オーバーロード~生まれ変わった至高の御方々~ 作:ハルフウェイ
もう名前も思い出せない都市。
私はそこで生まれた。
その都市に住む者は人間たちで中々に活気があった。
器量のいい両親から生まれた私は様々な人々に可愛がられながらそこで10代前半まで育った。
そしてある日。
私の持つタレントと呼ばれる異能が暴発してしまった。
その結果、私が生まれ育った都市の住民は全員死んでアンデッドとなった。
「私が・・・・ぎっ!!」
全身に激痛が走り耐え切れずに倒れる。
「がっ!あ、かっ・・・!」
全身を突き刺すような激痛が絶え間なく襲って来る。
徐々に視界が暗くなり、そしてそのまま意識を失った。
「ぅ・・・」
生きてる・・・。
まだ霞がかった意識に喝を入れて起き上がる。
周りを見て現状を思い出して悲しみが私の心を支配する。
とても悲しくなると一瞬でその感情が押さえ込まれた。
困惑するとそれが精神の鎮静化だという推測が頭の中に出てきた。
何故そんなことを知っているのかと思えば、自分ではない誰かの記憶や知識があることに気づいた。
その記憶に困惑していると大きな違和感を感じた。
アンデッドが私を襲わないのだ。
アンデッドは生ある者を憎み襲うはずだ。
知性あるアンデッドならばそれを抑え込むことも出来るらしいが、この都市にいるのはスケルトンなどの最下級のアンデッドたちばかり。
目の前に立ちはだかってもまるで興味を示さないのだ。
おかしい。
そう思いながら都市を当てもなく歩き回る。
数日ほど歩き回りながら考えていると、ついには私のものではない記憶と知識の違和感がなくなり完全に統一化されていた。
それを認識するとふと喉の渇きを感じた。
井戸へと向かい水を汲み上げて、答えを知った。
血の様に真っ赤な瞳に鋭く尖った犬歯。
「ははは・・・襲うわけがないな」
アンデッドの代表格である
私はそれに成ったのだ。
そうなるとこの喉の渇きも水では癒せないだろう。
癒す方法はただ一つだが、残念なことにこの都市にはそれがない。
この渇きもすぐにどうこうなるものではないから獲物が来るまで気長に待つことにしよう。
「それまではレベリングでもしておくか」
何の因果か前世の記憶が蘇ったのだ。
その中の知識と一緒なのかはまだ不明だが、知っている魔法が多く使われていたから知識はある程度は使えるだろう。
「しかし吸血鬼か・・・」
前世の記憶では想像上の存在・・・あるいはハマっていたゲームで使用していたアバターの種族。
「レベルアップで人間から吸血鬼になるなんておかしいだろ」
転生アイテムも使ってないのに何故吸血鬼になったんだ。
使える魔法やスキルなんかはある。
それから推測するに、ゲームのアバターがレベル30前後の時と同じものだ。
もしかしてあれか。
ありえないだろうがゲームのアバターに異世界転生とかか。
だが、私はあの世界で一度死んだ。
だから完全ではなくまた文字通り一からやり直しなのか。
職業や種族はアバター通りになるのだろうか。
もしそうなら、種族はザ・ワンで職業はエレメンタリスト(アース)系統になるな。
徐々に力を取り戻すというのはまるで封じられた魔神かなにかだ。
「少し待てば上位のアンデッドが生まれるから・・・少し待ってから適正レベルのアンデッドを倒し続ければレベル100になるか」
問題は時間だな。
どれくらいかかるんだかな。
私はそう思いながら、時間ならいくらでもあるかと自分に言い聞かせて動き出す。
それにしても・・・。
「何故・・・女なんだ」
前世もアバターも男だったはずなのに・・・。
あれから二百年。
かつての仲間を幻視したリーダーたちと共に六大神と呼ばれるプレイヤーのNPCを討伐しに世界中を回ったり、その時の仲間との賭けに負けて冒険者というモンスター専用の傭兵のような職業についていたりする。
