所ではなかったんだろうな。
民間事業で退治や護衛のための学校のような側面があったらしい。
だが時代が時代なので、早急に方針転換。このように軍人養成所になった。
「さて、花の力を直に受けたんだから、蠍火も見えてくると思うよ?」
「何が……ん?」
肩になんか、童話に出てくるような何かが乗ってた。
「…………なんだこれ」
「驚いているようで何より。彼らは妖精、または精霊っていってね、花騎士の花の力を伸ばす役割があるんだ」
「だがそんなことをすれば、自己崩壊になるんじゃないか?」
「だから経過を見てやらないといけない。花騎士はその力を充分に発揮または、保持し続ける素質を持った人間だ。
その為いくら精霊たちの力を吸収させても、あまり異変がない。容姿の変化はありそうだけど」
ほかにも服の変化や上方の変更、場所ごとに違う精霊によってその土地固有の性格になったりすることもある。
色々複雑なものだ。
「また、アンプルゥという花の液を使えば、自己の補強もできる」
これは本体の素質や能力の底上げらしい。また精霊や妖精は、生きた年齢ではなくその恩恵や精霊自身の強さによるレベルがあり、
大きく花騎士を手助けしてくれる。
使用または吸収した場合、精霊本体は消滅する。だが自我を持っている精霊や妖精はほぼいない。
だがコダイバナの力を受け取っている奴だけ、自分の意思で動く。
外で見られる種は植えてもよし、食べて体力や花の力を回復するのもいい。
花の力は受けるための器があり、そいつの補強や回復をしなければ害虫相手に脆くなってしまう。
あの公演会戦で桜やほかの花騎士が、結構あっさり殺されたのはそういうことだ。
基本的に花の力という強化値があって、それが削られていく。しかし自身の器が最低限の力は維持できるようにするが、
種等で回復できなければ最終的に花の力は霧散する。
「種?」
私は元帥に地上へ戻る道すがら、反復して聞いてみる。
話を聞いているとき、よくわからなかった重要な単語の一つだ。
「種というのは、花の力が具現化したものなんだ」
「具現化ということは、具現化していないものもあるんだな?」
「そうだよ。そして、それも使う事ができる」
「どうやってやるんだ?」
元帥は服にある内ポケットから、淡く光る種を取り出して指でつぶす。
すると種が消え、光の粒が出現。それが元帥に吸収された。
私は光の粒が吸収されるたびに、光の粒の大きさや輝きによって元帥の周辺が淡く光ったことを認知する。
「僕は初代団長で、特別に女王から団長任命権を譲渡されている。
団長としての素質がある人物だけを選抜、任命して国と軍に従属するように言い渡している。
その為の契約の一つとして、花の力を疑似的に扱えるようにしたんだ」
そしてその花の力を扱うというのが、先ほどのキャラ確認という仕様ステータス・花騎士のみ効果がある好感度視覚化。
上記の他に、戦闘中に花騎士の援護ができるソーラードライブを使うことができる。
種や花の力を食った害虫を殺すことで、団長に振り分けられる花の力。
一定の力が溜まると、念じた場所に攻撃できる。
ほかにもこのゲージを消費することで、下がり続ける花騎士の継戦能力を回復・維持することができる。
別に消費するわけでもなく、害虫を倒しまくれば花騎士に花の力が戻ってくるから安心だ。
「種って、そんなに重要だったのか」
「勿論。種にも種類があるけど、一定以上の数がないと使えないんだ。
しかもその種は花騎士を作り出すことができる。でも、種の力は不安定だから、素質が低い花騎士になりやすいし、
精神が安定していなければ、一般人に帰化することもあるんだ」
しかもその特性を生かして、一般人男性が花騎士の力を手に入れて強盗なんてこともしていたという。
あまりの力と精神的な疲弊が大きすぎて、廃人とかして見つかったとか。
勿論戦闘した花騎士は、ぼろぼろの状態で帰還している。
団長のシステムがなかったころ、男性は色々犠牲にすることで花騎士になれたようだ。
「だけど、もう、無理なんだろう?」
「いいや。団長になるというのは、ソーラードライブも使えるという事。
これは世界花の力を正しく還元しているという証左でもあるから、団長になれていない人はみんな等しく花騎士になっちゃう」
「ということは、私もなってしまうんじゃ?」
「そうだね」
「でもさ、団長任命権を持っているんだろう?」
そういうと元帥は笑った。
なんと、『連隊構想』の実現化のお礼ということで、ブロッサムヒルにて元帥と同じように女王公認の団長にしてくれるという。
「……それって、何か変わるのか?」
「各国の首脳とほぼ対等な地位になるわけど、どこか不満?
