魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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2話です。相変わらずのオリジナル設定満載ですが、よろしくお願い致します。


 #02__死神は傍で微笑んでいる A

 緑萼(りょくがく)市――――県庁所在地にして県内最大の都市。

そこは、総勢六十人規模を誇る最大級の魔法少女チーム『ドラグーン』の根城であった。

 現在、夜二十一時。殆どの一般人が就寝に入ろうとする頃に、彼女達は行動を開始する。

人に姿を見られてはならないという暗黙のルールが有る以上、魔法少女が自由な行動を許されるのは必然的に夜だけになる。

 

 市街各地の魔法少女達は、一斉に魔女探しや、夜間パトロールを行っていた。

街の人々を守る為である。

だが、一方では、よそ者の魔法少女を探す者も居た。別の土地を活動拠点とする魔法少女が、他の魔法少女の縄張りに入ることは基本的にタブーとされている。大抵は、新人の魔法少女が、そのルールを知らずに侵入することが多いのだが、中には、腕利きの魔法少女が、別の陣地の魔女――――というよりは、グリーフシードだが――――を狙って侵入してくるケースも有る。

 よって、見つけた場合は、何らかの対処をしなくてはならない。

 

 

 

 

「ふ~ん、じゃあアンタ知らなかったんだ~?」

 

「はい……はい……っ! 本当に知らなかったんです……っ! 申し訳ありません……っ!!」

 

 ――――とある路地裏、街灯も無く狭いその場所で、ツインテールの黒髪にゴシックロリータの衣装を纏った魔法少女が、目の前で仁王立ちする3人の魔法少女達に向かって、必死に頭を下げていた。

 

「じゃあ、魔女を見掛けたら、狩るつもりだったんだ?」

 

「……そう、だった、かも……」

 

「はあ? あんたふざけてるの?」

 

「新人だからってやって良い事と悪い事の区別ぐらい付くでしょ?」

 

「ッ!! すみません……すみません……!」

 

 たどたどしく答えるゴシックロリータの魔法少女に対して、3人の魔法少女は更に威圧感を強める。

 見たところ、必死で謝るゴシックロリータの魔法少女は新人らしく、怯えた小動物の様に震えていた。

一方、対峙する3人の魔法少女の方はそれなりの手練れといった印象で、堂々とした佇まいだ。

 

「じゃあ、持ってるグリーフシード全部よこしな」

 

「え……? でも、この前、頑張って一人で魔女を倒して、手に入れたものなのに……」

 

「関係ないんだけど」

 

「っていうかアンタの努力なんて知ったこっちゃ無いから」

 

 3人の内、リーダー格と思われるの剣士風の魔法少女が前に立って言うと、新人魔法少女は困惑する。それを見てリーダー格の取り捲きの2人の魔法少女はわざとらしく溜息を付くと、心底呆れかえった表情を浮かべた。

 この3人は新人狩りを日常的に行う、ドラグーンの中でも性根の曲がった連中であり、何も知らずに侵入してきた魔法少女に対して、こういった恐喝染みた行為を繰り返している。

 逃げ場が無いと思った新人魔法少女は懐から、黒い宝石、グリーフシードを一つだけ取りだして、3人に差しだす。

 

「これだけ?」

 

「はい、これだけです……」

 

「ふざけんなよ! ちょっとアンタ、コイツ抑えてて!!」

 

「OK♪」

 

「やめてください!」

 

 剣士風の魔法少女が指示すると、取り捲きの一人が新人魔法少女を身体を羽交い締めにして抑える。抵抗しようとバタバタともがくが、力の差は歴然であり、振りほどくことが出来なかった。

 その間に、剣士風の魔法少女ともう一人の取り巻きが、新人魔法少女の身体をあちこち触って弄り始める。

 

「何も無し、そっちは」

 

「こっちも、なんにも無し」

 

 確認し合う二人。結局グリーフシードらしきものを見つけることが出来なかった。

 

