……本編中での彼も、巫山戯ている訳ではありません。ただお茶目なだけです(それも何だかなぁ)
原作で一度されていたコスプレなので、敢えて詳しい描写は載せてませんが、あまりにもシリアスな雰囲気が続いている分、少しでも和んで頂ければ嬉しいです。
プロジェクト“
「白金稜一郎?」
「その筋じゃあ有名な人物っすね。俺も聞いた事はありますが、あくまで表の研究者だった筈です。マフィアに引き抜かれていたって話も聞いた限りじゃあ有りません。……それに彼は、確か数年前に事故で亡くなっている筈です」
研究資料を斜め読みしながらのリボーンの問いかけに答える獄寺は、普段からこの手の話を好んでいるだけあり淀みない。
詳細な調査と裏付けはとっておく必要があるなと、頭に付け加えながら、リボーンはもう一つの気になる単語を問いかけた。
「……このμ計画って言うのは分かるか?」
その言葉には聞き覚えがなかったのか、僅かに間を置いて獄寺は、首を振った。
「……ですが、立案って言うのが引っかかりますね。資料がどこかに残っていれば分かりようもあるんすけど」
「残っていないのか?」
データの精査をしていたスパナの方が口を挟む。因みに骸は手持ちぶさたになったのか、壁に寄りかかり資料をパラパラとめくっていた。
「死亡した際に研究所は全焼しているんです。その時に共にいた奥方も亡くなったそうで……生き残ったのは当時十かそこらの博士の子息と、その世話係を務めていた子供だけっすね」
そう言う意味では、本家とも言えるμ計画は彼の死で白紙に戻ったと言える。
「……その事故に、こっちの奴らが関わった可能性は?」
リボーンの言葉に、獄寺の眉が僅かに寄せられる。
「分かりません。……可能性は、低いかも知れませんが」
断定は出来ない。遠回しな言葉に、リボーンはこれも、詳細な調査案件として頭の中に付け加えた。
「終わったよ。ここに残っている資料はどうするんだ?アルコバレーノ」
データの精査を終えたスパナが顔を上げる。尋ねれば同時にデータベースにあった情報も全て写し終わっているそうだ。
「……じゃあ、ずらかるぞ。後始末は後発に任せる。九代目ともそう決めてあるしな」
「結局、十代目に関する手がかりは無しか……」
沈痛な表情となる獄寺の周囲は、どんよりと暗くなっている。その姿に二、三度瞬いたスパナは、くるりと首だけを、その肩に乗るリボーンに向けた。
「……アルコバレーノ。まさか正一からの報告、嵐に伝えてないのか?」
信じられないと、ありありと顔に書かれたスパナに思わず、名指された獄寺もリボーンを見る。
それに含み笑いを零して、リボーンは口角を上げた。
「
そのリボーンの言葉は、暗に伝えていないと、答えてはいる物の、肝心の何の部分に関しては、何とも上手い具合に誤魔化している。その様子に、一人だけ蚊帳の外扱いされていることは嫌でも感じ取られ、獄寺は無意識でも眉を寄せる。
それを目敏く見つけ、面白がった骸によって伝えられたその知らせに、遂に獄寺は、驚愕の声を上げた。
「入江正一の知らせというのは、ボンゴレが、日本から動いていないと言う情報ですよ」
「…………はぁっ!!?」
十年後の未来の世界にて普及していた死ぬ気の炎を灯せるリングの反応によって、敵、味方問わず位置を観測する「死ぬ気の炎探知システム」。
それが今回急遽、十年後の未来の記憶を持つボンゴレの科学者、ジャンニーニと入江正一によって作成されたのだという。突然の事である為に、その精度は十年後の物と比べるにも烏滸がましい物で、国単位でしか観測は出来なかったのだが、それでも現状を打開するには十分な情報だった。
「……じゃあ敵はまだ国内のどこかに潜伏しているって事か……」
「……それなんだが」
そこでリボーンは一変、重々しい口調で切り出した。
「ここまで来て……俺達はもしかしたら重大な間違いをしていたかも知れないのだよ。ワトソン君達」
そう言い放ったリボーンの服装は、いつの間にか、いつもの見慣れた黒スーツから、シャーロックホームズを彷彿とさせる服装に変わっていた。
「……いつの間に」
交流が少ない為に、早着替えが初見であったスパナが目を輝かせながら、マジマジと凝視していた。
「……重大な間違いとは、一体何のことなのですか?アルコバレーノ」
早着替えを認識してから今まで、ずっと無言だった骸は、どうやら気になった様々な事には口を出さない事に決めたらしい。
本題のみを簡潔に問いかけてくる。
「……全く、張り合いがねぇな」
それに対して、綱吉のいつもの呆れるほどの口の挟みようになれているリボーンはやや不満げではあるが、さして気にする様子も無く、獄寺と骸を交互に見つめてくる。
「今まで俺達はツナの失踪を、何者かによる誘拐……その線で調べていた。そうだな。獄寺?」
いきなり話を振られた獄寺は、ややどもりながらも頷く。
このファミリーの構成員……そう明らかにされている者達の遺体は、血に塗れ、所々まるで獣に食い散らかされたかのような跡があったと言う。
その近くに綱吉の学生鞄があり、更にいつまで待ってもその本人が帰宅する様子がなく……それが混乱に拍車をかけた。
(……ん?)
