魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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     初めて憎んだその時に D

 

 

 

 

 

 

 

  

  

「何か不思議っていうか、不気味っていうか、変な気持ちになりますね」

 

 異次元の通路を歩きながら縁が呟く。

 周囲はハリボテや立体感の無い草花で覆われており、紙芝居の中にでも迷い込んだかのような錯覚に陥っていた。

 

「うん。……魔女はここに、普通の人を閉じ込めて殺そうとするの」

 

「「……ッ!!」」

 

 それを聞いて、縁と葵に先程の恐怖が蘇ってきた。

 この異次元の景色も、最初は珍しいと思って眺めてたが、ずっと見ていると頭がおかしくなってきそうだ。こんな場所に閉じ込められて、誰にも助けを求められず、嬲り殺しにされるのか。自分達は間一髪で助かったから良かったものの、死んでしまった人にとっては、無念この上ないだろう。

 

「もちろん、こんなことが許される筈がない。だから、私達魔法少女が魔女を倒さなきゃいけないの。……誰も褒めてくれないし、命懸けだけどね」

 

「命懸けって……!」

 

 険しい顔をする纏に、葵が唖然とした表情を向ける。

 

「…………菖蒲先輩は、どのくらい魔法少女をしているんですか?」

 

「一昨年のGWには契約してたから……丁度2年ぐらいね」

 

「2年も!?」

 

 纏は事も無げに答えるが、尋ねた張本人の縁は目を見開いた。こんな危険な仕事を二年も続けているのか。

 

「そんなに驚く事じゃないよ。私なんてまだまだ短い方だから。

 だって他に3年とか4年とかいっぱいいるし……凄い人なんか10年ぐらいやってる人もいるって聞くし」

 

「10年っ!? 魔法少女の大御所じゃないですかっ!?」

 

「いや……それ、もう魔法『少女』じゃないよね?」

 

 纏の衝撃的発現に、縁は仰天。葵は既に『少女』の定義が怪しくなっている事に苦笑いした。

 

「でも……辛くはなかったんですか?」

 

「そういう時も有ったよ……」

 

 葵の質問に、纏は一瞬顔を曇らせるも、すぐに笑顔を見せた。

 

「でも、この身体ってすっごい便利なんだ!

 超人みたいな力が出せるし、病気もしない! 怪我や骨折もすぐ直せるから、医者に掛らなくてもいい!

 ……そう考えたら、魔女と戦うぐらいで悩むのが馬鹿らしく思えちゃって」

 

「頭の中身も良くなりますか!?」

 

「それは無い」

 

 縁が期待に目を輝かせるが、纏はキッパリと否定。縁はガ―――ンッ!! とショックを受けた。

 

「そんな……酷いよ、あんまりだよ……」

 

「勉強ぐらいちゃんとしなさいよ」

 

 跪く縁に、葵が冷徹なツッコミを入れる。

   

「あははは……でも、美月さんの言うことも分かるなー」

 

「??」

 

 直後に纏から聞こえた言葉にきょとんとする。纏は学年1の秀才との噂だ。今以上に頭を良くする必要があるのか。

 

「頭の中身はよくなって欲しいよね。……ああ、私の言う、『頭がいい』っていうのは、別の意味。

 勉強ができる・できないの良い・悪いじゃなくって、性根が善い・悪いって方ね。実は、魔法少女でも、人々を魔女から守る為に戦ってる子って案外少ないんだ」

 

「え? そーなんですか?」

 

 縁も纏の言葉にきょとんとした。

 

「うん、殆どの子は、この力を悪用してるの。人に暴力を振るったり、窃盗や強盗を行ったり、魔法で人を操って詐欺を働いてお金を取ったりする子も中にはいるんだ」

 

「でも、同じ魔法少女なのに……」

 

「しょうがないよ。だって、親とか学校とか……色んなものに不満を持つ時期にさ、『なんでもできる力』を急に手に入れたら、どうなっちゃうと思う?」

 

