EDF極東支部。晴れやかな今日、定期的に行われる主任クラスの者による会議が行われた。
その会議の後は、すぐに解散することになる。
しかし例の主任は、自身が持つ地獄耳にお得な情報を仕入れてきた。
その情報は心にしまい込み、絶対に他者にばれないよう優秀な兵士である結城に伝えることにした。
表情や行動に焦りが見えないように細心の注意を払いながら、多目的室へ向かう。
もちろん無線で結城に連絡はよこしてある。
「お疲れ様です、主任。いかがいたした?」
「うむ、この事は内密にお願いしたい」
「分かりました。して、その内容は?」
神妙な顔をした主任を見て、結城はいきをのんで様子を見守る。
「イクリプスって知っているか?」
「侵食ですよね」
「うむ。話によると、他の世界線を集合させ、よりよい世界を残す技法らしい」
「……どういうわけです?」
結城の顔はヘルメットで隠れて見えないが、明らかに声が暗くなった。
主任は話を続ける。
イクリプスは、最近見つかった事象だ。
どのように見つけたのか。
日本以外の国連の常任理事国を含めたEDFの支部・本部がある国が、
新たな新天地や人材・資源を求めてランダムにいろんな世界に人を飛ばしまくった。
その宇宙転移はEDF隊員のレンジャーやほかの兵科・他職員全てを動員した人海戦術にて行われ、
様々な過去・未来・並行・位相の世界線をめぐっていた。
そんな時だった。
とある大気汚染で有名な人口トップクラスの国のEDF隊員の一人が、
”俺の世界線がないんだけど”と叫びながら周囲に広報した。
別にそれくらいならヒューマンエラーだと思って、組織は全く気にしなかっただろう。
しかしそれではとどまらず、次々と世界線がなくなっていったのだ。
残った世界線は、その世界の中でよりフォーリナーが根付き、世界を苦しませている世界だった。
幸いな事に統合された殆どの世界は、EDFの設定介入がその世界の設定より強い影響力にある。おかげで、フォーリナーと手を組んでいるその世界固有の敵性勢力が、弱体化していた。
だからEDFの全体的な後退や大きな敗北は、まだ地球にもたらされていない。
更にこの世界線統一が、我々にとってどう影響するかも分かっていない。
「というわけで、結城殿にとある世界に行ってもらいたい」
「どこでしょうか?」
「うむ。その世界は極東支部が最も多く世界線を開拓している世界に行ってもらいたい」
こうして、結城は主任に言われた通りの場所へ調査しに行くことになった。
……
やあ皆久しぶり! レンジャー1結城だ!
え、そろそろレンジャー1じゃなくて、別の部隊名にした方がいいって?
いいや。まだまだ極東支部は人手が足りない状態なんだ。
このような部隊名でも、2・3年は行けるだろう!
さて……最近は生真面目が過ぎたから、ふざけてみた。
後悔はしていない。決してな!
それはそうと、一か月ぶりの宇宙転移だ。
今まで私は他世界から伝授された技術を使って、火星あたりでフォーリナーを撃退していた。
なのはさんやネギ君は、元気にしているだろうか?
まああの二人ならなんとかしているんじゃなかろうか。
今回主任から言い渡された調査任務だが、また同じ世界に行かねばならんようだ。
嫌というわけではない。しかし丁度いい機会だと思った。
きっとあれもできている頃だろうからな!