そこで一つ、そもそもの最初の違和感に気付いた獄寺は、恐る恐るといった風でリボーンに発言を求めた。
「リボーンさん。今思えば最初の現場証拠では、このファミリーは十代目を攫ったというよりは、十代目を助けようとして敵対勢力に返り討ちにあったと言う事では?」
「まぁな。最初はその可能性も考えたぞ」
にべもなく頷きながら、だがなと、リボーンは言葉を句切る。
「そう言う諸々全てをひっくるめて、知っている事を聞かせて欲しいと九代目が差し向けた部下に対する仕打ちが
最後には僅かに口角を引き上げてみせるリボーンに、獄寺は「当然っすよ!」と、完全に同調しようとしている。それを溜息交じりに引き留めるために骸は口を開いた。
「……そう言えば、あの時にこのファミリーから送りつけられてきた手紙、何ともおかしな事が書かれていましたね? ……ボンゴレの若君も、近いうちにこうなると」
クフフと独特な笑い声混じりに薄笑いを浮かべる骸の方は、もしかしたらリボーンが告げようとしていることが分かっているのかも知れない。
その有り得そうな事態に苛立ちを覚えるも、円滑に進める方を優先して、リボーンは続けた。
「そうだな。おそらく
そのまま、スパナの持つパソコン、あらかじめ入れて置いたデータを表示させる。
その実験結果は人ではなく、全て動物や、植物であったが、惨い光景に変わりは無い。
「は? ……つまり、失敗すると分かっていて使った、と?」
理解が出来なかったのだろう。思わず目を点にした獄寺に、フフンと鼻で笑いながらリボーンはどう考えてもとんでもない相手の思考を暴いた。
「そーだぞ。失敗前提。おそらく死ぬと分かっていて、殺すために実験体にしようとしたんだろう。肉塊となっちまっても、そこに誰も目撃者がいなきゃあ、あの実験の記録が出てこねぇ限り、実行犯の特定は難しいだろうからな」
「……本当に」
利に適ったリボーンの思考に、予想はしていたとは言え、骸は呆れたような感心したような声を上げて……笑い出した。
普段の彼ならば、誰も考えもしない姿。
だがその彼の姿に、目撃した一人である獄寺の脳裏に過ぎったのは、いつか誰かから聞いた、彼と彼の仲間達の出生の記憶だった。
エストラーネオファミリー。
そこで生まれたと言うだけで、彼等はファミリーの実験動物とされたのだ。
禁弾と指定を受けた憑依弾。
それと等々か、それ以上の物を作り、ファミリーの繁栄とさせるために。
当然、その過程で実験に耐えきれず、命を落とした子供も居たはずだ。だが、彼らは皆、成功させるためにやっていた。
……少なくとも、殺すための実験は一度もしていなかった。
(彼等を許すことなど有り得ませんが、その一点においては、実験動物としては、我々を大事にしていたと言うべきでしょうか)
しかしそれで感謝することなど無いだろう。
憎しみも消えることは無い。マフィアなど今も嫌いだ。
「しかし、だ」
骸の心情を知ってか知らずか。彼の落ち着いたのを見計らうような間を置いて、リボーンは話し始めた。
「この場所にはツナの肉塊はねぇ。その時点で、奴らにとっては予想外だった筈だ」
煙草のパイプでもあれば、間違いなく咥えているだろうその姿。見た目が赤ん坊なだけになかなかのシュールな光景になっていた。
「敵にとっても予想外、ですか。確かに、殺した筈の肉塊が見あたらず、あるのが仲間の遺体の時点で十分度肝は抜かれていたと思いますが」
