魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

25 / 60
#EX2 『死神』

 時刻は22:00分――――

 

 

 

 

 

 

 緑萼市駅前の繁華街は居酒屋を中心とした店が居並び、真っ昼間の様に眩い灯りを放っていた。人々も大勢歩いており、喧騒が聞こえてくる。

 しかし、繁華街を出てしまうと、もう別世界に迷い込むようであった。

 街並みはもうすっかり静まり返っており、24時間営業のコンビニやチェーン店の丼物屋の明かりがポツポツと見えるぐらいで、全体を漆黒が支配し始めている。道路を走る車も疎らであり、静寂に満ちていた。

 

 駅前が既にこの状態なのだから、少し離れた住宅地の方はというと、もっと鬱蒼としていた。灯りが点いている住居は極わずかであり、物音一つ響かない。まるで暗黒の世界だ。

 住宅地の中心には団地が有り、更に団地の中心には小さな公園が有った。

 そこに建っているジャングルジムの前で、一人の少女が佇んでいた。カラフルな衣装に身を包んだ彼女。背丈や顔つきはまだ幼く中学生といったところか。こんな夜遅くにコスプレ染みた格好で何をしているのだろうか、と普通の人が見たら不審に思うことだろう。

 少女の視線はジャングルジムの頂上にいる『何か』に釘付けになっていた。瞳を大きく開き、全身をワナワナと震わせている。怯えている様子であった。

 

「ひっ……」

 

 少女が小さなうめき声を出す。ジャングルジムの頂上には何かが居る。しかし、漆黒で包まれている為、その正体を確認することはできない。

 

「誰か、助けてえええええええ!!」

 

 大きな声で助けを求めながら、踵を返して逃げようとする少女。

 刹那、ジャングルジムの頂上に居る何かが、右手を水平に伸ばしてきた。同時に手首からパアッと青い光が放たれると、小さな弓が召喚されて手首に装着される。青い光は数秒だけ何かの全体像を照らした。逃げようとする少女よりも背丈の小さい少女の姿が、はっきりと見えた。と、ボウガンの少女が右手首の角度を僅かに下に落とす。それは、逃げようとする少女の背中に狙いを定めている様だった。

 刹那――――バシュッと発射音が響いた。

 

「ぐうっ!」

 

 公園からあと一歩で抜け出せるところで少女は、背中から突き刺さる様な痛みを覚えた。

 そのまま、バタリと倒れる。

 

「…………」

 

 ボウガンの少女はその様子をじいっと見つめていると……やがて、『にへら』と口の両端を吊り上げて、笑った。暗闇に慣れた彼女の視界には、公園全体の様子がはっきりと見渡せる。

 まず、今しがた倒れた少女が目下にいる。次いで首を僅かに右に動かすと、砂場の上でもう一人、少女がうつぶせで倒れている。それらが全く動く様子も無いことを確認すると、首を左へ動かす。「うっうっう……」と嗚咽混じりの小さなうめき声が聞こえてくる。シーソーの隣で少女が倒れていた。彼女の両足には、ボウガンの少女が放ったのであろう、青く光る矢が貫通しており、動けないことに悲嘆している様子だった。

 公園の敷地内で倒れている3人の少女、ジャングルジムの頂上で悠然と佇むボウガンの少女。ここで何が起きたか、誰が何をしたのか、問うまでも無いだろう。

 

 ボウガンの少女は首を戻す。自分が今しがた叩き伏せた少女達は既に意識の外だ。少女は眠たげな半開きの両目を更に細めると、青い瞳が瞬く。鷹の如き視力を誇るそれが、次なる標的を矢の先端の如き鋭い眼光を放って、見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……、はあっ……」

 

 少女――――松樹莢(まつき さや)は、暗闇にも近い住宅地を必死に走っていた。

 

 ――――こんなことがありえるのか。

 

 莢の胸中を支配していたのは、その言葉のみだった。

 

 

 

 

 仲間の魔法少女を三人程引き連れて、団地の警備――というのは表向きで実際は魔女探し――を行っていたところ、別の魔法少女の魔力を感知。知らない魔力反応だったことから、恐らく自分達のチームメンバーでは無いと判断した莢達は一斉に、公園へと向かった。

 すると、そこの中央にあるジャングルジムの頂上で、何者かが、月光を背に佇んでいた。全体像が影で染まっている為、容姿がはっきりと確認できない。

 

 ――――シマアラシか。

 

 莢達は即座に判断。例え手練れだろうが、新米だろうが、自分達『ドラグーン』の領地であるこの緑萼市に一歩でも足を踏み入れた魔法少女は、その時点で処罰を与えなければならない。

