魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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間を置きすぎました。


     その先が“魔境”と知りながら D

 

 

 

 

 

 

 深山町は市街地に比べると田舎ではあったが、戦国時代の頃に、かの武田信玄相手に勝利を収め、代々領民を厚遇したと謂われる名家――小山氏が居を構えていたとされる深山城や、宣教師が布教で訪れた際に建てたと謂われる教会といった歴史建造物が多く、観光地として人気が有った。

 桜見丘市が緑萼市に対抗する最後の砦、とも謂われているらしい。

 最も、今の茜にとってはどれも関係無い話だ。

 不意に隣に目を遣ると、AVARICE社の営業マンを名乗る、少し年上のサングラスを掛けた青年が、口笛を拭きつつハンドルを握っていた。

 

「荒巻さん」

 

「なにか?」

 

 話がある、と言って車に乗るように指示したのは彼だが――――最初に会話を切り出したのは茜だった。

 なるべく自分から質問攻めして、会話の主導権を握ろうと考えた。

 

「人と話すのなら、サングラスは取って頂けませんか?」

 

 語気を強めにしてはっきりと指摘する茜。

 相手は得体の知れない男だが気負されてはならない。会話中は強気で望む。

 

「ああ、コレですが。でも、生憎、これは取れないんですよ」

 

 慎吾は苦笑いを浮かべると、ハンドルから片手を放し頭を掻いた。

 

「……確か、聞いたことが有ります。魔力を遮断する装置が付いてるって」

 

「ええ。貴女達魔法少女や魔女が日常的に使用できる『魔力』――――うちの会社でも研究しておりましてね」

 

 慎吾は笑みを浮かべながらも、目を細めた。

 

「魔法を使用すると空気中に有る物質が散布する事が明らかになりました」

 

「それが『魔力』の正体……?」

 

「ええ。科学研究チームは『マギアニウム』と名付けました。自分が付けてるこのサングラスは、魔女の口づけによって生じる意識障害だったり、洗脳や幻覚魔法から身を守ることができるんですよ」

 

 ――――まあ、開発に10年以上は費やしましたけどね、と慎吾は付け加える。

 AVARICE社が創設された当初、魔法少女社員は全くおらず、魔法少女をよく知る一般人のみで構成されていた。支援するには、彼らを上述の『マギアニウム』が飛び交う現場に送り込まなければならないが、そんな戦場に向かう兵士の様な勇気を携えている者はそうそう居はしない。

 よって、『マギアニアウム』による意識汚染から身を守る為の方法を知る必要が有った。

 幸い、社員の大半は魔法少女と懇意にしている者が多かった為、彼女達の協力を取り付けることで、『魔力』の研究を進めることができた、という話だ。

 

「そのお嬢って人(ブラックフォックス)がどこまで知っているのかわかりませんけど……私は幻覚魔法は使えませんよ」

 

「知ってますよ。でも、万が一もあるでしょう?」

 

 慎吾は微笑を浮かべてそう言う。飄々としている様に見えて、強い警戒心を抱いているのは向こうも同じらしい。

 

「まあ、雑談はここまでにして……本題に入りますかね」

 

「……っ!」

 

 慎吾の顔から笑みが消える。ややドスを利かせた低い声が発せられ、茜の身体に緊張感が齎された。ピンッと背筋を張る茜。

 

「日向茜さん。我々は貴女に協力したいと思ってます」

 

 願っても無い申し出が慎吾の口から放たれた。

 茜が目を見開く。頭の中が一瞬、真っ白になった。

 

「ッ!! …………どうして、私なんですか?」

 

 少し間を置いて、我に返った茜が疑心暗鬼にそう問いかけるのは至極当然の事だった。

 桜見丘市を縄張りとする魔法少女の中では一番経験が長いが、リーダーは萱野優子だ。そういった話は自分では無く、彼女に持ちかけるのが筋では無いのか。

 

「決まってますよ」

 

 慎吾は柔らかい笑みを向けてくる。

 

「貴女は“正義”を愛している」

 

「答えになってませんけど……」

 

 答えはひどく曖昧としたもので、茜の疑念の雲を晴らすには至らなかった。

 正義を愛しているのなら、優子も、凛も、纏も同じ筈だ。自分だけが選ばれたのは腑に落ちないと言っているのに。

 

