取り敢えず、次は遅くとも一週間以内にはあげます! 一応話の構想はできてるので書けるはず……
というか、アンケートをとったくせにそれを全く反映させてない馬鹿な作者で申し訳ない……つ、次はきちんと回収しますから!
というわけで、このお話は夏の間どんなことがあったのかという幕間です。ストーリーには一切関係がありません!(多分
天気は快晴。夏の日差しは阻むものがないとばかりに燦々と大地を焦がし、地を這う人々に茹だる暑さをお届けする。
どうも! 今日も貴方に、天上からの日差しをお届けです♪
もしそんなキャッチフレーズがあったとしても、俺は
下手したら洗濯物だけでなく俺さえも干物になりかねないこの炎天下で、外を歩くのなんて嫌にもなるだろう。雲さん頑張って。仕事して仕事。
「とまぁ、そんなわけで買い物につきあえ」
「さも続きのように変なこと言わないでくれない? いったいどんなわけがあるんだよ」
「聞くも涙、語るも涙の壮大な物語だ。尺の都合で割愛するけどな」
「尺って何だよ……」
こんなくそ暑い中でも、買い物に行かなければ食うものはなくなる。こんな気候だからこそ、いっそう健康に気をつけなければすぐに体調を崩してしまうだろう。熱中症だって最悪死に至るんだし、警戒に越したことはない。それに──
「大体、なんでエアコンつかないんだよ。蒸し死ねって言いたいのか?」
「いや、俺に言うなよ……なんかぶっ壊れてるらしくて、修理してもすぐ動かなくなるから諦めた」
「新しいの買う予定は?」
「金がないので無理だな」
「あっはい」
タケルくんの部屋についているエアコンは、絶賛職務放棄中で使えない子に。今時ストライキなんてはやらないっていうのに、なんて面倒な。
そんなこんなで、下手したら外よりも蒸し暑いこの部屋の中にいたら命が危ないと、タケルくんを連れ出して外に出ようと画策しているところだ。
なぜ一人で行かないのかって? 荷物持ちがいた方が楽だからに決まっているだろうJK。
「ほら、うだうだ言ってないでさっさと支度しろ。世界は待っちゃくれないぞ」
「あ、もう行くことは確定なんですね……ってか、暑いの嫌なら涼んでくる午後に行けばいいだろ」
「は、甘いな。そんな時間まで待ってたら買うもんがなくなってる。特に今日はセールだからな、店の中は戦場だぞ」
「余計行きたくなくなったんだけど……はぁ、わかったわかった。一人で行って貰うのも何だし、俺も行くよ」
「よし、ナイスだ草薙。これで荷物持ちゲットだぜ」
「本人目の前にして臆面もなく荷物持ち発言とかやめてくれない?」
非常にげんなりとした顔をするタケルくんを横目に見つつ、俺は密かにガッツポーズ。歩くだけでも暑いのに、荷物持ちながらとかそれこそ死んでしまう。
タケルくんはいいのかって? あいつは鍛えてるから平気平気。いざとなったら俺が看病すればいいだけだし。
後は雪崩のように品物に突撃する主婦達さえなんとかなればいいんだが……流石に、この体であれに飲み込まれて五体満足でいられる自信はないし。
……仕方がない。極力競争率の高いものは避けていこう。別に材料が足りなくなって料理が作れなくなるわけでもなし。取り敢えず荷物持ちもいることだし、いつもより多めに買ってみるか。
◇ ◇ ◇ ◇
「う゛あ゛ぁ……死ぬ、死んじまう……」
「あはは、お疲れさま草薙。いやー、荷物持ちがいると楽でいいね?」
「くっそお前……第一、これ買いすぎじゃね? 何人分あるんだよ」
「ちゃんと二人分だよ? 一日分じゃないだけで」
「どうりで……」
机の上に頭を横たえながら死にそうな声を上げるタケルくんの前に、水の入ったコップをことりとおく。
タケルくんはそれを緩慢な動作で掴み取ると、一気飲みしてようやく一息ついたように瞳に光を取り戻した。うんうん、わかるよその気持ち。こういうときの水の一杯って格別だよね。
タケルくんの姿に共感を覚えてうんうんと頷いていると、きょろきょろと周りを見回したタケルくんが首をかしげながら声を上げた。
「それにしても、俺ファミレスに入るのは初めてだな。ってかなんでここ来たんだ?」
「別に家に直帰でもよかったんだけど、エアコン壊れてるじゃない? 流石にここまで付き合わせちゃった手前、死ぬ一歩手前の草薙を放置するのが忍びなくて」
「そうか……いや、正直助かる。いろいろ疲れてたし、涼しい場所だと気持ちよく休めるからな」
「本当にね。それにしても、汗で服がびちゃびちゃだよ……これは、帰ったらお風呂かな」
「お、おう……そうだな」
「……? どしたの草薙?」
「い、いや。何でもない」
感触が気持ち悪いのと涼しい空気をいち早く送りたくて上着をぱたぱたしていたら、何故かタケルくんが目を露骨に逸らし始めた。不思議に思ってたずねても返事は曖昧だし、何故か顔が少し赤い……
ははん、さてはタケルくんのやつ、本当はまだ暑いんだな。まぁ、あれだけの荷物この気温の中運んできたらそりゃ暑くもなるか。タケルくんも服扇げばいいのに、恥ずかしいのかしらん?