 

 集団でリンチに掛けて、グリーフシードを奪った後、二度と来ない様に脅す。

 

 莢自身、こんな真似は不本意極まりないが、見逃したとなれば、総長(・・)からどんな『処分』が下されるか溜まったものではない。

 以前の全体会議――というよりもあれはもう、集団尋問の域に達していたが――の時、自分と同じチームに所属する別の魔法少女達が、敷地内に足を踏み入れた余所者の魔法少女を、うっかり見逃してしまったとして、処分が下された。

 

 彼女達がどんな目に有ったか、この目ではっきりと見てしまった。

 

 あんな目に自分や親しい仲間が遭うくらいなら…………。

 余所者の魔法少女に罪は無い。彼女達もまた、グリーフシードを手に入れようとして魔女を探しに訪れたに過ぎない。しかし、自分達の身の為に、犠牲になってもらうしかない。可哀想だが……あの非道な総長の前では、自分達は大人しく従うしか生きる術はないのだ。

 莢達は、一斉に右手を上げると、各々の指に装着された金属製の輪から、宝石――――ソウルジェムを発現させて、変身しようとした。

 

 ――――刹那、カン、カン、カン……と金属同士がぶつかり合う音が響いてくる。

 

 

「「「「……?」」」」

 

 変身するのを止めてキョロキョロと辺りを見回す。音は段々近づいてくる。

 すると、どこからともなく何かが、ヒュンッと飛んできて、バスッと音を立てた。

 

「え?」

 

 莢が音のした方向を見ると、仲間の一人の身体が崩れ落ち、地面に倒れ伏していた。脇腹を見ると細長い何かが突き刺さっている。

 

「マヤっ!?」

 

「嘘でしょ!? ちょっと!!」

 

 莢の仲間達が咄嗟に呼びかけるが反応無し。細長い何かから少しずつではあるが、血が滴り落ちている。

 

(まさか……!)

 

 莢が前方に有るジャングルジムを見上げる。影は立ち尽くしているだけで、今、何かしたという様子は無かった。

 だが、満月を背に高所で悠然と佇んでいる、全身が黒く染まったその姿は、まるで自分達とは違う世界から降臨した、異質な何か(・・)に見えた。

 

(こいつが……!!)

 

 その途端、目上の影が何かをしたという確信を莢は持った。ギリッと歯を食いしばって睨みつけると、ソウルジェムを握りしめて変身。莢の姿が光り輝き、私服が魔法少女の衣装へと変わる。

 直後、後ろを見ると、仲間二人も既に変身を終えていた。その内の一人が、咄嗟にマヤの元へ駆け寄ると刺さっているものを引き抜いて、治癒魔法を使用する。傷口は塞がったが、マヤの意識は戻らない。どうやら、激痛を急に受けたショックが強かった様だ。

 

「よくも、こんな酷い真似を……! ……アヤカ、ミキ、やるわよ!!」

 

 莢がそう影に訴えるように言うと、仲間二人に指示して、ジャングルジムを囲む様に展開する。影から見て、アヤカが前方。公園の入口を背後に立つ。ミキが左側。彼女の隣にはシーソーがある。莢は右側。マヤが倒れている砂場の上に立つ。

 直後、三人の両手を発光したかと思うと、武器を召喚。それを手に持つと臨戦態勢を取る。同時に魔法陣を展開。固有魔法で錯乱させてから一気に勝負を付けるつもりのようだ。

 

 ――――だが、再び、カンカンカンカンカンカンカン、と金属同士がぶつかり合う音が先刻よりも数を増して、近づいてくる。

 

「「「っ!?」」」

 

 三人がそれに気を取られた瞬間――――バスッと音がして、今度はミキの身体が崩れ落ちた。

 

「ミキ!?」

 

「ミキいいいいい!!」

 

 莢が咄嗟に振り向き、アヤカが目を大きく見開いて大声を張り上げた。

 

「痛……っ! 痛い……っ!!」

 

 ミキがうつ伏せの状態で両目から涙をこぼし始めた。無理もない。何故なら、彼女の両下肢には、先程マヤの脇腹に刺さったのと同じ物が、貫通していたからだ。

 

「…………!!」

 

 莢の表情が、凍りつく。再び顔を上げるが、影は棒立ちしたままだ。

 

「よくも……よくもマヤとミキをぉ!!」

 

 アヤカが激情に駆られ、目上の影に怒りの咆哮を叩きつける。再び魔法陣を展開するが……、

 