ふぅ……テンションを上げ過ぎた。
今回行く場所は、例の四季彩る馨しい世界だ。
そこで今回の武装は……新たに『ストリンガーJ2―1』を購入し、ロケランの『ボルケーノ3A―64』に戻した。
理由として、害虫が思ったより弱く物量作戦でくるからだ。
更に今の花達は、完全な軍事国家となり部隊の集中運用と編隊の組み入れをしており、かなり強くなっている。
よって無駄に高威力であると、誤射した時軍事国家にEDFが責められその世界に居座りづらくなる。
もしその世界に介入できなくなれば、私の夢が叶わないどころかフォーリナーがその世界に根付き、F因子を花騎士に埋め込み我々の世界に投入してくるだろう。
これは看過できない。
というわけで、弱めの威力でありコストパフォーマンスやお財布に優しい武器を選定。
ストリンガーは貫通能力があるので、設定介入が生きている限り消滅するまで貫通するだろう。
これで木っ端共は吹き飛ぶだろうな。
「準備できたか、結城」
「はい、技術技師さん」
「では行ってこい」
「了解! レンジャー1結城、行きます!」
私は電力供給が完全復活した活気ある宇宙転移広場で、普通に転移していった。
「な!?」
「危なっ!?」
「おっと、失礼しました」
「気を付けやがれ!」
私はこの世界に転移した瞬間、青色のマントを羽織った男性と物理的に合体しそうになった。
危なかった……。でもまあ謝罪一つで許してくれたようでありがたい。
この世界に来た理由を、鈍色のマントを着用しながら思い出す。
……
復旧作業二日目。
私は原点種子から芽吹いた、アプリコット・キンギョソウ・シャボンソウのうちアプリコットのみ発見された果実をもって、これの効能を知るため直近の世界である此処に訪れた。
花騎士という武人を、各国配備している連合国家。
この連合国家の武力・武装を纏めて、集中管理・運用を可能としている元帥がいる。
元帥はブロッサムヒル出身の名家の子供。
その子は国全体がはぐれ害虫の被害にあった際、尋常じゃない規模の損害があったことに懸念を抱いた。
その懸念は確信となる。
昔に起こった戦により、少数精鋭の傭兵システムの尊重が発生した。
これにより相互共線が発生せず、メリットをデメリットのみで塗りたくった。
結果がそれだ。
さすがに元帥もそれじゃまずいと思って、新たな戦闘のシステムを作り上げることにした。
更にこの時、被害を真っ向からうけたリリィウッドでも、花騎士という個人でなくシステムに問題がある、と一部が思い行動に移した。
そして幾年が経過し、その子は戦術思想である『連隊構想』を作り出す。
その子は名家であるおかげで、進言が容易に通った。
しかし通ったとしても、それをそのまま使うということはしなかった。
よって実証試験を行った。
試験が成功し、その最中に出会った人間により渡された兵法書を用いて、更に構想を練る。
その完成した『連隊構想』は、元傭兵たちに受け入れられた。
結果、害虫駆除に役立つとともに、前戦争で失われた男性の仕事が復活した。
さて、その子はいろんな功績と未曽有の事態・混迷の時代に移り変わる事を考慮して、
初めての試み、初代男性『元帥』として連合国家の軍事力の舵取りを任された。
そんな偉大な彼と友人として何故か花騎士兼団長『蠍火』として、共に戦場に立っている。
彼は基本的にブロッサムヒルにいるようだが、不在だと駐留していたギンランに言われリリィウッドに来た。
此処は原点種子を貰った場所だから、色々と好都合だった。
「元帥と面会を……」
「誰だ貴様。最低階級の団長ごときが、元帥と面会を賜ろうとは身の程を知らぬ者のようだな!」
行ったとき、なんか黒い帽子を着た、全身真っ黒で刀を持つ女性にすごまれた。
あれ? あいつってそんなに偉くなったのか?
まさか、よくある強い権力を持ったことで、闇に堕ちたとか?
「なんですか? 今は元帥様と女王様、元老院の老害蝗共が会議の最中ですよ。
無礼者であるというのなら、ここで貴方の頭を一瞬で消し飛ばしますが」
装飾していえば非常に丁寧であるけれども、変に威圧感があるサクラさん。
胸にある虹色の勲章をみて、すぐに退散した。
どこもかしこも厳戒態勢で、入る隙がない。
団長の部下や配下、私を知っている花騎士はいないしどうしたものか。
そう思ったから、先に果実をもって私に原点種子を持たせた人の家に行く。
しかしその人がいたと思われる場所周辺は、隕石が落下したのかと思えるほどクレーターとして存在していた。
まあ、不思議な種子を貰ったことは感謝している。だから安らかに眠ってほしいと思う。
情報はほしかった。しかししょうがない。あの時だろう。
元帥となった団長が初めてその姿を見せる公開演説の時に、フォーリナーと害虫共が開戦猶予時刻を設けたうえで宣戦布告してきた。
その先遣部隊は、リリィウッドの厳重な警戒の中、熟練した傭兵を各個撃破していった。最終的に私や元帥の部下やその派閥に属する精鋭中の精鋭の花騎士が、周囲を鎮圧した。
