あと某聖杯を集めるゲームのデータも本体と共に紛失してしまい、ちょっとテンションは低めです。次から引き継ぎデータはHDD含め三カ所以上にバックアップ取っておくので、運営さん復旧してくださいませんか(震え声
そんな精神状態で書いてるので、いつも以上に文が乱雑だと思います。本当に申し訳ないです。
閑散としたビル街に、一発の銃声が響いた。それ以前にも散発的に響いては居たのだが、今回のものはそのどれとも違う少し重い音。それ以降は銃声が聞こえなくなったことから、恐らくそれがとどめの一撃となったのだろう。
人が倒れ込む鈍い音を聞きながら、銃を構えていたものは静かにそれを下げた。空薬莢が地面を転がる音が静けさの中で異彩を放ち、その他に音を立てるのは僅かな息遣いのみ。暫く倒れ込んだものを見つめていたその影は、
「鯨澤、意識はあるか? 声は出せるか? 指先を動かすだけでも良い」
「…………」
「……意識は無し、か」
その影、鳳桜花は呻くように呟くと、改めて少女の容態を確認する。ある程度深い傷は包帯などの応急処置がなされているものの、細かい切り傷擦り傷は無数。更に、肩口に受けたであろう銃弾が体内に残っているのか、肩からの血が止まらない。
何故こんなにぼろぼろになるまで、と桜花は一人で無茶をした少女に責めるような視線を向けた。桜花には応急処置の知識はあっても、
「ひとまず、血を止めないことには失血死もあり得る……すまん、痛むぞ」
それでも、桜花は最低限のことはしなければならないと己を奮い立たせる。このままでは、目の前の少女の命も危ない。いくら目の敵にしていようと、己の私利私欲で正義を騙るものであろうと、桜花にとっては見捨てていい理由にはならなかった。
意識のない少女に一言謝ると、桜花は躊躇なく肩の傷に指を突き入れた。直後に、少女の口から鋭い悲鳴が漏れる。銃弾で破壊された部位を、更に指で押し広げているのだ。その感触は、最早痛みなどという生ぬるいレベルのものではない。
「……ッ! あった、銃弾!」
傷口を指で探っていたた桜花は、固く小さい塊を指先で捉えた瞬間にそれを引き抜いた。同時にどす黒い血が吹き出るも、慌てずに応急処置を行う。
数分後、漸く必要な処置を終えた桜花が安堵の溜息を吐くと、それを待っていたかのように少女の口からうめき声が漏れる。
「鯨澤っ。目が覚めたのか?」
「おお、とり……? なん、で……」
「何でではない! 外から銃声が響いてきた時、貴様がインカムで応答しなかったから、もしやと思い駆けつけてやったのだぞ! 何故戦闘になったとき、すぐに応援を呼ばなかった!」
「あぁ……いん、カム。落として、どっか行ってたから……」
そう言って苦笑する少女の顔に、桜花は明らかな苛立ちを覚えた。
正直に言えば、桜花はこの少女のことが好きではなかった。それは、少女がまだ少年だった中等部の時からずっと。これと言った正義への情熱もなく、それどころか異端審問官になることにすらあまり興味をいだいていないようなスタンス。そのくせ、成績などは優秀であり、審問官としての素質は十分に持っていた。
それが、桜花には許せなかった。力を持つもの、正義を通せる力を持つものが、それを遊ばせている事実。力を正当に振るおうとしないのは、それだけで桜花にとっては魔導に与しているようなものであった。
だから、本来ならばこうして少女が魔導との対立を深めることは、言葉は悪いが喜ぶべきことのはずだった。なのに、何故こうも苛立つのか?
