魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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     死神は傍で微笑んでいる B

 

 結局、葵は黒髪の女性に逆らえぬまま、1Fのレストランコーナーに有る和食料理店へ連れて行かれた。

この店のテーブル席には、カーテンで仕切りが設けられており、周りからは見えない仕組みになっている。

内緒話をするにはもってこいの店だった。

 二人がテーブル席に座すると、待ってましたと言わんばかりにウエイターの女性が笑顔を浮かべてやってきた。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「コーヒーと、親子丼」

 

 黒髪の女性はこの店の常連なのか、慣れた口調で女性に注文する。

 

「じゃ、じゃあ私もそれで……」

 

 一方、この店に訪れた事があんまり無い葵は、しどろもどろな様子で、黒髪の女性と同じ注文をしてしまった。

メニューを見る余裕すら今の彼女の頭には無かった。

 

 

 

 暫くして――――

 

「…………」

 

「…………」

 

 食事を終えた二人の間を、静寂が支配する。

葵は緊張の面持ちで水を飲み干し、黒髪の女性は涼しい顔で、食後に出されたコーヒーを啜っている。

猫舌なのか、少し口を付けては、カップを置く行為を繰り返している。

 話が有る、と言ったのは黒髪の女性の筈だが、どういう訳か、店に入る前の会話を最後に一切口を聞こうとしない。

葵に焦燥感に似た感情が生まれる。早く話して貰いたいのに、このままでは埒が明かない。自分から引き出すしか無さそうだ。

 

「あなたは……魔法少女なんですか?」

 

 沈黙を破るべく、葵が口を開いた。女性は頷いて肯定。

 

「まあね」

 

「お名前は?」

 

「篝あかり」

 

「では、篝さん……どうして、私の名前を知ってるんですか?」

 

 葵は単刀直入に気になった事をぶつける事にした。篝あかりと名乗った女性は目を細める。

 

「…………調べたのよ」

 

 数拍間を置くと、あかりはぽつりと呟いた。

 

「は?」

 

「この街と桜見丘市の魔法少女と、魔法少女候補生の事は粗方調べ尽くしているの」

 

「それ、犯罪ですよ?」

 

 葵は思わずはっきりと言ってしまったが、あかりは意も解さない様子だ。満面の笑みを浮かべている。

 

「魔法少女に、人間の『ルール』は意味を成さない。――――だから、犯罪じゃない」

 

 そう言うあかりの笑顔から、底知れぬ不気味さを感じた葵が身を震わす。

直後、葵は、纏の話を思い出した。

 

 

――――殆どの子は、この力を悪用してるの。

 

 

 その意味が理解できた。

超人的な身体能力と魔法、その二つを持つ彼女達にとって、自分達のような凡人は虫けらの様な存在に過ぎないのだろう。

 でも、と葵は思う。彼女にはまだ希望が有った。篝あかりは、もしかしたら、菖蒲 纏の仲間かもしれない。

纏から自分達の話を聞いて、からかっているだけなのではないかと思ったのだ。

 

「魔法少女の事は、私が思っている以上に自由なんだって事は、よくわかりました。

 でも聞きたいことが有ります。あなたは、菖蒲纏さんの仲間なんですか?」

 

 それを直接、ぶつけてみることにした。

 

「違うよ」

 

 しかし、その一言で、葵の希望は打ち砕かれた。

 

「確かに菖蒲纏はチームを組んでるけど、あたしはメンバーじゃない。……天涯孤独の身なんです」

 

「仲間になろうとか、作りたいとかって思わないんですか」

 

「無いね。今のところは」

 

 きっぱりと言うあかり。

 葵が何を聞いても返ってくるのは、何れも素っ気ないものだった。

 

 ――――再び、静寂が訪れる。

 

(何なのよ、この人……!?)

 

 『話がある』と言っておきながら一向に話をしない。かといってこちらから何か聞けばのらりくらりとかわされてしまう。目の前の人物の思考が全く読めず、葵は段々腹が立ってくるのを感じた。

 

「じゃあ、何で私に接してきたんですか? 貴女は今、魔法少女『候補生』の事を調べた、と仰ってましたけど、もしかして私がその『候補生』だって言うんですか? でも無理です。私には命懸けで戦う勇気もありません!

私を魔法少女にして、仲間にしようってつもりなら、お断りします!」

 

 喋っている内にイライラが爆発してしまった。あかりに強く訴えるが、彼女は表情を崩さず、黙って聞いている。

 

「…………ねえ、柳さん」

 

 あかりは、コーヒーに口を付けると、満面の笑みから一転、真剣な表情を浮かべて口を開いた。

 

「何でしょう?」

 

 葵が尋ねると、あかりは葵から目を反らし、口をムッと結んだかと思うと、テーブルをとんとんと指で叩いている。

何の仕草だろうか、と一瞬、葵は思ったが、あかりは再び視線を彼女に戻す。

 なんとなく困惑が交じったような表情だ、と葵は思った。何か自分に言い難いことでも有るのだろうか。

 やがて、あかりは意を決した様に、葵に目を合わせると、口を開く。

 

「貴女の親友の美月 縁さんのことなんだけど――――」

 

「!? ……何で、縁が……」

 

  縁の名前が出てきてハッとする。彼女は関係無い筈だ。

 だが、その名前を口にした途端、あかりの表情が、若干歪んだ。

 

「あの子は、これから大きな哀しみを背負うことになる。それを取り除かなければ、あの子は死ぬ」

 

「え……?」

 

 ポツリと呟かれたあかりの言葉に、葵の思考が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

「あの、貴女が何を言ってるのか、理解できないんですが……」

 

「どこから?」

 

「最初からです」

 

