世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

19 / 32
 前話の後半、大幅に書き直しましたので、未読の方はそちらからどうぞ。


 少し遅れました、ごめんなさい! ついでにそこまで進んでないです! なーにやってんだ私は。
 ついにルナティックモードのイベントが発生。まともにやり合ったら死。流れ弾が来ても死。ついでに主人公補正も無いときた。
 うーん、絶望的すぎる状況ですね! 此ってこの先どうなるんだろ……


開幕の狼煙

「分かっているのですか? 鳳さんは過去、魔女狩り(デュラハン)に所属していた実績がありますし、腕も確かです。ですが、鯨澤さん。あなたは優秀とはいえ、まだ無茶できるような腕も経験も無いのですよ?」

「いえ、あの……ここ最近の任務は鳳に無理矢理連れ出されてたのであって、私の意思では……」

「ですが、今回の戦闘行動については独断であったと聞きましたが?」

「うっ……それは、はい……」

「今回は、偶々……本当に偶々事なきを得ましたが、今後は危険な行為は慎んでもらいたいものです」

「はい……」

「大体ですね、あなたは以前にも──」

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 学園に帰ってきて、鳳の怪我を見てもらった後の出来事である。なぜ、怪我をした鳳ではなく俺がここまで説教を食らわなければならないのか。いやまぁ、確かに怪我して病院のお世話になった経験はあるけども、今回は怪我した本人の鳳に説教くれる場面ではないだろうか。

 結局十分少々お説教で拘束された俺は、ため息をつきながら小隊の部屋へと向かう。心も体も疲れ果ててしまった俺には、部屋に置いてあるソファーが唯一の癒やしだ。

 まぁ、斑鳩がいたらその限りではないんだけども。あいつは他人をいじるのを生きがいにしてるような奴だから、誰彼かまわずいじってくる。タケルくんとかウサギちゃんがいればヘイトはそっちに行くけど、いないと俺の精神ががりがり音を立てて削れるんだよなぁ……

 どうか誰か(デコイが)いますようにと念じながら扉を開けると、何故か散らかった部屋を片付けている斑鳩とウサギちゃんの姿が。

 

 

「……え、なにこれ。とうとう雑魚小隊のメンツって身の回りの整理整頓すらできなくなったの?」

「あ、鯨澤! 失礼ですわね、これは理由があってのことですわ。それはそうと、鯨澤も手伝ってくださいまし」

「まぁ、こんな部屋で休むにも休めんし、手伝うのは良いんだけど……なに、理由って」

「うちの馬鹿隊長がね、鳳に構ってほしくて歓迎会を開こうって言い出したのよ。ほら、これ」

 

 

 あきれた表情の斑鳩が差し出してきたのは、たたまれた横断幕らしき物。開いてみると、「雑魚小隊☆新メンバー歓迎会」と汚い文字で書かれていた。え、何これ自虐ネタ?

 

 

「ガキかよ。いや、ガキだな。発想が小学生レベルだ。んで、その歓迎会ってもう終わったの?」

「開始数十秒でね。エリート様は我々学生となれ合うつもりはないらしいわよ。あんたも学生なのに、この差は何なのかしらね?」

「俺に聞かないでくれ……まぁ、あれは性格っていうかやせ我慢だと思うんだけどな。ああいうぼっちは大抵、実は構ってほしかったりするぞ」

「! ですわよね、わたくしもそうではないかと思っていました! やっぱり、あの女は不器用なただのさみしんぼさんですわよっ」

「あぁ、うん……そうだな、その通りだ」

「……鯨澤? どうしてわたくしの方を見てしきりに頷いているんですか?」

「ん? いや、行動を照らし合わせてみて、確かになって納得してただけだけど」

「ぬなぁ-! あなたもですか鯨澤!」

 

 

 え、やだ最近の若者ってほんとキレやすいのね。おばさん怖いわーキレる若者怖いわ-。まぁ頭押さえるだけで万事解決するけど。何このロリっ子、すごいいじりやすいわ。

 頭から湯気を出しているように幻視するウサギちゃんをあやしながら、散らばっていた部屋を掃除すること一時間少々。掃き掃除から拭き掃除。果ては至る所を水拭きから乾拭きまでした俺は、満足げにため息をついてぴかぴかになった部屋を見回した。