「んー、そだ。草薙、帰ったら先にお風呂はいりなよ。私以上に服汗まみれでしょ?」
「あ? いや、俺は別に後でいいよ。汗まみれなのは慣れてるし」
「いやいや、慣れてる慣れてないの問題じゃないから。あれだけ汗かいたんだから、多分臭うよ? さっさと入った方がいいって」
「んなこと言ってもなぁ……大体、お前も汗かいただろ? だからお前入れよ」
お風呂くらいは先に涼ませてやろうと提案するも、何故か頑なに断るタケルくん。いや、そりゃ俺も一刻も早く風呂入りたいけど、なんか悪い気がしてならないし。
というかいい加減目を合わせてくれないものだろうか。なんでこの子さっきからずっと目を逸らし続けてるの? 話をするときは人の目を見てって学校で習わなかったのだろうか。
なんとなく腹が立った俺は、がばっと身を乗り出してタケルくんの両頬を手で挟むと、強引に正面に向けさせる。目の前でタケルくんが目を白黒させているが、そもそも目を合わせないタケルくんが悪い。人が話してるときはちゃんと顔を見ようね?
「な、おま、なん……っ」
「なんなんだ、はこっちの台詞だよ。さっきから何? ずっと目を逸らしちゃってさ。そんなに私の顔が見たくない?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ……」
「ならどういうわけがあるの? 言ってみなよ」
「その、なんつーか指摘していいことなのかどうかわからなかったんだが……」
「だから、なんのこと?」
「……怒るなよ? その、ほら。お前の服がさ、汗で透けてて……」
「……ほえ?」
タケルくんの視線をたどって下を見てみると、確かに服が透けて下着や体のラインがうっすらと見えてしまっている。なるほど、まぁ確かに目を逸らしたくなる気持ちはわからないでもない。だけど、そこは一言教えてくれてもいいんじゃないだろうか? 親友にいささか冷たいんじゃありませんこと?
