☆
舞台は変わって桜見丘市、紅山町――――
ここを縄張りとする魔法少女・宮古凛が通う公立紅山高校の周囲は住宅地だ。月夜の下で、一昔前の家々が人の営みの証明である光を照らしている。
その中にある凛の家は高校から、僅か徒歩10分の距離にあるのだが、今日は家に帰らなかった。
「ふう」
高校の制服――――袖口を肘まで捲くったYシャツに、膝上の丈の紺色のスカート姿の凛が、ラーメン屋の玄関にある柱に背中を預けながら一息つく。
今日は忙しかったな、と凛は表情を変えずに、胸中で独りごちる。
慣れないことを長時間行ったせいか身体の節々が痛い。無論、魔法少女だから、すぐ解消されるだろうが。
部活にも委員会にも所属していない彼女は、授業が終われば基本的に、部活へと足早に向かう友人たちを見送った後、寄り道せずに家へと帰っていく。
だが、今日はそうも行かなかった。
同じクラスの清掃委員の子が風邪を拗らせて休んでいることは知っていたが、あろうことか、本日その子が清掃する予定だった場所の掃除を、別のクラスにいる同じ清掃委員の子に頼まれてしまったのだ。
最初は理由を付けて断ろうとした凛であったが、何度も必死に頭を下げられたので、流石にこれで断ったら、後味が悪いな、と思い、やむを得ず引き受けることにした。
場所はグラウンドの端にある――――サッカー部や野球部などの運動部が用具入れとして使用している体育倉庫だ。
その扉を開けた瞬間、大量の土埃りが一斉に顔に舞い掛かってってきて、咳き込んでしまう程だった。
これは酷い――――この時点でサボって帰りたくなったが、ここまで来た以上やんなきゃな、と思い清掃を開始する。
とはいえ、掃き掃除と拭き掃除を適当にやってサッサと帰ろうと思っていたのだが……、
忘れてはならない。彼女は凝り性なのだ。
魔法少女時でも、独自の技の開発や技術の鍛錬の追求心は他の追随を許さず、魔女や余所の魔法少女と対峙した場合は、絶対に勝てるまで喰らいついて放さない。
――――よって、そんな彼女がこんな汚い場所の清掃を始めたらどうなるか。
結論→ 時間を惜しまずに、徹底的に掃除してくれます。
彼女がその悪癖に気づいてしまったのが運の尽き。
2時間かけて入念に清掃した結果、倉庫内は床と置いてある用具、壁、果ては天井(これは誰もいなかったので変身して拭いた)まで塵一つ無くなっていた。
電気を付けると、洞窟の様だったのが嘘の様に白く明るい空間が広がった。用具の一つ一つが灯りを反射して輝いている。
それを見て、凛は満足気に、にへら、とお馴染みの笑いを浮かべたが……窓の外を見てぎょっとなった。
すっかり暗くなった空に星が輝いている。スマホを確認すると時刻は19:00を回ろうとしていた。
ようやっと帰路に立つ凛であったが――――その表情は暗い。
よくよく考えたら外の運動部が
つまり、2時間は無駄にしたも当然――――それに、今更ながら気づいて、ちょっぴりショックを受けていた。
というわけで、彼女は家には帰らず、憂さ晴らしとして、帰りに高校の裏にあるラーメン屋に寄ることにした。店の評判は近隣からはまちまちだったが、一部の
(でも、一人で食べるのはちょっとなあ……)
今日は心身ともに疲れ切っているので、誰かと一緒に食べた方が気が紛れる。
そう思った彼女はスマホのLINEのアプリを起動して、友人の名前を探す。
(おっ、こいつにするか)
凛が最初に目に映った名前――――こいつこと、『日坂智美(ひさか さとみ)』は、凛の親友の一人だ。腰ぐらいの赤いロングヘアーとちょっとキツめな吊り目が特徴の、真面目で快活な性格の幼馴染である。
(あっ、でもこいつバイト始めて、今日からだって言ってたっけ? じゃあ――――こいつにするかな)
凛は親指で画面を下にスクロールすると、次に目についた名前をタップした。通話ボタンを押す。
『もしもし、凛?』
「おいすー麗拏」
『おいすー! って何!? もしかしてようやく終わったの!?』
電話越しから元気いっぱいの挨拶、次いで驚いた声が響いた。
彼女――――若本麗拏(わかもと れな)は、緑色のカチューシャを付けた肩ぐらいの金髪と、常時半開きな凛とは対照的な、パッチリとした大きな瞳が特徴の少女だ。彼女もまた凛とは幼馴染である。
新しい物には目聡く、隠れ家的な店を見つけては、凛と智美を誘ったりしている。
「まあね~。真剣にやってたら時間掛かっちゃって……ところで今空いてる~? 暇だったらあたしとラーメン行かな~い?」
