魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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ご無沙汰しております。


魔法少女共は異常(日常短編)
その1 ポカポカミヤコさん


 ――白妙町。優子の家。

 

 

「ふ~~、あっちいなあも~~っ」

 

 忙しいランチタイムを終えて、自室に休憩中の優子は扇風機で涼を取りながら、そうボヤいた。

 萱野家は基本倹約であり、お客様が来た時以外はエアコンは使用禁止である。

 優子も体力には自信はあるが、この暑さには参っていた。

 

「こんなにあちいと体の養分抜けちゃうっての……。いや、待てよ。いっそ、全部抜いて茜みたいにちっちゃくなれれば、アタシの可愛さマシマシでモテモテじゃない?」

 

 最初に頭の養分が奪われたようだ。

 優子は、茜が聞いたらぶん殴られそうなことをボヤくと、

 

「あ~~~、なんか涼しいのが向こうから来ないかな~~~~~~っ!!?」

 

 と、大声で愚痴った。次の瞬間、

 

「ようカヤ」

 

「あ、来た」

 

 二階の窓から呼び声。

 振り向くと、海のように爽やかな青い髪の少女が網戸の向こうからやってきた。

 

「いきなりなんなのお前……」

 

「お邪魔しまーす」

 

 網戸をガラッと開けると、靴を脱いで侵入する凛。お邪魔する気満々である。

 

「カヤ麦茶出してくんないの?」

 

「張っ倒すぞお前」

 

 お座敷に座るなり図々しさ満点の凛だが、お客様が来たらおもてなししたくなるのが定食屋の看板娘のサガである。

 優子は毒づきながらも、足は既に一階に向かっていた。

 

 

 

――――

 

 

 

「……で、何の様な訳?」

 

 凛は差し出されたせんべいをパリパリと齧りながら答える。

 

「今友達とこっちに遊び来てんだけど、お腹空いたから、カヤに弁当作ってもらおーかなって」

 

 凛は優子の店の常連であり、テイクアウトを行っていることも知っていた。

 

「だったらそいつらとウチ来いよ」

 

「……いや、無理だから。釣りやってるから、今」

 

「……お前もうちょっと女子高生みたいな遊びしないの?」

 

 それは一番JK離れした奴に言われたくない。

 

「いやー、でもアタシ休憩中だからなあ~」

 

 激動のランチタイムを終えたばかりである。

 夕方になるとまた戦いが始まるので静養を取っておきたかった。

 

「じゃあ、コバルトに頼もう」

 

「いやいや待て待て! 折角来てくれたんだ! アタシが人数分作ってやるよ!」

 

 網戸を開けて出ようとする凛。慌てて服の袖を引っ張り部屋に戻す優子。

 コバルトとは、近所のインドカレー屋の看板娘・真弓通子のことである。常連をライバル店に取られるのだけは避けたかった。

 

「で、何人だ?」

 

「あたし含めて3人」

 

「えー三人もー??」

 

「駄目ならコバルトんちいっちゃおーっと」

 

 再び網戸に向かう凛だが、優子に腕を思いっきり引っ張られた。畳の上を転がる凛。

 

「分かった待て待て待ってくれっ! 作るからトオコのところにだけは行くな!!」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 いつも“にへら”笑いが、心底腹立たしかった。

 

「ただし、条件がある!!」

 

「え?」

 

 優子は凛の頭――正確には被ってる麦わら帽子をむんずっと掴むと、バッと外した。

 

「お前、30分ぐらいアタシの目の前で座ってろ!」

 

「はい?」 

 

 顔から“にへら”が消滅。目が点になる凛だが、優子はマジである。

 

「どうかしたの?」

 

 前々からどうかしてる奴だと思っていたが、この暑さで残り少ない脳細胞が死滅したらしい。

 凛は哀れみの目で優子を見つめる。

 

「いや、お前の髪、なんか涼しそうだなーって思って」

 

「はあ」

 

「見てると5度ぐらい下がった気分っ」

 

 ねーよ、とツッコミたくなったが、優子は自分を見て快適そうな顔になったのでマジらしい。

 ちなみに自分は、暑苦しくて仕方ない。だって、メスゴリラにガン見されてるんですよ?

 

「おっ、なんか冷えてきたよーな気がするっ!」

 

「……そりゃどうも」

 

 クソッ!、と凛は頭の中で吐き捨てる。

 優子(バカ)をからかうつもりで来たのに、逆に利用されてしまうとは!