 

 ――――また、カンカンカンカンカンカンカン……と、音が近づいてきた。

 

 

 刹那、莢の顔の横を、何かが勢い良く掠める。

 

「え……?」

 

 何故か、頬に僅かだが痛みを感じた。莢が指で拭って、見てみると――――血が付いていた。

 

「ひっ…………!!」

 

「莢?」

 

 莢の怯えた声が聞こえたので、アヤカがハッと我に帰って見てみると、顔が恐怖に歪んでいる。

 刹那、莢は何を思ったのか――――背を向けて逃げ出した。

 

「莢!? ちょっと!?」

 

 アヤカが大声を挙げるがもう彼女は止まらない。莢の姿がどんどん小さくなり、やがて…………闇に包まれた。

 

「莢……?」

 

 アヤカが目を震わせた。信じられない、といった様子で小さく呟く。

 

「待ってよ、莢……おいて行かないでよっ!! さやあああああああああああああああああ!!!!」

 

 アヤカの悲痛な叫びが公園に虚しく響き渡る。

 

 

 

 

 だが、ジャングルジムの屋上に立つそれには、うるさい雑音でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……、はあっ……」

 

 莢は必死に走っている。住宅地は依然として暗闇に包まれている。魔法少女の脚力は常人を遥かに上回る。よって、公園からは既に大分離れている筈だが、未だに灯り一つ見えない。

 

 ――――アヤカは今頃どうしているだろう……?

 

 走り去る時、アヤカの絶叫が聞こえてきた。それが、頭の中で何度も再生される。その度に、胸がズキリと痛む。

 自分は彼女達を纏めるリーダー的存在であった。リーダーというからには当然、守る義務もある筈だが……逃げた。マヤが気絶し、ミキが両足を撃たれて、アヤカが戦おうとしているのに……自分は怖いから逃げてしまった。

 

 

 結局、自分はあの総長と同類だった。仲間を犠牲にできる人間だった。

 

 

 後悔の念が押し寄せてくる。それは下腹部をギュゥっと押す様な圧迫感として襲い掛かってきた。身体が崩れ落ちそうになったが、寸での所で耐えると、再度走り出す。逃げたところで、待っているのは総長に寄る『処分』しかないとは分かっている。それでも、足を止めることはできなかった。

 

「…………っ!」

 

 そこで莢は何かを思い出した様に、ハッと顔を上げた。

 

 

 ――――そうだ、自分達にはあの人がいるじゃないか。次期(・・)総長として、皆から期待を集めている、あの人が。

 

 

 その事に気づくと莢の表情から恐怖が消える。

 もうアヤカはやられてるかもしれないし、両足を撃たれたミキもどうなっているのか分からない。でも、あの人が来てくれればなんとかしてくれるはずだ。

 莢は、懐からスマホを取り出すと、画面を操作して、『LINE』のアプリを起動させる。すると、複数の連絡先が表示された。その中のある人物の名前を探す為に、親指で画面を下に動かす。すると……、

 

『竜子』

 

「……あった!」

 

 その名前と龍のキャラクターのアイコンを目にした途端、莢の顔が輝く。すぐに右下にある電話のアイコンをタップして無料電話を起動させた。

 

「竜子さん、出てください……出てください……!」

 

 両目を閉じ、肩を震わせて、空いた方の手を固く握りしめながら、祈る様に同じ言葉を繰り返す莢。

 そして、スマホを耳に当てようとするが……、

 

 

 突如、手からスマホが消える(・・・)

 

 

「……え?」

 

 何が起きたのか理解できなかった。

 恐る恐る目を下に向けると――――細長い何かに画面を貫通され、地面に横たわっている自分のスマホが有った。

 

「……!?!?」

 

 混乱。安心しかけた気持ちが、ぐちゃぐちゃに掻き回される様な感覚。

 しかも、その細長いものには見覚えが有った。マヤの脇腹に刺さり、ミキの両足を貫いたものだ。細長いものは蒼い光を放っているが、莢がよく目を凝らして見ると……息を飲んだ。

 よく見るとそれは『矢』であった。三角形の刃物が末端に付いており、最も尖った部分がスマホを貫いて飛び出し、地面に突き刺さっている。

 

「…………」

 

 ひとしきり感情を乱された後に残っていたのは、絶望しかなかった。

 もう終わりだ――――そう思った途端、表情から全ての感情が消え失せ、無になる。

 莢は顔を見上げる。周囲に有る住宅の屋根の上をキョロキョロと見回すと――――居た。

 自分の左斜め後ろにある、2階建て家屋の屋根の上、その中央で満月を背に立つ、何かが。

 