「本当にこれ一つだけなんです……!」

 

「分かったよ。……でもこれだけで済ます訳ないでしょ、アンタの住所教えてよ」

 

 グリーフシードを譲れば開放してくれるかもしれない、そんな希望的観測に縋った新人魔法少女に、更に追い打ちを掛ける様な言葉を剣士風の魔法少女が告げた。彼女の取り巻きである二人が「キタコレ!」「鬼畜ぅ~!」とニヤニヤ笑い出す。

 

「明日の夜十時に、あんたの家に殴り込み駆けるからさ。10万円玄関前に用意しといて」

 

「そんな、そこまでは……!」

 

 青褪めた表情になる新人魔法少女。そんなこと、承諾できる筈がない。だが断れば、自分の命が亡くなるかもしれない。

どうすれば……、彼女は必死に思考を巡らすが、一人の自分にできることなど何も無い。

 

(誰か……助けて!!)

 

 彼女は心の中で強く祈った。

 

 

 

 

 

 

 刹那――――神は彼女に救いの手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!!」

 

「どうしたの? ……っ!!」

 

 突然、取り巻きの一人が呻き声を挙げて、前に倒れた。剣士風のリーダーが何事かと反応するが、彼女の背中を見て、戦慄した。

 

 ――――青く光る矢が、刺さっていた。

 

 血気盛んに新人を脅していた剣士風の魔法少女と、もう一人の取り巻きの表情が、一気に青褪めた。二人の恐怖に歪むその表情を見て、新人魔法少女は呆然となる。

 

「やばい……! あいつだ、『死神』だ!!」

 

  剣士風の魔法少女が絶叫に近い大声を張り上げた。

 

「マジで!? あいつ土曜の夜にしか現れないって話だったじゃん!?」

 

「何でか分からないが、金曜日にも現れたんだよ!? さっさと逃げるよ、じゃないとやられる!!」

 

「わ…分かっ……うぐっ!!」

 

  取り捲きの魔法少女が返事をしようとするが、その直後、背中に矢が突き刺さり、前に倒れた。

 

「ひいいいいいいいいいいい!!」

 

  それを見て、剣士風の魔法少女は仲間を放って、一目散に逃げ出した。

 

 

 

(大丈夫?)

 

「…………!!」

 

  取り残された新人は何が起こったのか分からず、暫くぼんやりとしていたが、突如、テレパシーが聞こえてきてハッとする。声質からして、自分と同じくらいの少女の様だ。

 

(あの……ありがとうございます。助けてくれたんですか?)

 

(別に、そうじゃないよ。ただ、寄ってたかっていじめてる奴らって気に喰わなくって。たまたま見つけたから潰してやっただけ)

 

 テレパシーの相手はぶっきらぼうに答えるが、要は助けてくれた、ということだ。どこか優しい声色であり、死神とは似ても似つかない。

 

(まあ、これで分かったでしょ? ここは結構危険な所だからさ。目には目を、歯には歯を。不良にはあたしみたいな不良が相手をするから、あんたはとっとと家に帰って……今日有った事は全力で忘れてさっさと寝な)

 

(はい! 本当に、ありがとうございます!!)

 

 新人は感謝を告げると、その場から逃げるように走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 すぐ近くの建物の屋上では、青く染めたインディアンの様な民族衣装を纏った小柄の少女が、新人が走り去る姿を憮然とした表情で見下ろしていた。

 

「こら~!! 凛ちゃん!」

 

 すると、後ろで自分を叱る声がしたので、何事かと思って振り向くと、大きな水晶がフワフワと飛んできた。その中には青い少女がよく見知った人物が閉じ込められていた。

 ふんわりとした真っ白な長髪を生やす頭に花冠を飾り、真っ白なローブで全身を包んだ、天使と見紛う様な容姿の少女は、水晶の中でしかめっ面を浮かべていた。

 

「どした?」

 

