魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

52 / 60
     空虚と多様に変動を D

 

 

 

 

 

 

 そこは、まるで国会議事堂の議場の様に広大な空間であった。

 中心に演壇があり、その上の議長席と思しき席に、悠然と座っているのは、まるで龍の様な威圧と迫力を感じさせる女性。真紅の肩アーマーと同色のサニードレスといった魔法少女衣装に身を包んだ美女――――三間竜子。

 彼女の目下には、横長の座椅子が扇状に広がっており、その最前列には、ドラグーンが誇る精強たる幹部たちが規則正しく座っていた。

 右端から確認すると、副総長・狩奈 響、幹部・八奈美 命、美緒愛華、実里麻琴、玉垂(たまれ) 桜。

 そして、参謀・美咲文乃が左端に座っていた。

 

「みんな、揃ったわね」

 

「「「「「「ハイッ!!」」」」」」

 

 三間竜子は、最前列の席に座り並んでいる少女達を鋭く見据えながら、力強く発言する。幹部一同もそれに傚うかのように、威勢良く返事をした。

 

「では、副長、号令を」

 

「ハッ!」

 

 竜子が指示を出すと、右端に座る私服姿の狩奈が、バッと立ち上がり、サッと敬礼。

 

「幹部一同、起立ッ!!」

 

 腹の奥底から出したのであろう、爆雷と等しき威力を持つ声量が、議場を震撼させる。幹部一同が、一斉にサッと立ち上がる。

 

「気を付け―――――いッ!!!」

 

 狩奈の口から第二波。

 普段『会議』そのものに消極的な姿勢を持つ一部の幹部ですらも、その爆発力の前には慄いて、姿勢を正さざるを得なかった。

 

「礼ッ!!!」

 

「「「「「「よろしくお願い致します!!!」」」」」」

 

 第三波となる衝撃が口から放たれると、幹部一同は斜傾45℃のお辞儀を竜子に向けて行う。

 

「着席ッ!!!」

 

 そして、最後の号令が終わると、一斉に腰を下ろした。まるで軍隊や自衛隊の訓練前の風景さながらだ。教官と化した狩奈の号令による一連の動作を一片の迷いも狂いも無く行う幹部達の姿に、竜子は満足気に頷いた。

 

「総長、始めて下さいッ!!」

 

「わかりました。では、只今より、第12回、ドラグーン幹部一同による緊急会議を始めます!」

 

 狩奈から促され、竜子が凛とした声でそう発言する。

 ドラグーンでは、上記を終えることで会議はスタートされるのだ。

 

「では早速、参謀・美咲文乃」

 

「はい」

 

 竜子が一番左端に座る、眼鏡を掛けた少女、美咲文乃に目を向ける。

 彼女は軽く返事をすると、立ち上がって、竜子が立つ壇上前まで歩を進めた。

 そして、振り向く。居並ぶ幹部達が緊張の面持ちで自分に視線を注いでいた。特に狩奈は、ギロリと真紅に滾った目を剥いている。

 だが、文乃は怖気づくことなく、しかと彼女達の顔を見据えて、言った。

 

「みんな、まずは、これを見て頂戴」

 

 いつもの余裕と不敵な笑みは、浮かんでいなかった。

 眉間に皺を寄せて、きつく顔を歪めている。下唇にもキツく噛み締めたのであろうか、うっすらと紫色に変化している。まるで、『憎悪』に等しい怒りの感情が色濃く張り付いている様に、幹部達には見えた。

 彼女らしからぬ形相を目の当たりにして、一層緊張を強める。中でも命は肩肘をピンと張っており、額に脂汗がじわりと浮いていた。余程の事が起きたと、即座に感じとったらしい。

 文乃は発言するのと同時に、魔法少女に変身。同時に眼鏡が虹色に発光した。

 そして、一つの映像が宙空に大きく映し出される。

 

 

「「「「「…………ッ!」」」」」

 

 幹部達は、戦慄。

 震えた目で、見つめている。

 嘔気が喉元を殴り掛かってきたのか、口元を抑えたり、目を背けたりする者も、中には居た。

 