 縁は釈然としない顔を浮かべて呟くが、続けられる纏の言葉にハッとした。

 自分はもう過ぎ去ったが、もし何処かの中学生が反抗期に、纏と同じ力を手に入れたら、どうなってしまうか――――恐らく、鬱憤が爆発する。その矛先は言うまでもなく、自分に不満を敷いた『社会』に向けられるだろう。

 そう考えると、魔法少女という存在は、纏の言うように綺麗な存在ばかりでは無いことが理解できた。

 

「それに、後で分かると思うけど……魔女を倒すと、『報酬』が貰えるの」

 

「『報酬』? 誰かがくれるんですか?」

 

 葵が気になって尋ねる。

 

「そうじゃなくって、ゲームなんかでモンスターを倒すと、お金やアイテムが貰えるでしょ? あれと同じ。

 魔女を倒すとアイテムが貰えるんだけど……それが、人間の社会だとすっごい高値で取引きされてるの。

 魔法少女の中にはそれの蒐集を生業にしている子もいるみたい」

 

「それが……いくらぐらいなんですか?」

 

「ネットオークションで販売されているのを見たけど……安くて10万円ぐらいだった」

 

「じゅ……10万!?」

 

 葵は目が飛び出そうになった。年頃の女子が扱っていい額ではない。

 

「でも、それは本当に貴重なものだから、魔法少女同士で取り合うことも多いの。殺し合いに発展しちゃうケースだってある……」

 

「「…………」」

 

 纏の話を聞いて、葵と縁は言葉を失う。

 最初に『魔法少女』と聞いた時は、纏のようにカッコ良くて、キラキラした存在を連想していた。しかし、話を聞くにつれ、その幻想は打ち払われた。

 魔法を使って暴力や窃盗? 報酬品を高値で売買? 仲間同士で抗争? なんだそれは。まるで、ヤクザか暴走族みたいじゃないか。そんな世界が自分のすぐ傍に存在して、更に、身近に居る人間が2年間もその世界で生きてきた、という現実には困惑するしかない。

 

「ごめんね、色々怖い事喋っちゃって……。そろそろみたい」

 

「「?」」

 

 纏がそう言うと、足を止めた。縁達が不思議に思い、通路の奥を見る。

 そこには先程、自分達に襲い掛った『紳士のイラスト』が、わらわらと群れていた。彼ら(?)はさっきの空間よりも圧倒的に狭い通路内を目的なくウロウロしたり、戯れていた。所狭しに居並ぶその光景は、まるで蟻の集団の様に、不気味としか言い表せない。

 

「凄い数……」

 

「あれじゃ行けないよ~……」

 

 葵と縁の表情が絶望に染まる。しかし、 

 

「ううん、大丈夫!」

 

 纏は力強く、はっきりとそう言うと、両手に細身の剣を召喚する。

 ――――あれで、私達を助けてくれたんだ、と縁が思っていると、彼女は何を思ったのか、後ろを振り向いて、床に両手の剣を置くと、シャーッと自分達の足元まで滑らせた。

 

「えっ!?」

 

 目を見開く縁。

 

「それ持ってて!!」

 

「持っててって……私達、戦えませんけど?」

 

 葵は、困惑した表情で告げると、纏は顔を俯かせる。

 

「ごめんね。本当は守ってあげたいんだけど……。私も、一般人二人を完全に守れる自信が無いから……自分の身は自分で守ってね」

 

「えええええええ!?」

 

 縁が絶叫。

 

「『使い魔』はなるべく全滅させるよ。 ……でも、もし斬り漏らしたら、お願い!」

 

「怖いこといわないでくださいよ!?」

 

 葵が喚き立てるが、既に纏の意識は前方の使い魔達に向けられており、聞く耳を持たなかった。

 纏が再び、自分の両手に細身の剣を召喚。そして――――身体を屈めると、剣を持った両手を床に付いた。足のつく位置は一足長半の位置におく。前足側の膝を立て、後ろ足側の膝を地面につける。

