作者自信気をつけてはいますが、なぜこのソードスキルは熟練度○○なのに使えるの?
などが起こるかもしれません。
間違いがありましたら報告ください。
ホルンカ村の近くの森はリトルネペントの住処になっている。
中に入ってみると案外薄暗く、昼の内じゃないと暗くてまともに見ることが出来ない。
だから、速くこのクエストを終わらすために急いで来たのだ。
雑草が膝の辺りまで伸びていて、その道を無理に進むこと3分。
やっと雑草が短くなり、抵抗もなく進めるようになった。
―――これはもう少し進めばネペントの出現範囲に入るな。
シャドウがそう思い、一旦足を止める。
「よし、イヴ。もう一回確認しておこう」
「まずこのクエストはリトルネペントを倒すクエストだ。リトルといっても、1メートルは自足歩行植物だ
「主な攻撃方法は左右の触手による攻撃、弱点である口からの毒液攻撃。これは斬ることも出来るが、素人がやると大変な事になるから素直に避ける方がいい」
「クエスト達成方法はネペントの胚珠の手に入れること。胚珠は花付きのネペントから入手できる。間違っても実付きは倒さないように」
「だが、花付きのネペントが出る確率は100分の1。効率化のため、ある程度離れて倒していこう。花付きが出たらすぐに俺に知らせること」
「ここまでわかったか?」
隣で話を聞いていたイヴが頷く。
「よし、じゃあ早速倒していこう。暗くなる前に終わらしたい」
そして、ネペント狩りが始まる。
ネペントのレベルは平均3。偶に低い奴や高い奴が居るくらい。気をつけていれば別に苦戦する相手ではない。
俺はネペントの出現範囲に入りイヴと少し距離を置く。
ジャキッと音を鳴らしながら背中の剣を抜き、いつ出てきても良いように臨戦態勢に入る。
「……いた……」
目の前に丁度2体のネペントが沸いて出て来る。白い体に足は植物の根っこの様に伸びていて這いずりながら進んでいる。
根っこ付近から左右に伸びる2本の触手。先端は葉の様になっている。
そして、大きく裂けた人間の唇のような巨大な口。
残念ながら頭の天辺には何も生えていない。
「ハズレか……まぁ、最初に見つかるわけ無いわな……」
「ふっ!」
口に意識を集中させ、地を蹴る。
―――まずは、2体のネペントの距離を離す。2体同時に相手するのはデスゲーム化したこの世界では茨の道だ。
俺は慎重に近づき、1体だけにターゲットされるように近づく。
「よし、そのままこっちにこい!」
ネペント同士の距離を置き、今もなを這いずりながらゆっくりとこっちに近づいてきている。
そして、口に向かってジャンプをして一気に距離を詰める。
ネペントが口から毒液を吐き出し、球体になって攻撃してくる。
「そんなの…! 読めてる!」
俺は垂直に毒液の球体を斬った。
斬った毒液が服に掛り、じゅわっと消えていき、体力が少し減る。
俺は舌打ちを鳴らしながら空中でソードスキルの構えを作る。
途端、刀身が音を鳴らしながら青いライトエフェクトに包まれる。
そしてネペントに口にV状に斬りつけた。
片手剣垂直2連撃ソードスキル。《バーチカル・アーク》
さっきの2発で体力が無くなったネペントは透けていきやがて四散しながら消えていく。
左手を地面に付けながら着地し、2体目のネペントに視線を移す。
ネペントが右触手で攻撃してくる。
俺は腰を落とし、右手の剣を後ろに回す。
それと同時に誰かから背中を押されたように地を蹴り、そのままのスピードで走り出す。
俺は青く輝いている刀身に目を向けず、攻撃してくる触手の先端をじっと見つめる。
さっき発動した単発ソードスキル《ホリゾンタル》は対象を水平に斬りつける。
俺は右手にぐっと柄を握り、上半身を少し捻る。
触手に滑らせるように斬りつけ、抵抗を抑えて受け流す。
結果、斬られた触手は横の部分に少し切り口を入れるだけに留まった。
ソードスキルが終わった事でスピードは落ちたが、変わらずに走り続けられている。
ネペントが俺に向けて毒液を吐こうと口を大きく開ける。
「いい加減、お前の攻撃手段は単純すぎるっ!」
俺は毒液を吐くよりも前に口に向けてソードスキルを発動した。
空中で動きが加速し、そのままネペントの口を突いた。