「…………!!」

 

 そして、竜子も、口をきつく結んで、じっと凝視している。

 

 

 百戦錬磨の彼女達を、一斉に恐怖のドン底に叩き落とす光景が目の前で展開されていた。

 つい先程の19:30頃に、ドラグーンのチームメンバーである山里ユカと須澤ミコが、銀髪の小さな女の子に何かをされて(・・・・・・)、無残な肉塊と化した。

 ユカは顔中から夥しい量の血を噴出して倒れ、ミコは女の子が指で額を付いた瞬間――――風船の様に、頭が破裂した。肉片と脳が周囲に弾け飛ぶ。

 映像はそこで一時停止された。

 

「…………!」 

 

 狩奈は、何も言わずに見つめていたが、その顔は凄まじい怒りに満ちていた。

 その証拠に、キツく合わさった上下歯からギリギリと音を立てている。ほんの少し、刺激を加えたら、怒りをその場でブチ撒けそうだ。

 

「とんでもないね、コレは……」

 

 その隣で座るのは、狩奈よりも、頭一つ分は背丈が高い少女――――美緒愛華だった。

 毛先が僅かに跳ねた金髪で、黒いパンクファッションを身に纏っている。ボーイッシュな雰囲気で、美少女というよりはイケメンに近い整った顔立ちの彼女は、映像をポーカーフェイスで見つめていたが――――その瞳は、鋭く細められていて、刃の切っ先のように鈍い光を放っていた。

 

「……!」

 

 更にその隣に座っているのは八奈美命だ。

 嘔気が襲っているせいで、涙目になりつつ口元を抑えているが、映像はしっかりと見据えていた。

 

「酷い……」

 

 幹部席の中央に座す実里麻琴は、美緒愛華に似たボーイッシュな雰囲気の少女だった。しかし、髪色は黒で、服装も愛華よりは素朴な印象を受ける。

 彼女は、両手をグッと握り締めて、怒りを抑えている様だった。

 

「こんなのが、市内に……?」

 

 玉垂 桜は、幹部達も中でも一番年上の女性だが、戦いがあまり得意で無いが故に精神性は常人に等しかった。

 ただただ呆然と、全てを見つめて、怯えていた。

 

「総長、これは……一体、どういうこと、です……?」

 

 狩奈が挙手と同時に、壇上の竜子にそう尋ねる。

 

「見ての通りよ」

 

 竜子はそういって、僅かに文乃を見てアイコンタクトを送る。

 文乃もまた僅かに竜子と視線を合わせて、コクリと頷いた。

 

「今さっき、緑萼市で私達のチームの魔法少女が二人、殺されたのよ。……噂の『魔眼』にね」

 

 そして、狩奈に目を向けると、声を低くしてそう告げた。

 途端にざわつく幹部達だったが――――狩奈と愛華だけは疑わしそうに目を細めていた。

 

「魔眼って、青葉市に出現した、ヤバイ奴ですよね?」

 

「文乃……憶測で、ものを語る、のは……良くない……」

 

「証拠は、あるんですか?」

 

 愛華が尋ねると、文乃はコクリと頷いた。彼女は再び幹部たちに映像を見るように促すと、山里ユカが倒れる場面まで巻き戻した。

 

「これを見なさい」

 

 ユカが倒れた直後――――銀髪の少女はミコへと顔を向けた。途端、彼女は尻もちを付いて悲鳴を挙げた。ガードレールに背中が当るまで勢い良く両手で後ずさった。

 

「顔に何か恐ろしいもの(・・・・・・)が有ったとしか考えられないわ」

 

 映像には、自分より背丈の小さい女の子に怖気づき、『やめてください』『許してください』と命を乞うミコが映し出されていた。

 

「……こいつは、まだ、いる?」

 

「多分、いないわ」

 

「どうして……そう、思う?」

 

「事件が起きて直ぐに、現場周辺に住む魔法少女達に注意換気を促したし……私も、会議に行く前に、現場に寄ったけど……魔力反応は無かった(・・・・・・・・・)

 

