魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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ご無沙汰しております。


番外編 『3年前の彼女達』
#EX1 『猛獣』


 

 

 

 3年前――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つかるといいなぁ……」

 

 顔を上げると満月が輝く夜空が見えた。

その美しさに目を奪われながらも、彼女はこれからに期待を寄せていた。

 

 

 『少女』が今居る場所は、とある県の中心部を締める大都会、緑萼(りょくがく)市の市街地である。

 現在PM22:00。先程まで全身から眩いばかりに明りを放つビル群も、この時間では、部屋のごく一角にぽつりと小さな光を灯すだけになった。しかし、大都会ということもあってか、未だに人の気配は多い。

 今、『少女』は人の居ない場所を探していた。歩き続けること数分、彼女はビルとビルの間――――街灯が一つも無い狭い路地に入る。キョロキョロと周囲にひと気が無いことを確認すると、全身を眩い銀色の光が包んだ。

 

 その『少女』の年齢はまだ15歳ではあるが、容姿は一般的な『少女』と呼ぶにはとてもかけ離れていた。

 煌めく長い銀髪は、幻想的な輝きを放っているが、対照的に、整った表情の中にある目付きは、野獣の様にギラギラしている。身長も170cmはあろうか、肩幅も大きく全体的にガタイの良い印象を受ける。

 何より身に纏っている衣装だ。上半身をまるで中世の騎士のような鎧で固められており、背中には太い棒状の獲物を背負っていて、銀色のマントがそれを覆い隠している。後から見ると、どこかのマー○ル・コミックのヒーローに瓜二つだ。

 彼女を『少女』と形容するには、明らかに無理があった。唯一少女らしさが伺えるのは、下半身のスカートぐらいだろう。

 

「『キュゥべえ』が言うには、この街には、大勢の『魔法少女』が居るっていうけども……」

 

 懐から取り出した地図を、チラチラ見ながら『ガタイの良い少女』は呟く。

 

 

 ――魔法少女とは、二次性徴期を迎えた少女が、『魔法の使者』・キュゥべえと出会い、それに『願い』を伝える事で、魂をソウルジェムという宝石に変換して、誕生する存在である。

 当然、身体能力を魔法で補うことができるので、病気になることは無いし、常人とはかけ離れた力を持つことができる。

 また、その名が表す通り、魔法を好きな時に使用することも可能である。

その代わり、魔法を使用するとソウルジェムに濁りが溜まっていくので、『グリーフシード』というアイテムを手に入れて浄化しなければならないため、調子に乗って使いすぎる事は禁物とされている。

 

 

 ガタイの良い彼女もまた、そんな魔法少女の一人。

 キュゥべえに願いを叶えて貰った(キュゥべえはこれを『契約』と言う)、れっきとした二次性徴期真っ盛りの乙女なのだ。最も鎧を纏う容姿からはそんなものは微塵も感じられないが……。

 

 ガタイの良い少女は人気の無い路地をトボトボと歩く。一般人に魔法少女の姿を見られてはならないのがルール(らしい)なので、仕方なく暗闇に包まれた路地を散策するしか無かった。

 彼女が此処に訪れたのには、理由があった。

 ガタイの良い少女の住まいは隣街――――桜見丘市白妙町で有り、普段はそこで魔法少女として戦っている。半年近く一人で活動しているが、つい最近、魔女に殺されかけたことが切欠で、仲間が欲しいと思うようになった。

 

 

 ――魔女とは、祈りから生まれる魔法少女に対し、呪いから生まれる存在だ。

特に人の多い地域では出現する頻度が高いとされている。彼女らは異次元に結界を作って閉じこもり、自分たちのやりたい事をやっている。

 魔女に目をつけられた一般人は『魔女の口づけ』を受け、自殺や交通事故などへ駆り立てられる。

結界に迷い込んだ場合にどうなるかは魔女によって異なるが、いずれにせよ生きては帰れない。

 