「……このむっつりスケベ」
「むっつり!? いや、なんでだよ!」
「一言教えてくれればいいのに。何も言わないで本当は横目でちらちら見てたんでしょ?」
「うぐ、それは……」
「……え、本当に横目でちらちら見てたの? あ、ごめんちょっとそういうのは無理かも……」
「違うそこじゃねぇ! いや、だって女の子相手に服透けてるぞなんていえっかよ……」
「はぁ……あのね、草薙は私のこと知ってるでしょ? 第一、私たちは男女以前に親友なんだから。もっと気負いなく喋ってくれてもいいのに」
「なんかすまん……」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけどなぁ……そうだ、さっきのどっちがお風呂に先にはいるかだけど。いっそのこと、一緒に入っちゃおうか?」
「……はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるタケルくんに、店の中の視線が集まる。まぁ、こんなところで大声上げたらそりゃ注目されるよな。
タケルくんもそれに気がついたのか、慌てて声を潜めると言葉を続ける。
「いや、お前何言ってんの? 一緒に風呂入るって、お前……」
「ふふん、残念だけど草薙に拒否権はないよ。親友に恥かかせた罰なんだから」
「だからって、一緒に風呂って……ッ」
「ほら、よく言うじゃない? 裸のつきあいって。なんだかお互いに友好関係の見方に差異があるみたいだし、この際もっとよく知り合おう、みたいな」
「みたいな、じゃねぇよ! お前今自分がどうなってるか……」
「わかってるよ? わかった上でからかってるんだし。取り敢えず、大人しく背中を流されること。これは確定事項だから」
ドヤ顔でタケルくんの意見を封殺すると、ふと店員さんの視線が痛いことに気がつく。ここに来てから、何も頼まずに騒いでるだけだったし、そりゃ文句の一つも言いたくなるか。っていうか、よくよく考えたらどんな迷惑な客だよ。出禁になっても文句は言えないぞこれ。
よし、ひとまずタケルくんをからかうのはやめて何か頼むか。もうお昼食べてもいい頃だしね。
◇ ◇ ◇ ◇
というわけでやってきました、お風呂タイムでございます。無駄な抵抗をするタケルくんをようやくお風呂にたたき込んで、今はようやく一息ついているところ。
昼を済ませて家に帰った後、なおも抵抗を続けるタケルくんの服を無理矢理引っぺがしてやったから、仕方なしといった具合に風呂場へと入っていった。まぁ、その際に最後のあがきなのか鍵をかけていったみたいだけど。
「でも残念、ここの鍵ぶっ壊れてんだよな。ほんと草薙の家って至る所不具合だらけだわ」
タケルくんが体を流しているであろうシャワーの音を扉越しに聞きつつ、ぽいぽいと服を脱いでは洗濯機に放り込む。
最初のうちは見ることすらできなかった自分の体だけど、今はもう割り切って平気になっている。自分で言うのもなんか気持ち悪いけど、この体の外見はすごく整っている。だから、鏡で自分の姿を見て誰だこの美少女!? ってなったのは一度や二度ではない。
とはいうものの、いつまでもこの調子ではろくに体も洗えないと気がつき、一先ず慣れてしまおうとまじまじと自分の体を観察してみたりした。
変わった当初、腰のあたりまで伸びていた髪は緑がかった淡い青色で、肌は白く顔は人形のように整っている。胸はぺったんと言ってもいいくらいにない代わりに、尻がでかいのが目に映る。いや、別に尻もでかくなくてよかったんだけど。こういうの安産型っていうの俺知ってる。なに、俺に子を孕めと? っは、抜かしよる(絶望。
とかなんとか最初は思っていたけど、よくよく考えれば誰が中身男の女の子とそういう関係になりたいんだと。大体俺が無理だからそういう関係にはなりようがないと気が付いたとき、俺の気はきれいに晴れた。そして、なんだかんだ見続けていたからか自分の体を見ることに抵抗を覚えることもなくなっていた。これでほかの女の子の裸を見ても何も感じなくなってたらと思うとぞっとするけど。多分大丈夫だろう。……大丈夫だよね?