「4月30日――――秋田県、大仙市大曲(おおまがり)通町で起きた事件をご存知ですか?」

 

 そう思っている矢先、突然話を切り替える慎吾。

 一瞬何事かと思ったが、地名を聞いてピンとなった。

 

「確か、行方不明と、自殺が一緒に起きたって、ニュースでいってましたね」

 

 即座に答える茜に、慎吾は嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「ええ」

 

「行方不明になったのは確か……女子学生5名。蜂花揚羽さん15歳、吉本ミズノさん16歳、西条真央さん18歳、鶴場 樹さん17歳。そして、自殺したのが……吉江美結さん14歳」

 

 その事件は当時のニュースの中で、特に茜の印象に残っていた。思い出しながら詳細を口にする。

 ――――その女子学生5名は、SNSで知り合った仲らしく、学年も通う学校も住む地域も違うが、関係は良好だったらしい。大曲駅前をよく溜まり場にしていたらしく、頻繁に集まっては5人で町へ遊びに行っていたそうだ。

 だがその日、内4名が「いつもの場所(大曲駅)に行ってくる」という言葉を最後に、行方が分からなくなった。

 唯一、吉江美結だけは、自宅の自室で、事切れているのを家族に発見された。

 

「お詳しいですね」

 

 感心する慎吾に笑顔を向ける茜だが、その目つきは冷ややかだった。

 

「新聞も毎日読んでますし、事件があったら必ずチェックするようにしているんです」

 

「ふ~ん」

 

 慎吾は不敵な笑みを浮かべて感嘆の声を挙げてくる。

 

「? ……でも、それって、もう犯人が捕まったんですよね?」

 

 慎吾の反応に何か変な事を言ったかな、と思いつつも、確認せずに話を続ける茜。

 

「ええ。犯人は自殺請負を副業にしている男でした」

 

 慎吾の説明を聞きながら、茜は自分が目にしたニュースの詳細を思い出していく。

 

 ――――確か……犯人の名前は牧原航一郎、年齢は47歳。

 一見、痩せ型の頼り無さそうな男といった風貌だが、その瞳は充血したかの様に朱くギラついており、胸に刺さる様な鋭さを携えていた。

 かつて、暴力団組員だった牧原は、婦女暴行事件を起こし、警察に逮捕された事があった。

 長い拘留期間の末に釈放された後、組を抜けた彼は、カタギとして工場で働く傍ら、『自殺請負人』を自称し、SNSで自殺志願者を募集していた。

 

「そいつは暴力団組員だった頃は、麻薬や毒物を専門に取り扱っていたそうです」

 

 牧原は組を抜けた後も、製造者とは太いパイプで繋がっていた。そして依頼者に、検死でも発見されないような毒薬を売り渡していた。

 牧原の供述によれば、件の5名の女子学生は彼の顧客であったそうだ。外で集団自殺を図ろうとしたが、吉江美結だけが自宅で死ぬ事を選んだらしい。

 牧原は美結を除く4人の遺体をいつもの溜まり場にて発見。それらを回収して、山奥に運ぶと、バラバラに解体して遺棄した、と述べている。 

 

「具体的な証拠はありません。ですが、その話は真実だと思われています」

 

 それは何故か? と、暗に問いかけてくる慎吾に、茜は答える。

 

「その彼が自首して、罪を告白したからですよね? その時、その女の子達の名前が挙がったって」

 

「ええ、彼が提出したスマホやパソコンには『顧客データ』が有りまして、その中にその子達の名前が記載されていましたから……警察も事実と受取り、直ぐに逮捕したそうです。彼が殺した(・・・・・)っていう決定的な証拠は何も掴んで無いのにも関わらずね」

 

 実際、警察の捜査は難行しており、牧原が出頭してくるまでは何も手掛かりを掴んでいなかったらしい。

 長引けば少女達の各家族やマスコミからの非難が強まっていくのは明白だ。

 よって、牧原を一連の黒幕として扱うことで、それらを納得させて自分達の立場と面子を守ろうとしたのだろう、と慎吾は憶測を語る。

 

「我が社でも独自に調査してみましたが……不可解な点が多いんです」

 

「! それは私も思いました」

 

 慎吾の言葉に茜はハッと顔を上げた。幾つかの不審点を口にする。

 ――――まず、5人の少女の内、事件前に引きこもっていた吉江美結を除く4名は、日常生活は順風満帆そのものであった。人間関係や学業に悩んでいる様子は見当たらなかったらしい。よって、集団自殺に走る可能性は限りなく低かった。

