世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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滞っていた分を解消しようと書き始めたら、意外と筆が乗ったので良いところで区切って投稿。明日はちょっと忙しいので、次投稿は明後日以降です。本格的な戦闘(正面切ってではない)はまた後日!


前哨戦

『おい、鯨澤! 貴様何をしている!?』

「いやいやいや、役割ちゃんと考えてね? どう考えても俺の役回りじゃないからねこれ!?」

『泣き言を言うな! 貴様がきちんと注意を引いていれば、私も楽に仕事をこなせるんだ。しっかりしろ!』

斥候(ポイントマン)は普通正面切っての戦闘とかしねぇって!」

 

 

 ひゅんひゅんと銃弾が鼻先をかすめる音に肝を冷やしつつ、こんな状況へと叩き込んでくれた張本人へと怒鳴り返す。少し気を引いてくれれば後はなんとかするとの鳳の言を信用して来てみれば、そこにいたのは銃を装備した黒服の面々が。パッと見七人くらいいた気がするんだけど、流石ドラグーンを生身拳銃で倒してしまう逸般人様はこの程度は少しの範疇らしい。

 ところで、俺はいつまでここで注意を引いていれば良いのか。もしかして鳳のやつ、俺のことが嫌いすぎてこいつらに俺を排除させようとか画策してるわけじゃないよね?

 

 

「無理、無理だって! 遮蔽物にしてるドア先輩ももう限界だって叫んでるから! 『ふぇぇ、もう抑えきれないよぉ……』って言ってるから!?」

『……? 貴様は何を言っている?』

「端的に言ってもう持たないからヘルプミー!」

『はぁ……安心しろ。これだけ時間を稼いでくれれば十分だ』

 

 

 最後の切り札(なんでもしますから)を切らずに済んだことに内心安堵を覚えつつ、一体この状況をどうするつもりなのだろうと首をひねる。

 もう十分だ。お前は用済みだからそこで果ててろ。とか言われるのだろうか。そんなことされたら、俺もう他人のこと信用できなくなっちゃう……

 まさか本当に見捨てたりしないよね? とすがる思いでインカムに集中していると、ふと今までずっとドア先輩ごと俺を蜂の巣にしてやるとばかりに撃ち込まれていた銃撃音が途絶えているのに気がつく。一体何事かとこっそりドア越しに中の状況を覗き込もうとしたところ、こちらに向けて悠々と歩いてくる鳳と視線がかち合った。

 

 

「……む? 何をしている。何だその間の抜けた表情は」

「いや、その……黒服の方々は一体どうしたんでせう……?」

「あぁ、あまりにも背後を警戒していなかったのでな。手っ取り早く捕縛させてもらった」

「流石元魔女狩り(デュラハン)は格が違ったな……」

 

 

 鳳の言うとおり、中を覗いてみれば昏倒させられて捕縛済みの黒服の男たちがゴロゴロと転がっている。いくらインカムに集中していたとはいっても、争いの音があれば流石に気付くんじゃないだろうか。となると、この逸般人はほとんど手間を掛けずに全員を無力化したということだろう。こんなんチートや、チーターや!

 というか、そんなことできるなら俺なんていらなかったんじゃないだろうか。そもそも、何故にほかの三五小隊を置いてきて俺だけを同行させているのかがわからない。囮ならタケルくん、支援ならうさぎちゃんか斑鳩に頼めば良いんじゃないだろうか。

 

 

「なぁ、俺を連れてきた意味ってなんだ? 他の連中のほうが役に立つだろ?」

「……ふむ、なら問おう。仮に草薙を連れてきて、お前と同じように陽動を任せた際に敵の挑発に乗ってしまったらどうなると思う?」

「……黒服数人巻き込んで戦闘不能になるか、派手に自爆しかねないな」

「では次だ。西園寺に狙撃で支援させるとして、奴が誤射しないといい切れる根拠はなんだ?」

「……ないっすね」

「最後に。杉波が大人しく私にオペレーションをするとでも?」

「……だいたい察したわ。いや、でもさ。そんなこと言ったら俺だって大した役に立ってないだろ? わざわざ俺を連れ出さないでも、一人で出来たんじゃないのか?」

「――確かにな。私一人でも十分に可能だろう」

「だったら!」

「だが、お前が囮になってくれれば私が楽なんだ。お前もポイントは欲しいだろう?」

「俺はすっごくきついんですがそれは……」

 

