……それは本文をご覧下さい。
その研究所までたどり着けた一番の理由は、風紀副委員長、草壁が発見した、複数の男達の変死体にある。
その所持品から(事前に予測は出来てはいたが、やはりマフィア関係者だった)所属するファミリーを割り出して、直ぐさまボンゴレ本部。そこにいる九代目に知らせた。
件のファミリーは確かに同盟ファミリーであったが、いかんせん状況が疑わしき過ぎる。
囲むようにして倒れる血塗れの男達。
その近くに放置されていた沢田綱吉の学生鞄。
挙げ句に、未だ自宅に帰らぬ沢田綱吉。
調査と銘打ってでも動くには既に十分だった。
雲雀率いる風紀委員は、草壁が現場を発見して直ぐに規制線を並盛の出入り口四ヶ所に張ったらしいが、疑わしきものは出てこなかった。
この事も相まって、直ぐさま九代目はファミリーのボスに向けて、親書をしたためた。
しかしそれに関する返答も無く、使者も帰還する様子がない。
留め置かれているだけかも知れないと、九代目も考えてはいたようだが、一夜明けて帰ってきたのは、とんでもないものだった。
《貴殿の後継たるボンゴレの若君も、直にこの者と同じ姿で貴殿の目の前に現れるであろう》
その一筆と共に、送られて来たのは、原形をまるでとどめていない肉の塊で……これには荒事になれている本部の人間も顔面を蒼白にした。
九代目は顔を強ばらせたまま、その肉塊のDNA鑑定を命令し……その肉塊のDNAは使者のものと一致した。そして、この文言。最早どのような説明も不要だった。
ファミリー本部を強襲する九代目守護者率いる主力部隊とは別に、並盛から十代目ファミリーの中でも十代目、沢田綱吉と出会う以前からマフィアだった獄寺隼人と、六道骸が秘密裏にイタリアに呼び出されたのは、この出来事が起こり、襲撃が決定されてから二日後……襲撃前日。……沢田綱吉の突然の失踪より、既に四日が過ぎた頃だった。
彼らは主力部隊とは別に、各地で行われる研究を統括する、「第二の本部」と言っても良い場所への、襲撃命令が出されたのである。
「研究施設は各地に点在している。詰めてんのもほとんどが研究畑の人間で、チェデフの調べでは戦闘能力は一般人に毛が生えた程度。警備も大した事はねぇそうだ」
任務内容のみを淡々と口にするリボーンからは未だ沢田綱吉が発見されていない事実に関しての動揺は見られない。
いや、動揺を見せないように敢えて平静を保っているといった所だろうか。
「ただ……そこは精密な機械やら貴重な資料などが多そうだからな。実験の詳細も分かってねぇ以上、その道の専門家の協力を取り付ける必要もある。……ということで、実際の施設への侵入、制圧はヴァリアーへ一任された」
「ヴァリアークオリティーですか……では僕らが襲撃する施設というのは……?」
「あるのはデータだけだ。だが……」
そこで一度言葉を切ったリホーンが、二人へ視線を向ける。
まるで何かを試すように。
「実験段階から実用段階に入っていたデータに関しては、より詳細な資料が残っている可能性があるのは、研究所よりもこちらの方だろう」
リボーンの期待通り、彼らはその言葉を正確に理解していた。骸は有るか無いかの、獄寺ははっきりと分かる程に、何とも凶暴な笑みを浮かべていたのだ。
可能性が低くあっても、それは決してあり得ないことではない。ファミリーの上層部も、襲撃の可能性は僅かばかりであっても危惧はしていたのだろう。重要なデータの保管先は爆発にも耐えきれる耐熱、及び防火性の含んだ扉の向こう……地下室にあった。
「それで何でもう少しまともな戦闘員置いてないんでしょうか……? 理解に苦しみますね、ここの奴らは」
不満を隠そうともせずに、口の中でブツブツと言葉を転がす獄寺は、嘗ての……主人と定める十代目、沢田綱吉に出会う前の己と、どこか重ねる所でもあったのか、眉を顰めさせた顔の皺が何重にも重なっている。
「落ち着け、嵐の。ここにいないこのファミリーの上層部に文句を言っても仕方ないだろ」
無言で歩く殿を務める霧の守護者……六道骸の前方、即ち獄寺の真後ろにいたスパナが、さしていつもと変わらない声の調子で苛つきを隠そうともしない獄寺を諫めた。その肩には先程と同じく、引率であるリボーンが鎮座している。
「それに……うちらにとっては好都合。後続のボンゴレの部隊からしてみても、余計な戦闘が起きない分、難易度はほとんど無いだろうな」
「……んなこと、分かってんだよ!」
淡々と言葉を続けるスパナに、遂に限界が来たのか、獄寺の怒鳴り声が響く。殿の骸は我関せず。スパナの肩にいるリボーンは、視線を投げるのみ。
そんな殺伐としかけている空気の中で悲鳴を上げることも出来ないでいるのが、獄寺に武器を構えられながら案内を強制されている男の現状であった。
そもそも、男は知る由も無いことだろうが、この嵐の守護者、獄寺隼人と技術者、スパナの仲は、良好と呼べる代物ではない。
もともと獄寺からすればスパナは敵対側の人間である。
ボンゴレ十代目、沢田綱吉の可能性に惹かれて、未来で行われた戦いではボンゴレ十代目に協力、その縁で現在もこちらよりになっているに過ぎない。
裏を返せばそれは、沢田綱吉への興味が失せれば敵対関係に戻る可能性があると言うことに他ならない、と言うのが獄寺の考えだった。
そんな獄寺の心中など露知らず、スパナはあくまでマイペースに、キーボードに指を走らせる。のんびりとしたやりとりや穏やかな指使いとは裏腹にやっていることはここのファミリーに属する人間からすれば、かなりえげつない事ではあったが。
彼は同行する守護者達とたわいのない話を交わしながらこの施設の警備システムをハッキングし、内容を書き換え、その施設に在所が明かされている関係施設のパソコンに向けて、次々とウィルスまでとばしていると言う現状だった。
(この男は鬼か? ……はたまた悪魔か!?)
