《死神》と恐れられた優しき剣士   作:はまち

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第8話【死闘の果てに】

 ホルンカ村に綺麗な夕日でオレンジ色に染まる。

 アインクラッドは層になっているので、空は次の層の地面に擬似的な空でしか無い。

 だが、ホルンカ村は層の端に近い部分にあるので、層の間から夕日が差し込んでいるので、一段と綺麗だ。

 本当にここがソードアート・オンラインの中で体力が無くなったら現実の自分も死んでしまうデスゲームじゃなかったら素直に喜べたのに。

 そんな中、イヴは村の入口付近に体育座りでシャドウの帰りを待っていた。

 

 私が村に帰ってきて、シャドウの帰りを待っていること30分。

 未だに帰ってこないで、しかももう太陽が落ちて夕日が出てきている。

 まだ帰りが遅いくらいだったら長引いているのかな? と思えるのだが、今は違う。

 今私はシャドウとパーティーになっているので、シャドウの体力が見える。

 さっきシャドウの体力が一気にレッドゲージ付近まで落ちた時は夢を見ているのかと思った。

 もういっそこの事自体が夢だったらどんなに良いだろう。

 シャドウが命を賭けて戦っているのに私は安全な所で帰りを待つしか無い。

 祈ることしか出来ない。

 そんな自分に怒りを覚える程に悔しかった。

 自分がもっと上手かったらシャドウと一緒に戦えるのに……。

 シャドウは必死に私を守って私に危険が及ばないようにしているのに。

 いつかこのゲームで死ぬ時が来るのなら、シャドウと一緒に死にたいというのは我儘だろうか……。

 

 

 

 

 シャドウが私の事を助けてくれた時からなんでだろう……胸が苦しいのは。

 助けてくれたシャドウを見た時から苦しい

 きっと恐怖からだ。あの時、私はシャドウから離れるのを躊躇った。

 シャドウが死ぬのではないかという恐怖で胸が苦しいんだ。

 この村に来てからも収まらなくて、シャドウの体力が減っていくたびに苦しさが増している。

 きっと私は怖いんだ。シャドウが死んでまた一人になるのが。

 シャドウは命がけで私を守って戦ってる。これが続いたらいつかシャドウは私を守るために死んでしまうかもしれない。

 

 

 怖い。苦しい。痛い。

 

 

 胸が苦しいし痛い。

 一分一秒でも速くシャドウの顔が見て安心したい。

 そうすればきっとこの胸の苦しみや痛みも消える……。

 

 私が腕に顔を埋めてじっと待っている時、私は思い切り顔を上げた。

 微かに、たしかに聞こえた。草を踏む音、こちらに歩いてきている音。

 シャドウだろうか……?

 音が聞こえた数秒後、森の奥から姿を表した。

 

「え……?」

 

 私は思わず声を漏らしていた。

 森の奥から出てきたのは戦闘で傷ついたシャドウだった。

 私が声を漏らしたのはその見るのも痛々しい姿だったからだ。

 顔の右頬には赤いダメージエフェクトの傷口が出来ていて、体の至る所に同じような傷が出来ている。

 腹部には突き抜けたのか丸いダメージエフェクトが出来ている。

 それに加えて装備もボロボロでついてあった胸当ては無くなっていた。

 そして何より――――――左腕が根本からばっさりと切断されていた。

 痺れと重みが体に負担を掛けているのか、右手で根本を抑えてズルズルとゆっくりこちらに近づいてきている。

 焦れったくなって私は村の門から出てシャドウの所まで駆けた。

 

「シャドウ!」

 

 近づいてくる私に気づいたシャドウは私を見た後、口元を微かに緩めて脱力したようにがくんと倒れそうになる。

 倒れそうになる所を私が受け止めて何とか支える。

 

「大丈夫っ!? てゆうか腕は……」

「ああ、少し戦闘でしくじってな」

 

 声もいつものようにハリが感じられない。

 相当疲れているのだろう。 

 私に抱きつくように寄りかかる。

 仮想世界でも微かに人の体温を感じる。

 

 ―――なんで……収まらないの?

 

 まだ胸が苦しい。

 収まるどころかどんどん強くなっているような……。

 喜びからだろうか。それとも自分の為にこんな姿になっているシャドウに申し訳ない気持ちからだろうか。

 自然と発した声も震えていた。

 

「こんな……私の為に…っ」

「おいおい、泣くなよ…」

「本当に、帰ってきてくれてよかった! 一時は本当にシャドウが死んじゃうのかと……っ!」

「こんな所で死ねるかよ……だが、思った以上に疲れたみたいだ」

 

 ため息を付いた後、限界が来たのか、私に体を預けてくる。

 それに伴いシャドウの重みと感じる体温も増していた。

 ああ、やっぱり安心するな……。

 私は優しく微笑んで肩を貸しながら村に入っていった。

 さっきまで感じていた胸の苦しみか痛みか分からない違和感は既に消えていた。

 

 

 

 

 

 私たちはホルンカ村の宿屋に居た。

 疲れきったシャドウを休めるために胚珠は取れたらしいが、明日にして今日はもう休むことにしたのだ。

 ホルンカ村は小規模なものの生活に必要な宿屋などはしっかり完備されていた。

 部屋は木製の小さい机と椅子が一つ。下には丸いカーペットが敷いてあり、そしてベットがあるのみ。

 窓は無いのは残念だが、贅沢は言ってられない。

 シャドウをベットに寝かせ、毛布を掛けてやる。

 

