オーバーロード~生まれ変わった至高の御方々~   作:ハルフウェイ

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ヘロヘロ①

俺が覚えている一番古い記憶は雨に打たれながら汚い路地裏で空を見上げている記憶だ。

 

物心付いた時からずっとそこにいた。

 

悪いとは思いながらも人の物を盗んだりして金を稼いで食べ物を買って過ごしていた。

 

そんなある日、突然、俺は変態した。

 

変身じゃない。変態だ。

 

いきなり視点が低くなったと思ったら近くにいた同じ境遇の連中が悲鳴を上げて逃げ出した。

 

それを不思議に思いながら歩き出すと妙な音がした。

 

ズルズルと何かを引きずるような音だ。

 

周りを見回しても誰かが何かを引きずっているなんてことはない。

 

不思議に思いながらつい生まれる前からの癖(・・・・・・・・・)で頭をかいた。

 

「ん?」

 

生まれる前?

 

「生まれる前ってなんだ?」

 

明らかに変だろ。

 

そう思うと同時に頭の中で爆発が起きた。

 

「いったぁああああああ!?」

 

頭に激痛が迸り、ガンガンと頭の中から叩かれるような痛みで思わずうずくまる。

 

そこでようやく何で他の連中が逃げ出したのかを知った。

 

水色のドロドロとした粘体。

 

粘体(スライム)だ。

 

それを自覚すると同時に頭痛が嘘みたいに引いていった。

 

「はっははっ・・・そうだったそうだった」

 

全てを思い出した俺は一人で笑う。

 

ユグドラシルが終わって少しした後、俺は会社の階段を下りてる最中にめまいがして・・・。

 

「そのまま落ちて後頭部を強打。あの時は痛かったなー。ハハハハ」

 

笑い事じゃない。

 

そう思っていると遠くからバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

 

逃げた連中が衛兵でも呼んだかな。

 

人間だと思っていたらいきなりモンスターに変身したんだもんな。

 

衛兵は呼ぶだろう。

 

さて、さっさと逃げて安全な場所で今後を考えよう。

 

そう決めて近くに下水道につながる穴を見つけてその中に入っていった。

 

 

 

下水道生活三年目。

 

「んっふぁぁぁ~・・・よく寝た」

 

最初は「臭い」「汚い」「喰われる」の3Kだったが、今は全てに適応していた。

 

臭いは慣れたし、汚いも粘体だから汚れも消化出来るから気分的なもの、喰われるは逆に喰ってやった。

 

そして俺は下水道のキングとなった。

 

今やただの粘体ではなく赤き粘体(レッド・スライム)となっている。

 

前世の記憶通りであるなら、このままいけば古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)となる。

 

そうなればこんな場所からはさっさとオサラバして新しい場所に行くぞ!

 

そう思いながら聞きなれた絶好のカモが鳴らす音が下水道に響いてきた。

 

金属がぶつかり合う音。

 

音からして全身鎧か。

 

それに一人じゃないな。

 

軽い足音・・・修行僧(モンク)魔法詠唱者(マジック・キャスター)か。

 

後者だった場合は火球(ファイヤーボール)が厄介だ。

 

だが、地の利はこっちにある。

 

そして下水道だから水中に潜めば奇襲も容易だし、天井とかにもへばりついて移動できるからこっちの方が有利だ。

 

水中に潜み相手を待つ。

 

しばらくすると松明の明かりとともに背の高い黒の全身鎧の男と茶色のローブを纏った黒髪の女性が現れた。

 

「・・・・ン・・・様・・・ごとき・・・十分・・・」

「・・・・よ・・・粘体・・・・・・するな」

「はっ」

 

んん。よく聞こえないな・・・。

 

まあいい。それじゃ俺の経験値になってもらおうかなーっと。

 

水中から出てゆっくりと近づく。

 

そして気づく前に襲い掛かる!

 

まずは厄介な魔法詠唱者から!

 

「っ!」

 

魔法詠唱者の女性は何かを感じ取ったのかこちらに振り向こうとする。

 

だが遅い!

 

体を広げて口を塞ごうとしたその時。

 

女性の顔が見えた。

 

「え」

 

いや、見えてしまった。

 

それは忘れもしない。

 

かつて仲間たちと築き上げた大事な宝物。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の戦闘メイド「プレアデス」が一人。

 

「ナーベ、ラル?」

 

ナーベラル・ガンマだった。

 

パチャリとナーベラルの顔に取り付くがすぐに離れる。

 

ナーベラルは驚きの表情で俺を見下ろしている。

 

誰も動かない状況の中、全く関係のない人が声を上げた。

 

「何故、その名を・・・」

「え?」

 

全身鎧の男が驚きの声で呟いた。

 

それについて問いただそうとするとナーベラルが震えながら男に向かって跪いた。

 

「アインズ様!お喜びください!この御方は至高の御方です!」

「なに・・・?」

「え?」

 

至高の御方?何それ?

 

「まさか・・・そんな・・・」

 

男はスリットの奥の目を赤く光らせながら膝をつく。

 

「ヘロヘロ、さん?」

「あ、はい」

 

状況についていけず、思わず返事をしてしまった。

 

「やっぱり・・・やっぱりヘロヘロさんだ!」

「うわっ!」

 

男は俺を抱き上げるととても嬉しそうにする。

 

「ちょっ待った!誰!?アンタ誰!?」

「あっそうでした!この姿じゃわかりませんよね。俺ですよ俺」

 

全身鎧が一瞬で消えて、それは姿を現した。

 

真っ白な骸骨に目が入っている場所で瞳のように光る真っ赤な光。

 

そしてまるで心臓であるかのように浮かぶ赤黒い珠。

 

「モ、モモンガさん!?」

「はい!そうです!俺ですよヘロヘロさん!」

 

俺は触手を伸ばしてモモンガさんの首に回す。

 

「会いたかったですよ!これ夢じゃないですよね!?」

「夢じゃないですよ!だって俺はアンデッドだから眠りませんから!」

 

確かにその通りだ!

 

そしてそのまま現状を話し合う。

 

まさかナザリック地下大墳墓ごと転移していたとは驚きだ。

 

そこで大事なことを言っていないことに気づいて慌てて言う。

 

「あ、そうだ!モモンガさん!色々と言いたいことはありますけどこれだけ言わせてください!」

「はい!」

「たった一人で長い間ナザリックを守ってくれてありがとうございました。虫のいい話かもしれませんが出来れば帰らせてください。俺たちのナザリック地下大墳墓()に」

「もちろんっもちろんです。帰りましょう。俺たちの家に。ナザリック地下大墳墓にっ」

 

こうして、俺、ヘロヘロはナザリック地下大墳墓へと帰還した。

 

既に何人も帰って来ていたのには驚いたけど・・・。

 

どうやらレベリングをすれば最終的にユグドラシルと同じビルド構成になれるらしいので頑張ることにした。

 

幸いというべきか、無限湧き(POP)は健在らしいので時間をかけてレベリングをしていくつもりだ。

 

 

 

「ただいまです。皆さん」

「「「「おかえりなさい!ヘロヘロさん!」」」」




オール・フィクションです。

本作品では、クラスの経験値は倒さなくてもそのクラスに関することを行えば経験値が貯まるという設定となっています。

それと本文では既に何人も帰ってきているとなっていますが、執筆順は帰還者順ではなくバラバラな感じで書いていきます。

因みに最初の帰還者はスーラータン様となっています。

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