「なら、逃げればよかっただろう! 貴様一人で何が出来た!? 現に私が来なければ、どうなっていたか!」
「だけど、生きてるだろ……?」
「なにを……だから、それは私がっ」
「鳳がどうとかは関係ねぇよ……結果的に生きてりゃ、それで良いんだ……」
「……ッ! 質問にまだ答えていないぞ! 何故逃げなかった! そもそも、貴様は何故審問官を目指す!?」
「何故って……そりゃ、お前――」
「――俺が死なないために、決まってんだろ」
少女が――鯨澤がさも当然とばかりにいった言葉を、桜花は俗物だと唾棄することができなかった。本来であれば、己の私利私欲でしか無い理由で審問官を目指そうとする鯨澤のことを桜花が許すはずもない。
けれども、開かれた桜花の口から言葉が出てくることはなかった。それは、鯨澤の瞳の奥に宿る炎を見たゆえに。自分とある種同じ類の、強い意志の光を見てしまったからである。
「……ならば、尚更逃げなければおかしいだろう。逃げなければ死にかけるような思いをせずに死んだのではないのか?」
「あぁ……なんて説明、すりゃいいかわかんないけど……多分、逃げてても死にかけてただろう、から……?」
「何で疑問形なんだっ」
「はっはっはっ……うぐ」
笑ったら傷に響いた、と呻きながらこぼす鯨澤に、桜花はなんとも言えない表情で視線を送る。いつものおちゃらけた態度と、先程男に撃たれる寸前に放った濃厚な殺気とのギャップが上手く消化できない。どちらが本当の性格なのかわからないが、己の目的の為に一人で行動した鯨澤に、桜花は何処か既視感のようなものを感じてしまった。
「鳳、取り敢えず病院まで連れてってくれ……俺、ちょい寝る……」
「は? それはどういう……おい? 鯨澤?」
桜花の呼びかけに、再び頭を垂れた鯨澤は返事を返さなかった。仕方がないとため息を吐いた桜花は、煩わしくて途中から切っていたインカムのスイッチを入れてオペレーターである斑鳩に連絡を取ろうと試みる。
『――ほら、頑張れうさぎちゃん。眠り姫たる草薙少年を救い出せるのは、あんたの熱いキッスしか無いのよ』
『う、ううううるさいですわ!? 大体草薙は麻酔弾で寝てるだけですし、きききききすなんてしなくたって勝手に目覚めますわよ!』
『そうかしらねぇ。もしかしたら、当たりどころが悪くってもう二度と目覚めないかもよ?』
『うぅ、それは……ですが、それとこれと話が別! キスする意味なんてありませんわ!』
反射的にインカムを握り潰して地面に投げ捨てようとした桜花のことを、責められるものは誰も居ないだろう。先ほどまでのシリアスはどこへ行ってしまったのかと、一人額を押さえた桜花は努めて冷静に馬鹿げた会話へと割って入った。
「危うく任務失敗、それも大惨事になるところだったというのに、随分と気楽なのだな貴様等は」
『鳳!? ちょうど良かったですわ。杉並のことを止めてくださいまし!』
『ちょっとうさぎちゃん、それだと私が暴走してるみたいじゃない。私はただ単に己の欲望に忠実に行動してるだけよ』
『同意義ですわーー!?』
「人の話を聞かんか……ッ」
きちんとインカムに音声が入っているのかと疑問に思えるほどきれいにスルーされた桜花は、こめかみを押さえながらもなんとか言葉をつなぐことに成功する。同時に、今この場に置いて彼女等が何の役にも立たないことを瞬時に理解した桜花は、さっさと現状だけを報告して済ませてしまおうと判断した。
「貴様等はそこで延びてる草薙を連れて帰れ。此方は鯨澤と合流したから、そのまま戻る」
『鯨澤は見つかったんですのね。全く、仕事が終わったからってインカムすら切って一体なにをしていたんですの?』
『ろくに仕事すらできてなかったうさぎちゃんには言われたくないんじゃないかしら?』
『お菓子食ってたオペレーターにも言われたくありませんわ!』
本人が起きていれば、どっちにも言われたくないと真顔で返していたであろうやり取りを苦々しげな顔で聞き流した桜花は、再度インカムを切ると鯨澤の肩へと腕を回し持ち上げる。
口さえ閉じていればかなり整っている部類の少女が目の前でぼろぼろになっている様を見ながら、桜花は何故かとれないもやもやを胸に病院へと一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
見慣れた光景。変わり映えのない毎日。日に数度訪れる来客はいつも同じ顔で、決められた手順で動くロボットのように同じ問答を繰り返す。
何故こうなってしまったのか。一体なにがいけなかったのか。誰を恨めばいいのか。これからどうすればいいのか。
そのすべてに答えが見つからず、けれども答えにたどり着けるだけの時間を有してはいない。
『ご主人、あなたの願いは何ですか?』
時間を。世界をきちんと認識できるだけの。一人の人間として生きるだけの時間がほしい。
そのためなら、死後の魂だろうと何だろうと神様にでも悪魔にでも捧げよう。誰とだって契約しよう。だからどうか、時間を──命を下さい。
『アルマは願いを叶える願望器。願い、請われたことをただ実現する存在。さぁ、ご主人。あなたの願いを──』
ふと目を開けると、そこに広がるのは知らない天井。あ! これ知ってる! 知らない天井だ!!