片手剣基本突進ソードスキル。《レイジスパイク》
ネペントは奇妙な声を上げながら四散していった。
―――空中の的にも有効だから、《レイジスパイク》を選んだが、当たりどころが良かったか……。
俺は2体のネペントを狩り、周囲に敵がいるか見渡す。
周りをよく見ると、人間の足跡や木についている切り口を発見した。
―――やはり、数人はここに来たか。まだ、近くに居るかもしれないが、上手いこと入れ違いになってると助かるんだが。
などと思考してそろそろ次の獲物を探しに行こうとした時、左上の体力バーが一つ黄色まで落ちている事に気づく。
当然、俺ではない。という事は……。
「……イヴっ!」
俺は無我夢中で来た方向に引き返した。
やっぱり、一人で倒せると言ったのは間違いだった。
イヴは体を持ち上げてそう思う。
目の前にはリトルネペントと呼ばれる植物系モンスター。
左右の触手はうねうねと気味悪く動き、今にもこちらに攻撃してきてもおかしくない。
今回の作戦は元々シャドウは反対していた。
理由は言うまでもなく、イヴが一人でリトルネペントを相手するなど、危険過ぎると判断したからだ。
だが私ははシャドウに迷惑をかけないため、この世界にだいぶ慣れたことを説明し、何とかシャドウは許してくれた。
その時私はこう言った。
「そんな心配ないよー。さっきの戦闘でだいぶ仮想世界にも慣れたし、ソードスキルの発動方法も大体覚えた」
「しかもネペントっていうの私達と同じレベルでしょ? だったら大丈夫よ、さっきのイノシシのように倒せるわ!」
そんな事を言い放ち、シャドウはかなり渋々そうな顔で頷いたのだ。
今になったらそんな事を言った過去の自分に悪口の一つでも言ってやりたい。
本当はそんな単純じゃなかった。
攻撃方法は教えて貰ったけど、何処に来るかわかんないし、何とか避けるので精一杯。
元々私は長い間、入院していたから最近体を動かしたことなんて無かった。いきなり動いても疲労しきった体が前のように動くはずもなかった。
いきなり出会ったネペントに苦戦している間に後ろからもう1体のネペントが来て挟み撃ちされた。
―――シャドウはMMORPGは数が脅威になるから絶対に一人で2体以上を相手にするなって言ってたけど、これじゃまんまとしてやられたって感じじゃない……。
何とかして避けながら近づき、口に細剣基本ソードスキル《リニアー》を当てられて倒すことが出来たが、流石に2体目はそう上手くはいかなかった。
しかも、何回か攻撃を食らってもう体力は半分きっていて、そのせいで余り思うどおりに動けない。
―――シャドウはこの世界は痛みは無いとか言ってたけど、なんか攻撃食らった部分が痺れてくるし、なんか重い。確かに痛みは無いけどこれじゃあっ……!
瞬間、イヴの頭の中にこれまで考えることを避けていた一言が浮かんだ。
このままじゃ……死ぬ。
死に対する恐怖。それが今までイヴが思考していた頭の中をその一言が埋めた。
―――死ぬ……このままじゃ、本当にっ! シャドウが助けに来てくれる? ……わけがあるはずがない。シャドウも私と同じように戦ってる。私を助ける暇なんか……。
そんな事が頭をよぎり、イヴの頭を恐怖で埋め尽くしていく。
段々と負傷していた部分の痺れが消えて、代わりに体が凍るように冷たくなる。
指や腕が痙攣し、やがてイヴはその場に顔を隠すようにしゃがみこんでしまう。
イヴは自分が自殺をしようとしていたのが嘘に思える程、死に対する恐怖がある事に気がついた。
何かしないといけない。
そんな事はもう考えてはいるが、行動する勇気も気力も無かった。その分恐怖があったからだ。
既に右手に持っていたはずの細剣は地面に落ちていて、剣の腹に反射してこちらに攻撃をしようとしているネペントの姿が目に入った。
「ぁ…ぁ…」
ネペントなどのモンスターはAI。
イヴがどんな状況だろうと、プレイヤーに攻撃を仕掛ける。奴らにはそうゆう命令が下されている。
待ってくれるはずもない。
イヴは細剣から目をそらし、目をギュッと瞑った。
そして、この世界で一番信頼している名前を言った。
「……助けて……海斗っ……」
触手がイヴに高速で近づく。
瞬間、イヴは死ぬ事を覚悟した。
だが、イヴに触手が当たることは無かった。