冒険者はチームを組んでおり、私が所属するチームは「青の薔薇」だ。
吸血鬼だからと敬遠したりするものと思っていたが、中々にメンバーたちは変人だった。
だからこそ私は徐々に信用して、大切な存在となっていった。
我が儘にも付き合ってやったり、時に喧嘩したり。
楽しい日々を過ごしていった。
今はリーダーのラキュースの我が儘に付き合い、「八本指」という巨大犯罪組織を打ち倒そうと尽力している。
麻薬の原料を焼き払ったりしたりしてな。
そして八本指の拠点を七つ同時に襲撃する作戦を行い、私は自分の担当の拠点を潰して仲間である戦士のガガーランと忍者のティアが向かった拠点へ向かっていた。
「ん?」
飛行の魔法で飛んでいくと、どうやら戦闘をしているようだった。
あの二人がすぐに倒せないとなると、相手は八本指最強の部隊である六腕だろうか。
そう思ったと同時にティアが爆炎に包まれた。
「くそっ!」
相手は追撃をしようとしたためにすぐさま魔法を放つ。
「
第四位階魔法である水晶で出来た槍を放ち、相手の前に突き立てる。
そしてその槍に降り立ち相手を見据えた。
「此処からは私が相手・・・だ・・・」
その相手を見て私は固まった。
「な、何故・・・何故、お前がここに・・・!?」
相手も同じなようでブルブルと震えて私を見ていた。
「あ、ああ・・・アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そして叫んだ。
それは苦痛の叫びでもない。
それは驚きの叫びでもない。
それは憎しみの叫びでもない。
それは・・・歓喜の叫び。
「コノ世界ニ!ヤハリコノ世界ニイラッシャラレテイタノデスネ!」
「待て!どういう事だ!?何故お前は此処にいるっエントマ!」
相手はエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の拠点「ナザリック地下大墳墓」の第九階層にいあるはずの戦闘メイド「プレアデス」の一人。
私の仲間が創造したNPCだった。
数分ほどエントマは興奮し続け、その間に私はガガーランとティアに口も手も出さずに黙って見ているように言っておく。
「コホンッ・・・お見苦しいものをお見せしました。至高の御方」
エントマは可愛らしく咳払いをすると跪いた。
「質問に答えろ・・・。何故此処にいる?」
「はっ・・・その前にご質問をしてもよろしいでしょうか」
「・・・・ああ」
「通常であれば聞かずに分かるべきなのでしょうが、貴方様のお名前をお聞かせください」
「今はイビルアイだ。わかりやすく言うなら・・・」
前世の記憶を思い出してその名を口にした。
「私の名は、スーラータンだ」
「全く。いつまで経っても来ないかと思えば・・・何をしているんだい?エントマ」
仮面を付けた三つ揃えのスーツに身を包んだ悪魔がやってきた。
その目線は跪いているエントマに注がれている。
エントマは答えない。
「我らが跪くべきは至高の御方々に対してのみ。今や至高の御方はアインズ様ただ一人。此処にアインズ様はいらっしゃらないのに・・・何故跪いているんだい?」
口調は優しいがその声には明らかな怒りがこもっている。
本来であれば隠すべきである重大な情報を口にしているのにも気づかないほどの怒りが。
「デミウルゴス様ぁ。私は何もおかしいことはしておりませんわぁ」
「何?」
そこでようやく悪魔はこちらに気づいた。
「なっ!」
悪魔が驚きの声を上げる。
「デミルウゴス様ぁ。至高の御方の御一人・・・スーターラン様の御前です。頭が高いですよ」
「失礼しました!」
悪魔が跪き頭を垂れる。
それを見て私は思った。
え、なにこれ。
デミウルゴスが来たと思ったら跪いたよ。
エントマが私を見てからの言動を見てもしかしてと思ったけど・・・え、まさか無条件で忠誠を捧げているとかそういう系なのか?