 魔法少女にとって、一般人を脅かす魔女は天敵であり、また魔力の源でもある。

魔女を倒すことで、手に入る『グリーフシード』が無ければ、ソウルジェムの穢れを転嫁できず、魔法が使えなくなってしまうのだ。

 

 

「どうせ仲間にするんだったら……強い奴がいいよな。んでもってアタシは近距離だから、遠距離攻撃でフォローできる奴がいいなあ。あ、頭も良くなくっちゃ!」

 

 正直に考えて、そんな都合の良い奴なんて居る訳ないのだが、それを彼女に突っ込んでくれる者は居ない。

そんな妄想を呟きながらも、ガタイの良い少女は期待に胸を膨らませ、目を輝かせながら暗い路地を転々と歩き回った。

 

 

 しばらくすると、

 

「お……?」

 

 眼前に人影が見えた。周囲が暗いのでよく見えない。だが、背格好からして少女のようだ。

 ガタイの良い少女は確信した。こんな時間に暗い夜道を歩き回る者は、魔法少女の他に居ない。胸が高鳴ってくる。

 

――――どんな奴かな?

 

 人影は次第に近づいてきて、ガタイの良い少女の目前で止まると、手の甲に埋め込まれた四角い宝石――――ソウルジェムを見せた。それがライトの様に輝いて人影の正体を顕わにする。

 

「びっくりした。同業者に出くわすなんて」

 

 少女は、茶色の短髪で、赤い衣装に身を包んだ魔法少女だった。彼女は目の前に見上げるぐらいの大柄な魔法少女が現れたことに瞠目する。一般的な中学生並の身長である彼女と比べて、ガタイの良い少女の身長は170cm。当然の反応だった。

 

「おお!! 会いたかったぜ! あたし、隣町で魔法少女やってるんだ! よろしくな!!」

 

「よ、よろしく……」

 

 ガタイの良い少女は、ようやくこの街で魔法少女に会うことが出来たので、舞い上がった様子だ。

満面の笑みで相手の両手を握りしめて、ブンブン振るう。体格と相まって力もかなり強いので、魔法少女は振り回されそうになる。

 

「な、何でそんな感激してるのよ……」

 

「いや~~、魔法少女に会えたのが嬉しくってなあ!」

 

 魔法少女は不審に思い、疑問を投げ掛けると、ガタイの良い少女は上機嫌に答えた。ガハハハ、と哄笑を響かせる。

 ――――とてもうるさいので、魔法少女は耳を塞いだが。

 

「会えた……て、他に魔法少女は居なかったの?」

 

 桜見丘市も全体がそれなりに大きい街なので、魔法少女が見当たらないことは無いと思うが――そう思って問いかける。

 

「まあ少なくともアタシの住んでる町じゃ見なかったな」

 

「ふ~~ん」

 

「キュゥべえに此処は魔法少女がいっぱいいるって聞いてな! 仲間が欲しくてきた訳だ!」

 

 そう言ってまた、ガハハハ、と笑い声を響かせるガタイの良い少女。また耳を塞ぐ魔法少女。

 

「仲間が欲しいね……へえ、仲間、かあ」

 

 魔法少女はガタイの良い少女の言葉の一部に反応を示した。押さえていた耳を開放し、ゆっくりと顔を上げる。

 

「おう、強い奴が良いんだけど……知ってるか?」

 

「そうね……私のチームはどう?」

 

 魔法少女は、微笑を浮かべて言った。

 

「お前の?」

 

「うん、みんな経験年数は長いし、それなりに強いチームだと思うの。メンバーは私含めて4人いるし、みんなそろそろこの街での活動に飽き始めてるから、誰か一人お眼鏡に叶ったら引き抜いても文句は無いんじゃないかな?」

 

「名案だな。話が早くて助かるぜ」

 