勝利したが、その対価はすさまじいものだ。
公開演説に来場した一般人、貴族、花騎士になりたい普通の子供。
そんな大事な餌を無駄に消費させた。
そこからか、無駄にこの国をピリピリとさせているのは。
私はこのクレーターを一目見て、何も思い返すことなく去った。
「あれ、ちょ、蠍火、なんでこんなとこにいるのよ!?」
「ん? ああ、なのは、久しぶりじゃないか」
「久しぶりね。じゃなくて、何でブロッサムヒルにいなかったのよ!」
「私はEDFの人間だからな。ここにいない事もあるだろう?」
「ほんっと自由人よね、アンタ!」
「そう褒めるなよ」
「褒めてない! それより、団長が探してたわ。案内してあげる」
偶然街中で哨戒をしていたアブラナが、私を見つけて声をかけてきた。
私はどれが元帥団長のアブラナかわからなかったから、非常にありがたかった。
描写していないが、鈍色じゃないマントを羽織っている団長とその部下や配下が、
何やら上司と部下の壁を無視した如何わしい雰囲気で街中を闊歩している。
その中でアブラナとかワレモコウとか知った顔の花騎士達が、いろんな仕事に大童であったので話しかけづらかった。
見た目では全く分からないので、積極的なアブラナが元帥団長の配下であることに感謝した。
「しかし団長も大役を任されて、色々大変だなぁ」
「大丈夫よ。あれでもブロッサムヒルの一領土を治める大貴族の息子なんだから」
「……なあ、市民と貴族の比率おかしくないか?明らかに住居地区が少ないように見えるんだが」
「貴族といっても色々あるのよ。あまり貴族と一般市民の差はないわ」
「なるほどな。それで、団長が貴族の息子であると、面倒なことは起こらないのか?」
「私達、団長直属の配下が、身を呈して守ってるっての!」
私はアブラナに連れられて、先ほど刀装備の女性のところに来た。
するとアブラナが通行許可証を取り出して、その女性に見せたところ私も共に入る事を許された。
「あの人は誰なんだ?」
「あの人はクロユリっていう、元傭兵の王宮騎士筆頭、その一人よ。
前の『公演会戦』にて右目を負傷し、女王や元老院を身を呈して守った功績で今の地位についてるの。
分かると思うけど、超怖いわ」
あー、納得。
しかし眼帯は気付かなかったな。全身真っ黒だから同化していたのかな?
後ろを振り返って再度見ると、彼女の突き差すような視線と今にも惨殺するかのような威圧感が、周囲に漂って見えるほどすごみを感じた。
世界花の幹回りを歩いて登り、王城に到達。王宮騎士団が出迎え、再度証明書を見せる。
ついに団長がいると思われる会議室に来る。
アブラナがノックする。
「団長、アブラナと蠍火、二名が参りました」
「入っていいよ」
入ってみると、そこには厳格な雰囲気を醸し出す服を来た男性がいた。
男性そのものは非好戦的な雰囲気を出して、いかにも安全なようにみせかける見てくれを作り出している。
だがその時たま見せる素顔に、狡猾さを思わせる様相に少々身震いしてしまった。
「なんか、雰囲気変わったな、団長」
「あ~ごめんごめん。色々あったからさ」
そういって態度を崩してあくびをする。
「座っていいか?」
「あ、うん、いいよ」
面会場で一人残っている元帥は、私とアブラナに席に座る許可を与える。
「偉くなったなぁ、団長」
「あはは。あんまり嬉しくないけどね」
「色々合わなさすぎだぜ」
「よく言われる」
和気藹々とした雰囲気。
「蠍火、団長に何か用事があるんじゃないの?」
「そうそう。団長に少し、調べてもらいたいことがあるんだ」
そういって私は不気味な色を醸し出す果実を、机の上に置く。
不気味と言っても、黄金に輝く果実なんだけれど。
「これは……」
「なにこれ」
団長は見た瞬間に、深く考える。
アブラナはけったいなものを見たというような、怪訝の表情を見せる。
「なあ、蠍火。正直に答えてくれないか?」
「ん? ああ」
以前は好青年だったが、今では王宮の政治とかにもまれてすっかりその目はくすんでしまっていた。
だからこそちょっとした声質変化で、どんな猜疑心に満ち溢れているかある程度把握できてしまう。
「これ、バナナオーシャンの『キルクの遺跡』で発掘したのか?」
「いや。 それ以前に私は、バナナオーシャンとか言われる場所?国?には行ったことがない」
「そっか……」
「で、団長。正直に答えたんだから、教えてくれよ。その、キルクとこの不気味な黄金色の果実についてさ」
「いいよ」
そして団長から言われたのは、憶測だけれども文献の歴史年表を見るに信憑性が高まるちょっとした真実だった。
大昔の大戦以前の話。
バナナオーシャンという、リリィウッドの南に位置するその名の通りの南国があった。
その南国と今のリリィウッドの境界付近に、賢者とも魔女ともいえるキルクがいた。
彼女はただの一般人であったが、あるとき極大な力を持ち始めた。
それが全ての始まりだったらしい。
彼女が住んでいたのはただの掘っ立て小屋らしいが、徐々にそれが置き換わって大きな城や信仰・魔力的なものを集中させるため祭壇を作った。