EDFにとってこの上ない条件だと思うけど」
「あー、EDFについて話していたかな」
「リリィウッドに行く前のカフェテリアで、お互いに情報交換したじゃないか。もう忘れたの?」
色々あったからなぁ。忘れていてもしょうがないだろう?
まあ、よくないがな。
そうして話しているうちに、地上に出てきた。
そしてこの校長室を去って、外に出る。
「お待たせしました」
「おかえり。では、ブロッサムヒルへ行こうか」
「もう行くのか」
「何事も早い方がいいと思うがね」
それは同感だ。
私はアプリコットに、アプリコットになる前の事を聞きながら、白百合街道を東へ進む。途中害虫が出現したが、設定介入をEDF側になるように調整されたので、各自自由戦闘になった。
おかげでウメさんの強襲突撃と元帥の剣技によって、即座に討伐された。
本来ならば花騎士が巡回しているはずなのだが、今の時間丁度巡回間隔に隙間が空いたようだ。
「ふむ……元帥」
「分かってます。騎士団に取り次いで、こちらとの息を合わせられるようにします」
つまり巡回できるだけの花騎士が、騎士団の方へ分割されたのでいなくなったという事だ。
多数いたはずの花騎士が、『公演会戦』で殆ど戦死。
更に騎士団への戦力分散で、更に周辺の治安が低下しているようだ。
「今はまだどうにかなっているけれど、もしもまずければもっと徴兵して種で仕立て上げるという事もできる」
「だがそれは最終手段だ。あとまで続かないぞ」
「分かっています」
花の力を代々使える一族は、幼いころからでも花騎士として戦える能力を持ち合わせている。しかしその血筋がほぼなくなっていってしまっている現状では、花騎士は量産型となっている。
だから種なくして花騎士の量産は、時間や量がなくなってしまうらしい。
元帥は今現在、巡回間隔が空いている事を懸念して、無線で応援を呼んだ。
「――はい、お願いします。 呼んだから合流と到着を早めるため、速く行こう」
「と言っても、初級花騎士が一名。 早急にはいかんぞ」
「ええ、可及的速やかに行きましょう」
というわけで、私はアプリコットの手を握って、離れないように連れていくことになった。
彼女が花騎士になる前は、花の力と漢方を合わせた新たな薬剤で、人の治療をさらにやりやすくするという研究をしていたんだとか。
彼女はもともと漢方屋と医者の娘で、両方の特性を活かせる何かを作りたくて、いろんな国を巡る機会がある花騎士養成学校に編入したとの事。
親は花騎士ではなく一般の生まれなので、娘が貴族相手にポーカーフェイスができるか、と心配してくれたんだと。
流石に学校側もバカではなく、貴族組と庶民を一組にしてそれぞれの対応を教えてくれた。そのおかげで、上級花騎士やほかの貴族に、変な目で見られたことはほとんどないという。
「こう見えても、フィールドワークは大得意なんです!」
「そっかそっか。ならば、日にちをまたいで不眠不休で歩いたことは?」
「流石にないです」
首を横に振って、そんなことあり得ないみたいな顔をされた。
そっかぁ。こっちの花騎士は、ずいぶんとぬるくなったんだなぁ。
まあ紛争なんてなく、害虫に対して昼と晩の交代制で当たっていたら、自然とそうなるだろうな。
それに大規模な戦争なんて、約千年前に終わったらしいしな。
しかし、後8か月程で全面戦争になる。
それまで、どれだけ花騎士を補充し、稼働率を上げられるか。
見ものだな。
私はしばしばトランシーバーを使う元帥を見ながら、ウメさんとも話した。
主にアプリコットの戦闘能力に関してだ。
意外に評価が高く、視野の広さ・目線の鋭さ・勘の良さでいえば、トップクラスとのこと。
しかし継続した戦闘や広範囲での戦闘・伍長としての指揮に関していえば、
どうあがいても無理という見解。
だがそんな能力でも、実際に自分の命がかかわってくれば自ずとそんな能力を得るだろう、と
ウメさんはそのように評価した。
<至急!至急! 極限指定害虫と交戦せり! 直ちに応援を求む!>
トランシーバーから、雑音と戦闘音まじりの急報が知らされる。
流石に応じない訳にもいかず、私・元帥・ウメさん・アプリコットで現場に急行した。
向かう途中、爆発音や閃光が見えた。
「私が先行するから、戦闘準備を。元帥は二人を連れて、安全な域から後に集まるであろう応援をまとめ上げてくれ」
「了解!」