 中学時代陸上部だった縁が、その姿勢を見てハッとする。

 

 

 ――――あの体制は……クラウチングスタートだ。

 

 

 

「……!!」

 

 ――――直後、纏がスタートダッシュを切った!! 超加速で、通路を疾走する。

 

「!!」

 

 すると、彼女の前方に『紳士のイラスト』――――使い魔が一体、立ちはだかる。このままだと衝突すると思われたが、寸前で、纏が剣を一閃! 使い魔の首と胴体が分断された。

 

「……」

 

 纏は倒れる使い魔には目もくれず、そのまま走り抜いて行く。続いて2体の使い魔が、彼女の両側から挟むように襲い掛った!

 

「!!」

 

 だが、纏は双剣を同時に横に薙ぎ払うと、二体の使い魔の首が飛ばされた。

 

「上、危ない!!」

 

 更に疾走する纏の耳に、縁の警告が響く。上を向くと天井から、使い魔が降ってきて、自分に襲いかかろうとしていた。

 

「!!」

 

 纏は飛翔すると、使い魔に向かって、剣を交差して×字に切り裂く。使い魔は空中で無残な姿となって、床にボトボトと落ちた。纏は床に着地すると、双剣に付いた使い魔の体液を床に払い、再び疾走する。

 だが、彼女が向かう先に居るのは一体、二体どころではない、30体以上の使い魔がわらわらと束になっている。

 

「!!」

 

 だが、それを見ても纏の勢いは止まる事を知らなかった。まるで、弾丸のように、使い魔の束へ突撃する。

しかし、群れに突入した直後、使い魔が一斉に纏を取り囲んだ。

 

 

「菖蒲先輩!!」

 

 縁が咄嗟に大声で叫ぶ。すると、

 

 

 ズバッ! ズバッ! ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバッ!!

 

 と、複数の切り裂く音が、群れの中から聞こえる。瞬間、凄まじい光景が縁達の目に映った。

 次々と空中に吹き飛ぶ使い魔の頭部や胴体――――纏がまるで、微塵切りか千切りにするかの勢いで、向かってくる使い魔を次々と抹殺していく。

 やがて、10秒もしないうちに、30体以上居る使い魔の最後の一体が切り裂かれた。

 

 

「す、凄い……!!」

 

「うん、あんなの、はじめて見た……!!」

 

 縁と葵は感嘆の声を漏らす。纏の強さは凄まじいものだったが、それ以上に――――華麗だった。

 ステップを踏んで、高速回転しながら、使い魔の群れの中で双剣を薙ぎ振るう姿は、まるで舞でも見ているかのようだ。

 

「二人とも、ついてきて!」

 

「「は、はい!」」

 

 纏が後を振り向き、大声を出す。我に返った縁達は剣を拾うと、慌てて彼女を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、気持ちが悪くなってこない、縁?」

 

「私は、なんか全身が、ぞくぞく!ってする感じ……」

 

 走る3人。通路の奥に向かっていくにつれ、雰囲気が変わるのを感じる。ざわざわと気色の悪い空気が、全身を包んでいくようで、縁と葵は不快感を示した。

 

「間違いないね。この先に魔女がいる……」

 

「さっきのは?」

 

 縁が尋ねる。

 

「あれは『使い魔』。魔女がボスキャラならあれは雑魚キャラね」

 

「全滅させるって言うのは……?」

 

「使い魔は魔女から生まれた存在だけど、完全に親の言いなりって訳じゃないみたい。あれは単独で人を襲って、成長して、最終的に魔女に成長するの……だから魔力の無駄遣いを覚悟で倒さないといけないの」

 

 葵の質問に纏が答えた。その内容に不満な表情を浮かべる。

 