「参謀・意見具申失礼致します!」

 

 狩奈の疑問にそう答える文乃だが、中央席の麻琴が挙手と同時に割り込んできた。

 

「彼女達のリーダーは、東方いよりの筈ですが……仲間の非常事態に何をしていたのでしょうか?」

 

「死んでた」

 

「!!」

 

 即座に返ってきた答えに、麻琴は愕然となる。

 

「犠牲者は三人よ。東方いよりは、山里ユカが死ぬ前に、殺されてた。……身体を真っ二つにされてね」

 

 よって、魔眼の少女の固有武器は、刃物かもしれない――――と推測する文乃。

 

「!! ソウルジェムは……?」

 

「後で流すけど、そいつが、懐から取り出して、握りつぶしたわ……。こう……グシャッとね……っ!」

 

 パーにした手の平を真琴に見せると、ギュウッと握りしめる。

 

「奴は魔法少女の殺し方を知ってるわ」

 

 衝撃的な事実を至極淡々と告げる文乃に、麻琴はぞっとするような戦慄を覚える。

 

「それで……えっと、その魔眼の少女は、三人を殺した後、どこかへ去っていったということでしょうか?」

 

「まあ、そんなところでしょうね」

 

 困惑しつつも、質問を続ける麻琴に、文乃はそう答えた。

 

「……まだ、近くに、いるかも……しれない」

 

「「……!!」」

 

 狩奈はそう言い切ると、左に座る二人の腹心に眼を向ける。怒りの血眼が何を語っているのか、即座に感じ取った愛華と命は、力強く頷く。

 

「……放っておいたら、他の仲間や、普通に暮らす人達にも犠牲がでるかも知れません!」

 

 5人の中でも一番恐怖心に捕らわれていた様子の命だったが、人々を守りたいという意志がその束縛を破った。魔眼の少女によって齎されるであろう更なる悲劇の可能性を、大声で訴える。

 

「総長!! 私達三人は、その殺人鬼たる少女の捜索、及び、討伐を進言致します!!」

 

 魂の叫びを愛華が受け取った。立ち上がると、竜子に向けて、進言する!

 ――――だが、竜子の表情は変わらない。冷徹な表情のまま、黙している。

 

「部隊の招集の許可をくださいっ!」

 

「竜子……!!」

 

 命、狩奈も、愛華に傚った。同時に立ち上がると、壇上の竜子へと眼差しを向ける。

 ――――しかし、

 

 

「三人とも、座りなさい」

 

 

 期待は、竜子にバッサリと切り捨てられた。一切の感情も伺えない、しかし、はっきりとした声量が、耳に突き刺さる。

 

「何故……!?」

 

「はいはい。ちょっと、タンマ」

 

 狩奈が不快感を隠さず竜子をギンッと睨みつける。今にも飛び掛かりそうな状態を、文乃が制した。

 

「正義の赴くまま行動するのは大変結構だけど……今は、動いたら負けよ」

 

「でも待ってたら、誰かが、死ぬ……!!」

 

「これ以上犠牲者が出るのは、見過ごせませんっ!」

 

「一刻も早い対処が必要だと思います!」

 

 務めて冷静に宥めようとする文乃だが、一度熱を帯びた三人は収まりそうにない。口から火の如き激情を竜子達に浴びせる。

 

 

「静まりなさい!!」

 

 

 竜子が激昂。その凄まじい覇気が、圧力となって三つの火を上から押し潰した。

 進言しても、通らない――――これ以上は無駄と悟った三人は、忌々しそうに顔を歪めながらも、黙って着席する。

 

「竜子……承服が、できない……!」

 

「響、命、愛華……貴女達の気持ちはよく分かる。だけど、相手は魔法少女を指一本で殺せる『化物』よ? 部隊を結成して立ち向かったところで、返り討ちに会うのは眼に見えているわ。それに……」

 

 竜子がチラリと文乃にアイコンタクトを送る。文乃は了承。

 再び、眼鏡を虹色に発光させると、最初の映像は脇に追いやられて、様々な映像が浮かび上がってきた。何れも、街中に置かれた監視カメラで撮られているものだ。

 