元帥がそういうと、ウメさんはポケットから種を取り出して握りつぶす。
種から出た光は、この4人に吸収される。
アプリコットの頭に飾ってあるカチューシャに咲いている花が、淡く光りだして彼女の魔力を操作する腕輪も光り輝きだした。
それを見届けて、ウメさんはものすごい速度で戦闘域へ向かっていった。
私も既に持っているロケランの『ボルケーノ3A―64』を『ストリンガーJ2―1』に持ち替え、遠距離戦闘ができるようにする。
最初にボルケーノを出していたのは、雑魚が出てきた場合の保険。
面制圧ができるため、取り逃しがなくなるからだ。
「――イチゴ、攻撃の隙に援護射撃!」
「はい!」
「ポピー!ハクモクレンの花力解放後、隙をついて攻撃しろ!攻撃対象を変更させるだけで構わない!
もし失敗しても、ウメ殿が埋め合わせてくれる!」
戦闘指示を出している従軍軍師。そんな彼こそが、団長だ。
彼は元帥に気づくと、指示を出しながら近づいてくる。
「状況は?」
そんな彼に状況を聞く元帥。
「私の部隊でなんとか凌いでおりますが、びくともしません。反撃に出られると、
手も足も出なくなるかもしれません」
「わかった。すでに応援は出されている。だから、ここは足止めだ。いいな?」
元帥が私達にも確認を取る。
しかしそんなことを言われてもなぁ。すでに攻撃しているんだが。
「キイッ!?」
ドズンッ
音速よりも速い弾速。奴の反応の方が、音よりも早かった。
流石に確殺をセールスポイントにした武器だ。反動が強い。
敵というか、カマキリ。黒いカマキリがよろけている隙に、今の鎌の可動範囲外からウメさんがペンタゴンアタック。
しかしカマキリはそれを飛んで回避し、羽の風圧で怯ませた。
ウメさんは風からすぐに逃れて、空中へ突撃し片方の羽を破壊する。
奴は落下し、その間にほかの花騎士が追撃していく。
正直、あまりの脆弱さに欠伸が出た。
すぐに戦闘終了するだろうと思った。
だがそうではなかった。
奴が両手の鎌を、小さく振るうと団長の花騎士が大きく吹き飛ばされた。
「お、おい!」
「大丈夫だ、問題ない」
「大丈夫です!」
ハクモクレンとイチゴは、心配する団長に声をかける。
団長は安心したのか、地面に膝を落とした。私と同じ茶色のマント。
きっと任命されたての団長なんだろう。
ん?するとなんだ、あの極限指定害虫は、経験皆無な輩に倒されそうになっているのか?
私が思案している合間に、ウメさんは羽を攻撃して一撃で壊した。
羽が弱いのはわかるが、極限指定害虫だぞ。
もっとよく見てみると、羽がそんなに大きくなく、脚が太く大きい。
これじゃ重くて、ほとんど飛べない。
実際に先ほどは風圧を起こすだけで、傭兵ウメさんに簡単に抜かれている。
私が打ち抜いた事を抜きにして考えてみれば、奴はもともと地上戦特化な奴だとわかった。
つまり、攻撃を受けてしまったあの団長の花騎士は……。
「よし、コンビネーションアタックだ!」
「「はい!」」「わかった!」
花騎士が動こうとした瞬間、団長の花騎士に細い光が幾重にも走る。
その瞬間、花騎士の肉体が16分割された。
「へ?」「え?」
団長と元帥が、あっけらかんとした表情を浮かべる。
その間に地面に転がる16*3の花騎士の欠片から、大量の血液が噴出し地面を真っ赤に染め上げた。
「ヒッ」
アプリコットは青ざめた表情をして、口に手を当て後方にある茂みに入っていった。
ここは平原なので、その様子は簡単に見て取れる。
「ふーん。で?」
私はストリンガーで、奴の目を射撃する。
カマキリ野郎は態勢を崩した。その隙にウメさんがペンタゴンアタックを決める。
またカマキリが態勢を整えたとき、攻撃する部位や足を執拗に射撃して攻撃阻害を行っていく。
「嘘……嘘だろ……イチゴ…ポピー…ハクモクレン……!嘘だ、嘘だ……!」
「……」
うずくまって地面を殴りつけている団長と歯を食いしばり拳を強く握っている元帥。
私は彼らが花騎士に対して抱いている感情は、残念ながら兵士に対してしていいものではない。
兵士は数字だ。人間ではない。
元帥はわかっているだろう。しかし、少数人であればあるほど、感情が向きやすい団長はまあ、訓練だと思えばいい。
寧ろよかっただろ。後に味わう感情を今、味わっておいてさ。
今は傭兵とEDF・元帥がいる。だから安心して絶望し、悲しみ怒れ。
それを次の機会に活かせればいい。
私は慣れたのかって?