凛はちょっと声色を幼くして、甘える様な声でそう問いかける。
『う~ん、もうちょっと早かったらなあ……夕飯もう食べっちゃったよ』
「そっか、そりゃ残念。またね」
『じゃねー!』
通話越しから元気な別れの挨拶が聞こえてくると、凛は通話を切った。
「あとは……由紀と葉子だけど……」
この二名は、同じクラスメイトの友人達である。
しかし、由紀は絶賛ダイエット中で来る訳が無い。葉子は、ラーメンよりもうどん派である。しかも時間的に夕食を食べてる可能性が高い。
「となると、あいつらしかいないか……」
残りの人間は限られる。同じ魔法少女チームのメンバー。
しかし、優子は家の手伝い、茜は塾だろう。となると……
「
標的は決まった。
凛は、にへら、と笑うと、その人物の名前を探す。見つけると、迷いなく通話ボタンをタップした。
☆
そして――――15分ぐらい経ってから、『こいつ』はやってきた。
「っていうことがあったんだ」
「ふ~ん」
ラーメン屋の店内でテーブル席を挟んだ二人の少女が話し合っている。
一人は凛だが、向かい側に座るのは、彼女とは色々と対極的な女性であった。背が高くてグラマラスな体型、加えて笑顔が眩しく映える。
「大変だね、纏のところも」
「うん……。本当に」
美しき少女――――纏は顔を若干伏せる。同時に後ろに縛った薄紫の長髪がサラリと揺れた。
一方の凛はその仕草をする纏に目を細めた。
何か言いたい事があるが、言い出せない――――彼女が顔を伏せる時は大抵、その気持ちが心の中にある証拠だ。
「縁ちゃんも色々と悩んでて、まだ魔法少女のこと諦めきれてないみたいで……」
「どうしたいの?」
凛は、そう問いかけてみる。
チーム4人の仲は非常に良いが、普段は別の街で個々に活動している、というのがネックだった。
何か事件が発生した場合、助けに行くことが出来ない。
だからこそ、優子は個々人が抱える事情を全員で共有して一緒に対処ができる様に、毎週日曜日に集会を開くことを決定したのだ。
しかし、自分と、思った事を即座に口に出す性質の茜はまだ良いのだ。責任感の強い優子と纏は、詳細を隠す傾向にあった。
故に凛は、仲間達が悩んでいる際の仕草や癖、言動というものはなるべく把握するようにしていた。
その状況に出くわしたら即座に自分から相談に乗ってあげるのがクールビューティを自称する自分――――つまり、何事にも冷静でいられる自分の役割だと思っているからだ。
「縁ちゃんの気持ちを受け止めてあげたいし、尊重してあげるつもりではいるんだけど……あんまり関わり過ぎたら、巻き込んじゃうかもしれないし……。そうなったら、優ちゃんと茜ちゃんに何て言われちゃうか……恐いんだ」
凛は顔色を変えずにふむふむと頷く。纏は続ける。
「葵ちゃんも、キュゥべえがもう付き纏ってるみたい……」
以前、葵を魔女から助け出された時に、問いかけた事がある。
『キュゥべえが、しつこくない?』と――――それに対して、葵はこう答えた。
『しつこいですよ。でも、纏さん。私が悪徳勧誘業者に騙されるとでも思ってるんですか?』
『でも……』
『私は大丈夫。大丈夫ですから。安心してください。纏さん』
その時の笑顔が、瞼に焼き付いて離れないのだと、纏は言った。
以降は、特に連絡を取り合っていないのだという。自分に余計な心配を与えたくないから、意図的に避けているのかもしれない、と纏は続けた。
しかし、縁の話では、日に日に表情に元気が失われている、という事を聞いた。
心配になって、何度か連絡をしようと考えたものの、魔法少女の世界へ巻き込むかもしれないという不安が、躊躇わせた。
「どうしたら、いいんだろうね?」
「ふむ……」
凛は腕を組むと、考え込む。
自分が見た所――――葵という人間は、纏と似ているのかもしれない。
責任感が強く、何でも一人で抱えるタイプ。
あの時、自分は去り際に、『魔法少女にならなくていい』と伝えた。
実のところ、そこまで真剣に言ったつもりは無かったのだが、纏の話から察するに、彼女自身は重大な事の様に捉えてしまったようだ。そう思うと、申し訳無い気がしてきた。
だが――――
ふと凛は、頭上を見上げた。視界に映る木製の天井には白い照明しか無いが、その光を見ていると何かが浮かんできそうな気がした。
(―――――)
じっと目を細めて、その光を見つめる凛。
(―――――!)