「……えっ?……」
まだ声が思うように出ず、かすれるような声を漏らし、顔をあげる。
そこには自分に数センチの所で留まっている触手とそれを掴んでいるシャドウの姿があった。
「海斗っ!」
イヴは喜びの声を上げた。
間一髪。
俺の頭の中はその一言と間に合った喜びがあった。
何とか触手を掴むことができ、イヴに当たるギリギリに間に合った。
―――普通にそのまま斬れば良かったのに、掴んでしまうとは焦りからか……注意しなければ。
俺はネペントの案外ある力に顔を歪めて必死に止める。
右手の剣を振り上げ、触手を垂直に切り裂く。
「あぶない……筋力パラメーターがギリギリだった……何とか止められたが」
「海斗……」
「イヴ、下がれ。ここは俺がやる」
イヴは頷く事もなく、無言で下がる。
俺は目の前にいるネペントをにらみ、怒りに任せて突っ込んだ。
「はぁぁ!!」
口を垂直に斬り、ネペントが透けて四散していく。
怒りにまかせて突っ込んだことで、何をしたのか余り覚えていないが、倒すことが出来たらしい。
俺は剣を背中に収め、イヴの方に歩く
「助けに来てくれたんだ……海斗」
イヴが震える声で言いながら立ち上がろうとして、後ろに尻もちをついた。
「えっへへ……なんか腰が抜けちゃった……」
「大丈夫か?」
俺は肩を貸し、イヴを立たせる。
「しかし、やはりイヴ一人では危険だった。イヴ、今すぐに村に帰るんだ」
「え? それじゃあ……」
「んっ!?」
シャドウの迷惑になる。と続けようとした途端、口を塞がれる。
そして、両手をイヴの肩に乗せる。
「お前はまだ迷惑、迷惑言ってんのか? 俺は今までイヴに迷惑を掛けられた覚えはないし、迷惑を掛けてもない!」
「だが、コレだけは肝に命じろ。イヴが唯一俺に迷惑を掛けることは、お前が死ぬことだ!!」
「イヴが死ぬことが俺に取っての迷惑だ! だからもう諦めるんじゃない。俺に迷惑を掛けたくないんだろう? だったら死にそうになっても逃げたりして足掻いてみせろ!!」
「……ごめんなさい……」
―――こんな真剣な海斗の顔、初めて見た……。
「すまない、取り乱した。わかればいい。イヴこれを飲んで今すぐ村に戻るんだ。胚珠は俺がやっておく。夜までには帰るから待ってろ」
「うん」
俺が渡したのは回復ポーション。
イヴはそれを飲み干し、段々と体力が回復していく事を確認すると、気が抜けた。
「はぁ……俺としたことが、どんな事があってもイヴを守ると誓った矢先に……」
「シャドウのせいじゃないよ! 私が無理に頼んだから…」
「いいんだ。それを断りきれなかった俺も悪い―――っ!」
俺はそう言いながら振り向くとネペントが近づいてきているのが分かった。だが、
「花付きだ……」
「えっうそ!?」
イヴも俺の横から花付きをみて「おおー」声を上げる。
―――おかしい。今までβテストでも花付きは2体のネペントと一緒に行動しているはず。なぜ花付きだけなんだ……? 仕様が変わったのか? いや、それじゃあ……。
そんな事を思考していると、答えはすぐ出た。
なんとネペントが奇妙な咆哮を上げながら、体が発光し始めた。
まさかと思い、
「イヴ…今すぐ村へ帰れ……」
「え?」
「速くしろっ!!」
「は、はいっ」
イヴは怒鳴りつけられると素早く村の方向に走っていった。
―――まさか……ある噂を聞いたことがある。極稀に花付きが単体で出てくる時があると……。だが、元々の確率が低い分、βテスト時には噂ぐらいで調べても一切情報が出てこなかった。
だから、たかが噂だと決めつけていたが。
発光し始めたネペントが光から開放される。
体は元のネペントよりも大きい。
白かった表面はドス黒い赤に変わり、真っ黒い斑点が体中に出来ている。
左右の触手は細くなり、先端は尖っていて、弱点である口は一回りくらい小さくなっていた。
そして、頭の天辺の花。変化前は綺麗と呼べる花だったが、こちらもドス黒く染まっている。
「いわゆる……特殊個体ってやつか」
途端、ネペントが威嚇するかのように奇妙な咆哮を上げた。
周りの草木が大きく揺れ、近くにいた動物達も逃げていく。
「戦うしかない……かっ」
俺は奥歯を噛み締めながら背中の柄を強く握った。