大事な人を目の前で食われた私にとって、そんなことどうでもいい事だ。
「対象の撃破を確認」
ウメさんが奴の頭を切り飛ばし、奴の肉体が崩れ落ちた。
奴の肉体から光の粒が出てきて、大地や団長・元帥・私に吸収される。
そして黒いカマキリ『切り裂くモノ』は、徐々に透明になっていきこの大地に還元された。
<遠方に威力偵察の枠を外れた害虫が向かってきています。
また元帥が周辺に張り巡らせてある探索網の一人、アブラナが一分後に接敵します>
嗚呼なるほど、元帥はこいつらを呼ばなかったんだな。
呼んでいれば、”早く呼んでいれば助かったのに!”だろうなぁ。
くだらない。
多数の命(地球上総人口95%損失)が散りましたが、フォーリナーを撃退し
宇宙転移技術を鹵獲出来たので問題ありません。
汝曰く、戦略は戦術を上回る。
「元帥。団長を退避させてくれ。今から第二陣が来る。さっきのは威力偵察だ」
「何!?」
「ウメさん、アプリコットを頼みます」
「わかった」
「待て、蠍火。救出に行くのか!?」
元帥。今それを言うのか?
ほら、団長が元帥をにらみつけている。
「何を言っているんだい、団長。私は威力偵察をしてくるだけで、何もここらを通っている”行商人”の安全を確保しに行くわけじゃないんだぜ?」
私は少し大きく団長に聞こえやすいように、ある程度ゆっくりかみしめて言った。
流石に強調部分が伝わったのか、元帥は頼んだといって団長を後方へ移動させに行った。
『ルールオブゴッド―5』
扇状に飛んでいく光線は、この草原の奥にある春の季節咲き乱れる木々の中に潜む敵を一掃した。
しかし更に奥から敵が来ている事を、レーダーにて赤点の量で判断した。
またレーダー範囲外だが、私が向かっている方向に仲間が一人いる事を青点の数にて確認する。
これがアブラナだろう。
接敵していたが、先ほどの砲撃で敵が吹き飛んだようだ。
だが次の敵とぶつかっているようで、戦闘音が聞こえる。
私は『ボルケーノ3A―64』に持ち替えて、周辺を制圧していく。
木々が焼け落ちようが知ったことではない。
我等地球防衛軍は、地球を守る事が第一任務である。
財産・命その他もろもろは、我等の守備範囲外だ。
壊れないように、神にでも祈って置け。
「なのは、いるんだろ!」
「あたしはアブラナよ! って、またあんた?」
「分かるだろう?」
「あたしをそう呼ぶのって、蠍火しかいないからわかりやすいわ。
兎に角、害虫の討伐を手伝って」
「言われなくてもするさ」
こんな乱戦になるなら、アサルトライフルを持ってくれればよかった。
幸い『チョイヨワ虫』が、私のもつボルケーノで確殺なのがよかった。
レーダー上軽く百は超えていそうだ。
「私が突っ込む。なのはは、私が漏らした害虫を仕留めてくれ」
「わかったわ。やってるっての!」
アブラナは周囲の雑魚を蹴散らして、後方へ下がる。
私はボルケーノを射撃しながら、最前線へ赴く。
これからするのは、一般的な攻略方法。
たかってきた奴を自身もろとも爆破させることだ。
ドカァアアン!!
