《死神》と恐れられた優しき剣士   作:はまち

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第2話【運命の糸】

「私は、東京病院で看護婦をしております。立花 和美(あい)と申します」

「はい、で要件は何ですか? 少なくとも俺は、|まだ病院のお世話になるような事はしてないと思いますが」

「はい、そうなんですけど...え? まだ? ……じゃなくてですね、少しお話がありまして」

「…はぁ」

 

 俺は少し面倒くさくなりながらも椅子に寄りかかりながら聞いていた。

 

「凄く驚く話だと思うのですが、どうか落ち着いて聞いてください。実はあなたには妹がいます」

「――は?」

 

 俺は思わず聞き返してしまったが、電話の向こうにいる女性は無視して話を続けた。

 

「私は今、影山 李鈴という方を見ているのですが――」

「ちょっと待って下さい。今頭を整理します」

 俺は話を続けている和美さんを止め、思考しながらふと、問う。

「あの、それが本当なら今の俺の家族事情は知ってますよね」

「…はい」

「俺の親は二人共いなくなったんですよ? そもそも俺は一人っ子です。だから俺は今まで孤独に耐えて過ごしてきたんだ!」

 

 俺は頭で思考をしている内に段々苛立っていきて声を荒立てた。

 

 ――俺に妹がいるだと? なぜ親父は出て行く前にそんな大事なことを一言も言ってくれなかった、それになぜ今まで教えてくれなかった。

 俺に家族がいたなら俺は……俺は!

 

「こんなに苦労してなかった!!」

 

 思わず声に出してしまった怒りの叫びと共に隣でドンッと壁を叩く音が響く。

 だが、和美さんは予想していたかのように冷静に返してくれた。

 

「落ち着いてください。あなたが一人っ子なのは間違いありません」

「すみません、取り乱しました――は?」

 

 再び付け加えたようにさらっと言った言葉を俺は聞き逃さなかった。

 

「えっと電話では話し辛いですし、本人に会わせたいですし東京病院に来て頂いてもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が覗く窓ガラスの視界が凄い速さで景色がスライドしていく。

 タクシーで東京病院に向かう途中、俺はもう一度電話のことについて思考を回らせていた。

 

「お客さん、付きましたよ」

「はい、ありがとうございました」

 

 俺はお金を払い、タクシーから降りると、

 

「流石にデカイな……]

 

 俺は東京病院の規模に唖然と呟いた。

 日本の病院で一番だと言われている東京病院。その建物の大きさは凄まじく、学校より一回り以上はあるだろう。

 ひとまず中に入り受付に向かった。

 

「えっと、影山李鈴さんの面会に来たのですが…」

「――っはい、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

 一瞬、血の気が引いたような顔をされたのは気のせいであってほしい。

 ていうかこの人だけじゃなくて、周りの人からも何か怪しい目で見られてる気がする。

 

「影山海斗です」

 

 名前を名乗った途端、受付の人達が一斉に驚いた。中には「えっ!?」と声も聞こえた。

 

「すみませんっ! 李鈴ちゃんのお兄さんでしたか、予想と全然違ったので不審者でも来たかと……っと失礼しました。えっと今先生をお呼びしますので」

 

 全く隠せてない本音を言って受付の人は奥の扉に入っていった。数秒後、扉が開き全くの別人がでてきた。

 

 20歳後半くらいだろう、一言で言うならダンディーな見た目をしていて半袖から出ている二の腕は鍛えているのか引き締まっている。

 

「やぁこんにちは。わざわざ来てくれてありがとう。私はこの病院で医師をしている竹田と申します。よろしく、お兄さんっ」

 

 陽気な声でそう言いながら俺の肩に手を置いてきた。顔を見るとしてやったとばかりにニヤニヤしていた。

 

 ――やべぇ初対面だが、無性にぶん殴りたい。

 

 俺は何とか怒りを覚えて、

 

「御託はいい、速く電話の内容を詳しく」

「おっと、手厳しいね。じゃあこっちに」

 