「じゃあ、使い魔まで倒すのはただ働きってことですか?」

 

 葵が足を止めて、はっきりとした声でそれを尋ねると、纏の足が止まった。それに合わせて縁も足を止める。

 

「うん。でも、人を守る為ならしょうがないよ。……それでも、中には使い魔をほっといて、魔女になってから狩ろうとする子もいるんだけどね……報酬目当てに」

 

 それを聞いて閉口する葵。

 狡賢い人間が得をして、真面目な人間が損をする――――人間社会でもよく見られる構図が、魔法少女の世界でも展開されていた。やるせない気持ちになって歯噛みする。拳がぶるぶると震える。

 纏に何か言ってあげたいが、一般人の自分には掛けられる言葉が無かった。

 

「とにかく、今は喋ってる暇はないし、行くよ!」

 

「あ、待ってください!」

 

 纏がそう言うと再び前を向いて駆けだした。慌てて追いかける縁。葵は納得できない様子でしばらく突っ立っていたが、やがて思い出した様に、二人の後を追いかけた。

 纏が駆けだしてすぐに、一つの大きな黒い扉が見えた。纏が勢いで蹴破ると、広大な空間に入った。その中心部には一体の巨大な生物が佇んでいる。彼女後を追って中に入った縁と葵も、その生物の異様さを目の当たりにした瞬間、青褪めた。

 

 魔法少女の敵――――だがそれは、漫画やアニメで見るようなデフォルメの掛かった姿とは程遠い。

 まるで、複数の絵具を混ぜて、ベタベタと乱暴に押し付けたような、異形な容姿の魔物がそこにいた。

 全身がどう形容していいか分からない体色に染まったその魔物は、身体中から伸ばした複数の触手をはためかせながら、かなきり声を挙げている。

 

「な、ナニアレ……深海生物か何か……?」

 

 縁が苦笑いしながら、目の前の異形の魔物を強引に現実世界の生物に当て嵌めようとする。

 

「あれは『魔女』。この結界のボスで、私達の敵」

 

「あんなでかいのが!?」

 

 纏が言うと、葵が驚きの表情を浮かべる。魔女の大きさは、先程の紳士のイラストと比較すると、象と蟻くらい違う。

 纏の強さを目の当たりにしたばかりだが、それでも、魔女からすれば彼女は豆粒大に過ぎない。勝てるどころか、まともに戦えるのか?

 

「大丈夫、勝てるよ」

 

 纏が自信を込めた口調でそう言う。彼女の言葉は、不思議と縁と葵に強い安心感を与えた。

 直後、深く深呼吸する。剣を強く握りしめると、今度は姿勢を若干屈めて、スタンディングスタートの姿勢を取った。

 

「…………ッ!!」

 

 ――――数瞬後、疾走!! 紫色の弾丸と化した纏が魔女に突撃する。

 

「―――――ッ!!!」

 

 魔女がかなきり声をあげながら、胴体から生やした大木の様な二本の触手を纏に振り降ろすも、当たる瞬間に纏が飛翔。触手は虚しく床を抉るだけに終わった。

 魔女の頭上まで高く飛び跳ねた纏は、空中で両手に力を込める。すると、握っていた剣が発光し、紫色のオーラを纏い始めた。そのまま落下して、双剣を魔女に振り降ろす。

 魔女は咄嗟に頭部から生やした二本の触手を交差して、頭を守ろうとするが、受け止めた瞬間、触手は耐えきれず切り裂かれた。纏はその反動で空中に飛ぶと、くるりと一回転。回転力を加えて、更に威力が高まった双剣を交差して魔女の頭を切り裂いた。

 

「~~~~~ッ!!!」

 

 頭部に×字の亀裂が走った魔女は気色の悪い叫び声を挙げながら、ドロドロに溶けていく。纏は床に着地すると、その様子を黙って見届ける。間も無く、魔女は跡形も無く消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――刹那、空間が歪み始めたかと思うと、3人の目に見慣れた景色が映った。