 ゴミ一つ無い快適空間にこそ、真の安らぎは生まれる物だ。俺の安息のためなら、高々一日の二十四分の一を掃除に当てるのなんてへでもない。途中そこまでするか的視線を浴びせられたが、やるからには徹底的だ。家事に妥協は許されませぬ。

 

 

「はー、一家に一台ほしいくらいね、あんたって。家事全般が得意で、尚且つ勉学も運動もできる万能型でしょ? 私が男だったら紐になってるわ」

「俺は家電か何かか。ってか、お前が男でも紐にはなれないぞ。俺に男を貰うような性癖はない」

「なーにいってんだか。もう見た目は十二分に女の子なんだから、むしろ男を貰わない方が不自然よ」

「そういう歳になるまで女やってるつもり無いからな? 俺はさっさと男に戻って、かわいいお嫁さん見つけて紐になるんだ」

「あんたが紐になれるようなお嫁さんはいないんじゃないかしらね……」

 

 

 何を言う。家事完璧で養える包容力のあるかわいいお嫁さんとか、紐になる選択肢しかないだろ。そんなの三次元にはいない? だったら見つけるまで探すだけだ。

 それにしても、掃除中に冷蔵庫に突っ込んだウサギちゃん作のケーキ。確か餡子使ってるっていってたような気がするけど、本当においしいんだろうか。ちょっと俺には食べる勇気は無いかな。

 ……そういえば、鳳は良いとしてもタケルくんはどこに行ったのだろうか? なんだかんだでタケルくんが部屋にいないのって珍しい気が……

 

 

「なぁ、草薙はどこいったんだ? あいつが企画したってことは、いたにはいたんだろ?」

「草薙なら、鳳を追って部屋を飛び出していってから帰ってきていませんわよ。全く、どこまで追っていったのやら」

「鳳にしつこいってのされて、どこかに放置されてるかも知れないわね。鯨澤、確認しに行ってあげたら?」

「あほか、どこを探せっていうんだよ。それに、いくら何でもそれはないだろ。流石の鳳もそこまで過激じゃないって」

「一番鳳と長くいる奴はいうことが違うわね。まぁ、冗談はおいておきましょうか。それで、鯨澤。提案があるんだけど……」

「……聞くだけ聞いておいてやろう」

 

 

 斑鳩の突然の問いかけに、俺は警戒しながらそう返す。こいつがこういう言い方をするときは、ろくな思い出がない。第一、こいつが言う言葉がろくな物じゃないんだが。

 

 

「あんたの武器、改造させてくれない? 性能は折り紙付きのを用意するわ」

「却下。聞くまでもなく却下だ馬鹿野郎。おまえ、俺の武器には指一本触れさせないっていってるだろ!? 大概ピーキーな物しか作らないくせに、良くそんなこといえるな!」

「それは残念ね……でも、ごめんなさい鯨澤」

「……な、なにがだよ」

「もう、改造終わっちゃってるのよね。いやぁ、申し訳ないとは思ってたけど指が止まらなくって」

「嘘言うなお前目きらっきらじゃねぇかっていうか何してくれちゃってんの!?」

 

 

 ぬけぬけと輝くような笑顔とともにふざけたことを抜かす斑鳩に、湧き上がる殺意とともに言葉をぶつける。っていうか、こいついつの間に改造しやがった? 鳳に連れ出された任務の時までは確かに正常だったはずだけど。

 

 

「あんたがあんまりにも掃除に熱中してたから、お姉さんここしかないって思ってね。ぱぱーっと改造しちゃった」

「改造しちゃった、じゃねぇよこのおたんこなす! お前、何しやがった!? 俺のかわいい武器に何しやがった!?」

「安心しなさい、そこまで変なことしてないわよ。単純に、炸薬料と形状に手を加えて貫通力1.5倍増しにしたのにあわせて銃身変更したのと──」

「1.5倍ってお前……いやまぁ、お前にしたらおとなしい方か……」

「──近接戦闘も出来るように、小刀みたいに変形する機構を付け加えただけよ」

「十分変な改造施してんじゃねぇか馬鹿野郎!? なんだよ変型機構って! 何の意味があるんだよ!?」

「ほら、ロマンが詰まってるじゃない?」

「分かるけどそうじゃねーよ! ロマン追い求めてんじゃねぇ!」

「因みに、素材は奮発して緋緋色金よ」

「知るか! なおせ、今すぐ直せ!」

「すぐには無理に決まってんじゃない。頭、大丈夫?」

「それはこっちの台詞だゴラァ!」

 