「どした? じゃないよ!! 突然どっかにいなくなったと思ったらまーたこんな野蛮な真似して!! お陰でコッチはくら~い夜道を一人じゃ歩かなくちゃいけなっかったんだから!! 恐かったんだからホントにも~~~ッ!!」

 

 涙目の白い少女は捲し立てる様に騒ぐと、水晶の中でジタバタと暴れた。青い少女は溜息を付くと、そっぽを向いて呟く。

 

「子供じゃないんだし、平気でしょ」

 

「15はまだ子供だよ!!」

 

「大丈夫。茜も二年経てばあたしみたいになるから」

 

 青い少女はそういうと、『にへら』、と口の端を釣り上げて、右手の甲に備え付けられたボウガンに矢をジャキッと装填する。

 茜と呼ばれた少女は、それを見た瞬間、肝を冷やした。騒ぐのをピタリと止める。

 

「凛ちゃんみたいに何でも平気になったらそれはそれで嫌なんだけど……」  

 

 ゾ~っ、と青褪めた表情を浮かべながら、茜は声を震わせた。凛と呼ばれた少女はそれを見て愉しげにヘラヘラと笑っている。

 

 

 

 ―――水色の短髪にサイドテールを作り、眠たげなジト目と、独特な笑い顔が印象的な少女の名は、宮古凛。

全身を寒色系で染めている事や、表情があまり変わらないことからクールに思われがちだが、本性はかなり好戦的な性格で、何かと火遊びを楽しむ傾向にある。

 彼女のボウガンに狙われれば最後。決して逃げられないことから、フィンランドの伝説の狙撃手「シモ・ヘイヘ」にちなんで『死神』と恐れられている。

 

 ―――一方、人形の様に整った顔を、感情ごとにころころ変えているのが印象的な少女は、日向茜だ。

何かと過激な凛とは対照的に真面目な性格だが、それ故に、彼女とコンビを組んだ場合は、気苦労が絶えなかった。

 

 

 

 二人は魔法少女であり、同じチームの一員であるようだ。何らかの目的があってこの街に訪れたらしい。

 

「まあそれはいいとして、お使いの方は?」

 

「そっちはOKだよ」

 

「そっか。じゃ、遊ぶのはここまでにして、帰ろう」

 

 凛はそう言うと変身を解いて、さっさと歩きだした。

 

「そもそも、お使いが目的だったんだけど……」 

 

 茜は溜息を吐くと、凛の隣に着地する。彼女を閉じ込めていた水晶は小さくなって、手の平の上に収まった。

それを確認すると、茜は変身を解く。

 

「ん?」

 

 前を歩いていた凛のスマホが音を鳴らした。凛がポケットに手を突っ込んでスマホを取りだすと、画面には仲間の魔法少女の名前が表示されていた。通話ボタンを押す凛。

 

「――――もしもし、纏? あたしだけど、どうしたの?」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日――――

 

 

 

 

 柳葵は緑萼市に訪れていた。理由は、ネットで調べた時に、大型アクセサリーショップがこの街の中心の、緑萼駅前に存在する事を知り、訪れようと思ったからだが、もう一つの理由は、前日体験した魔女への恐怖が身体から抜けなかったので、気分転換も兼ねての意味も有った。

 ちなみに、いつもは隣に居る縁は今日はいない。彼女はあまり、アクセサリーに興味が無いというのもあるが、弱い姿をあまり見られたくなかったのと、一人になりたいという気持ちが大きかった。

 

 ――――暫くして、アクセサリーショップに辿り着き、商品を鑑賞していた葵だが、それでも気持ちは晴れなかった。

 

 当たり前の話だが、命の危機に遭ったという恐怖心が、簡単に抜けてくれる筈も無い。

 悩んでいると、頭の中にネガティブの考えがどんどん浮かんでくる。いつの間にか自分の中に、もう一つの懸念が生まれている事に気付いた。

 

 もしまた魔女が訪れた場合、必ず魔法少女が助けに来てくれるのか、という不安――――

 