 魔法少女の提案に、ガタイの良い少女は、何の疑問も持たずに納得した。

 

「じゃ、チームのところまで案内するから、付いてきて」

 

「センキュー♪」

 

 魔法少女が歩きだすと、ガタイの良い少女も溌剌と感謝を述べて、その後を付いていった。

 やがて、二人は暗闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――魔法少女の名前は束谷由美(つかや ゆみ)と言った。この街で同じ学校の友人達と魔法少女チームを組んでかれこれ、1年半ぐらいは活動しているそうだ。じゃあ、アタシより先輩だ、とガタイの良い少女は言うが、由美は、フッと軽く笑うだけで、後は一言も話そうとはしなかった。

 

 

 暗闇の狭い路地を延々と歩く二人だが、しばらくすると十字路に出た。広く見える空間を、一本の街灯が照らしている。それだけでも、先程とはまるで世界が違って見えた。

 先頭を歩く由美が、十字路の中心に立って、合図をすると、即座に3人の少女がその場に降り立った。どれも魔法少女らしいカラフルな衣装を身に纏っている。だが、優子は彼女達を見て不自然に思った。

 

 ――――魔女が居る訳でも無いのに、全員が武器を手に構えている。

 臨戦態勢とも取れた。

 

「なんだ、近くに魔女でも居るのか?」

 

 ガタイの良い少女は不審に思って尋ねる。3人は答えず、自分を見つめるのみ。前に立つ由美もまた然り。

 ふと、由美は武器を召喚。それを手に取ると、後ろに立つガタイの良い少女に振りかえり、3人の仲間に向かってこう告げた。 

 

 

 

「――――みんな、こいつが今日の『カモ』だよ」

 

 

 

「はあ?」

 

 ガタイの良い少女は、困惑した。

 

 

 ――――今、何て言った? アタシが『鴨』? アホか、アタシは『人間』だ。

 

 

 馬鹿にしてるな、誰が鳥頭だ、と思い、そんなズレたツッコミを頭の中で行うと、目の前の4人を睨み付けた。

 左手を背中に回し、背負っている鞘から、太い棒状を武器を抜いた。

 

「緑萼市最大の魔法少女チーム・ドラグーンへようこそ。新人さん♪」

 

 由美は声を軽快に弾ませる。

 

「あんたさぁ、『縄張り』って知ってる?」

 

 先程とは一転して下卑た微笑を浮かべて、ガタイの良い少女に近づいてくる由美。

 

「知らねえ」

 

 ガタイの良い少女は即答。直後、由美達の笑い声が響く。4人の魔法少女は吹き出す者、下を向いてクスクス笑う者、腹を抱えてケラケラ笑う者、ニヤニヤ不敵に微笑む者、それぞれが彼女を嘲笑している様子であった。

 ガタイの良い少女は、4人の様子を怪訝に思う。自分にはまだ知らないルールが魔法少女の世界には有るようだが、『知らない』と言うのがそんなに可笑しい事なのか。

 

「はぁ~……あんた、戦い慣れてそうだけど、そんな事も知らないのね」

 

「知らないモンは知らねぇんだ。正直に言って何が悪い?」

 

「そう、なら、笑ったりしてごめぇ~~ん」

 

 言葉の内容だけ切り取れば謝っている様だが、そのねっとりとした声色や、嘲笑が貼り着いた顔はガタイの良い少女を侮蔑している以外の何物でもない。神経を逆撫でされ、殴りたい気持ちに駆られる彼女だったが、連中の目的が分からない以上こちらから動く訳にもいくまい、と思い、とりあえず黙って話を聞くことにした。

 

「縄張りっていうのは、魔法少女が活動する上での、必要な陣地のこと。仲間内で定めた地域でのみ、魔女を狩ったりすることが許されるの」

 

「ふ~ん、じゃあアタシは、アンタらの陣地に土足で踏み込んだ無礼者って訳だな」

 