戯けるような口調でからかう骸に、獄寺も自らの思考に集中していた。
「確かにそうですね。自分達の仕業ならばわざわざ味方を殺す必要性はない。意見の相違が生まれ、内部分裂が起きたとしても、行動を後に隠蔽する気だったのなら尚のこと、遺体を残すのは悪手でしょう」
次々と不審点に着目する二人に頷いて、リボーンは更に言葉を重ねる。
「敵対ファミリーの遺体からは動物が食い散らかされたかのような痕跡が出てきた。……匣兵器の可能性もあるが、俺はもう一つ、別の可能性もあるんじゃねぇかと思ってる」
「別の……可能性?」
いきなり変わったように感じる話題に、獄寺は、反応が遅れる。
「ボンゴレ本人による、抵抗」
そんな獄寺と、無言の骸に変わり、言葉を紡いだのは黙り続けていたスパナだった。
「……なっ!?」
「……おやおや」
「……違うか? アルコバレーノ」
驚愕する獄寺と、読みづらい薄ら笑いを零す骸を見向きもせず、スパナはリボーンの返答を待った。
「流石だな。スパナ」
そう呟いて、僅かな笑みを浮かべるリボーンは、遠回しに正解だと教えているようなものだった。
「な……何言ってんですか!? 十代目がそんな……!!」
動揺も露わに言い募る獄寺を視線で黙らせ、リボーンはしっかりとスパナに目を向ける。
「そんで……おめぇはどこからおかしいと思った?」
「……プロジェクト“
淡々と語り始めたスパナ。しかし彼のいう穴は、この実験の結果の数々から見れば、至極当然のことだった。
「どこにも……成功例のデータがない……!」
「んなもん、成功したことがねぇんなら、当たり前だろうがっ!!」
真面目なのかオオボケなのかいまいち判断のつかないスパナの言動に、思わず獄寺は怒鳴り散らした。
「そーだな成功したことがねぇから、成功例のデータがない……つまり敵も、実験が成功した時の危険性を考えてなかったんだぞ?」
しかし振り上げた拳は、スパナに届く前に返されたリボーンの言葉でピタリと止まる。
「待って下さい。アルコバレーノ。まるでボンゴレが、その成功例皆無の実験の成功例となったような言い方ですが、成功したと本当に思っているんですか?」
言外にあり得ないだろうと断ずる骸は、現実的な男ではある。しかし。
「そう考えなきゃ辻褄が合わねぇ。それに何の根拠も無しに言ってんじゃねぇぞ?」
円らな瞳が骸を……彼を通して、嘗て彼を倒した少年を見る。
「そうならなきゃ死ぬ。死に直面したあいつの後悔は、下手なマフィアより余程強いのは、おめぇ等もよく知っている筈だぞ? ……そして、そこから生まれる強さもな」
その時骸が、獄寺が思いおこしたのは、彼と共に戦った多くの戦いの数々だった。
「……成る程。だがそれなら敵対ファミリーを襲った理由も説明できる」
僅かな間を置いて説明を被せるスパナは会話をしっかりと聞いていたのか、その言葉は淀みない。
「精査していた中から出てきた。彼等の知り得る、実験の元となる
意欲も感じない、いつもの眠そうな瞳。そんな表情で差し出された情報は、知った中でも最悪のもの。
「奴らは人を襲う……そう言う性質を持ってる……!!」
それは本当に……厄介な情報だった。
おかしな所でぶった切りました。とりあえず、リボーンサイドはこれにて終了です。
では本日はここまでです。
ではまたご縁があれば。