「私の視覚と共有させた監視カメラは、幻覚やカモフラージュ、透明を使う魔法少女すら可視化できるって、皆は知ってるわよね? これは街中の映像だけど……ご覧の通り……ヤツの姿は見当たらない」

 

 文乃はスカートのポケットから、スマホを取り出す。

 

「そして、指示した魔法少女達からも、未だに何の報告も無い。つまり、奴はもう、この街にはいない」

 

 指示した魔法少女達には、30秒起きにLINEでメッセージを送れ、と伝えていた。

 生存確認をするためだ。誰か一人でも、LINEが途絶えた場合、そいつは、魔眼の少女に出くわした事を意味する。しかし、30分経った今もLINEが途絶えてはいない。

 

「ど……どういうことですか?」

 

 未だ状況を飲み込めていない玉垂 桜が、おそるおそる尋ねると、文乃はフッと笑って肩を竦める。

 

「あんた、長年魔法少女やってるのに、そんなことも分からないのね。竜子、教えてあげなさいよ」

 

 そして、振り向いて壇上の竜子に促す。竜子はコクリと頷くと、幹部たちを見据えて、こう発言した。

 

 

「恐らく、あの少女は、『餌』よ」

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 幹部全員の目が驚愕に見開かれる。ゴクリと息を飲む音が、一斉に聞こえた。

 

「え、『餌』って、どういう意味ですか……?」

 

 桜が、全員の困惑を代弁するように尋ねる。その質問を待っていたと言わんばかりに、文乃がニヤリと笑みを浮かべた。丸メガネが照明を反射して白く光出す。

 

「餌っていうよりは罠かしら。大方、あの少女を適当に暴れさせて、私達に混乱を起こすのが目的でしょうね」

 

「そして、響達の様に、危機感を募らせ感情的になった幹部達を、誘き寄せて一網打尽にする。組織の混乱は一層強まり、指揮系統に麻痺が起きる」

 

 文乃の言葉に、竜子が、鉄仮面のまま付け加える。

 

「つまり……冷静に……様子を見てろって……意味?」

 

「無駄に、犠牲者を作らないために……?」

 

「納得できませんが……それがチームを守るためなら、仕方ありません」

 

 そこで漸く狩奈、命、愛華の三人は、緊急事態にも関わらず冷静を保っていた竜子の意図を悟った。

 無論、知らない所で新たな犠牲者が生まれるかもしれないので、納得はいかないが、真正面から立ち向かえば奴の思う壺だ。 

 

「……? 総長、参謀。質問してもよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

 そこで何か不審な点に気付いた麻琴が挙手する。文乃が促す。

 

「まるで、魔眼の少女の他に共犯者がいるような話し方でしたが……」

 

「ええ、いるわ。それは確信を以て言える」

 

 竜子が答える。

 

「?? それは、どうしてですか?」

 

「それは……」

 

 困惑する麻琴に、竜子が答えようした――――

 

 

あたし達(・・・・)が教えてあげましょうか」

 

 

 瞬間、幹部たちにとって、全く聞き覚えのない声が、議場に響いた。

 一斉の声のする方向に目を向ける。

 広大な議場の中で照明が当たっているのは幹部が集結する中心部のみ。よって端の方は、暗闇に覆われている。

 カツン、カツンと、靴音が響いてきたと思うと、声の主と思われる者の足が、スゥッと闇から伸びてきた。

 竜子と文乃を除く幹部達の顔が強張る。彼女は、自分達が議論に熱中している間に、いつの間にか近くまで近づいてきていた。

 

 魔力の反応を、全く感じさせないまま――――

 

「お前は……っ!」

 

 やがて、声の主は、光の世界へと身を乗り出した。全体像が顕になると、魔力の反応も確かに感知できた。

 その姿を視認した瞬間、狩奈が目を丸くする。

 

「ブラック、フォックス……っ!?」

 

 そして、心底忌々しそうな感情を込めた声色で、その名を告げた。

 一切陽の当ることのない場所に身を潜めていた筈の陰の住人は、にんまりと愛想よく笑うと――――

 