「お、おい。イビルアイ。そいつら・・・」
「すまん。ちょっと現状を理解させてくれ」
ガガーランにそう言い現状を理解しようとする。
「貴様・・・至高の御方に何という口を・・・
「待て待て待て!その魔法を消せ!」
「ですが」
「ですがも何もない!いいから消せ!」
ガガーランを殺そうとしたデミウルゴスを止める。
デミルウゴスは渋々魔法を消すと上空を見た。
「スーラータン様、なにか落ちてきます」
「え?」
上空を見ると確かに何かが落ちてきて───
轟音と共に目の前に大剣が突き立てられた。
「それで・・・私の敵はどちらなのかな?」
ありえないほど上等な黒い鎧を着た大男。
そして手にはありえないほど上等な大剣が二振り。
間違いない。
エ・ランテルの最高位冒険者であるアダマンタイト級冒険者チーム「漆黒」のモモン。
部外者が来ちゃったよ。
どうする。
どうやって言いくるめる。
私が内心焦っているとデミウルゴスが笑みを浮かべた。
「お喜びください!アインズ様!」
え?
「・・・・私はアインズでは」
「至高の御方の一人!スーラータン様を発見いたしました!」
「何!?」
アインズ?こいつが?
「どこだ!何処にいる!?」
「そちらにいらっしゃいます!」
デミウルゴスが私を見る。
釣られてモモンも私を見る。
「・・・・・デミウルゴス。笑えない冗談だぞ」
「冗談ではございません。この御方はスーラータン様でございます」
「あ、えーと・・・デミウルゴス?この人は・・・」
「モモンガ様でございます。今はアインズ・ウール・ゴウンとお名乗りになられています」
モモ、ンガ?
「モモンガ、さん?嘘でしょ。マジ?」
「・・・・疑うようで悪いんですが・・・証拠、とかってあります?」
「え?あ、ああ。この姿じゃ分からないか」
じゃあ此処は一つ・・・かつての冒険を話そうじゃないか。
「それじゃあ・・・氷の魔竜か炎の巨人かを揉めた時のことを。ウルベルトさんとたっちさんが課金してるからや特殊クラスの条件をと」
「本物だ!」
まだ導入部分なのにもういいのか。
「久しぶりです!スーラータンさん!」
「ああ。久しぶりモモンガさん。後、最後に行けなくてすみません」
「いえ、強制じゃなかったんですから気にしないでください」
「本当にすみません。行こうとしたんですけど・・・ちょっと採掘場が崩れて生き埋めになっちゃいまして」
「えっ」
「それでそのまま死んじゃって、気づいたらこの世界にいまして」
「えっえっ」
「あ。私は二百年前に来たんですけど、モモンガさんはいつ頃この世界に?」
「まだ数ヶ月・・・って死んだってどういうことですか!?」
「詳しいことは落ち着ける場所で。今は八本指をですね」
とりあえず今の状況を説明するとモモンガさんは頷いてデミウルゴスを見る。
「八本指については私たちに任せてください。それで・・・」
モモンガさんがガガーランとティアを見る。
「ああ。アイツ等は私の今の仲間で・・・出来れば見逃していただけるといいんですが」
「ふむ」
モモンガはじっと二人を見てから頷いた。
「ここで見聞きしたものを誰にも・・・仲間にも言わないというのなら見逃そう」
「私からも頼む」
私が頭を下げて頼むと二人はため息をついた。
「わぁったよ。だけどちゃんと後で説明しろよ」
「ティナにも秘密にする。ティナはお喋り」
「二人共・・・ありがとう」
礼を言ってからモモンガさんに向き合う。
「落ち着ける場所に行きましょうか」
「ええ。では帰りましょうか。我が家・・・ナザリック地下大墳墓に」
「・・・・・え?」
ナザリックまで来てるの?やばくない?
こうして、私、スーラータンはナザリックへと戻りましたとさ。
ちゃんちゃん。
・・・・・笑えないな。
独自解釈の上にオリジナル設定で、スーラータン様をお書きしました。
ユグドラシルでのスーラータン様は、吸血鬼の最高位種族であるザ・ワンです。
確か、原作者様のコメントか何かで吸血鬼系の頂点がザ・ワンだとチラッと見たのでそれにしました。