 

 たしかにポイントは欲しい。せめて進級できるだけのポイントは貯めておきたい。だけど、俺がここまで体を張ってポイントを貯めるべきかというと、首をひねらざるをえない。任務中に殉職とか笑えない冗談が起きないという保証はないのだ。

 

 

「何かいいたそうだな? 言ってみろ、聞いてやる」

「わーいあの有名な鳳桜花さんと一緒に任務ができて嬉しいなー!」

 

 

 まぁ、鳳が怖くてそんなこといえないし、断れもしないんだけどね。聞いてやるとか言っておきながら拳銃を取り出す辺り、聞く気ゼロだよね君。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 俺が決死の思いで手伝いをしたDランク魔導遺産の押収からすでに数日。あれ以降、既に二度も俺は死ぬ思いをして鳳の手伝いをさせられたために既に満身創痍だ。別に体に傷があるというわけではないが、心には致命的な致命傷を負っている。もう響きだけで命散らしてそうな傷だなそれ。むしろ致命的じゃない致命傷があるのかと……

 取り敢えず、オンドゥル語よろしく俺の心はボロボロなんだ。屍食鬼(グール)以前に鳳との任務で命を落としそうなまである。なんかだんだん俺の死ぬハードルが下がってきた気がする……

 

 

「――おい、鯨澤。ちょっといいか?」

「ん……? あぁ、草薙。一体どうしたの?」

 

 

 午前一コマ目の授業が終わり、心労から机にダウンしていた俺にタケルくんが声をかけてきた。周りに一般生徒がいる都合上いつもの口調で喋るわけにもいかないから、出来れば三五小隊用の部屋か二人きりで話したいのだが。

 

 

「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」

「……それって、後でじゃダメなの?」

「悪い、時間は取らせねぇから」

「そっか……ん、良いよ。それで、聞きたいことって?」

 

 

 机にダウンしたまま聞くわけにもいかず、体を起こしてちゃんと話を聞く態勢を取る。病院で見せてくれた真剣な表情でいるからには、ちゃんとした用事なのだろう。それなら、聞き手としてもしっかりと聞かなければなるまい。

 俺がタケルくんに先を促すと、一瞬だけ躊躇った後に口を開く。

 

 

「あぁ……その、さ。最近、鳳とお前で魔導遺産を何件か押収してきただろ?」

「うん。いくら鳳が仕留めてくれるとはいっても、注意をひくのも結構危険で大変だったよ? ……で、それがどうしたの?」

「いや、なんで俺たちは参加させてくれねぇんだろうって……」

「あー……」

 

 

 君たちとやるとむしろ任務の難易度が跳ね上がるかららしいですよ奥さん、とここでいうのは簡単だけど、それは果たして俺の口から言って良いものかどうか。

 下手をすれば鳳と三五小隊の間に火種をつくるきっかけになりかねないし、お互いに言い分があるだろうから本人たちの口で確認をさせあったほうが皆のためにもなるだろう。そもそも、俺だってなんで俺のことを同行させているのかが未だにわからん。楽になるって鳳はいっていたが、一人でも難なくこなせそうな気がしてならない。

 となれば、ここでは濁しておいたほうが良いだろう。さてと、なんていえばいいだろうか。

 俺がうんうん唸ってなんとか言葉を探していると、何を思ったのかタケルくんが少しだけ顔を伏せて質問を重ねてきた。

 

 

「鳳とお前……一体、どういう関係なんだ?」

「へ?」

「その……お前らの関係も、俺にはいえないことなのか?」

 

 