「どーも、ドラグーンの皆さん。ブラックフォックスこと、篝あかりです」

 

 恭しく、お辞儀するのと同時に挨拶。そして、軽快な足取りで議場の中心へと身を躍らせた。

 

「一人で、来たの……?」

 

「まさか」

 

 狩奈が尋ねると、あかりは鼻を鳴らして、ヘラヘラと笑う。どこか小馬鹿にしたような表情に狩奈は、ギリリと歯を食いしばった。

 

最強(・・)の魔法少女達が集うこの場所に、わざわざ一人で足を運ぶなんて無謀な真似を……あたしがするとでも?」

 

 謙遜する言葉とは対象的に、顔には嘲りが貼り付けられたままだ。鋭く細められた目からは、爛々と菫色の光が瞬いている。

 ――――明らかに挑発していたが、あかりの実力を未だに把握できていないのは事実。苦々しく思いながらも、易々と乗る者は誰一人としていなかった。

 

「でも、現に君一人しかいないじゃないか?」

 

「ところがどっこい。もう一人いるんです」

 

 麻琴が尋ねると、あかりはそう言って顔を上に向ける。

 

 

「おいで、香撫姉!!」

 

 

 凛とした、大きな明るい声が、照明群によって白く輝く天井に突き刺さる。

 刹那――――一つの陰が、宙域にフッと、出現した。

 人の姿をしたそれは、真っ直ぐあかりの横に向かって落下してくる。床に着地する寸前で、ひらりと身を翻して姿勢を直すと、両足を着いた。

 

「皆様、はじめまして。わたくし、三納香撫と申します」

 

 黒いドレスを纏った、思わず溜息が付いてしまうぐらいに美しい女性だった。彼女もまた、あかりと同じく挨拶と同時に恭しくお辞儀をする。

 

「不束者ですが、皆様のお力に成れるよう尽力する所存ですので、何卒宜しくお願い致します」

 

 『不束者』――――彼女はその単語を謙遜では無く、本来の意味(・・・・・)で用いたのだと、確信した。

 彼女の身体から発せられる魔力は、真冬の寒波の様に、居並ぶ魔法少女達の全身に突き刺さっていく。

 ドラグーンが誇る精強な幹部たちを一瞬で震え上がらせる威圧感。並び立つ篝あかりに匹敵するであろう相当な実力者であることが、伺えた。

 

「……あなたは……?」

 

 初めて知る魔法少女だった。姿も、感知できる魔力も、今まで出会ったことが無い――――一体何者だろうか?

 そう思って、狩奈が尋ねる。香撫はニッコリと満面の笑みを浮かべると、

 

「AVARICE社の社員です」

 

 素性を明かした。

 

「なに……?!」

 

 狩奈達の五人の顔が、ギョッとなる。

 竜子と文乃の話から社員には魔法少女もいると聞き及んでいたが、とんでもない逸材が隠れ潜んでいたとは。

 

「でも今は……この子に個人的な理由で協力している者です」

 

 そう言って、隣のあかりに猫の様な横目を向ける香撫。あかりも僅かに視線を返して、フッと笑う。

 

「ブラックフォックス……。何の冗談かは、わからない……だけど、組織の問題は……組織の人間だけで、対処するのが……鉄則」

 

「はいはい、そんな御託はいいから」

 

 狩奈が意見するも、あかりは手をパンパンっと叩いて一蹴する。

 

「みんな、聞いて頂戴。私は、彼女を最高幹部の一人として迎え入れる事に決めたわ」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 竜子が高らかに宣言。幹部一同が驚愕を顕に一斉にざわめき出す。

 

「つまり、あたしはもうドラグーンの一員って訳だから、あんたらの事情に遠慮なく(・・・・)口を出すことができるって訳」

 

「竜子……私は……認めないって……言った、はず……!」

 