 第二に、犯人の牧原の事だ。

 彼はSNSで自殺者志願者を年齢問わず募集していたが、顧客として迎える人間は限られていた。独居老人、親族が不在の独り者――――所謂裕福な人間や死なせても周囲から恨まれ無さそうな人間を選んで、毒物を高額で売りつけていた。よって、彼が女子学生を相手にするなど有り得なかった。

 

「そして、三つ目は……」

 

「牧原は何で自首したのか、ですね?」

 

 茜より先に慎吾が答えると、彼女はコクリと頷いた。

 事件の詳細を聞くと、牧原は人の死をなんとも思わない異常者であることが分かる。だが、上記の事件がメディアで報道されるようになると、すぐに警察に出頭して自白したのだ。

 

「少女を殺したら罪悪感が芽生えた? 馬鹿馬鹿しい。日向さん、これはね、“誰か”がそいつを糸で操ってるんですよ」

 

 話している内に苛立ってきたのか、慎吾は眉間に皺を寄せてムスッとした顔を浮かべる。

 

「どうして分かるんですか?」

 

 茜が尋ねると、慎吾は「これ、見てください」と言って、ポケットから写真を一枚取り出して渡してきた。

 

「これは……!」

 

 写真に映り込んでいたいたものを眼に入れた瞬間、茜の頭に衝撃が走る。

 そこは、道路脇の原っぱのようだが、カメラのフラッシュに反射して何かが色とりどりの光を放っていた。

 

「5人がよく溜まり場にしている大曲駅西口階段前に、落ちていたものです。魔法少女の貴女ならこれらが何か、分かるでしょう?」

 

 ――――間違いない。これは、『ソウルジェム』だ。

 それに気づいた茜の目が大きく見開く。

 

「魔法少女の魔力の源。それが粉砕されてそこにバラ撒かれていました。自分の部屋で亡くなってた吉江美結の勉強机の上にも、同じ様な破片が散らばっていました。これが意味するのはつまり――――」

 

 ――――自殺した5名は魔法少女だったってことです。

 

「……っ」

 

 ヒンヤリと、薄ら寒い感覚が茜の全身を襲ってきた。

 冷房が強すぎるんじゃないか、と思い目先にあるエアコンを確認するが、温度は26℃、風量は1に設定されていた。

 

「ねえ、日向さん、ここで一つ疑問が湧いたんですが……」

 

 呆然としていると、慎吾が切り出してきた。振り向く茜。

 

「……何でしょう?」

 

 恐る恐る問いかける。慎吾がゆっくりと口を開いた。

 

 

「魔法少女って、毒飲んだら、死ぬんですかね?」

 

 

「……!!」

 

 真剣な表情で問いかけてくる慎吾。その質問に、ギクリとなる茜。心臓が口から飛び出そうになる。

 

「多分……死なないと思います」 

 

「へえ、それはどうしてだと思いますか?」

 

「…………」

 

 茜は慎吾から顔を逸し、口を噤んでしまう。

 そこで、車が赤信号で止められた。チラリと横目で見る慎吾だが、彼女の顔がすっかり青褪めているのを見て、ふぅ、と溜息を一回吐いた。

 

「行方不明者はもう一人いました」

 

 意地悪な質問をしたかな、と思った慎吾は頭を掻くと、再び事件の話を進める。

 

「『宮本 伶美(みやもと れいみ)』……彼女だけは、事件が起きた日の3日後に行方不明になっています」

 

「それ、初めて聞く名前です」

 

 ニュースで報道されていない名前に茜は興味を抱いた。再び慎吾の方へと顔を向ける。

 

「彼女も魔法少女でした。件の5名と一緒のチームに加わっていたそうです」

 

 そこまで話すと、青信号になった。車を発進させる慎吾。

 

「が……彼女だけは、不審な点が多すぎるんですよ」

 

 運転しながら、話し続ける慎吾。茜は耳に神経を集中させた。

 