やがて、何かがボンヤリと見えてきて、ハッと大きく目を見開いた。
――――見覚えがある。誰よりも大きな背中だった。銀色の長髪が大きく揺れている。
――――そうだった。あの時の、アイツの年も確か……!
そこまで考えた瞬間、頭の中で、はっきりとした答えが浮かび上がった様な気がした。
でも、その内容は誤解されかねないものだ。伝えるかどうか、迷ったが……、
(何も言わないよりは、マシか)
そう思った凛は、ゆっくり頭を戻しながら、重たそうに口を開く。
「まあ――――……」
「??」
突然伸びた声が聞こえてきて、きょとんとする纏。
「なんとかなるんじゃない?」
次いで放たれた言葉は、衝撃的なものだった。それを聞いた纏の目が、思わず点になる。
「へ?」
彼女がそんな反応と同時に間が抜けた声を発するのも、無理ないか、と凛は思った。
何せ、言った本人ですら、胸中でビックリしていたぐらいだから。
「…………いやいやっ!!」
しばし呆然としたままの纏だったが、突然かぶりを大きく振った。
そして、我に帰ると、テーブルに身を乗り出して驚愕と焦躁が混じった表情で、叫ぶ。
「凛ちゃんっ! そんな無責任なこと」
「無責任じゃないよ」
――――言わないでよ!! と言おうとしたが、凛の言葉に遮られた。
「そいつらだって、もう15か6なんでしょ?」
「うん……それはまあ、高校生だしね」
「今、カヤの事、思い出したんだよ」
「優ちゃんを?」
纏は怪訝な顔で表情を浮かべる。当然だ。どうして今、優子の事を思い出す必要があるのか。
凛が考えていることが全く読めない。だが、彼女はいつもの『にへら』笑いを浮かべている。自身満々である証拠だ。何か明確な答えを持っているに違い無い、と思った。
纏は、口を閉じて身体を戻すと、じっと待つことにする。
「あいつって、15の時からさ……自分が良いと思ったことをバンバンやってたよね」
かつての優子を思い出しているのだろうか、にへら、と笑っている凛の顔は不敵なものではなく、慈愛が満ちている様に感じられた。
「でさ……不思議と、それが何でも上手く言ってたんだよね」
「そうだね……」
纏もまた、静かに目を閉じて、出会った頃の優子を思い返す。
――――大きな背中が、浮かんできた。あの背中に引かれる様に、自分は追いかけてきたのだ。自分だけじゃなく、凛と、茜も。
「で、思ったんだけどさー……それってカヤだけじゃなかったんだよ」
「どういうこと?」
だが、凛の言葉が、その情景を掻き消した。目をパッと開いて問いかける。
「あたしも、纏も、あの頃はもう何が良くって何が悪いのか、判断できてた」
「!!」
凛の言葉に、纏は驚愕した。まるで胸の中を矢で射抜かれたような衝撃が、全身を走った。
確かにあの頃、自分には様々な選択肢が降り注いできた。中には考える間もなく我武者羅に選んだものもある。
だが、凛の言葉は、その全てが『正しかった』のだと、暗に伝えているようだった。
結果――――今に繋がっている。
過酷な魔法少女の世界で2年以上生き延びて、幸福を掴んでいる。
「凛ちゃん……!」
感極まって、両眼を震わす纏。
「だからさ、そいつらはもう、自分でちゃんと決められると思うんだよ。
つまり、あたしが、なんとかなるって言ったのは……その、纏があんまり心配しなくたっていいってことだよ……うん」
良い終えてから柄にも無いことを言ってしまっている事に気づいたのか、若干頬を紅潮させると、プイと顔を逸らす凛。
その仕草に、纏はクスリと笑みを浮かべる。
一瞬、和やかな空気が二人の間に訪れる。
「……でも……私達の所へ入っちゃったら……」
……しかし、不安はそう簡単に消えてはくれない。
再び心の中で湧いてきて、顔を曇らせてしまう。
凛はそういってくれたが、縁と葵が正しいと思って選択した行動が、自分に取って最悪になる可能性も有る。
――――もし、縁が憧れのまま自分達の後を追いかけ始めたら。
――――葵が、魔法少女になってしまったら。
進学や就職とは訳が違って、決して簡単な事じゃない。やり直しなんて効かない。これからの人生と、命が、掛かっているのだ。容認できる筈が無い。
それに、両者の面倒を見なきゃいけないのは、間違いなく同じ地域に住む自分だ。
だが、自分だって魔法少女と日常生活を難なくこなせるようになったのは、ごく最近になってからだ。それなのに、二人の少女の面倒を見る事になったら、プレッシャーで潰されるんじゃないか。