 俺が案内された所は3階の個室に連れてこられた。

 客室に連れてかれると思っていたのだが、部屋はただ真ん中にぽつんと机と椅子が置いてあるだけだった。

 

「すまないね、他が空いてなくて、それにあまり他人に聞かれたい内容でもないしね」

 

 そう言い、俺達は向かい合わせに座る。するとさっきの陽気な雰囲気をただ寄せていた顔は真剣な顔に変わった。

 

 俺もそれにつられて思わず顔を引き締める。

 

「じゃあ電話の件なんですが、半信半疑だと思いますが、あれは真実です」

「戸籍上は違いますが、名前はあなたと同じです。あとこれが李鈴さんの保険書です」

 

 そこには確かに影山李鈴と書いてあった。保証人は――

 

「親父?」

「はい、実は李鈴さんはあなたのお父さんの孤児です」

「孤児……ということは親父が拾ってきたのか?」

「はい、あなたのお父さんが海外出張に行ってる時に捨てられた李鈴さんを保護し日本に連れてきてたんです」

 

 ――そういえば昔親父が出張に行っている時、会社の人が戻ってきてなぜか親父だけが一日遅く帰ってくる事があったな、あの時の母さんの心配そうな顔を今でも覚えている。

 

「赤ん坊の頃だったので、李鈴さんは気づいてないと思います」

「で、最近親父が母さんを失ったショックで俺を捨てたからその影響で李鈴も捨てられてしまったと」

「はい、その時は病院に入院していたので今ではこの病院で保護していますが――」

「保護じゃないだろ? 治療だろ」

「えっ?」

 

 俺は竹田医師の話を断ち切るようにして続けた。

 

「なぜそんな嘘を付くのかは知らないが、こんな日本で一番と言われている病院で、何の病気もない少女をわざわざベット一つ使って保護するなんてありえないだろ。保護するならこんなデカイ病院のベットを使うより、他のところでいい」

「しかも、この病院で治療中だということは李鈴が患っている病は相当深刻だろう。違うか?」

 

 竹田医師は口を半開きにしながら俺の話を聞いていたが、やがて微笑みながら、

 

「こっちが驚いてしまいました。ちゃんと順を追って話していくつもりだったのですが、そこまで予想していたとは」

「俺は速く本当の要件を聞きたいのでな」

「では、本題に入りましょう」

 

 

 

 

 

 暖房が効いた部屋の中、さっきの受付の人が持ってきてくれたコーヒーを少し飲み、口を(うるお)わせて竹田医師は口を開いた。

 

「あなたが言っているように、李鈴さんは今は大丈夫だと思いますがこの状況が続けば不味いことになります」

「李鈴さんがかかっている病は遺伝による物なので恐らく捨てられた親の遺伝による発症かと」

「そして、親が病にかかって子育てが限界に来て捨てられたと」

「はい、恐らくは。ただ、病自体はこの病院のような大きい所で手術すれば治る可能性が高いのです」

「? ……ならなぜ治そうとしない?」

「それは、李鈴さんの体質にあります」

「李鈴さんは麻酔が効かない――というか麻酔に拒否反応を起こす体質だったのです。麻酔をすると全身が大きく震えだします。震えている状況でオペを出来る程の腕をがある人はいないですし……」

「それに、空気でも注射でも駄目、私たちは正直お手上げでした」

 

 俺は外見では動揺を見せず、指を目の前で交差させ、余裕の笑みを何とか作り出した。

 

「ほう、この病院でもお手上げな体質か、だが俺がここに呼び出せれているって事はあるんだろう? どうにかできる方法が」

「あなたは本当に頭がキレますね。はい、一つだけあります。李鈴さんの体質を無効化して手術ををできる方法が」

「それはフルダイブ技術を使うことです」

 

 大方予想通りの答えが帰ってきた。だが、

 

「フルダイブ技術は五感の全てを脳に伝えない事が出来るからフルダイブによる麻酔の危険性や駄目な体質を守る人を救える考え方だろう」

「だが、流石に脳の五感を塞き止めている電力でもナーヴギアじゃ流石にメスで斬られる痛みは消しきれないと思うぞ」

「はい、そのとおりです。でも、フルダイブ技術はあなたが思うよりずっと進化をしています。あなたが言う電力を最大限に上げれば斬られる痛みも消せます」

「つまり、その技術を使えば、李鈴の手術が出来ると」

 