 

「え? ……戻れた、の?」

 

「そう……みたい?」

 

 今まで紙芝居の様な平面的な景色は、一転して立体感のある三次元的なものに変わった。

 とはいえ、短い間に、信じられないものを何度も目の当たりにした二人は、自分達が現実の世界に戻れた事すら信じられない様子であった。

 

「ん? あれ、なに……?」

 

「宝石……とは違うように見える、けど……」

 

 ふと、目の前の地面に、一つの小さな黒い物体が落ちていた。二人が目を凝らしてよく見ると、中心部に黒い球が有り、上部には何かのエンブレムがかたどられ、下部は針状になっている。見た事も無い形状の物体だ。……もしやこれが、

 

「……報酬の、アイテム?」

 

「正解。これが戦利品の『グリーフード』だよ」

 

 縁が呟くと、いつの間にか桜見丘高校の制服姿に戻った纏が前に立って、それを拾い上げた。

 

「それを、どうするんですか? ……まさか、食べるの?!」

 

 縁がグリーフシードをバリボリと齧る纏を想像して青褪める。

 

「縁、違うでしょ。……売るんですよね?」

 

 葵はグリーフシードを高額で売って札束に埋もれる纏を想像して不敵に笑う。

 

「どっちも違うからっ!! そこまで飢えてないし、お金にも困ってないからねっ!?」

 

 纏が大慌てで否定すると、縁はホッと安堵の息を漏らし、葵は「な~んだ……」と言いたげな表情でガックリと肩を落とす。縁はともかく、葵は何を期待していたのか。

 纏は懐から、卵に似た形状の手の平大の物体を取り出す。縁と葵が良く見ると、それは宝石の様で、薄紫の輝きを放っているが、纏の髪に比べると若干澱んだ色合だった。

 すると、纏は今しがた拾ったグリーフシードをその宝石らしき物体に翳した。直後、宝石から沢山の黒い綿の様なものが空中に浮き上がり、グリーフシードに吸い取られていく。

 

「ありゃ? 何か綿ぼこりみたいなのが、吸い取られちゃいましたけど……」

 

 縁がその様子を興味津津に眺めていると、

 

「あ、キレイになった……!」

 

 澱んだ色合いだった宝石が、光沢を増してピカピカと輝きだした。葵が思わず驚きの声を挙げる。

 

「それ、なんですか?」

 

「これはソウルジェム。私達の魔力の源なんだ。魔法を使うと色が濁っちゃうんだけど、グリーフシードを使うとキレイになるの」

 

「それで魔力を回復できるんですね」

 

 縁が尋ねると、纏が手の平に乗せた宝石――――ソウルジェムを二人に見せて答える。葵はそれを聞いて、納得した表情を浮かべた。グリーフシードが魔力を回復できる貴重なものなら、他の魔法少女と取り合いになるのも頷ける。

 

 

 

 

 

「ん? でも、もし、それが濁りきっちゃったら……どうなっちゃうんですか?」

 

 

 

 

 

 そこでふと、縁が頭に湧いた疑問を纏にぶつけてきた。

 

「……えっ?」

 

 呆然とする纏。

 

「あっ……ごめんなさい。変なこと聞いちゃいました?」

 

 縁は、しまった、また地雷を踏んだ! と思い、慌てた。先程、魔法少女になれる方法と同じく、聞いてはまずい質問だったようだ。

 

「……ああ、ごめん! 大丈夫だよ。 ただ、実を言うとね、分からないんだ」

 

「へ?」

 

「『分からない』?」

 

 だが、纏は笑顔を浮かべて答えた。その答えが予想外だったので、縁はきょとんとなり、葵は怪訝な表情を浮かべる。

 

「うん。ソウルジェムが濁りきっちゃったら、どうなっちゃうんだろうね……?