 我に返った葵が困惑気味に尋ねる。あかりは、真剣な表情のままだ。それを見て自分をからかうつもりで言ったので無いのだろうと葵は確信した。

 

「ごめんね。いきなり、こんな話をされたら、誰だって困惑するよね。

 ――――でも、これは紛れも無い事実よ」

 

「事実って……!」

 

「信じる信じないかは貴女次第。でも……もし、信じてくれるのなら、あたしの手を取って欲しい」

 

 あかりの菫色の瞳が、ドス黒く淀んでいるのを感じた。先程の飄々とした態度が嘘の様で、葵は呆然となる。

 

 

「…………そんな話を、信じろって言うんですか?」

 

 

 数泊間を置いて放たれた言葉は、当然の疑問と言えた。

 自分の親友が、絶望して死ぬ――――いきなりそんな話をされて信じろというのが無理な話だ。もしかしたらあかりは魔法少女の力で未来を予知できるのかもしれないが、確証は得られない。

 あかりはその言葉を待っていたかの様に、フッと薄い笑みを浮かべた。

 

 

 

「言ったでしょう、信じる信じないは貴女次第だって。――――でも、あたしは『信じる』方に賭ける」

 

 

 

「どうして、そんなことが――――!」

 

 言えるんですか、と声を荒げようとするが、あかりの言葉に遮られた。

 

「だって貴方と縁は、魔女に取り込まれたんだから。魔法少女(私達)と出会ってしまったんだから。

 ――――一度足を踏み入れてしまった場所から逃げることは簡単な事じゃない。

 それらは今後も、貴方達の人生に複雑に絡まってくる」

 

  愕然とした。あかりが淡々と告げる言葉が、耳から入り込んで頭の中をぐちゃぐちゃにしていく様な感覚だった。

 

「――――その果てにあるのが、縁の死、ってこと、ですか?」

 

 青褪めた表情で葵が呟く。魔女と魔法少女に関わったのは偶然に過ぎない。だが、その偶然が、自分と縁にとって最悪の未来を確約させてしまったというのか。

 あかりは頷いて肯定。

 

「そう。――――そして、それを食い止められるのが、あたしと、貴女」

 

「……何で私なんかが」

 

「あの子の幼馴染だから。あたしは赤の他人だけど、貴女だったら、あの子の傍にいつも居て支えてやれるし、メンタル的なフォローも出来る。縁が絶望するリスクを遥かに減らすことができる」

 

「でも、私、魔法少女なんて……」

 

「なれるよ」

 

 顔を俯かせる葵だが、あかりのはっきりとした言葉が耳朶を打った。ハッと顔を上げる。

 

「あんたには、魔法少女になる資格がある。まだ、『アレ』とは会ってないようだけどね」

 

「アレ??」

 

「そいつに頼むと魔法少女にしてくれるんだ。……ま、近い内に会えると思うけど」

 

 そういうとあかりは、程良く冷めたコーヒーを飲みほして、ポケットから財布を取り出した。

すると、席から立ち上がる。葵もそれを見て、慌てて立ち上がった。

レジに向かい会計を済ませようとするあかり。葵は悪いと思ってバッグから財布を取り出そうとしたが、開ける前にあかりが手で静止した。

 

 結局お言葉に甘える形となった。

 

 店を出ると、ショッピングモール内の白を基調とした広大な空間が葵の目に入った。

先程の狭く薄暗いテーブル席での閉塞感はまるで、先の魔女の結界に迷い込んだ様な感覚だった。

 そこから開放されたのだと思うと、ほっと胸を撫で下ろす。

 だが、直後、あかりが不敵な笑みを浮かべて振り返った。

 

「柳 葵。あんたの選択肢は二つ、美月縁が過酷な運命を歩むのを止めたいなら、あんたが魔法少女になってあたしと一緒に守っていくか、それとも、このまま普通の人間として幸せに暮らすか……無理強いはしない、好きな方を選ぶと良いよ」

 

「……」

 

 葵は沈黙で返答するが、あかりは特に気にも留めなかった。

 

「一つ注意しとくけど、『アレ』は相当口達者な奴だから、上手く乗せられないように注意してね。っていうか、言ってる事は無視しちゃって構わないから。あたしの言ってることだけ信じてくれればいいよ」

 

 そういうと、背中を向けてその場から去ろうとするあかり。

 よくよく考えたら、終始あかりのペースに呑まれてしまった感じだ。本当に色々聞きたいことが有ったのだが…………そう考えて葵はハッとなる。

 

「最後に、一つ聞いてもいいですか?」

  

 咄嗟にあかりを呼びとめる葵。そうだ、これだけは聞いておかなければならない。

 

「なに?」

 

「貴女は、縁のことをどれだけ知ってるんですか?」

 

 そもそも、あかりは赤の他人の筈だ。自分の様に親しい間柄でもなんでもない。

にも関わらず、あかりの縁に対する想いは、並々ならぬ情熱の様な物が葵には感じ取れた。それが、不自然だった。

 

「あんたに比べたら、極一部ってとこかな?」

 

「はあ?」

 

 あかりの答えは、驚くほど拍子抜けするものだった。

 

「……でも、極一部であっても、それがその子の紛れも無い本心だったら、『守りたい』と思うのは普通なんじゃないかな」

 

 再び振り向いたあかりの顔は、笑っていた。嘘偽りの無い、屈託とした笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 




 ぶっちゃけガクブルしながら書いてます……(爆)

 縁と会ったことが無いのに、縁の事を知ってるあかりさん。彼女は一体何者なのでしょう?

 書いてて、場所の雰囲気を描写する事が苦手なことに気付いたので、誰か教えてください・・・・(懇願)

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