思わず遠く離れた同胞達の、現在起こっているだろう阿鼻叫喚を想像してしまった男はひっそりと胸で十字を切ったが、いかんせん彼自身には、それ以上に恐ろしい現実が待っているという事に果たして男は気付いたのであろうか。
「さて……」
僅かな間と共に囁かれた言葉と同時に、男の足は止まった。
彼らの要求した場所……施設の情報統制室に辿り着いたのだ。
「開けて貰いましょうか?……でなければ、分かっていますね?」
その要求に対する拒否権は、事実上ない。
「う゛ぉぉぉぉい……何だ?こりゃあ……!」
それを視認した直後、あまりの光景に男……スペルビ・スクアーロは、顔を歪めた。
「これは……同盟ファミリーとしては、恥曝し以外の何ものでもないね」
傍らに付き従う子供……体中をすっぽりと覆う黒いコートに身を包み、同色のフードを深く被った赤ん坊……嘗て霧のアルコバレーノと呼ばれたマーモンも、微かに鼻をならした。
そこに立ち並んでいたのは、何らかの液体に充たされた、巨大な試験管の数々だった。
一見、何も入っていないように見える物も幾つかあるが、よく目をこらせば、豆粒ほどの大きさの何かが液中に浮かんでいる。
「動物ばかりで、人間が浮かんでいないことだけが唯一の救いだね……」
大人の両腕でも囲いきれないほど大きな径の試験管を、見聞しながら呟かれたマーモンの言葉に、人情味のあるスクアーロは、顔を顰める。
おそらくここにはないと言うだけで、それをしていないないとは考えにくいからだ。
なぜなら。
「プロジェクト“
同じ研究所内で見つけた資料の中には、何とも不遜な言葉の数々が並んでいたからだ。
「……だがこりゃあ、進み具合によっては、面倒なことになるぞ……!」
心底、忌々しいと言わんばかりのスクアーロに、漸くマーモンも同意する。
「そうだね。……これは、復讐者が動いても、おかしくない」
「…………これは」
同じ頃、スクアーロと同じく、その該当資料を見つけた彼等は、二の句を失っていた。
「正気か……?こいつら……っ!」
僅かに吐き出した言葉の中に、獄寺の驚愕が零れていた。
「これは……何とも非常にマフィアらしいですね」
微笑を浮かべる骸だが。その笑みは絶対零度の微笑みと言って良い。
「……プロジェクト“
のんびりとした口調で、資料をめくっていたスパナが思い至ることがあったのか忙しなく動き始めた。
しばらくして、該当する箇所を見つけたのか、スパナの目が一点で留まる。しかし、目を大きく見開き、鋭く息を吞んだだけだった。
「地球上の生物に対する、エイリアンの遺伝子を打ち込む実験とは……」
冷徹な微笑のまま言葉を呟く骸だが、その瞳は嘗て見た覚えが無いほど憤怒の色に染まっていた。
「確かに、拒絶反応で肉体崩壊を起こしても、おかしくありませんねぇ……!」
本文で使われてた「EBA」の言葉は、十割こじつけです。
実際にそのような計画はどこにもありません!!(重要!!)
訳もかなり適当なので、突っ込まないで頂けると有難いです。……英語能力が無いなぁ(泣)
それではここまでお読み下さりありがとうございます。
ではまた、ご縁があれば。