 普通に考えれば、魔法が使えなくなるだけだと思うんだけど、それだけじゃないって気がするの……なんか、凄く、恐いんだ」

 

 纏の表情が曇る。

 

「『恐い』……?」

 

「……うん。自分が自分で無くなっちゃうような感覚がするんだ……。

 でも、こんなことで悩んでるの、私だけかもしれないし、仲間の子にも相談できなくって……」

 

 纏は、暗く沈んだ表情で手の平のソウルジェムを見下ろすと、ゆっくりと手を閉じて握りしめた。直後、手が僅かに震える。

 

「纏さん……」

 

 縁が、纏の事を名前で呼ぶと、震えを抑えるように彼女の手を両手で包んだ。

 

「私、魔法少女じゃないですけど、悩みを聞いてあげることならできると思うんです!

 これからも、何か有ったら、私に話してくれませんか!?」

 

「美月さん……」

 

 縁が決意を込めた目で纏を見上げると、纏は一瞬呆気に取られる。

 

「ありがとう。美月さ……、縁ちゃん!」

 

 縁の言葉に感じ入った様子の纏は、顔をパアッと輝かせるとニッコリと笑顔を浮かべて縁にお礼を述べた。

そして、纏は「じゃあ二人とも、また明日!」と言って手を振って去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  残された縁と葵の間に暫し、沈黙が訪れる。

 

 

 

「……何か、色々有ったね」

 

  先に口を開いたのは縁だった。月並だが、これほど二人の心境を表す的確な言葉は無いだろう。

 

「……そうね」

 

「纏さん、また魔法少女になってくれないかな?」

 

「それを見る為には私達が魔女に襲われなきゃいけないって……貴女分かってるの……?」

 

「分かってるよ……。でもさ、すっごくカッコよかったじゃん」

 

「……そうね、カッコ良かったわね」

 

「私達も、ああいうのになれたら、纏さんを支えることができるのにね」

 

「そうね……」

 

 自分達の知らない所で、命懸けで戦っている者達が居る。その中で、正しくあろうとする纏の姿に二人は心を打たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間は不思議だね。自分に取って都合の悪い事実は徹底的に排除して後世に伝えようとする』

 

 満月の輝く夜空の下で、真紅の両眼を不気味に輝かせる生物が、誰に向けるでも無く、声を発した。

 

『現にこの国の“白狐”の伝説なんて最もたる例と言えるだろう。

 僕達の素晴らしさを称える裏で、こんな詩が過去に存在していた事は、誰も知らない』

 

 

 

 

 ――――白狐に祈りを捧げて幸福を賜りし乙女は、現世の摂理に逆らった咎人

 

 閻魔大王の逆鱗に触れ、地獄の悪鬼羅刹と永劫戦う業を背負う――――

 

 

 

 

 

 

 




 よ、ようやく、一話終了……長かった……。
 最初はAパート、Bパートで終わらせようとしましたが、文章がえらい長いので、4つに分けました。

 本作、主人公の縁と親友の葵は、プロットの時点でキャラクターの方向性が定まっておらず、こうして描きながら固めている現状です。こんなんで本当に大丈夫かな……?

 とりあえず、魔法少女、菖蒲 纏登場。とりあえず、先輩魔法少女が使い魔・魔女相手に無双させるのを描きたかったので……表現できていれば幸いです。

 色々と説明臭い場面が多かったですね……。それにクラウチングスタートとかスタンディングスタートとかが出てきましたが、小生は陸上経験はありませんので、お叱りは如何ほどにもお受け致します……。

 あと、オリジナル設定をぶっこんでしまった事、ご容赦ください……。

 最後に、QBさんは縁たちと絡ませるか最後まで迷いましたが、これ以上グダグダな会話が続くのは避けたいと思い、見送りました。

 ……自分が書きたい所へ行くには、まず序盤をしっかり固めんとイカンのですが、難しいですね……

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