(あんたら、弱いね)

 

「…………」

 

 脳内に女の子の声が響く。他に魔法少女の姿はないので、どうやら、奴がテレパシーを発しているらしい。気怠そうだが、意外にかわいらしい声だ、と莢は感じた。てっきり、怪物みたいに低く唸る様な声かと思っていたが……。

 既に何もかも諦めている莢の思考は逆に冷静になり、そんなどうでもいいことを考える様になっていた。

 

(とりあえず……悪いけど……)

 

 

 ――――グリーフシードはいただくよ。

 

 

 奴はテレパシーを通して軽くそう告げると、バシュッ、と発射音が微かに聞こえてきた。

 一瞬、蒼く光る矢の姿を視界に捉えた莢だったが、直後――――意識が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小学6年生の頃―――――――

 

 

『宮古さん凄いわね。この前の、図工のテスト、筆記も工作も満点だったわよ』

 

 時期は12月。ある日の放課後、担任の先生から放送で呼び出しを受けて、何事かと思って来てみたら、突然そんなことを言われた。

 

『はあ』

 

 こういう時、他の子だったら喜ぶのかもしれない。でも、自分にはどうでもいいことだった。寧ろ、今日は友だちと遊ぶ予定があったので、とっとと返してほしい、と思った。

 

『それに、この前書いたイラストも金賞だったじゃない。市長が凄くお気に召してくれたっていうし、しばらく市役所に飾られるんですってね!?』

 

『はあ』

 

 先生はいたくご機嫌な様子だった。今にも立ち上がらんばかりの勢いで伝えてくる。あの時は、授業で市から出された課題を描け、と言われたので、頭に思い浮かんだことをそのまま描いただけなのだが、何やらそれが大人達の間で勝手に凄い評判になっていったらしい。

 ちなみに、友達にも見せてみたが、

 

『すっごい上手いじゃん凛っ!! …………でも何が描いてあるんだが分からないね、それ……』

 

 そう苦笑いを浮かべて返されてしまった。次いで他のクラスメイトにも見せたが概ね似たような反応であった。自分と同じ感性を持つ連中に取っては低評価であった。

 

『それでね、進路のことなんだけど……』

 

 そんなことなど露も知らない先生は、そう言うと、パンフレットを取り出した。『桜見丘美術大附属中学校』の字がでかでかと表記されている。

 

『ここ、宮古さんだったら推薦で受かると思うし、是非受けてもらいたいなーって先生は思うんだけど、どうかな?』

 

 なるほど、それが本題か――――直接見せる訳にはいかないので、頭の中で溜息を付く。

 桜見丘美術大附属中学校は、市内でも名門と呼ばれている。よって、そこに自校の生徒を送れたとなれば、学校の……引いては自分の評価アップに繋がると考えたのだろう。浅ましいもんだ。

 先生は『さあ、さあ!』と言いたげにパンフレットを押し付けてくるが、軽く手で払ってやった。

 

『はあ、でもいいです』

 

 拒否してやると、先生は『えっ?』と、目を丸くして驚いた。

 

『ど、どうして?』

 

『市街まで通うのメンドイんで』

 

『で、でも寮があるわよ』

 

 先生は引き下がってくる。ここまで来ると鬱陶しい。

 

『別にいいです。だって、美術って、なんかしっくりこなくって』

 

 

 だから、興味ないんです。

 

 

 そうはっきり告げてやると、先生から先程の勢いが消滅。愕然とした表情を浮かべて、がっくりと肩を落とした。

 あたしは気にせず、そのまま退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 中学1年の頃―――――

 

『宮古さん、女子サッカー部に入らない?』

 

『え?』

 

 時期は5月。担任の男教師から『いい加減、部活動を決めろ』と口うるさく言われた矢先――――一人のクラスメイトの女の子からそんな事を言われた。

 

『宮古さん、大山小学校出身でしょ?』

 

『なんで知ってんの?』

 

 あたしは頬杖をつきつつ、怠そうに言った。

 

『同じ小学校だったんだよ。でも宮古さんと同じクラスにならないから話す機会も無くって。それに、宮古さん、授業が終わるとさっさとどっかに隠れちゃうし』 

 

 話によると、彼女は前の小学校で、サッカー部に所属していたそうだ。体育の授業の一環でスポーツをしているあたしの姿に、何か思う所があるらしく、声を掛ける機会をずっと伺ってたらしい。

 

『随分な暇人だね。あんた』

 