その祭壇には、どこからか手に入れられた黄金の果実が祀ってあった。
その果実は徐々に羨望の目が向けられた。そう、あの魔女だけが口にすることが許されている神の実だというのだ。
信仰が果実となり、これを食すことによって神としての力を増し、信仰する者に恵を分け与えるというもの。
しかしその口伝は、徐々に誇大・誇張され始めた。
その結果、戦争が発生した。
圧倒的な力を持つ魔女は、その神といわれる手腕により勝利へと導いた。
だがその結果小さな小競り合いや内紛等によって、果実が奪われてしまった。
それ以降果実は行方不明になってしまったが、黄金の欠片というものが歴史書に記載されるようになる。
ちなみにこのころから、害虫という言葉も出てきた。
今までは不定形の生物とか虫、人ならざる者として紹介されていた。
それがキルクの黄金の果実を失ったころの年号と照合された、数々の歴史書はこの年の異変を如実に書き記していた。
主にコダイバナといわれる太古の大昔、花騎士システムが生まれる更に昔から言われる其れの輝きが次第に減少。
結果的に、害虫と呼ばれる存在が周辺区域に出没し、初めて人同士以外の戦闘が発生した。
そこから激動の時代。
技術革新が始まり、浮島とか神の光、コダイバナの力を収縮した光線兵器の出現、世界花の力を食い荒らし力を増す害虫の出現。
最終的にコダイバナが枯れる事と引き換えに、世界の平和は一応約束された。
その平和に至る為の過程は、コダイバナの恵みを一気に解き放ち、巨大害虫の強制封印とキルクの浮遊城塞の破壊。
そしてコダイバナの機能を、他の世界花に分散して各個機能するようにして完成している。
ちなみにこの各個機能によって、それぞれ国家と季節が発生したという。
昔はコダイバナの機能により、大陸中が平均気温に維持され世界花もただの地域の個性化のための印に過ぎなかった、と
団長が取り出した文献にのってあった。
今現在もバナナオーシャンに、過去の傷跡が残っている。
例えばキルクの遺跡。それはここ最近、やっと花が咲いてきたこと。
最近まであの遺跡近郊は、低木や雑草しか生えていなかった。
だがここ数年で、やっとヒマワリが自生しはじめたんだと。
二つ目。それはバナナオーシャン周辺の地形。離島だったり小規模の諸島があるが、
あれ全て浮遊城塞の破片。オーシャンキングダムとか言われていた君主制の国は、世界花と超絶な力を秘めた宝石により、空中に大地諸とも浮かんだ。
それが害虫との戦闘やコダイバナを使った決死の破壊活動によって、一気に破砕。
世界花はコダイバナの力によって、五体満足だった。それ以外は各地に分散。
昔はそれはもう、大きな半島だったといわれている。
今現在各所に見られる湖は破片により発生し、川も大地浮遊と落下、上流の水の流れで形成されたもの。
それでもあまり各地に傷跡が見えないのは、コダイバナの恩恵の消失と機能移転による気候変化。
夏という豪雨と強い日差しに充てられた植物は、すぐに生い茂り大地を隠した。
「なあ、世界地図をみたけど、ここ、大陸の端っこじゃないか。外はどうなってんだ?」
「荒廃しているよ」
「本当か?」
「本当さ。コダイバナが蒸発して、害虫がはびこって花騎士が殺されることによって、
花から力を貰える民族が減少しつつある。このままだと、このフラワーガーデンは、滅びる。
例えば外国にある菌糸の国とかに、そのまま食われるとか」
なんか色々、聞いてはいけない事を聞いた気がする。
「それ、何人知ってんだ?」
「たぶん僕らを除いて数人じゃない? だから、緘口令ね」
「わかった」
「わ、わかりました」
静かに聞いていたアブラナは、冷や汗をかいた。
「で、この黄金の果実なんだけど、今からたぶん私は本当の団長になるんだろう?
だったらその果実を使って、適正ある子に食わせてやってくれないか?」
「そういや途中だったね、忘れてたよ。それとその提案は乗るよ」
あの戦闘のおかげで、私はブロッサムヒルに戻れず花騎士を正式に配下につけられていない。
だから団長は許可したのだろう。
「じゃ、よろしくな」
「次来るときまでには、見つけておくよ」
そういって、僕らは笑いあった。
そりゃそうだろう。なにせあの禁断の果実なら、こいつらに利益がある。
だが我等EDFも黙っちゃいない。腕輪を持たせれば、EDFの仲間になっているという事で優先させられる。
無限の弾丸や兵器をもって脅し、奴らの優位性を覆してやる。
……
ふぅ。以前やったことの復習は完了したぞ!
情報整理もできたし、何が起こっても柔軟に対応できるはずだ。
ああそうだ。主任から言われた、エクリプスの影響も調べなければならない。
私は一路、リリィウッドへ足を運んだ。
女王だ、女王がいるぞ……!大きいねえ!
昆虫キモス[こっちへ来ます]!
撃てえ、撃てえぇ!
――とある地下ミッションより――
これやりたかったんですけど、事情が変わってしまいできなくなりました。
なんでこうなった……。