 

 落ち着け、落ち着くんだ俺。別に今すぐ何が起こるって訳でもない。早くても明日までに直っていれば、それでいいではないか。

 うん、よし。そうだ、何を怒っているんだ俺は。取り敢えず斑鳩に明日までに直しておくように厳命して、俺はまた変な手を加えないかどうかとなりで見張っていれば……

 

 

 ズズン……

 

 

 なんとなくそう来るんじゃないかって予感はしていたが、俺が決意を固めるやいなや遠くの方から爆発のものめいた振動が伝わってきた。同時に、学園全体に警報を意味するベルが鳴り響く。

 

 

「な、なんですの? 何事ですの!?」

「これは……警報? 誤報とか、誰かのいたずらってことはないわよね」

「あぁ。今の振動、ちょっと遠かったけど爆発の奴みたいだった。多分、テロかなんか……じゃ……?」

「……? どうかした?」

 

 

 突然押し黙った俺を不思議に思ったのか、斑鳩が顔をのぞき込んできてウサギちゃんも心配そうに俺を見つめる。

 けれど、俺にそんなことを気にしている余裕はなかった。歓迎会。怪我をする鳳。居ない二人。そしてテロ。

 何故、こんな大事なことに気が付かなかったのか。普段から意識していたくせに、いざ本番になるとこうも気が付かない物なのか。

 そう、とうとう始まったんだ。この、いつ死んでもおかしくない世界で、明らかに殺しに来てるだろと文句を言いたくなるような一大イベント。

 ──「英雄(エインヘリヤル)の召喚」が、ついに行われてしまったのだ。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 一つのビルの屋上。そこに立つ黒衣を纏う男は、下に広がる光景を見て満足そうに頷いた。

 

 

「見なよ、ナハト。これが、これこそが人間の本来あるべき姿だと思わないかい? 夜の闇におびえ、自分よりも強大な存在におびえ、生きるために必死で他者を追い落とす醜い様。それこそが美しいと思わないかい?」

「歪んでるよね、本当。何度思わないっていえば気が済む?」

「ははは、平和呆けした人間諸君。此こそが原初の恐怖だ。いい、実にいい! そう思うだろう、ナハト!?」

「どうせ聞いてないくせに、こっちに話振ってくるのやめてくれない?」

「あぁ、か弱い女の子に異形が群がって血肉をすする……なんとも興奮するシチュエーションだ! そして、その女の子は新たな異形になって町を徘徊し始める! んー、この響きだけでご飯が何杯いけることやら」

「ほんと腐ってるよね、性根とかいろいろ」

 

 

 辛辣に言葉を投げつけるのは、男の腰に下げられた一振りの剣。ナハトと呼ばれた存在はしかし、繰り返される言葉のキャッチボールならぬ言葉のドッジボールに辟易した様子が見られる。

 そんなナハトに気が付くこともなく、男は目の前に広がる光景と先ほど呼び出した英雄のことを考え、また一つ頷いた。

 男が行ったのは英雄(エインヘリヤル)と呼ばれる、過去にその名を轟かせた化け物のような存在を現代に呼び起こす儀式。

 一騎当千、などという言葉が小さく見えるほどの存在を現世に呼び起こしてしまえば、それを倒すことが出来る存在は限られてくる。

 しかも、今回男が呼んだ英雄は、円卓に集った化け物集団と名高い騎士たちを引き連れた、ブリテンの王である正真正銘の化け物だ。

 存在が明らかになっていないものを呼び出すのに等しいこの儀式において、伝承で語り継がれていることは大きく英雄の力に関与する。

 そして、広く知られるアーサー王の伝承は、まさに無敵と呼べる活躍ぶり。都合によって無敵の鞘(アヴァロン)こそ用意できなかった物の、彼の王はそれさえなくても十分にやってくれるだろう。

 

 

「さて、ナハト。僕らは僕らが成すべきことをしよう」

「なんだ、いつになく真面目だね。まぁ、いいけどさ」

「──家に帰って、エロ画像をあさらなければ! こんな状況だ。僕が部屋の中で何をしようと気が付かれないだろうさ!」

「本当にきもいね、この変態」

 

 