 纏や彼女が言う『仲間』が確実に魔女に襲われた自分を助けてくれるという保証は無い。もし魔法少女が来てくれたとしても、纏が言っていた性根の歪んだ魔法少女ならば、異次元内をうろつくモンスター――『使い魔』と言ったか――を成長させるために、自分を放置するかもしれない。そうなったら――――

 そこまで考えると、葵は首は振った。いくら考えた所で、一般人の自分にはどうにもできない。それこそ纏と同じく『魔法少女』にならなければ対処できない問題なのだ。

 

(今日はあれこれ考えるのはよそう……)

 

 つくづく今日は縁を誘わなくて正解だったな、と葵は思った。彼女が居たら、葵の事を心配して、あれこれ世話を焼いて忙しなかったことだろう。縁が自分以上の恐怖を味わったことを差し置いて――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭を切り替える為に、葵が次に訪れたのはアクセサリーショップから歩いてすぐ近くにあるショッピングモールだった。

といっても特に目的も無く立ち寄った為、ブラブラするハメになった葵だったが、偶々通りかかったゲームセンターに、印象的な二人組を見かけたので、詳細に伝えておく。

 

 

 土曜日の昼間と言う事もあって、ゲームセンターには学生達で賑わっていたが、その中で、特に目立っていたのが、水色のサイドテールの少女と白い長髪を黒いリボンでハーフアップに縛った少女の二人組だ。中学生にも見える小柄な二人は、しばらく、ゲームセンター内を歩き回っていたが、ガンシューティングゲームを前にすると足を止めた。

 

「おっ」

 

「どうしたの?」

 

「これさ、最近やってなかったんだよね。なんか見掛けたらやりたくなってきた」

 

 青いサイドテールの少女は意気揚々とした様子で言うと、純白の髪の少女は呆れ顔をする。

 

「相変わらず物騒なの好きだよね……じゃあ、私はちょっとクレーンゲームの方やってくるから。終わったらくるね」

 

「ほ~い」

 

 純白の髪の少女はそう言うと、ガンシューティングの向かい側に有るクレーンゲーム機の方へ向かっていく。

水色のサイドテールの少女は気怠げに返事をすると、投入口にコインを入れて、右手で銃を構えた。

 

(ふ~ん、女の子でもああいうの好きな子がいるのね)

 

 葵はそれを傍観しながら、思った。水色のサイドテールの少女がプレイするガンシューティングゲームは、向かってくるゾンビを全員撃ち殺せ!という非常にスプラッタ要素溢れる内容だ。中学生ぐらいの少女がそれを好きでやる様子が意外に思い、興味を惹かれてしまった。

 とは言え、水色のサイドテールの少女は、どうも動きの一つ一つが妙にのっそりしていて、やる気が伺えない。その様子から、よく音楽ゲームで見掛ける『ガチな人達』とは違って、趣味で楽しんでいるのだろうと推測した。

 

 

――――その考えは、誤算だった―――

 

 

 水色のサイドテールの少女が、手元に有るボタンを押すとゲームスタート。

 

 

 

 ――――直後、葵の度肝を抜く光景が目に映る。

 

 

 

 プレイ前のダルそうな様子が嘘のように、銃を機敏に操り、画面のゾンビ達を尽く撃ち抜いていく。

その俊敏さは、ゾンビに攻撃の隙を与えなかった。ゾンビが現れてくるのをあらかじめ予測していたかの様に、画面に出現した直後に、目にも止まらぬ速度で照準を移され、撃破される。

 昔、テレビで見たB級アクション映画で主人公が、銃で無双するシーンを見たが、あれを現実で見たらあんな感じか、葵は感動すら覚えていた。

 しばらくすると、ゲームが終了し画面が暗転。少女のスコアが表示される。最高得点である1,000,000の数字が表れ、葵の目は飛び出した。拍手しそうになったが、気付かれたら恥ずかしいと思い、寸手でやめた。