ふむ、知ってるのに知らない天井とはこれ如何に。一体どっちなんだよと思わずセルフでつっこみを入れてしまう。
どこから流れてきたか知らない毒電波のことは無視して、俺は少し体を起きあがらせて周囲を見渡す。目に映るのは白色のものばかり。そりゃ見えるものが布団とカーテンだけじゃ白色以外のものが見えないのも不思議じゃないね。
昨日撃たれてからのことはぼんやりとしか覚えてないけど、確か鳳に病院まで連れて行ってくれみたいなことを言った気がする。とすれば、ここは病院なのだろう。
確かに、どこか懐かしい病院独特の香りや静けさ。この頭の悪い程に白一色なところとか病院っぽさに溢れてる。
「……ん? 俺って入院したことあったっけ?」
と、そこで俺ははてと首を傾げる。この世界に生まれてからというもの、病気や大怪我とは無縁だったはずだ。少なくとも病院に懐かしさを覚えるような事はなかった気がする。パパンママン、丈夫に生んでくれてありがとう。出来ればもっと平和な世界に産んで欲しかったな。
まぁ、この世界でないのならたぶん前世のことだろう。といっても、前世でも特になにかあったとかそういう記憶はないんだけど……流石に一生分生きてれば入院することもあるか。
なんか起きる直前に見てた気がする夢のことと言い、どうにも記憶がはっきりしない時があるのはたぶん年のせい。精神年齢だけで言えばご老人だろうから、こうなるのも致し方のないことだろう。
「さーてと、なんかよく知らんが体も調子良いし、とりあえず家に帰るか……」
ざっとみた限り、体に怪我らしい怪我は残っていなかった。これがこの世界の医学か。魔法とかいうものがきちんと証明されてる世界だと、もしかしたら不治の病とか存在しないのかもしれない。どっかで完全な性転換とかできねぇかな。
切なる願いを胸にベッドから這い出ると、近くに畳んでおいてあった制服へといそいそと着替え始める。
この、病院で患者が着てるような白衣っぽい奴。肌触りは良いんだけど、着脱しやすい様にする為なのかマジックテープで止める形だからその部分がごわごわしていて気持ちが悪い。それに、若干動きづらいし。
そう考えると、なにげにこの学園の制服は動きやすさを考慮して作られてるのかもしれない。まぁドンパチするのが当たり前みたいな所なんだし、多少は配慮もするか。
小さな発見に少しばかり感動しながら、白衣を脱ぎ去って制服を手に取る。そういえば結局初ポイントは手に入れられたのだろうかと今更ながらに思いながら上着の袖に手を通すと同時、ノックもなしに病室のドアが開かれる音が聞こえた。
ベッドの周りに引いてあるカーテンはそのままにしてあり、ちょうどこの位置からだと入り口が死角になっていて見えない。
「あー、どちらさん? つか入るときはせめてノックくらいしてくんない?」
「……! 鯨澤、目が覚めたのか!」
「おぉ? その声は草薙か。丁度いい、昨日の任務ってさ──」
──ポイントどうなったの? という言葉はやや乱暴に開かれたカーテンの前に飲み込まれる。
当然俺はベッドで寝ているわけではなく、その脇で絶賛お着替え中。ベッドを挟んで、俺とタケル君の視線がごっつんこ。君こういうシチュエーション好きね本当。
一応上はほぼ着替え終わってるけど、下は未だに下着のまんま。見られたからどうっていうわけではないけど、ここはお約束として隠した方がいいのだろうか。