「確かめるために裸を見せてくれ、なんて頼めるわけもないしなぁ……いや、案外斑鳩のやつならいけるんじゃね? 代わりに何要求されるかわからないからしないけど」
あいつも性格があれじゃなければな、とため息をつきながらコンタクトを外すと、浴室への扉に手をかける。
そのまま捻ろうとするも、先程タケルくんがかけた鍵のせいで扉が開くことはない。一見すれば壊れていないように見えるこの鍵だが、鍵として致命的な部分を抱えていたりする。
「ていっ」
きちんと鍵がかかっていることを確認した俺は、迷うことなく取っ手の部分をグーで強めに叩いた。すると、ガチャリと鍵の開く音がする。ふ、やはり鍵開け(物理)は最強だな。こんなおんぼろアパートのセキュリティなんて有ってないようなもんだぜ。
扉を開けると、丁度髪を洗い終えたらしいタケルくんが手にシャワーヘッドを持ったままこちらを見て固まっていた。鍵がかかっているからと安心したのだろうか? ふはは、あの程度の障害俺にかかれば塵芥よ。
「な、おま……え、鍵かけてあっただろ!?」
「あったよ。開けたけど」
「開けるなよ!?」
「開けられる程度の鍵しかかけられてない扉が悪い。何者も我が道に立ちふさがることはできないのだふーははは」
「訳わからねぇ! ってか、お前せめてタオルくらいつけろよ! なんでそんなどう堂々と素っ裸なんだよ!?」
「……? いや、タオルつけてたら体洗えないだろ? 何馬鹿なこと言ってんのお前」
「いや、そうだけどそうじゃねぇよ!」
うがーッと頭を抱えて目を逸らすタケルくんに、俺は薄い笑いを浮かべる。なるほど、こんな体になって神様死ねとか思ったりもしたけど、こうやってタケルくんいじれるのは楽しいな。だからといってこの体を気に入るわけでは決してないけど、斑鳩の気持ちが少しだけわかった気がしなくもない。
まぁ、こんな時くらい楽しんでもいいだろうと内心黒い笑みを浮かべると、今尚頭を抱えるタケルくんの背中に回り込み、ぴとりと背中に触れる。
「それではお客さん。お背中流しますねー」
「は? ちょ、ばかか!? 良いよそんなことしなくても! 自分でやれるから!」
「良いから良いから。背中とか洗いにくいでしょ? 私が代わりに洗ってあげるってー」
「私って……ッ。お前、俺のことからかってるだろ!?」
「んー? さーて、何のことだろうねー♪」
「めっちゃ声弾ませてるじゃねぇか!」
そりゃ楽しいですから。いちいち反応を返してくれる相手がいると、弄り甲斐があるってもんだ。
それに、なんだかんだ言って全然抵抗しようとするそぶりが見えないのは、やっぱりタケルくんがむっつりな由縁だろう。本当にやめてほしいならいくらでも抵抗できるだろうに。
大人しくこちらに向けられているタケルくんの背中を泡立てたタオルでこすり始めると、大きな溜息を吐いてから漸く大人しくなる。人に背中を流して貰うっていうのは、自分じゃ洗いにくいところも難なく手が届くし実際気持ちが良いのだろう。まぁ俺は一度もやって貰ったことないけど。そんな相手いなかったし、そもそも別にやって貰いたいとか考えたことないし? ま、負け惜しみじゃねーから!
でもまぁ、洗われるのも良いけど洗う方も意外と楽しい。特に、タケルくんとは身長差があるし鍛えてるからか背中が広く見える。だから、なんかこう……うまく説明できないけど、がたいの良い背中をこするのは満足感が得られるんだ。
「……」
それにしても、タケルくんはかなり鍛えているだろうから筋肉むきむきなのかと思っていたけど、外見からはぜんぜんそんな風には見えない。筋肉ってなんか硬いイメージがあるけど、タオル越しにはそんな感じはぜんぜんしないし……
いや、もしかして背中だけ筋肉があんまりないとか? いやいや、でもあれだけ超人的な動きができるのに背筋だけないとか何の冗談だよ。いやいやいや、でもでも……
……うん、考えても分らんなこれは。取り敢えず、触ってみればわかるか。
「……っ!? ちょ、鯨澤!?」
「ん? どしたん」
「いや、どしたんって、なんで背中そんな触って……」
「あぁ、気にしないで」
「するわっ!」
ぺたぺたと背中を触っていると、焦ったような声をタケルくんが挙げる。だいじょーぶだいじょーぶ、変なことはしないって。斑鳩じゃあるまいし。
「ちょ……おい、鯨澤? マジでなんなんだ?」
触った感じ、そんながっちがちって感じじゃないな。うーん、腕も……そんな硬いわけじゃないな。もしかして筋肉って本当は柔らかいんだろうか?
「お、おい? 鯨澤? 鯨澤さん!?」
だとすると、筋肉もりもりマッチョマンの変態の筋肉ってどんな柔らかさなんだろう……?