 ひとしきり笑い声を響かせた男は、ふいに姿を屋上からくらませた。後に残るのは、下から聞こえてくる悲鳴と爆発音。そして、血と硝煙の香りのみだった。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

『──魔女狩りの刻は来た! 異端者に正当なる裁きを!』

 

 

 学園内に響く放送に、なーにが正当なる裁きをだ、と内心罵りながら、斑鳩たちと一緒にほかの小隊を確認していく。殆どの小隊が乗り気で、既に騎士団(スプリガン)と一緒に防衛戦を構築しているところもある。行動早いな、お前ら。

 

 

「むむ、そこに居るのは我らがセナちゃんじゃないか? どうしたんだい、こんなところで」

「えっと、さっきの園内放送を聞いて、みんなどうするのかなって思って……」

「あー、一緒に戦えって奴ね。あんなのにつられる奴ってなんなんだろうね? 英雄っていえば、人間がまともに相手して良い存在じゃないのにさ。俺らは、当然安全な場所に避難するつもりだよ」

「そ、そっか……」

「でも、セナちゃんが応援してくれるなら、俺たち相手が何であろうと頑張っちゃうよ? ちょっと試しに、上目遣いで頑張ってっていってくれない?」

「え、と……今は、急いでるから……」

「そこをなんとか!」

 

 

 うぜぇ。

 なんだこいつら、こんな時に絡んで来やがって。大体、なんでお前らに頑張ってなんて応援をせにゃならんのだ。俺が応援するのは、俺の命を助けてくれる存在だけだ。そう、つまりタケルくん。今こそ君の真価を発揮するときじゃないかい? いったいどこに居るんだ早く帰ってきてくれ。

 

 

「一回だけ、先っちょだけで良いから!」

「応援の先っちょって何……? あぁもう、わかったから落ち着いて」

「お、おぉ……! いつでもいいぞ、準備は出来てる!」

「う、うん。その……皆、頑張って敵をやっつけちゃって、ね?」

「「「ウオオォォォォーーッ!!」」」

「!?」

 

 

 いくら何でもしつこかったから仕方が無く注文に応えてやると、突然雄叫びを上げて馬鹿共が目の色を変えた。正直言って恐怖以外の何物でも無い。下手したらこいつらの方が英雄より怖いんじゃないだろうか。

 そのまま走り去っていくのをやや呆然と見送りながら、あきれた目をしてこちらを見つめる斑鳩に言葉をかける。

 

 

「……なに、今の?」

「さぁ? 馬鹿の考えることはわかんないわよ」

 

 

 ですよね-。

 ……取り敢えず、タケルくんに連絡とろっか。

 

 

 

 

 

 斑鳩がタケルくんに状況を説明し、その途中でウサギちゃんのことをいじるのを横目で見ながら、俺はこの後どうするべきかを考える。

 普通に考えれば、英雄との戦闘など俺につとまるはずもない。ウサギちゃんの狙撃とタケルくんの近接戦闘。あとは、タケルくんが無事に契約してくれれば万事解決だ。そこに、俺のつけいる隙は無いし……うん、学園内に転がってる生徒たちの手当でもしておくか。

 

 

「取り敢えず、斑鳩。さっき改造した武器返せ」

「ん、結局使いたくなっちゃった? そうよねー、変型機構ってロマンあるわよね!」

「ちげーよ? 屍食鬼(グール)が進入してきてるかも知れないのに、サイドアームだけで戦えるわけ無いだろ。保険だ保険」

 

 

 そう、騎士団と試験小隊が防衛戦を張ってるとはいえ、英雄が来る以上それが敗れるのは時間の問題。自衛の手段は一応残しておかねば。

 タケルくんももう学園のそばまで来たらしく、斑鳩に通信が入る。明らかに戦力外な俺は、作戦を考え出す斑鳩とタケルくんに一言断ると校舎の外にでる。正門方向からは景気の良い発砲音が聞こえてくるため、今はまだ頑張っているんだろう。けれど、それも長くは続かない。人間の抵抗など、英雄に通用するはずもない。

 

 

「……来たな」

 

 

 ビリビリと振動する空気と、追随するように響く轟音。がらがらという音とともに校舎が崩れていくのを確認した俺は、一先ずの隠れながらけが人の手当てをしていうことに決めた。

 決心の割には隠れるとかせこい? 英雄と下手に出会っちゃったら即死だからね、仕方ないね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。