カルデアで送るベル・クラネルの日常   作:自堕落キツネ

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ソード・オラトリア10巻のレフィーヤの行動が、
「彼氏に隠し事をされていたのを知ってキレた彼女が詰め寄る」構図に見えたのは仕方ないと思います。


亜種特異点『四巴迷宮都市オラリオ』

それは、あり得た世界。

綱渡りと称される可能性に、敗北してしまった未来。

そして、本来ならばカルデアが関わることの無かった世界である。

 

 

 

ベル・クラネルは間に合わなかった。

『有翼の人型モンスター』発見の知らせに全力で駆けつけた。

だが、一級冒険者と呼ばれる者達はベルよりも高いレベル、ステータスを誇る。

スキルによって成長速度が速かろうと、潜在数値を含めても当然彼等、彼女等の方が素早く駆けつけることができた。

だからこそ、ベルの目の前で竜女(ヴィーヴル)の少女「ウィーネ」はその胸に槍を突き立てられ灰と化していった。

その時、ベルはウィーネと目があった。

声を発することもできない程に弱っているのに、今正に灰と化しているのに、彼女の口はこう動いていた。

「泣かないで。」と。

 

灰となったウィーネに愕然とするなか、ベルの周りでは一般市民の歓声が響き渡る。神々は面白い娯楽を堪能したと笑い転げながら帰っていく。そして冒険者達は掃除が終わったとばかりに淡々と帰っていく。

 

ベルの目には、彼等こそがおぞましい怪物に見えた。

幼い子供のように無垢な彼女を殺し、平然と、あるいは歓喜しているなんて、と。

ベルはウィーネの灰に歩み寄り、灰を一掴み掬い上げ普段は魔石をしまう袋に入れた。

訝しむ周りを無視し、ゆらゆらと幽鬼の如く歩いてバベルへと向かった。

 

引き留める声も聞こえず、そのままダンジョンへと潜っていく。

冒険者としての本能か、あるいは経験か。道中の襲いかかってくるモンスターは、瞬時に魔石を切り裂き灰に変え進んでいく。

 

辿り着いたのは18階層「アンダーリゾート」。

なんとなく天井を見上げぼんやりとしているベルに、背後から声がかけられた。

 

「少年、世界が憎いか?」

 

それは男とも女とも、老人とも子供とも聞き取れる不思議な、だが感情のこもっていない無機質な声。

 

「はい。」

 

「それは何故だね?」

 

「ウィーネを、皆を否定するからです。」

 

振り返ることもなくぼんやりと、心に浮かんだ言葉をそのまま返す。

 

「では、君がこの世界を変えるしかあるまい。これを君に贈ろう。これに君の願いを祈りたまえ。そうすれば、いかなる形かはともかく、君の願いを叶えてくれるだろう。」

 

ベルの足下にはいつの間にか、黄金の杯が置かれていた。

それは、数多の冒険者の死に際の負の感情によって生み出された魔力を利用して作られた、狂った聖杯であった。

赤黒い血管のような物が浮いているが、ベルはそれを気にせず持ち上げ、額に当て願いを祈る。

それをニヤリと、何者かは笑いつつ見つめながら徐々に透けていき、姿を消した。

 

「君の新たな物語を楽しませてもらうよ。元『英雄候補』君。」

 

と言葉を残して。

 

 

ベルの願いを受け取ったソレはベルの体に同化した。

 

「あぐっ!?………ぐぅぅぅぅ!?」

 

体に流れる違和感と奇妙な力の奔流、特に『神の恩恵(ファルナ)』の基点とも言える背中に熱を感じた。

ベルには見えないが、本来あったスキル『憧憬一途(リアリス・フレーゼ)』が消滅し、

万物破壊(カスティ・カタストロフィ)

復讐者(アヴェンジャー)

という二つのスキルが発現していた。

 

この二つの効果は

名前の通り、壊せない物は無い

復讐対象と対峙した時、全ステータス超補正

が主だ。

また、聖杯によって自動でステータスが常時更新される。

 

そして見た目も変化していった。

眼球の白かった部分は闇を思わせる黒に染まり、瞳は蛇のように縦に裂けた。

処女雪を思わせる白髪には血を浴びたように深紅がまばらに混ざる。

そして、まるで血の涙のように瞳から全身に深紅の紋様が走り幾何学的な刺青となる。

 

 

突然のことに困惑するベルだが、狂った聖杯に精神を塗り潰され、直ぐに疑問を持たなくなる。

そして、紫紺の輝きから赤黒い輝きに変化した『神の(ヘスティア)ナイフ』を鞘から引き抜く。

 

英雄願望(アルゴノゥト)』のチャージを開始するが、それは今までと違っていた。

白い光粒は漆黒の光粒へと変わり、音も澄んだ(ベル)でも、壮大な大鐘楼(グランドベル)でもない耳障りな破鐘(われがね)となり、辺りへと不愉快な音を響かせる。

聖杯の恩恵かほんの数秒でチャージは完了し、ベルはナイフを真上から真下までゆっくりと振り下ろした。

 