不安が次第に重みを増していき、纏の首が重たそうに下がる。
「そうなったら……守ってやんなきゃ、死なせないように」
先程とは一片して、凛の言葉は冷ややかだった。
「それがあたしらの義務だって、カヤがいつも言ってる」
続けて放つ言葉が矢となって纏の心に突き刺さっていく。
だが、纏は凛の顔を見ず、ただ暗い表情で水の入ったグラスとテーブルの表面を見つめていた。
彼女の顔を見たら更に何か言われそうな気がして、怖くなってしまったからだ。
「でも、私には……自信が無いよ」
俯いたまま、ぽつりと呟く纏。こんなことを言ってはいけないと思いつつも、溢してしまった。
凛に怒られるかもしれない――――そう思い、肩を震わす。
「だったらさ――――あたしが変わってあげる」
「えっ?」
だが、彼女から放たれた言葉は、思っても無いものだった。驚いて顔を上げてしまう。
「二人の面倒、見てもいいよ」
見えた表情も思っていたのと違っていた。
魔法少女の時の獲物を狙う様な冷たい表情では無く――――いつもの『にへら』笑い。
「縄張りの取り替えっこだ。あんたはあたしの家に住んで
凛は自信に満ち満ちている表情。
(ああ、そうだ――――)
それを見て纏は、忘れかかっていた事を、思い出した。
――――あの時確か、凛ちゃんも選択したんだった。
どこまでも優ちゃんに付いていくって。この街を守っていくんだって。
人生が掛かったその選択を、凛はあっさりと決めていた。悩む素振りなど一切見せずに。
その結果――――
自分が焦がれたもうひとりの存在が、目の前に居る。
自分が抱えるべき重責を、快く引き受けると言った。それもあっさりと、簡単に、笑って。
『凛だから』できる芸当と言えば、それまでだろう。だが、凛はとっくに覚悟を決めていたのだと、今更ながらに気づいた。
……先程『自信が無い』と漏らし、選択すらせずに逃げだそうとしていた自分を急激に恥じたくなった。
寧ろ
「……ごめん」
纏が小さな声で謝る。だが、顔はしっかりと上げて、凛の顔を見ていた。
「……何が?」
凛は何で謝られたのか分かってない。きょとんとして首を傾げている。
その仕草に、ふふ、と纏は微笑を浮かべると、
「ありがとうね。凛ちゃん。でも安心して」
「纏?」
そう言うと纏は、表情をグッと厳しくした。それは決意を固めたかのように、凛には見えた。
「私、頑張ってみるよ。二人の事、絶対に守っていく」
凛の放った矢が心の中の暗雲を吹き飛ばしてくれた。
彼女が支えてくれるのならば、不安は、無い。
頑強な意志と共に放たれた言葉に凛は、ゆっくりと、目を閉じて、僅かに微笑んだ。
「そっか」
その顔の意図を、纏は知っていた。凛が纏の表情から気持ちを察する事ができるように。
心から、安心している時の顔だった。
「でも、もし辛くなったら、言ってよ」
「大丈夫だよ……って言いたいけど、分かったよ。でも、凛ちゃんも、私が辛そうに見えたら、教えてね」
「分かってるって」
和やかに笑い合う二人の少女。
今、桜見丘市には何らかの脅威が迫っていることは知っていた。
次々と思春期の少女たちが行方不明になる。犯人は一向に足取りが掴めない。宗教団体の仕業と一部の世間では騒がれているが、それは決して無いと二人は感づいていた。
いずれ、自分達は立ち向かっていかなければならないだろう。
そうなったら――――今まで以上に、過酷な戦いを強いられる事になるかもしれない。
――――そう考えてはいるものの、今は、この和やかな時がいつまでも続いていって欲しいと、二人は願うのだった。
☆
その日は、月の綺麗な夜だった。
だが、夜道の端をトコトコと歩く生物が、そんなロマンチックな感傷に浸る事は無かった。『感動』という情念が無いのだから当然とも言える。
だが、それ以上に――――
「…………」
何でそう思うのか、彼自身分からなかったが――――とにかく余裕が無かった。まるで思考の隙間に余計なものをぎゅうぎゅうに詰め込まれた様な感覚だった。
――――これは、いったい、なんだ。
昨日の正午あたりからだ。素質のあるものを探している最中だった。
――――突然何かが、意識の中に潜り込んできた。
それがなんなのか、全く分からない。
だが、これは人間の言う『違和感』というものなのだろうか、というのは推測できた。
――――何故、違和感なんて、抱くのだろう?