「はい、元々麻酔の代わりとして期待されていたフルダイブ技術ですから、今も試作品中の試作品は完成しています」

「ですが、今の所はただ患者をフルダイブして麻酔を使わずに痛みを消せて中でゲームを出来るくらいしか出しません」

「そして、あなたに頼みがあります。手術を自体は保険が効くのですがこの試作品の医療用フルダイブ機は保険が効きません」

「だろうな」

「その保険が効かない試作品は一体おいくら万円で使わせてもらえるんだ?」

 

 そう言うと竹田医師は顔を俯けて眉間にシワが寄る。

 

「今回は異例という事で借りなられましたが、その金額は200万円です。我々も何とか頑張ったのですがコレが限界でした」

「まぁ国家レベルで研究している代物を200万で借りれるだけまだ良いほうさ」

「一応本人には許可を取っ手います。李鈴さんの保護者であるお父さんのお父さんの居場所がわからない以上、あなたが李鈴さんの保護者です。無理にとは言いませんが……どうでしょう?」

「確かに俺にとっては受けたほうが良い。だが、まだ決められないな。まずはその試作品と李鈴本人と話がしたい」

 

 俺はあの部屋から出て、白いタイルの廊下を歩いていた。

 この病院は日本で一番を誇るはずなのだが、こうして歩いていると殆ど人はいない。

 もしかしたら李鈴の事を詳しく知っている人は少ないのかもしれない。

 俺は思考をしながら歩いて、数分。「ここです」という竹田医師の言葉で思考を停止する。

 

 ――ここが、国家レベルで研究している医療用フルダイブ機が置いてある場所か…

 

 そこは大人が通っても余裕で隙間ができる程の大きいドアだった。俺は視線を扉の横に移す。

 そこには【特別手術室。関係者以外立ち入り禁止】と書いてある。

 竹田医師が自分のネームプレートをスイッチにかざすと音と共に自動ドアが開いた。

 扉の奥は暗闇だった。竹田医師が入った途端部屋に明かりがつく。

 

 まず視界に入ってきたのは部屋を仕切るガラス板だった。そのガラスの奥は何も見えない暗闇。

 

「このガラスの先が試作品が置いてある場所だよ。今明かりをつける」

 

 すると部屋の橋にあるスイッチを入れる。途端、ガラスの奥が眩しいほどの光りに包まれ思わず目を細める。やっと明かりに慣れてきて奥が見えてくる。

 

 その先にあったのは人が寝るには少し大きいベットと周りには医療道具らしい物が置いてある。そして中心のベットの上半分に被せるように黒い四角の物体があった。

 

 ガラスの奥は結構の広さがあるはずなのだが、あの黒い物体が部屋を占領していて周りにある医療器械のどれよりも大きい。

 

「この部屋は無菌室だから、必要な時以外は開けないから入れないのは我慢してほしい。そしてアレが医療用フルダイブ機の試作品だよ」

「その試作品というのはもしかしてあの黒い物体か?」

「ああ、そうだよ。見た目からじゃただの黒い物体にしか見えないだろう? でも試作品じゃ外見何て気にしないもんだよ」

「確かにな」

「さっきも言った通りあれはまだ麻酔の代わりになる機械でしかない。もしも今回の事があれば医療用フルダイブ機の研究は大いに進むだろう。そしたらすぐ近い未来にコレを必要としている人を救えるかもしれないんだ」

「どうだい? 実物を見て気は変わったかい?」

「残念ながら俺にはそんなテンプレみたいな同情は効かない。まだ決められない。次は李鈴に会う」

「分かってはいたけどね。さぁ李鈴さんの部屋はこっちだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございました

今回は医療に関わってくる内容でしたが、作者は医療に関する知識を全く持っていないのでおかしな点が見られるkもしれません

ただ李鈴にフルダイブして貰う理由として医療を絡ませただけなので……


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