この一話だけでもまだ訳分からないと思います。
まさか白金の視点だけで一話分終わるとは思いませんでしたが、キリも良いのでここで終了とさせていただきます。
それではEBA~エーバ~ ♯2
どうぞご覧下さい。
自らが開発した銃を構えるも、それでも
何より。
(嘘だろう……? 「ヒト」型の、「キメラアニマ」だと……?)
現状において、地球に侵入しようとしているエイリアン達、彼らが配下のエイリアンを動物に寄生させる事で生み出している筈のキメラアニマの、新たな、そう呼んで良い形に、ただ、驚愕していた。
「お前は……何だ? 人間か……?!」
現状においてはまるで役に立たないだろう銃を構えながら、それでも白金は問いかける。
無意味だろう。本当にキメラアニマならば、まず言葉が通じるかどうかも怪しい。
寄生しているエイリアンの影響を受けているのか、両手両足を炎に包まれているその個体は、それと全く同じ炎で額を焼きながら、僅かに顔を顰めた。
「オレハ……」
聞こえた声は、外見よりも更に幼さを感じさせる舌足らずな、声。
「ヒト」でなくなった影響なのだろうか。
まるで外国人が片言で話すかのように、そのイントネーションにも違和感はあるが。
「オレハ……ヒト……デ、アリタイ」
ようやっとと言うように、吐き出されたそれは、願望だった。肯定されないこと。それが答のように聞こえた。
UMA研究の第一人者であった父の死をきっかけに、白金稜は記憶した彼の研究結果の全てと共に、彼の跡を継いだ。
事故死と公にされたけれど、白金から見ればあれは明らかに事故ではないだろう。
しかし現代の認識で言えば、事故としか呼べないのだ。不幸にも隕石が偶然頭上に落下、そのまま死亡。
死因さえ明らかに出来ない程の肉体の損傷。即死と言えた。
白金の見識で言えば、それは殺害だった。
自分達の事をこれ以上調べられるのを恐れて、彼らは手を下したのだ。
その研究内容ごと、無に帰そうとしたのだろう。
しかし彼らの誤算は無に返した研究内容をその当時研究所を遊び場のように入り浸っていた稜が、全てを覚えて、
しかしながらその当時、白金はまだ十を少しばかり過ぎた程度の子供だった。
たとえ知能は天才と呼ばれるほど高いものでも、肉体の成長は何ともしがたい。
その為彼は後見人となった父の元助手、赤坂圭一郎を父の後任として、自らは投資者の位置に収まった。
あくまで対外的な物ではある。
この形で、日本に拠点を移し、再び父の研究に取り組み始めた白金が直面したのは、あまりにも時間が少ないという現実だった。
そもそも、UMAによる地球侵略など、夢物語と称されることは、これまでの歴史が証明している。
今より数十年前から、未確認飛行物体を始めとして、様々な事柄が異変を示しているにも関わらず、人はいつでも信じたい物しか信じないのだ。
息子の白金や助手であった赤坂の方が、稀少なのだと分かっている。
下手に声を上げた所で、精神科の受診を勧められるのがオチだ。
そんな世の中だと諦める位の分別は、残念ながらもつけられるようになってしまった。
それでも世間の、人間の思惑通りに動く物など、実際はほとんど無く、それは動きを見せるUMA達にとってもそうだった。
人間が目を逸らすことを良いことに、彼らは次々と悪意の種をばらまいていく。
その名は「パラサイトアニマ」。
エイリアンの中でも寄生型とされる物で、クラゲのような形態をしている。
彼らが地球に住む動物に寄生して生まれるのが、キメラアニマである。
(だが……今まで人に直にパラサイトアニマが寄生する例は無かった筈だぞ? 新たに可能になったって事か?!)
考えれば考えるほど、現状の異質さ、危険度を認識する。ここにいるのが白金一人ならば直ぐさま逃げていただろう。
だが、ここには白金以外にも、もう一人、人が残っていた。
今し方まで白金が対峙していたキメラアニマの元となった動物……あの形状からして、おそらく猫だろう。それを連れていた少女である。
目の前の状況が信じられないのか、しゃっくり上げる涙声が痛々しい。
白金自身も昔は動物を飼っていたので気持ちは分かるが、だからと言って、今かけるべき言葉を白金は持っていない。
白金が持っている銃には、レッドデータリストに記載される動物……レッドデータ・アニマルの遺伝子が弾丸として装填されている。
それを撃ち込むことさえ出来れば、寄生するパラサイトアニマを動物から分離させる事は出来るのだ。
(問題はどうやって打ち込むか、だったんだけどな、さっきまでは。……あのヒト型の方をどうするか……会話が出来る、その内容に期待してみるか? そうなると裏切られた時が怖いが……)
チラリと、銃に視線を向け、思考を続ける。
あのヒト型のキメラアニマは、件のキメラアニマと己が対峙していた所に割って入り、蹴りで一撃入れただけだ。
(両手両足を燃やす炎がどのような効力を持っているのかは知らないが、あの一撃程度でキメラアニマが動けなくなるはずは無い。そろそろ何らかの動きを見せてくるはず)
敢えて冷静さを取り戻すためにも、声には出さないもののこれまでの事を思い浮かべていた白金は、少女の声で我に返った。
(しまった! まさかヒト型の方が……!!)