我々にとって『感情』というものは、極めて
それは全インキュベーターの共通認識である。
故に、
統合意識にアクセスすると、今まで自分達が得た情報から対策を検索する。
《 結果 → 除去不可能 》
ならば、全インキュベーターに問いかける。世界中に散らばった仲間が個別に所持している情報から対策を得る。
《 結果 → 原因は不明 》
《 全インキュベーター・協議の結果 → 当個体は具体的な対策を得るまで放置とする 》
その時からだった。
――――僕の目は、僕の身体は、本当に然るべき情報を外部から取り入れているのだろうか。
――――僕の目が、僕の身体が得た情報は、統合意識へと正しく送られているのだろうか。
気になって仕方が無い。だが、問いかけても答えは出ない。誰も答えなど持ち合わせていなかった。
不思議だ。どうして僕は違和感を覚えることができた?
それは、もしかしたら僕の中にある誰かの意志がそうさせているのか?
だが、その可能性は否だ。僕“達”の意識が、誰かに左右される事なんて、100%無い筈だった。
以前、『僕を支配したい』と願う子が居た。
願いを叶えてもらった彼女は、当然僕達の『全て』を手に入れることになった。しかし、僕達が抱える膨大な情報量を頭の中で処理しきれず、結果的に精神的崩壊を起こして、生命を絶った。
だから、『君たち』が僕らを支配できるなんて有り得ない。支配されるなんて有り得ないんだ。
――――だが、これは、なんだ。
――――なにが、ぼくの中に、いる?
『原因が分からない。除去法を探ってみるが、もし分かったとしても僕達の力は非常に非力だ。取り除くことができないかもしれない』
仲間達はそう言って、ぼくを放置すると判断した。
結果、ぼくは、そのままでいる。
合理的な判断など全くできない。いっそのこと『排除』してもらった方が
――――ありがたい? 何で有り難いと思うんだ。
それは合理的な思考の結果なのか――――植え付けられた何かがそうさせているのか??
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
統合意識や別個体から送られてくる情報は、全く入ってこない。
ただ、その言葉だけが、まるでパンパンに張ったタイヤの空気の様に、思考を埋め尽くしている。
――――最早何も判断はできない。
少女を契約に導くことも、少女に素質があるかどうか見分けることすらも、ままならない。
ただ歩くことしか、できない。人形にでもなった気分だ。
だがそこで、何者かの影と遭遇した。それは、同類だった。
「やあ、調子はどうだい? アクセスが全くできないから、様子を見にきたよ」
同類は何かを言っている。ぼくはその言葉に全く反応ができない。何を言っているのか、分からないからだ。
――――すると、ある文字列が、思考に創り上げられた。それを、同類に伝えろ、と何かが告げている。
僕は、
【このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしとおもへば】
その言葉を最期に、その個体の目は輝きを失い、真っ黒に変色していく。
力尽きる様に、地面にぺたりと倒れ込んだ。
直後――――全身がドロドロに溶け始める。
「やはり、彼女か……」
自分達が認識していない、契約した記録の無い魔法少女の一人――――彼女の姿を思い描くと、ドロドロに溶けてすっかり原型を留めなくなった、地面にへばり付いた同類をむしゃむしゃと貪り始める。
「『魔眼』……」
跡形も無く貪り尽くすと、すくっと顔を上げて、誰にでも無く、呟いた。
「その持ち主を始末しない限り、
ぶっちゃけ、ラーメン屋の話は、ワンシーンで終わらす予定でした。
「あ、でも、ラーメン屋に行く動機が欲しいな」
「あ、凛の日常と交友関係も書きたいな」
「あ、纏が以前縁と話したことを凛に打ち明けるのはどうだろう?」
あれもこれも思いついて、継ぎ足していった結果―――― そのまま全体を埋め尽くす結果になりました。orz
そして最後もまた、やらかしてしまいました……。
彼女については、次回で、優子をメインに描く予定です。
主人公と茜が行方不明ですが……彼女達の出番もすぐに書く予定です……。