威力は絶大だった。下はダンジョンの最下層まで届いたのでは、と思わせる程に深く、上はオラリオから覗きこめる程の広さの斬撃痕が、

 

サンッ

 

と軽い音で生まれたのだ。

 

突然の出来事にオラリオの神々や冒険者、一般市民だけでなく、闇の派閥(イヴィルス)残党達も慌てていた。

 

 

既に精神を塗り潰され、正常の思考ではなくなったベルはオラリオへ向かって何度も壁を蹴って飛び上がり、困惑する周囲の人々に手当たり次第に襲い始めた。

それは蹂躙、という言葉が当てはまるだろう。

襲いかかってくる冒険者達も軽く蹴散らし、ベルの暴走は続く。

 

 

 

───────────────

 

 

新たな特異点が現れた、とカルデアのブリーフィングルームに集められたメンバーは、それに困惑していた。

 

「えぇとつまり、ベルの世界のオラリオが特異点に?」

 

「あぁ、そうだ立香君、まるで一枚の半透明な布が被せられたように、異なる世界が突然本来のモノに重ねて表示されたんだけど、以前ベル君に聞いていた地形と一部が一致しているんだ。だから恐らくとしか言えない。もしかしたら、カルデア(ここ)にベル君が居るからかもしれないね。」

 

「ベルが向こうの世界との縁を繋いでるかも、ってことですね。」

 

「その通り。」

 

う~ん、と左右のこめかみに人差し指を当てて情報を整理し、説明を理解した立香と、きちんと理解してくれて嬉しいのか、うんうん、と満足げに頷くダヴィンチちゃん。

 

「じゃぁベルには霊体化してもらってた方が良いかな?同じ人が居たら混乱させるかもしれないし。」

 

「そうだね。その方が良いと私も思うよ。」

 

「じゃ、後は現地で情報収集だね。」

 

「うん。よろしくね。」

 

「はい!!」

 

こうして、オラリオへのレイシフトは敢行された。

そこがどんな地獄へと変貌しているかを、当然知らずに。

 

 

───────────────────

 

「死ネェェェェ!!」

 

「お前が死ね!!」

 

「フッ!!」

 

「ヌン!!」

 

変質したベル。

好機と取り地上へ進出した闇の派閥(イヴィルス)残党の協力者レヴィス。

モンスターを駆逐せんと、一番の脅威を抑えるアイズ。

主神(フレイヤ)の命により、オラリオを守護せんとするオッタル。

 

ベル、レヴィス、アイズとオッタルの三つ巴で激しい戦闘を行っている。

そして、

 

「「「「ガァァァァ!!」」」」

 

ダンジョンより這い出してきたモンスター達。

深層からも出てきたモンスター達に多くの冒険者達は対処が精一杯だった。

だがオラリオの住人達の避難は済んでいる。

オラリオ全体が冒険者、モンスター、闇の派閥(イヴィルス)残党の三つの勢力の戦場となっている今、あちこちで瓦礫の山、死体の山、灰の山を築いている。

 

オラリオは全てが片付いてからもう一度復興させるしかない。

バベルは倒壊したが、地上をモンスターが悠々と闊歩する未来など許さない。

だがそれも勝てれば、の話だが。

 

「「邪魔だぁ!!」」

 

「「「グガァ!?」」」

 

目障りだ。とばかりにモンスターはベルとレヴィスに切り捨てられる。

その隙に斬りかかるアイズとオッタル。

それを二人はそれぞれ違う方向へ回避する。

レヴィスはついでに魔石を回収し喰らう。

 

こうしている間にもベルは強くなっていく。

それに対抗するにはどうすれば。

そうアイズに考えが過った時、どこからか声が聞こえた。

 

「何をやってるんだ!!」

 

目の前の少年と同じ、いや、こちらの方が見慣れた姿のベル・クラネルが、そこに居た。

 

 

 

ベルは心底驚いていた。

見た目が変化した自分が、アイズを殺そうとしている。と。

だが、その問い掛けは下策だった。

 

「何を、だと?」

 

背筋が冷える声で、ベル・オルタは返す。

 

「決まってる。リド達が自由に地上を過ごせるように、邪魔な人間を皆殺しにするんだよ。」

 

「な、なんで!?そんなことしても誰も喜ばない!!ウィーネだって!!」

 

「ウィーネは死んだ。」

 

その返答にベルは硬直する。

更に畳み掛けるように、アイズへとナイフの先を向ける。

 

「そいつの団長、フィン・ディムナがウィーネの魔石を貫いてな。」

 

「それに、お前も対象だ。」

 

「どうして!?」

 

「決まってる。間に合わなかった俺が、間に合ったお前を憎いからだ。」

 

ナイフを構えるベル・オルタにベルもナイフを構える。

 

「死にたくないなら、精々抵抗するんだな。」

 

「アイズさん!!オッタルさん!!力を貸してください!!」

 

「うん。」

 

「あぁ。」

 

「話は済んだか?」

 

会話をしている間、魔石を喰らい続け回復に専念していたレヴィスも立ちあがり構える。

 

 

そして、再び凄烈な戦いが始まる。




結末は皆さんのご想像にお任せします。
というぶん投げスタイルで。

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