『そんなこと言わないでよ。宮古さん凄い運動神経いいと思うよ、咄嗟の判断力とか、反射神経とかさ……なんていうか『抜けてる』よね。だから、宮古さんが私と一緒に女子サッカー部に入ってくれたらさ、この学校のスポーツをもっと盛り上げられると思う』

 

『それ、何か意味あんの?』

 

 妙に熱く語るその子に、あたしは自分でも酷いな、と思うぐらい冷たく返してやった。

 

『あるよある! 大有りだよ~! この学校って目立った功績が無いんだよ』

 

『で?』

 

『だ・か・ら!! 一緒にサッカーやって、盛り上げて、この学校を有名にしようよ、宮古さん!! 目指すは県大会優勝っ!!』

 

 あたしの机に両手を付いて口喧しく力説するそいつ。

 何か功績を残して、学校を有名にしたい――――そんなことを考える奴はマンガの世界にしかいないと思ってたけど、まさか現実にいたなんて。遠くから見る分には面白いけど、実際近くに居るとうざったいことこの上ない。

 

『あたしにかまってる分だけ時間無駄にしてるよ、あんた』

 

 あたしは極めて冷ややかに、突き放す様に言ってやる。

 

『え? 入ってくんないの? どうして? そういう宮古さんだって、自分の能力無駄にしてるよ。もったいない』

 

 が、そいつは別に気にしないどころか、逆に言い返してきた。あたしはちょっとムッとする。

 

『そうかもしんないね……。けど』

 

『けど?』

 

『スポーツって、どれもやっても、しっくり来ないんだよね』

 

 

 だから、やる気ないんだ。

 

 

 そう言うと、そいつは、大きく溜息を付いてかぶりを振った。しばらく顔を俯かせていたかと思ったら、背中を向けてスタスタと自分の席に戻っていった。どうやらようやく折れたらしい。

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、現在。

 

 

「いいね。しっくりくるよ……」

 

 今まで、何も興味が持てなかった。

 だが、白狐――キュゥべえ――と出会い、契約して魔法少女に成り、魔女と初めて戦った瞬間、全てが変わった。それは、欠けていたピースがピタリと嵌った様だった。

 

(満足だ……って言いたいけど)

 

 ――――まだ足りない。

 

 もはや、地元で魔女退治するのは飽きた。そこでキュゥべえに尋ねたところ、隣街の緑萼市では大規模な魔法少女チームがあると聞いて、興味を抱いた。

 

 ――――そうだ! 魔法少女と遊ぶ(・・)のも面白そうだね。

 

 あたしは、そこを訪れることにした。

 すると、早速4人もの魔法少女が襲い掛かってきたじゃないか。『鴨がネギ背負ってやってくる』ってのはこういうことか。そう思うと、『にへら』って、嬉しさが顔に出てくるのを抑えられない。

 

 

 ……が、そいつらは大して手応えもなく、やられてしまった。拍子抜け。あたしは手加減せず矢を突き刺してやったが、死ぬことは無いだろう。根拠は無いが、その確信が有った。

 

「ふむ……」

 

 それにしても期待はずれだ、とあたしは思った。

 あたしが求めているのは、自分と張り合えるぐらい強く、且つ面白い性格の魔法少女だ。だが、先程戦いを挑んできたのはただの雑魚、群れを作らないと動けない屑だ。

 

 あたしが会いたいのは雑魚ではなく鮫であって……屑じゃなく強い輝きを秘めた原石だ。

 スマホで時刻を確認すると22:10と表示されている。でも、まだ帰るのは早い。そう思ったあたしは、夜の闇を疾走した。

 あたしが興味を抱けそうな奴に、今日は会えそうな気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 青い髪の小さな少女―――宮古 凛(みやこ りん)。

 それはアニメや漫画で見る、花やかな魔法少女のイメージとは程遠い……先手必勝・見敵必殺を信条とする、獰猛な狩人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どっちが悪い奴だよ、コレ……?


 ご無沙汰しております。

 9月は季節の節目というのもあってか(加えて気候の変動も激しかったので)、何をやるにも気持ちが落ち込んでしまってたのですが、10月を迎えてからモチベーションが回復しましたので、リハビリを兼ねて今話を投稿させて頂きました。

 二日で書き上げた、外伝2話です。
 元々、この話自体は4月ぐらいに中途半端に書き上げたものだったのですが、改めて見ると文章が酷かったので、急遽全体的に書き直したものです。
(といっても余白と――を多用しすぎですが……) 

 では、ご意見、ご感想、ご指摘、お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。