 

「流石、超ショック凍るアクティビティだな!」

 

「超絶クールビューティだっつの」

 

 優子がバカを言う度に、突っ込む凛。

 メスゴリラが上機嫌になる度に、体力が奪われていく気がした。

 

 結局、キッチリ30分間、解放してくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――次の日、日曜日。緑咢市。

 

 

 市内の中心部にある大きな公園の木陰の下ベンチで二人の女性が、ぐでーっと湯だっていた。

 一人は銀髪に近い灰色の髪で、小学生の様に小柄な少女。

 もう一人は、金髪のオッドアイに、動きやすそうな服装で、整った顔立ちの女性。

 

「……暑い……」

 

 小さい少女が、犬のように舌を出しながらポツリと呟く。

 

「そうだね……」

 

 金髪の女性は同調しつつ、隣の少女に今しがた買ってきた清涼飲料水を差し出す。

 最大級の魔法少女チーム・ドラグーン。狩奈 響と美緒愛華はその中でも最強を自負する実力者だが、この暑さだけには敵わなかった。

 

「みっこちゃんいないと涼しくなんないねー……」

 

 愛華が小型扇風機を狩奈に向けながらボヤく。

 みっことは、八奈美(はなみ) (みこと)のことである。

 愛華、狩奈と同じく最高幹部の一人であり、二人と同じ大学に通っている。

 

「あいつ……一人、夏の風物詩……必要……」

 

 命は見た目からして、リアル肝試しである。生きてるけど。

 おまけに血が通ってない(生きてるけど)のか、身体が四六時中ヒンヤリしてるので、夏場はいつも連れて歩きたかったが、今日に限って来れなかった。

 

「理由が、バイト押し付けられたって、ねえ……」

 

 命は大学が休みの日は、ショッピングモールの映画館でバイトしている。

 今日は狩奈、愛華と用事があったため、休みを入れていたのだが、前日に頼まれたらしい。

 

「命……あいつも、人が、良すぎる……。頼まれたら、断れない……損な、性格……。でも、押し付けたそいつ……酷い……彼氏と、デートするから……って……!!!」

 

 狩奈の体がワナワナと震えた。

 愛華が「あ、ヤバイ」と思った瞬間、

 

「ファッキンリア充ッッ!! そのポカポカ沸いた頭カチ割って脳みそ便器に流してやろうかァッ!! いーや違うなァッッ!! 二度と男とヤレなくしてやるまずは使い古しの磯くせえ××コに鉛玉ブチ込んで」

 

「ストップストップ。落ち着いてって」

 

 いつのまにか、モデルガンを構えて放送禁止用語をピーピー喚き散らす狩奈だが、愛華に取り上げられた。

 ただでさえ暑いんだから、これ以上熱気を上げないで欲しい。

 

「ごめん……暑くて……つい……」

 

 瞬間クールダウンし、シュンとなって謝る。

 愛華は溜息。暑いなら黙っててくれ。

 

「まあ、暑いし沸点下がっちゃうのもしょうがないかな? でも……う~~ん、なんか涼しいものが向こうから来ないかなー??」

 

「そんな、都合の良いもの……」

 

「お、イカレ脳みそだ」

 

「「あ、居た」」

 

 二人は声の方向を一斉に見る。海のような青が目の前にあった。

 

「宮古……丁度、良い……」

 

 ニタリと嗤う狩奈に凛は身構える。

 

「お、真昼間からやんの?」

 

「違う……こっち、来て……」

 

 ベンチの二人が、それはもう真夏の太陽の様な笑顔で凛を手招きする。

 ぞわっと血の気が引いた。

 

「(いつものイカレ脳みそじゃない……!) 何か嫌な予感がする……!」

 

 凛はくるっと反転。

 三十六計逃げるに如かず。ダッシュで走り去ろうと――――

 

「いいからいいから~♪」

 

「ぐえー」

 

 ――――できなかった。即座に飛び掛かってきた金髪のイケメンに首根っこをアームロックされた後、ベンチまでズルズル引き摺られた。

 強制的にベンチに座らされる凛。

 右に綾波系美少女(だが頭がイカレてる!)と、左に金髪のイケメン(だが女だ!)というちっともうれしくない両手に花ができあがる。

 

「いや、それを言うなら挟み撃ちか……」

 

「何を、言ってるの……?」

 

 襲うんならいっそ襲え。

 だが、狩奈と愛華もじーーっと自分を見つめるだけ。怖い。

 

「はい……宮古……」

 