咄嗟に白金は銃を未だにそこに立ったままなヒト型のキメラアニマに向けるが、視界を掠めた少女の姿に、思わず目を見開いた。
「何……?」
少女は、両手で猫を抱えて笑っていた。キメラアニマとなっていた筈の猫を。
しかもヒト型のキメラアニマに向かって笑みを浮かべているのだ。
「お兄ちゃんの言ったとおり、いたよ! ありがとう!!」
そこで漸く、そのヒト型のキメラアニマの表情が変わった。薄らと、有るか無いかの笑みを浮かべたのだ。
「モウ、オソイ……カエル、ホウ、イイ」
手を差し出す事はしない。嫌、もしかしたら差し出せないのかも知れない。
両手両足を燃やす炎が消える様子は無かった。
少女はそんな異様とも呼べる姿に、疑問を持つ様子も無く、無邪気なままに頷いた。
「うん! ありがとう!! さようならっ!!」
そのままパタパタと音をたてて走って行く少女の姿をヒト型のキメラアニマと並んで眺める。それがどれほど異様な光景か、誰かに問うまでも無く、白金も自覚していた。
キメラアニマではない、という期待は持てないだろう。両手両足を燃やす炎がなかったとしても、彼が人外である証拠ははっきりと白金の目には見えていた。
人間のそれとは明らかに形の異なる、絵物語などではエルフの特徴とも呼ばれる横に伸びる細長い耳朶。
エイリアンの中でも上位に位置する者達の特徴とも言われている。
(まさか……本当にキメラアニマを指揮する奴らの一人なのか? もしそうなら何でこんな所に……まさか父さんのように俺を……)
逃げるべきだと、思う。しかしもし予想通り、白金の目の前にいるのが、新種かも知れないヒト型のキメラアニマではなく、その上位にいる指揮官クラスのエイリアンであるならば。
(勝てねぇ……俺じゃあ無理だ……! クソッ……!! また、なのかっ……!! 漸く
悔やんだところで、どうにもならないのだろう。寧ろ無関係であったあの少女が見逃された事を僥倖と思わなければならない。
殺されるのはへまをしたであろう己だけで十分だ。
(あぁ。でも……またあいつは……圭一郎は泣くのかな……)
ふと、脳裏に浮かんだのは幼少から今まで、ずっと傍にいてくれた大切な家族だ。
父が亡くなった当初も、泣くことをしない己に隠れて泣いていたような気がする。
ここで己が死んだらまた泣かせてしまうだろう。
(……ごめんな)
胸中だけで詫びを入れれば、グッと、己の右手が……他ならぬ銃を今も握っている手を掴んでいる。
そのまま握りつぶすのか、捻り千切るのかとせめて己の最期は見届けよう、間違っても惨めな姿は見せたくないと、ギロッと睨むようにエイリアンを見据えると。
「……は?」
そのエイリアン……だろう筈の子供は先刻に少女に向けたものと同じ、薄らとした笑みを……しかしどこか申し訳なさそうに白金に向けていた。
「……え?」
そのまま子供はゆっくりと、白金の手を掴んだまま、白金の手の中の銃を己の首筋につける。その姿はまるで。
「おい……何やっている……!?」
その姿はまるで……自ら進んで撃たれようとするかのように。
「……ゴメン……ナサイ」
その呟きと共にへにゃりと、子供は笑った。
そのまま降りていた撃鉄が起こされる。
「アリガトウ、ゴザイマス」
しかし次いで呟かれた言葉には、その時見えた橙にも見える琥珀の瞳には、死の気配はまるで無かった。
そのまま、引き金が引かれた音を、白金はただ、呆然と聞くことしか出来なかった。
指揮官クラスのエイリアン、新種かも知れないヒト型のキメラアニマ。
果たしてその正体は……!
地の文で誰かは分かる気がします。