心地よい音が響く。
次いでに私の体も爆炎に包まれるが、ドロップしている光の粒と回復アイテムを入手することで、即座にリカバリー。アーマー値を全快にしてやった。
「ちょっ!? 無茶苦茶するわね!」
「これがEDF、レンジャーの戦い方だ」
戦闘していると、レーダー上に不自然な塊が見えた。
私はすぐにストリンガーに持ち替え、そちらに向かって射撃する。
すると赤点の塊は晴れて、移動を開始していた。
私はできる限り撃ち込もうとしたが、奴はいつの間にか私の隣に来ていた。
「なっ……!」
私は反射的にその場から緊急回避する。
そしたら私がいた場所に、鋭利な刃が振り下ろされていた。
奴は女王蜂だ。体色は紫で、名前は『シュツルムガイスト』。
正直言うと、レッドカラーよりも速い!
ドウン!
ストリンガーが音速を超えているため、一応女王蜂にあたる。
しかし当たればの話で、ほとんど当たっていない今、今後の展開はまずいことになると思われる。
まあ非常に良くないね。
奴が速過ぎてアブラナが対処できていない。
私も反応できるが、振り向く速度よりも速く移動するため、照準を合わせられない。
「くそっ!」
アブラナが目の前に来た蜂を攻撃するが、雑魚に攻撃され怯んでしまう。
その隙にシュツルムガイストの鋭く大きな刃である前脚が、彼女を襲う。
流石にアブラナもタダではやられないのか、その刃を受け流してそのまま流し切りを決める。
成功したが、片方の前脚も忘れていたようで、アブラナは片腕を負傷する。
「なのは。応援は呼べないのか?」
「無理よ。皆、何かしらの敵と対峙中。無線に誰一人出れないわ」
これは危機的状況だ。
マザーシップからの応援? バカ言うんじゃない、EDFのしかも敵となっている筈の生物を出せるか。
EDF隊員のみならまだしも、この世界じゃ蜘蛛も蟻も敵だ。
もしも出してしまえば、確実にEDFはこの星からはじき出される。
はじき出されなくとも、敵対的な態度を取られてしまうだろう。
それはなってはならない状況だ。
ならば生物ではないフォーリナーは?
残念ながらアルゴはでかすぎる。的が大きいことのデメリットはわかりやすい。
そのせいで彼らには一方的にやられるだけで、時間稼ぎなんざできない。
期待するだけ時間の無駄だ!
「……アブラナ。お前は戦略的撤退をしろ。私がこいつを引き付ける」
「はあ!? バカ言うんじゃないわよ」
「馬鹿を言っているのは……っ! お前だ!」
私はボルケーノで適当に雑魚を処理しつつ、遅い来る女王蜂の斬撃を爆発によるやられで無敵判定になりつつ回避する。
そして奴の眉間に、ストリンガーの射撃を食らわせてボルケーノによる、タクティカルファイアを敢行。
射撃の反動を消して隙をできるだけ無くし、奴の攻撃から逃れる。
アブラナのほうは、手に持つ剣で周囲の雑魚や少々強いだけのイモムシ?を切り倒す。
偶に花力解放をして、まとめて撃破しているが第二波の威力を削るほどの効率ではない。
「私はEDFのレンジャー1結城だ!
EDFとは、市民を守り、地球を守り、誇りをも守るもの。
フォーリナーは地球を支配するため、全てを攻撃した!
我々は母なる星を守る為、逃げも恐れもせず立ち向かってきた!
殺せ? もちろん。 死ぬ? だからどうした。 刺し違えろ? 上等だ!