 ――――大仙市には情報屋の魔法少女が居り、調査に協力してくれたそうだ。

 彼女によれば、宮原 伶美は突然街に現れたらしいが……明らかに普通では無かったらしい。

 まず、キュゥべえが全く認知していなかった。契約した記録は無く、それどころか魔力の反応も感じられなかった。

 次に、彼女は大学生を自称していたそうだが、大仙市にある大学を片っ端に調べたところ、彼女が入学試験を受けたという事実も存在しなかった。

 何より、宮本がチームに加わってから一週間後に、件の5名は集団自殺を図った。その3日後に宮本は失踪。犯人とされた牧原が彼女の名前を明言しなかったことや、顧客データにその名前が無かったことから、宮本は牧原とは関わりが無い事が伺えた。

 

「彼女は一人暮らしでしたし、親しい者も特にいませんでした」

 

 よって、いなくなっても特に気にする者は誰一人いなかったらしい。

 

「周囲には、実家に帰省したぐらいに思われたそうです。なモンで、特に報道もされなかったんですよ」

 

 慎吾は、ですがね、と付け加えると、少し顔を顰める。

 

「そいつが、黒幕だと私達は考えています。5人を殺害した後、牧原を犯人に仕立て上げたんだ」

 

「でも、犯人は自白したって……」

 

「マインドコントロールなんて、魔法少女ならお茶の子さいさいでしょう?」

 

 慎吾は不敵な笑みを見せて続ける。

 彼は同業者の魔法少女を何度か、牧原が居る拘置所に忍ばせた。彼は自分の武勇伝(という名の犯罪歴)を看守や拘置所仲間に雄弁に語っている傍ら、時折、奇妙な事を呟くのだ。

 

 

 『俺は、どうして捕まっているんだ?』

 

 

 その言葉が口から放たれると決まって錯乱する。

 『俺は何をしたんだ』『俺は何もしていない』『誰かがやったんだ』――――怯えきった顔で、身体を震わせながら、その言葉群をブツブツと呟き始めるらしい。

 

「……その話を私だけにして、どうしようと考えてるんですか?」

 

 ニュースで報道されている事は全くの嘘偽りだと言うことが分かった。とは言え、遠く離れた土地で起きた事件だ。自分に何か出来るとは思えない。

 

「日向さん、さっき仰いましたよね? 事件を必ずチェックしてるって」

 

「はい……」

 

「貴女が目を通した事件の中には、犯人が浮上していないものが幾つもあるはずだ。この件と同じ様にあからさまに犯人が仕立て上げられたケースもある」

 

 そこでまた赤信号に引っかかり、車が止められた。慎吾が茜の方へ顔を向ける。

 真剣な顔つきだが、それよりも、サングラスに覆われた瞳の奥に、烈火の様な熱が滾っているのが印象的だった。

 

「……つまり、そういった事件は悪意を持った魔法少女が関わっている、と?」

 

「ええ。私達の会社では、それを“悪魔”と呼称して調査しています」

 

「……っ」

 

 『悪魔』という単語が耳に響いた。刹那、茜の脳裏にセバスチャンが先の会話で見せた辛そうな表情が浮かんできた。

 胸元の十字架をぎゅっと握りしめる。

 

「悪魔はこの桜見丘市を囲み始めています。次々と行方不明になっていく少女達、隣の青葉市で起きた奇怪な事件……貴女はなんとかしたいと考えているはずだ」

 

 青葉市で起きた事件はまだ、確認していないが、慎吾の言い方から相当に悍ましい事が起きたらしい。

 

「つまり、AVARICE社なら、力を授けてくれると?」

 

 ――――悪魔に立ち向かえる力を。

 

 それは、願っても無いことだった。

 茜は表情には出さなかったが、胸中では、喜びの感情が沸々と泡の様に浮かび上がってきていた。これで街や大切な人達を守れるかもしれないと思うと、自然と拳をグッと握りしめる。

 

「はい。ただし、条件がありまして……貴女方のチーム全員に飲んで頂く必要があります」

 

「……それは?」

 

 条件――――その単語が彼の口から出た途端、目の奥の熱がさらに強まった様に見えた。

 気圧されながらも、尋ねる茜。

 

 

「魔法少女の真実(・・)を、伝えさせてください」

 

 

「!!!」

 

 喜びで温まり始めていた心に、液体窒素が齎されて、一気に凍りつかされた。

 顔が驚愕に染まる。全身がピシリと固まった。

 

「……真実(・・)って、なんですか?」

 

 咄嗟に顔を逸し、小さな声で尋ねる茜。

 

はぐらかさないでくださいよ(・・・・・・・・・・・・・)」 

 