 予想外の言葉に驚いて顔をあげると、どこか悲しそうな表情で俺のことを見つめるタケルくんと目があった。やだ、いつもの凛々しい感じが鳴りを潜めてどこか子犬っぽい印象を感じる! やばいなこれは、俺じゃなかったら何かに目覚めてたところだった。

 思わぬ母性の発露に内心冷や汗を流しながら、タケルくんが何か誤解をしているということに遅まきながら気がつく。多分、俺が悩んでいるのを見て病院で話した言えないことの一部だと勘違いしてるんだろう。

 

 

「俺じゃ駄目なのに、鳳なら良いのか……?」

「うーんと、勘違いしてるみたいだからいうけど……別に、そういうわけじゃないよ?」

「ち、違うのか?」

「うん。私が悩んでたのは……まぁ、伝え方、かな? とにかく、その質問は私じゃ答えづらいから、鳳から直接聞いてね」

「あ、あぁ……分かった」

「それにしても……どういう関係だ、だなんて。まるでどっちかに嫉妬してるみたいだね?」

「なっ!? 何言ってんだお前!?」

 

 

 ぎょっとした表情をするタケルくんをみて、ガイアが弄れと囁いてくる。こんな絶好のタイミングを逃す手はないとばかりに、俺は構わず突っ込んでさらなる追撃を仕掛ける。

 あー本当はこんなこと命の恩人にはしたくないんだけどなーガイアが囁いてくるから仕方がないなー!

 因みに俺の顔が笑顔満点かつ心の声が棒読みなのはご愛嬌である。

 

 

「ふふ、草薙はどっちに嫉妬したの? 鳳と仲良くなりたいのに自分は除け者にされてるから、一人だけ一緒に任務を受けられてる私?」

「ちが、そういう意味じゃ!」

「あ、もしかして親友を取られると思って鳳に嫉妬しちゃった? 安心してね、草薙。離れ離れになっても私たちはズッ友だよ!」

「だから違ぇって言ってるだろ!? っていうか結局鳳に取られるのかよ!」

「あはは。草薙、どうどう。冗談だってば。今のところそばから離れる予定はないから、ね?」

 

 

 にこりと微笑みかけるも、それだけでは怒りが収まらないらしく顔を赤くしてそっぽを向かれてしまった。相変わらずの沸点のご様子で。いい加減それどうにかした方がいいんじゃないかしらん?

 なんとなくタケルくんのその様子がおかしくて、くすくすと忍び笑いを漏らしてしまう。余計怒らせる羽目になってしまうかもしれないが、おかしいものはおかしいのだ。仕方があるまい。

 暫くタケルくんの様子を満足気に眺めていると、ふと周りの雰囲気が先程よりもざわついていることに気がつく。一体どうしたのだろうかと、少しだけ耳をそばだててみる。

 

 

「おい、見ろよあのセナちゃんの満足げな顔」

「やりきったって表情してるよな……くそ、草薙めうらやまけしからんやつだ」

「そばから離れる予定はない、だってよ? 俺も言われてぇよそんなセリフ……」

「あの二人、夫婦漫才並に相性ぴったりだよね。鯨澤さんももっとマシな男の子選べばいいのに」

「はぁ、鯨澤さんが男の子……いえ、男の娘だったら良かったのに……」

「何言ってんだこいつ」

 

 

 聞いたのを後悔するレベルでひどい話だった。特に最後の方。ある意味男の娘かも知れないが、ちょっと腐ったお方の妄想の餌になるのは遠慮したいんですけども。というか、俺なんかとセットで考えられてもタケルくんが迷惑するだけだと思うんだが。

 いや、今は考えるのはよそう。そろそろ次の授業が始まるし、今日も午後になれば鳳と任務をこなさなきゃいけないから余計なことを考えている余裕はない。

 俺は馬鹿な会話をしたお陰で幾分か気分がましになったことをタケルくんに感謝しつつ、残りの授業を乗り切るために喝を入れ直した。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 午後になり、鳳に指定された場所で待機していると、程なくして鳳が姿を表した。今回も俺が囮になって鳳が奇襲を仕掛けるまで待つのか、とため息を吐きたい気持ちを堪えていると、何時になく殺気立った表情で鳳が俺のことを睨んできた。まさか内心嫌がってることがバレたのだろうか? ボッチのくせに人の心が読めるとかやるじゃないか……