 

(ガチな人だったのね……)

 

 右手の指を銃の引き金に引っかけてクルクルと回す少女を見て、人は見掛けによらないものだな、と葵は思った。目の前の少女は、どう見てもガンシューティングとは無縁そうな中学生だが、あの見事なプレイスタイルを見ると、相当やりこんでいるのだろう。

 

 

 

「うっしっ! 練習はこれで終わり。じゃ、ちょっと本気出すかな」

 

 

 

 が、少女の爆弾発言に、葵は凍りついた。

 

「えっ?」

 

 思わず間の抜けた言葉を出す葵。

少女は今、何て言ったのだろうか? 練習?? ノーミスでパーフェクトクリアが……練習!?

あと、本気――――本気を出したところで、あれ以上のスコアは狙えないと思うけど……。

 

 葵の混乱を余所に、少女は着々と『本気』の準備を進めて行く。

 財布から二枚のコインを取りだすと、それを両手の指で摘み、1P用・2P用の投入口へ入れる。

すると、何と、2丁の銃を両手で持ち始めたではないか!!

 

(えええええええええええ!?)

 

 葵は、口から大声が出そうなのを必死で抑えた。

二丁拳銃スタイルとなった少女は、小指でスタートボタンを押すと、プレイが開始される。

 彼女がプレイしているゲームは、二人プレイモードの場合、敵の数が倍になる。

よって、難易度も倍加するのだが、少女は涼しい顔を崩さずに二丁拳銃を巧みに操って、ゾンビ達を撃ち抜いていく。

しかも、ノーミスでだ。

 

(……!!)

 

 少女の銃捌きは最早葵の肉眼では捉えられなかった。

 このゲームは、銃弾が尽きたら、銃を上向きにして、リロードをしなくてはならない。当然、リロード中は隙だらけになるのだが……葵には少女がそれを一切行っていないように見えた。いや、しているのだろうが、早すぎて分からなかった。

 しばらくすると、ゲーム終了――――画面が暗転し、『1,000,000』の数字が二つ表示された。

 

 

「す……凄い……」

 

 それを傍目で見て、葵は目を丸くした。ハイスコアを取った人は多く見るが、それは一丁拳銃の話だ。まさか二丁の拳銃という常識破りの方法で、ハイスコアを取れる人物など、今まで見た事が無かった。

 神業を披露して、葵をその場に釘付にした少女は満足気な表情を浮かべると、その場所から離れ、クレーンゲームの方へと向かった。クレーンゲームには少女と一緒にいたもう一人の白い髪の少女が居た。

 

「あれ、凛ちゃん、もう終わったの?」

 

 少女が近づくと、白い髪の少女は気配を察し、振り向いた。

 

「うん」

 

「……ちょっと待ってて、こっちも10個目だから……!」

 

 凛と呼ばれた少女は頷く。白い少女は目線をクレーンゲームに戻した。集中しているのか、その目つきは鬼気迫る物を感じる。白い少女の足元には、クレーンゲームで取ったのだろう、9つの縫いぐるみが転がっていた。

 

(何あれ……?)

 

 葵が唖然とする。ただの縫いぐるみ9つ取っただけなら、クレーンゲームが普通に上手い人、という印象しか持たない。

だが、白い髪の少女が取ったと思われる縫いぐるみは――――全部、大型だった。

 普通なら、クレーンが捕まえたとしても、重みに耐えきれず放してしまうような物ばかりだ。

少女が、最後に狙う標的は、1m弱もあろうかという巨大な熊の縫いぐるみだ。正直あれを狙うなんて無謀としか言いようが無いが、彼女はクレーンのフックを器用に熊の耳に引っかけると、そのまま持ち上げて、取り出し口にシュートした。

 

 

 こうして、クレーンゲームは終了。少女の足元には10個の巨大な縫いぐるみが転がった。

余談だが、それをカウンターから見ていた店員が泣きべそをかいていたのは言うまでもない……。

 