 慎吾は冷ややかに告げてくる。茜の額に冷や汗がじっとりと浮かぶ。

 

「貴女はさっき、毒物じゃ魔法少女は死なない(・・・・)と仰ったじゃないですか」

 

「…………」

 

 茜は答えない。慎吾は無視して続ける。

 

「更に、貴女はドラグーン最高幹部(・・・・・・・・・)の美咲嬢と旧知で有り、懇意の仲でもありますね。もしかして、彼女から、それを聞かされてるんじゃないか? と思って今回、接触を図ろうと考えたんですよ」

 

 慎吾は顔を向けずに、運転に集中していたが、バックミラーで茜の様子を逐一確認していた。

 表情を隠す様に俯いていた。口を閉ざして、沈黙。だが、全身は小刻みに震えていた。 

 それは、暗に肯定と告げている様に慎吾には見えた。

 

「人は正義に生きようとすると、必ず無情な『真実』の壁が立ちはだかります。どうです? 我々と一緒に、その壁を乗り越えてみては?」

 

 言い切った途端、三度目の赤信号にぶつかる。慎吾が不敵な笑みを向けてくる。 

 だが、茜は口を開かない。

 一分ぐらい黙っている内に青信号になった。

 

「……断ります」

 

 だが、車が動き出すのと同時に、茜が静かに呟いた。

 

「……おや、それは、どうして?」

 

 慎吾は意外に思ったらしい。茜が僅かに顔を上げる。バックミラーに映る彼の表情はきょとんとしていた。

 

「まだ、みんなに伝える時じゃ、ないんです……」

 

 最初の頃の強気はどこにいったのだろう、と自分でも不思議に思う茜。

 枯れた花の様にしおらしくなった彼女は、消え入りそうな声で呟いた。

 

「伝えられない、の間違いでは?」

 

 対して、慎吾は一片も容赦も無く、冷淡に告げてきた。茜がビクリと肩を震わす。

 

「日向さん、綺麗に振る舞うのはやめた方がいいですよ。貴女だって悪魔を心に抱えてます」

 

「……!!」

 

 そんな筈無い!! と咄嗟に否定したくなったが、その言葉が喉元に上がったところで強引に飲み込んだ。

 自分があの悪魔的な、身の毛もよだつ様な真実をみんなに話してないのは――――事実なのだから。

 

「いずれ皆さんも知ることになりますよ。話すのは今の内の方が良い」

 

 ――――本当に正義を成す事ができるのは、自分の悪を自覚できた者のみですから。

 

 氷柱の様な冷たさと鋭どさが混じった言葉が、茜の全身に悪寒を走らせる。

 

「この街に迫る悪魔達が、魔法少女の事実を知らないとは限りません。もし、知っていたら……」

 

 

 ――――『堕落』させるために最大限利用する筈だ。

 

 

 慎吾のその言葉を、茜はただ、黙って聞く事しかできなかった。

 彼の口はそこで閉ざされる。途端に静寂が伸し掛かってきた。

 

(どのくらい経ったんだろう……?)

 

 大分時間が経った気がした。タイマーを確認しようと目を向けると――――

 

(え……?)

 

 頭の中が真っ白になった。まだ、自分が車に乗ってから10分しか経っていないのだ。ハッとなって、顔を見上げて、窓に映る空を見遣る。

 

 

 ――――太陽は未だ、上空に忌々しく君臨し、目を貫かんばかりの光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ヘルプミ―――――――――ッッ!!!(血涙)


 今回は約7500字。比較的短い文量での投稿となりますが、非常に悩み苦しんだ話でした。
 というのも、いつもは勝手に喋ってストーリーを進めてくれるキャラクター達が今回に限って全く喋ってくれない、という事態に陥りまして……辛かったです。
 しばらく映画鑑賞と酒場めぐりに逃げてましたが、気がつけば2週間経ちそうだったので、これ以上間を置くと書く意欲が完全に失せるな、と思い、ほぼ強引に書き上げて投稿致しました。

 次回は、縁、葵、命をメインにした少々明るいノリの話を書こうかな、と考えてます。
 (本当は今回書くつもりだったのですが、もう、心が折れそうなので止めました……)

 それにしても、二章から群像劇スタイルになっていってますが、一応主人公は縁なんですよね……魔法少女じゃ無いから一向に影が薄(殴

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