うーん、気になる……実に気になる。それにしても、本当に筋肉って柔らかいな。これ、胸筋だって……
「うぉい!? や、やめろって!」
「うわっ!?」
あれ? 俺今何してたっけ? 確か、タケルくんの背中流して、その後……
……あぁ、ひたすら筋肉触ってたのか。いや、触ってたのかじゃないな、何やってんだ俺は。下手したら斑鳩でもしないような変なことやってたんじゃなかろうか? いやでも、斑鳩ならもっと変な子としても不思議じゃないな。こうやって比べてる時点でもうほぼアウトだけど。
しかし、流石に調子に乗りすぎたか。マジで今の数秒の意識が曖昧すぎる。もしかして俺には筋肉が好きだったとか裏設定があるんだろうか。ちょっとそんな設定は要らないです。男なのに筋肉が好きとか危ない香りしかしない。
ともかく、あのタケルくんが突き飛ばすくらいのことをしてしまったわけだし、反省しよう。調子に乗りすぎると痛い目見るってばっちゃがいってた。
「あ……悪い、鯨澤。つい突き飛ばしちまった……」
「いや、俺もからかいすぎたわ。まぁ、冗談も度が過ぎれば笑えなくなるし、このあたりでやめとくか」
「もう十分笑えないんだが……」
若干じと目になるタケルくんに苦笑を返してから、俺はタケルくんに突き飛ばされたせいでついてしまっていた尻餅から起き上がろうとする。それに気がついたのかタケルくんが、こちらを向いて手を伸ばしてくれたため、ありがたく善意に甘えることに。
そして、タケルくんの手を取ると同時に、俺の第六感が思い切り警鐘を鳴らし始めた。なにかがくる、と。
その何かの正体がわかったのは、俺の手をとったはずのタケルくんが足を滑らせ、俺の方に倒れてくる光景を見てから。
──あぁ、そういえばタケルくんってラッキースケベ体質なんだっけ。だからって、俺の時まで発揮しなくて良いんだよこのおたんこなす。そういうのは生粋の女の子にやれ。
「──ッ!? うお!」
「…………」
「いつつ……って、す、すすすまん! 別に押し倒そうとかそういうつもりは……ッ」
「あー、うん。大丈夫、俺はちゃんとわかってるから。だから股間蹴り上げられたくなければさっさと俺の上からどけ」
「わ、わかって……る!?」
「あうっ!」
倒れ込んだ勢いで俺を押し倒したタケルくんに、特に思うこともなく退くように言う。大丈夫、俺は男に押し倒されて動揺するような趣味趣向は持ち合わせてない。大丈夫、大丈夫……
そんなことを考えていたら、退こうと床に手をついたタケルくんがその手すら滑らせて思い切りヘッドバッドを食らわせてくれやがりましたよ。まさかの二段構えとか、そんなのいらないから。しかも最初に床ドンしてからの流れだよ。なに、タケルくんは何を狙ってるの?
痛みに潤む目を開ければ、まさに目と鼻の先にタケルくんの顔が視界に映る。それは、タケルくんの瞳を覗けば、反射した俺の顔が見えるんじゃないかという距離で。もう、こんなのさぁ。こんなのさぁ……!
「良いから退けっていってんだこのあんぽんたん!」
取り敢えず、全力で蹴り上げておきました。なにとは言わないよ? なにとは、ね。
◇ ◇ ◇ ◇
ぴちゃん、と水滴が垂れる音が先程までうるさかった浴室に響く。流石にあのまま風呂に入るつもりになれなかったのか、少年は既にあがっている。
この部屋の持ち主である少年を追い出して湯船を独り占めしている少女は、決して広いとは言えない湯船に口元まで浸かって目を閉じていた。思い起こすのはつい数分前の出来事。思わぬ形で起きた、ある意味予想通りのハプニング。
ぷくぷく、とお湯に浸かる少女の口から空気が漏れる。そして必死に忘れようとしているのか、うーと唸ったり首を横に振ったりと、忙しく表情を動かす。
「──はぁ、のぼせそうだからもうあがるか……」
やがて、湯船からあがると置いてある椅子にちょこんと腰掛けて、少しだけぼーっとする。ただ体を冷ましているのか、それとも何かを考えているのか。
ふと、少女は目の前の湯気で曇ったガラスを手でこすり、己の表情を確認した。
そして、溜息を吐くと一度体を冷水で流し、今度こそ浴室を後にした。
風呂場を出る前に覗いた鏡に映っていた己の表情がいつも以上に赤かったのは、のぼせてしまったからだろうと決めつけることにして。