「いや~、大漁だねえ」

 

(大漁もなにも……どうやって持ち帰るのよアレ……)

 

 水色の髪の少女はヘラヘラ笑っているが、葵はそれどころじゃ無いと思った。そもそも、どう見ても中学生な二人組が車を持っている筈も無い。大型の縫いぐるみを10個も、どう持ち帰るのか疑問だった。

 

「なっ……」

 

 と、思ったその直後、驚愕。白髪の少女の両手から水晶が出現したかと思うと、水晶は巨大化して、大型の縫いぐるみを一つ、包んだ。直後、水晶は縮小して、手の平大の大きさに変わったのだ。少女はそれを手にすると、バッグにしまい込んだ。

 更に水晶を召喚、大型の縫いぐるみを次々と手の平大に圧縮していくと、バッグに詰め込む。

水色の髪の少女は、その様子を見届けると、白い髪の少女と一緒にゲームセンターから離れていった。

 

「まさか……」

 

 葵は、去りゆく二人の姿を見届けると、愕然とした表情のまま呟いた。

もしかしたら……、

 

「そ、あの二人も、『魔法少女』だね……」

 

「!?」

 

 急に後ろから声がしたので全身がビクリと反応。後を振り向くと、黒い長髪を後ろに縛った、クールそうな雰囲気の女性が居た。

 

「だ、誰ですかっ?」

 

 いきなり、声を掛けられたので、驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げる葵。黒髪の女性は、不敵な笑みを浮かべた。

 

「あたし? ただの通りすがりのお姉さん」

 

  嘘だ。と葵は思った。通りすがりが何で自分に声を掛けてくるのか、何で魔法少女の事を知ってるのか。

 黒髪の女性は、葵の反応を見て、愉快そうにニィッと口の端を釣り上げた。

 

「――――でも、貴方の事はよく知ってるよ。『柳 葵』さん」

 

「ッ!?」

 

 葵の背筋に、ゾクリと冷たいモノが走った。

 

「ここじゃなんだし、ちょっとご飯食べながら話そうか。奢るよ」

 

 黒髪の女性はフレンドリーな態度で話し掛けてくるが、葵の胸中は恐怖心で満たされていた。

当然だろう。そもそも葵と女性は初対面の筈である。にも関わらず、女性は葵の名前を知っていた。

恐く無い方が可笑しい。

 

「あ、あの……間に合ってますのでっ」

 

 怯えた表情の葵が、そう断りながら後ずさるが、刹那、眼前から女性が消える。

 

「えっ……!?」

 

 直後、背中に何かがぶつかる。まさか、と思い恐る恐る後を振り向くと、黒髪の女性が居た。

 

「!?!?」

 

 驚愕の余り、眩暈しそうになる葵。黒髪の女性は満面の笑みを浮かべている。それが余計に、葵の恐怖心を煽ってきた。まずい、逃げられない。

 

「貴女は、『魔女』に襲われた」

 

「!!」

 

 女性が、満面の笑みのまま、低い声で告げる言葉に、葵は目を見開く。

 

「もう、『私達の世界』からは逃げられない」

 

 女性は、葵の耳元に口を近づけると、残酷に囁いた。

 

「!!……それなら、どうしたら……?」

 

 葵は、思わず聞いてしまった。

 

「それは、貴女が決めることよ。――――とりあえずは、あたしの話を聞いて欲しい」

 

 

 

 

 

 




 投稿は一週間後ぐらいにしようかな、と思ってましたが、あんまり間を置くのも良く無いな、と思い投稿させていただきました。

最初はAパートで12463字……こんなに書いたつもりはないんですが……
という訳で新たにパートを作って分けました。

 一気に2人も登場。ちなみに凛は17、茜は15。年齢的にロリじゃないけど、見てくれはロリ(になってる筈!)な二人です。
 どんどん登場人物が増えるので扱いきれるか心配です。


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