「……このスケベ。そんなに親友の生着替えがみたいか」
「ばっ、ちが、これは!」
「タイミングも狙ったかのようにバッチリだったしな。本当は監視カメラとかでタイミング計ってたんじゃないのか?」
「んなことするわけ無いだろ!?」
「はぁ、こんな辱めを受けるなんて……これじゃもうお婿にいけない……」
「お婿には元々いけねぇよ!」
こういう時、斑鳩がタケル君とかうさぎちゃんとかをいじって遊ぶ理由が分かる気がする。こいつ等反応も良いし、いちいち律儀に返してくれるから退屈しない。
ぜぇはぁと肩で息をするタケルくんだったけど、ふと何を思ったのか真面目そうな顔になる。キリッとした表情は様になっていて、真剣に俺の眼に視線を合わせてくる姿勢に思わず惚れそうになる。まぁこの状況でそんなことやってもむしろ開き直った変態みたいだけどな。
「なぁ、鯨澤。お前なんであんな無茶したんだよ。いつも戦闘は嫌だって逃げてるくせに、昨日は一体どうしたっていうんだ?」
「いやまぁ、色々あったんだよ。お前に話したってわかってもらえないようなことが、色々な」
「……なぁ。たしかに俺はバカで、お前の話だってほとんど理解できないかもしれねぇ。だけどさ、何か並々ならない事情があるんだろ? ならさ、手伝わせてくれよ。一人でやるより、二人でやったほうが確実だろ?」
「たしかにそうかも知れないけど……だけど、やっぱダメだ。悪いけど、誰に話すつもりもねぇよ」
まぁ、実は未来で起きることを知っていて、それを事前に止められるんじゃないかと思って調子に乗った結果こうなったとか恥ずかしくていえないよな。そもそも未来の知識があるとかいうのが信じてもらえないかもしれないけど。
それに、うっかりこんな場所で話してしまえば誰の耳に入るかもわからん。特に颯月の奴に聞かれでもしたらそれこそどうなってしまうかわからない。良くて玩具、最悪即シーリーへ売り渡して頭の中のぞき込まれるかもしれない。そういう点でも、話すことはできないんだ。
「……わかった。なら、もう聞かねぇ。そのかわり、何かやるときは俺にもいってくれ。もう、一人で突っ込まないでくれ。仲間が、親友が──お前が傷ついてる姿なんて、もう見たくねぇ」
「──そか。安心しろ、俺だって好きで傷ついてるわけじゃねえし、できるなら戦いたくも傷つきたくもないからな。それに……おまえにはもう十分助けてもらってるし、これからも十二分に助けてもらうつもりだから心配すんな? だから、そういう言葉はもっと必要としてるやつに言ってやれ」
「は? それってどういう……」
「そういう口説き文句は女の子に言えってんだこのあんぽんたん。後そろそろ下腹部冷えてきたから下着て良い?」
「え? な、なんでおまっ、早く下履けよ!?」
「おまえ自分で着替え邪魔したこと忘れたとはいわせねぇよ?」
「会話中に履けば良かったろ!?」
「ふはは、忘れてた」
取りあえず着替え済ませるから出て行けとタケル君をたたき出し、制服をきちんと着終えた後に俺も病室の外へと出た。
一先ず、英雄なんて前哨戦でしかないんだ。ここで生き残れなければ、後々生き残れる保証はない。結局、そのときにできることをやって、後は神に祈るしかないわけだ。神様、お願いですから人生ルナティックモードな現状をどうにかしてください。これじゃ、俺……生きる希望を見失っちまうよ……