 狩奈は壇上の竜子をキッと睨みつける。

 数日前――――竜子が自宅に訪れたあの日。ブラックフォックスを最高幹部に迎え入れたいと、彼女は提案したが、直ぐに反論した。

 高い実力を持っているとはいえ、所詮は余所者。いきなり最高幹部に登用しようなどとは……正気の沙汰とは思えない。

 そんなことをすれば、組織の統制が危ぶまれる上に、下手をすれば乗っ取られる可能性だってある。下っ端達が竜子に疑念の目を向けるのは、必定。

 

 そこまで指摘すると、黙って帰っていったので、てっきり諦めてくれたのだとばかり、思っていたが――――完全に鷹を括っていた。

 竜子は考えを変えていなかった。その事実を目の当たりにして、愕然となる。

 

「彼女を迎え入れる事は、チームを永く存続させる為の最善策と考えたのよ」

 

 文乃は了承してくれたわ――――と付け加える竜子の顔は冷静そのものだ。狩奈は文乃を睨みつけるが、彼女は不敵な笑みを返すだけだ。

 

「現実を見なさい、ヒビキ。もう組織の理念とか掟がどうとか言ってられる状況じゃないのよ」

 

「くっ……だ、だけど、他のみんなが、承諾する筈が―――」

 

 無い――――と言おうとして、左隣に並ぶ幹部達に目を向ける。

 彼女達も自分と同じ気持ちだろう。困惑に顔を顰めているに違いない。

 

「ブラックフォックスが仲間に……なんて心強いんですかぁ!!」

 

「君が来るのを待ち望んでいたよ!!」

 

「こちらからも、よろしくお願いします!!」

 

「ドラグーンと、この街を守る為に!!」

 

 が――――そんな事は全く無かった。

 命、愛華、麻琴、桜、全員が歓喜の表情を浮かべて、ブラックフォックスを快く受け入れている。

 

 

「…………」

 

 呆然自失となる狩奈。刹那――――全身の力が抜けた気がして、机の上にだら~んと、突っ伏した。

 

 

「では早速だけど、篝あかり。最高幹部の条件を果たして貰うわよ」

 

「承知しました、総長」

 

 壇上の竜子が指示すると、恭しくお辞儀をするあかり。

 

「香撫姉、お願い」

 

「ハ~~イ♪」

 

 あかりが指示すると、香撫の顔が、パアッと笑顔の花を咲かせた。

 少女の様な屈託のない、眩しい笑顔を魅せたまま、彼女は虚空へと右手を伸ばすと――――指先から徐々に、手首までが、吸い込まれる様にして消えていく。

 幹部達が驚くのを全く意に介さず、香撫は虚空に消えた右手で、何かを弄っている様子だった。

 

「…………っ!」

 

 やがて、何かを掴んだらしい。右腕をぐっと引く。すると――――空中で消えたはずの右手が出現した。

 タブレットの形をした端末を携えながら。

 

「どうぞ」

 

「どうも」

 

 タブレット端末をあかりに手渡す香撫。

 幹部一同は目を丸くしたままだ。恐らく、今の手品の様な芸当は彼女の固有魔法の一種なのだろうが――――どういうものか、さっぱり検討も付かなかった。

 

「ここには、あたしが今まで調べてきた、奴らに対するデータが記されているわ」

 

「「「「「「!!!!!」」」」」」

 

 香撫の魔法について、各々が思考を張り巡らせている矢先に、あかりの口からとんでもない言葉が飛んてきた。

 意表を付かれた幹部たちは、一斉に目を向く。

 

 

 

 

「まずは、こいつを確認して欲しい。連中が何者で、どんな事をしでかしてきたのかを、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 会議だけで8000文字になってしまったので、やむをえず投稿。
今回は、色んなキャラが思い思いに発言するので、特に大変でした。




 以下余談、いつもの映画の話。

 機動戦士ガンダム00の劇場版(4DX版)、未鑑賞だったので、観賞しました。
 常人と戦士、日常と戦場、平穏と混乱、同じ世界で生きているのに歩む道を違え、すれ違い続けて、それでもお互いを救いたい、分かり合いたいと願うマリナと刹那の姿が、感慨深かったです。
 なんとなく、まどかとほむらの関係にも似通っているような気がして……なりませんでした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。