 

 

「鯨澤、今回お前は囮をしなくていい。どこか安全な場所に隠れつつ、敵の増援が来たら知らせて欲しい」

「ん? そういう役回りをさせてくれるのは初めてだな……理由は聞いても良いのか?」

「……今回の相手は審問官崩れ(ルーザー)だ。お前には荷が重い」

「審問官崩れ……?」

「そうだ。どんな意図があるのかはしらないが、異端審問官になった後に犯罪者へと身を落としたクズども。力はあるのに、それを正当に行使しようとしない連中だ。お前も一度あっているだろう? 無軌道詩篇(むきどうしへん)の夜に」

「……あぁ、そういえばいたな。なんで対魔導学園で習う格闘術知ってるんだとあのときは思ったけど、元審問官だったのか」

「そういうことだ。奴らは往々にして、周りの連中に戦闘の心得を教えこんでいる。審問官崩れがいるというだけで、敵の戦力は何倍にも跳ね上がるわけだ」

「なるほどな……確かに、俺がいたら足手まといってわけだ。わかった、外からの増援は俺が見張っておく」

「任せた。それと……くれぐれも無茶はするなよ」

「いや、見張ってるだけなら無茶も何もないだろ? むしろそれは俺のセリフだっての」

「そうか……いや、そうだな」

 

 

 なんとも歯切れの悪い生返事を返した鳳は、俺に位置につくように告げると足早に現場へと歩き去っていった。俺はなんとなく気になったものの、別段呼び止めるほどのことでもない。さっさと安全な場所に隠れてしまおう。

 今回は俺の身に危険がないことに喜びを隠しきれず、上機嫌で現場を監視できる場所に位置取る。ただ監視をして、敵がきたら鳳に報告すればいいだけの簡単なお仕事。そう、これだよこれ。俺がやりたかったのはこういう役割だ。幸い、現場は建設途中のビルで至近には建物も遮蔽物もない。少し離れたところからでも、付近に動きがあれば一目瞭然だ。

 インカムの調整をし、鳳が突入したのを確認してから待つこと暫し。現場から断続的な発砲音がするのは、鳳が戦闘に突入したからだろう。流石は審問官崩れとその仲間たちというべきか、数分経っても戦闘が終わる気配がない。数の利があったとしても、逸般人相手に数分持つとか凄いことだ。

 などと現場で起きている戦闘を何処か他人事のように分析していると、現場周辺で怪しい動きを発見した。明らかに周囲を警戒しながら、ジリジリと現場に近づいていくアサルトライフル装備の男が4人。どう考えても審問官とか他の試験小隊じゃないから、敵の増援だと考えて間違いないだろう。

 

 

「あー、鳳。アサルトライフル装備のごついおっさん4人追加だ。対処できるか?」

『――な――ザッ――えない、も――』

「ん……? おい、鳳? 聞こえるか?」

『ダ――ザッザー――――来る―――――』

「くそ、何だこれ……チャフでも撒かれたのか?」

 

 

 鳳に援軍が来たことを知らせるも、肝心のインカムはどうしたのかうまく通信を拾えない。鳳に上手く増援が向かったことを伝えられた保証はないし、いくら逸般人とはいえ前後から挟み撃ち、それも奇襲をされたらまずいだろう。

 つまり、俺がどうにかするしかない。訓練済みのアサルトライフル持ち。もうそれだけで嫌な気配しかしないが、鳳のため、引いてはポイントのためだ。なるべく罠に引っ掛けつつ戦力を削っていくしかないかと頭を悩ませつつ、俺は急いで持ち場を離れるとPDWを手に未だ戦闘が続く現場へと赴いた。


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