ぶっ殺してやる。 死ぬことになったとしても、後の奴がやってくれる」
私は本来守るべきEDFの矜持を、その場でアブラナを守りながら叫ぶ。
回復量をダメージが覆しつつある。
光の粒を溜めても、『ソーラードライブ』の使用方法がわからない。
様々な要因が重なって、私は『死』というものを感じつつあった。
だからこそ、私はこの世界から消える前に、戦力を温存させるために特攻を仕掛けることにした。
初めてだ。
いや、そうでないかもしれない
でも、これは、酷く懐かしく、私を殺した、一つの感覚。
”痛み”
「グッ……!」
『シュツルムガイスト』が『チョイヨワ虫』や『戦闘ブンブン』を、指揮するかのように波状攻撃を仕掛けてきた。
私のボルケーノで焼き殺すよりも早く、その海嘯は私を襲ってきた。
目の前に集中してしまったことにより、目の前以外から攻撃を食らってしまう。
それは攻撃でもなく、一つの嵌め殺し。
緊急回避の先に、『戦闘ブンブン』の死体が沢山積み重なっていた。
殺しまくったことにより、浄化がおいつかないのか単純に死体消滅する猶予秒数が足りていないのか、詰みあがっていく死体。これに引っかかってしまい、私は女王蜂の攻撃を受けてしまう。
その瞬間、アーマーの一部に映像のブレのようなものが走った。
それが私を変え、殺した原因である感覚だ。
攻撃を食らった部分が酷く熱く、やられた部分から電撃的に全身に痛みが走り渡った。
味わってしまった、設定介入。
思い出してしまった、過去を。
「ぐあっ……がっ…うあああああ!!!」
強烈とか痛烈とか、そんな言葉では表せない痛み。
脳が危険を知らせてくる。裂傷から、見たことがないような真紅の液体。
熱い。味わったことのない鼓動が、胸の奥から鳴り響きそれが一鳴きするたびにその赤いものが外へ出ていく。
ドサッ
私は地面に倒れ、武器を手放せてしまった。戦場では一度たりとも、武器を放した事がないのに……!
痛みによって、私は目の奥から何か熱いものが出てくる。
それが口に入る。 塩辛い、液体。
私は目の前が突然暗くなったことに驚き、上を見た。
そこには『シュツルムガイスト』が、二つの刃である前脚を持ち上げており一気に終わらせようとしていた。
「させるわけには、いかないのよ!」
そういうと、アブラナが私と奴の間に割込み、花力解放をする。
しかし奴の体に少し傷を入れる程度で、奴の前脚によって軽くあしらわれる。
これによってアブラナは武器毎打ち払われ、私の近くに落ちた。
彼女の武器は真っ二つに折れてしまっていた。
アブラナはその剣を見ずに、ずっと女王蜂をにらみつけている。
そしていつの間にか落ちていた『ストリンガーJ2―1』を拾い上げ、胴体を撃ち貫いた。
体液が飛び散る。
緑色の鮮やかな体液。それを私達は、まともに浴びる。
そう、『ザントガイスト』というサソリの体液を。
奴は先ほどの攻撃が急所にあたったのか、その間に入った勢いのまま近くにある桜の木にぶつかってへしゃげた。
そして目の前には、『ストリンガーJ2―1』の反動で動けないアブラナと、
首をはねようと前脚を振り上げている『シュツルムガイスト』。
私はただ女王蜂への殺意を持ったまま、痛覚の海におぼれたままだった。
何もできないまま、終わってしまう。
くやしさと悲しさの中、奴への恨みと憎しみをさらに強く抱く。
そんな中『ストリンガーJ2―1』の反動とリロードで動けないアブラナは、
私の方へ振り向いて困り顔か泣き顔かわからない表情で、ただ謝っていた。
「ごめんね」
「クフッ」
何か言おうとしても、痛覚の中で全身の感覚が抜けていき体の重さにだるさを感じてしまっていた。
しゃべろうとしてもスーツからヘルメットへ私の体液が入ってきており、
しゃべる事ができない。
鉄の味を噛みしめながら、徐々に痛覚から気分の良い感覚に包まれて意識を放しそうになってしまった。
「キシャシャ」
目の前の蜂か? ブラックアウトしていて、何もわからない。
とにかく終わってしまった。
ごめん……なさい、お母さん、お父さん。
何も考えない脳死シナリオでお送りする、原題『EDF隊員の死闘』を見ていただきありがとうございます。
こんなに更新していないのにもかかわらず、読んでいただけること。
そして自己満足で終わらせているこの作品を、長らく拝見していただき誠にありがとうございます。
さて、主人公は死にましたが、まだ彼らの闘いは続きます。
この無限か有限に広がる世界をまたにかけ、フォーリナーの版図を広げさせない
闘いは終わりが見えません。
彼らの闘いは、これからも終わりはしないでしょう。
「私達の冒険はここからだ……!」
ありがとうございました。