「ごめんねー、まだクエストクリアしてないから手持ちのコルじゃ一人分しか取れなくって」

「じゃあクエストクリアしてからでも良かったんじゃ……?」

「駄目だよっ! 頑張ったんだからしっかり休まないとっ」

「だが、このベット一人用だぞ? イヴは何処で寝るんだ?」

「私は適当に床で寝とくからっ」

「だめに決まってるだろっ!? それなら俺が床で……」

「あーもうっ! 私のことは良いから速く寝て!」

 

 私はシャドウが喋り終わる前に体を起こしたシャドウを再び寝かせる。

 やはり疲労には勝てないのか、段々と目が細めていき、やがて目を閉じた。

 

「寝たかなっ?」

 

 シャドウが寝たのを確認すると、私は床で寝ようと体を起こそうとする。

 シャドウはああ言っていたが、元々私を助けてくれたのもシャドウだし、胚珠を入手したのもシャドウ。

 私は今回、村で祈っていただけだ。せめてゆっくり寝かせてあげて当然だろう。

 そう思うと私は体を起こそうと………。

 ふと、何かに引っかかり、体が止まる。

 なんだろうと後ろを振り向くと、シャドウが私の手首をガッチリと掴んで寝ていた。

 

 「ちょっと、シャドウ? ん~~! はぁ……」

 

 私がシャドウの手首を掴んで引っ張って離そうとするも、筋力でシャドウに勝てるわけがなく、びくともしない。

 しかも、シャドウがベットの端に左肩を上して寝ているので、腕の長さ的に床で寝ることはできなさそうだ。

 

「もう……どうしろってのよ……っ……」

 

 私はシャドウの方をじっと見て呟くと、固まった。

 それはシャドウが肩を上にして寝ているため出来たスペース。それは私が丁度入れるくらいの大きさだった。

 床で寝れない私は何処で寝る事が出来るのだろう。まさか立って寝ることなど出来るわけがない。

 そうすると残るは………シャドウが作ってくれたスペースで寝ることしか無い。

 

 「本当に……寝ろって言うの……?」

 

 私は後ずさろうとするも、腕を掴まれていることに気づき、諦める。

 別に嫌なわけでは無いはずだ。

 ……ただ、異性と一緒に寝るなんて初めてだから少し緊張しているだけだ。

 ……多分。

 こうしてる間にも睡魔が私を襲ってくる。

 現実世界ではいつも速く寝ていたので、今の時間にはもう寝ている頃だった。

 意を決して入ることにした。

 

 シャドウに掛かっている毛布をゆっくり持ち上げ、まず片足を毛布に入れ、その後もう一つの足を入れる。

 シャドウが既に寝ているためか、毛布の中は暖かく、昼間の恐怖で冷え切った体に滲みる。

 そのまま体を入れ、一息つき寝返りを打つと、シャドウの顔がドアップに視界に入ってきた。

 

 「!?!?」

 

 布団に入る事で完全に忘れていた顔が横にある事に驚いた私は思わず声を上げそうになるのを両手で口を塞ぎ必死に抑えた。

 それは鼻と鼻がくっつきそうになる程の近さで……!

 私は耐えられなくなり、頭ごと毛布に入った。

 息を吐き、自分の心臓が暴れて居るのが分かった。

 いつの間にかさっきの胸の違和感も復活していた。

 

 何なのだろう。この胸の違和感は。

 胸に手を当てると心臓が暴れているのが分かる。

 

 ―――何か変にドキドキしてる……? いやこれは異性との初めて一緒に寝ることにドキドキしてるに決まってる! 

 

 と無理やり自分に言い聞かせ、視線を目の前に移すと、そこにはシャドウの上半身が見えた。

 私の小さい体よりも何倍も大きくて、頼りがいのある体。

 森の時も私を救ってくれた時のシャドウの背中は頼りがいがあって、安心した。

 そう思いながら私は上半身に近づいていき、少し、ほんの少し寄り添った。

 少し寄り添っただけでとても安心した。

 今日は私の人生で一番最悪な日になると思うけど、そんな事を今だけは忘れる事ができた。

 仮想世界でも微かに寄り添っているだけでもシャドウの体温が感じられる……。

 それは安心するとともに眠気も強くした。

 

 ―――今日は色々あって最悪な日だろうけど、こんな風に寄り添って寝れたなら良いかな………!?

 

 途端、私は上半身に寄り添っていた額をがばっと上げ、今の状況を改めて理解した。

 段々奥底から恥ずかしさが溢れて自分でも何をやっているんだろうと思う。

 耳まで赤くなるのを感じ、私は肩を小刻みに震わせていた。

 

 ―――こんな事になったのも、こうなるように仕向けたシャドウの性だ!

 

 私は右手(・・)を振りかぶり、シャドウの上半身を叩こうと……。

 した所で自分にバカバカしくなり、力が抜け、振りかぶった手はぽすっと音を立てるだけに終わった。

 私は顔がまだ赤いのを感じ肩を震わせて、

 

 「~~~~~~もうっ!

 

 私は薄暗い部屋の中で小さく叫んだ。

 

 

 

 だが、イヴは気づかない。

 もう既に右手が開放されている事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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