 と、思ってるとなんか狩奈が清涼飲料水をくれた。

 あまりの暑さでイカレた頭が一周まわって常識人になったらしい。良かったね――――といつもの調子なら皮肉を言えるのだが、

 

「はい、宮古さん。あーん」

 

「……あーん」

 

 前門に狩奈なら校門に愛華である。

 なんかアイスをスプーンでくれたので口を開けて頂く。気色悪いのでさっさと離れたかったが、相手はドラグーン最強を誇る最高幹部の二人である。

 背中を見せようものなら、即座に銃で撃ち殺されるだろう。

 

「ってかあんたら何、キモいんですけど……」

 

 二人に挟まれて暑苦しくて仕方ない凛。だが、二人は逆にさっきよりも快適そうな表情だ。

 

「いやー宮古さんの髪ってほんっと涼しいよね~!」

 

「っ!!」

 

 イケメンはそれはもう光輝く笑顔で言い放つ。狩奈もコクコクと頷いた。

 

「ええ……?」

 

 超絶クールビューティここにあり!

 ……いや、こんなモテ方は望んでませんので勘弁してください。

 

「宮古さんアイスもっとあーんする? 保冷剤もあるけど、首に巻くかい?」

 

 流石イケメン、気遣いができる。カヤに見習わせたいね。

 でもあたしのことを気遣うんなら解放してくれ頼むから。あと笑顔が眩しいので二度とこっち見ないでください。

 

 

「お待たせしましたぁ~」

 

 

 ――――と、どこからかその声が聞こえた瞬間!

 三人の身体がぞわり、と粟立った。

 炎天下なのに、一気に気温が氷点下まで落ちた様な――――いや、氷がギンギンに張った水風呂に全裸で飛び込んだような感覚!

 声の方向を振り向くと――――ぎょえーっ!! な、なんと……お化けがいた!

 照りつける太陽の真下に居るにも関わらず汗一つ掻いてない。さすがお化け。

 

「やっぱり押し付けちゃうの悪いからって、デート断ってくれたんですよぉ~~」

 

 流石お化け。屈託無く笑ってるのに禍々しい。

 

「あ、みっこちゃ~ん!」

 

 愛華が手を振ると、お化けこと、命はゆらり、ゆらりと寄ってきた。

 

「……よし。宮古、帰れ……!」

 

 命がベンチに座るなり、シッシッ、と凛を手で払う狩奈。

 

 ――――こンのイカレ脳みそ……ッ! 頭叩き割ってやろうか……ッッ!!

 

 いくら超絶クールビューティでも、扇風機扱いされた後にハエ扱いされたらカッと来る。

 とはいえ、ドラグーン最強を自負する三人が相手となると、凛もキツい。

 言われた通り、すたこらさっさと退散するに限るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆おまけ

 

 

 

 

「凛ちゃん、駅前においしそうなラーメン屋さんできたんだけど、来ない? 激辛タンタンメンもあるよっ!」

 

「えー? なんでクソ暑いのにそっちまで行かなきゃいけないのー? 学校の友達誘っていきゃいいじゃん」

 

 凛と纏は同じ桜見丘市内だが、住んでる町は違う。歩きだと桜見丘駅まで30分以上かかる。

 

「だって、凛ちゃん見てると涼しいから……」

 

 通話を切る凛。いっそ一人で行け。

 そんなやりとりをした後――――

 

 

 

 

「凛ちゃん、今日バイトで来れる?」

 

 相手は茜。バイトとは近所の児童養護施設の手伝いだろう。凛は小遣い稼ぎでたまに働いていた。

 

「どったの? 人辞めた?」

 

「いや、クーラー壊れたからその代わりに……」

 

「却下」

 

 通話を切る凛。

 どうやらこいつらにとって、あたしは風鈴かすだれみたいなものらしい。

 

 

 

 

 

 結局、宮古 凛は、夏休み中、孤独を選んだのだった――――

 

 

 

 

 

 

☆おまけその2

 

 

夏服の魔法少女共:(カスタムキャスト)

【挿絵表示】

 

(←左から 宮古 凛 ・ 萱野優子 ・ 狩奈 響 ・ 美緒愛華 ・ 八奈美 命)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こちらではご無沙汰しております。

ゆかり☆マギカ、とりあえず短編ですが投稿させていただきました。

やっぱりオリジナルキャラは自由が効くので書きやすいですね。

今回の内容はさやかちゃんの髪を見て思いつきました。

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