 ガタイの良い少女は、勉強は出来ないが、頭の回転は早かった。即座に自分の置かれた状況を理解すると、不敵に笑ってそう言う。

 

「わかってんじゃん。よそ者の魔法少女が『無許可』で潜り込んできたらどうするか……それも縄張りを作る際に決めてるのよ」

 

 

 ――――グリーフシードは、魔法少女にとっては生命線で有り、魔女も頻繁に出現することはまず無いので、滅多に手に入るものではない。故に、魔法少女同士で取り合いになることも少なくない。

 流血沙汰を避ける為に、いつしか魔法少女達の間で暗黙のルールになったのが、この『縄張り』というシステムだ。

 個々の魔法少女チームが活動範囲を定めてしまえば、魔女を誰が倒すかで揉めたり、グリーフシードの奪い合いが発生することを防ぐことができる。

 が、そのルールの適用外となる者が居る。そう、『契約したばかりの魔法少女』だ。当然の事だが、彼女達は『縄張り』のシステムを知らないため、魔女が発生したとソウルジェムが感知すれば、その現場に飛び込んでしまう。そこが、余所の魔法少女チームの縄張り内であってもだ。

 故に、縄張りを設ける魔法少女チームは、飛び込んできた新人魔法少女に遭遇した場合、何らかの対策を講じておかなければならない。

 

 ・自分達の縄張りを荒らす者――――通称:シマアラシ――――と断定してキツイお灸を据えてやるか。

 

 ・『縄張り』のシステムを教えて、次は無いように注意するか。

 

 ・仲間に引き入れるか。

 

 その判断は様々だ。

 

 

 さて、由美達が所属する魔法少女チーム「ドラグーン」は……

 

「一歩でも踏み込んだ時点で、あんたはシマアラシね」

 

 『自分達の縄張りを荒らす者と断定してキツイお灸を据えてやる』チームだ。

 

「かわいそう~」

 

「あたしらのチームは、シマアラシに容赦しないんだよね~」

 

 由美達4人は、ゲラゲラと嘲笑を響かせた。

 

「成程、つまり、ハナっから仲間になっちゃくれねぇって訳だな……ハァ」

 

 ガタイの良い少女は、ガッカリしたように両手をダラリと垂らすと、顔を俯かせて大きく溜息を吐いた。彼女達が自分の求めているものとは正反対だったことに落胆したようだ。

 

「そういうこと。よっくいるんだよね~。人類皆兄弟、じゃないけどさ~。『魔法少女はみんな仲間!』なんて勘違いしてる甘ったれがさ~。ま、そういう奴は」

 

 由美は、ガタイの良い少女にゆっくりと顔を近づける。ガタイの良い少女も、只ならぬ雰囲気を感じたのか、顔を引き締めた。

 

「全員で囲って、大声で脅して、泣かせて、土下座させて、謝らせるんだよね~。んでそいつが言う訳だ。『もうここには来ませんから許して下さい!』って。でもそれで許すと思ったら大間違いな訳よ。

 だってそうでしょ、あたし達の貴重な『収入源』の魔女が……っつーかグリーフシードが何処かの馬の骨にパクられそうになるかもしれなかったんだからさぁ。だから、こう言ってやる訳」

  

 ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべながら、由美は、獲物――デスサイズの刃をガタイの良い少女の首筋に翳した。

刹那、形相が怒りに変貌する。

 

「『舐めてんじゃねーぞこらぁっっ!! 今持ってるグリーフシード全部置いてけよっっ!!』………………ってね」

 

 激昂するように脅し文句を吠えると、再び下卑た笑みを浮かべた。

 だが、ガタイの良い少女は、まるでそれが聞こえていないかのように涼しい顔を浮かべている。

その態度を、どうせハッタリだろう、と鼻で笑う由美だったが、ガタイの良い少女は急に目を閉じたかと思うと、「う~~ん……」と、考え込む様子を見せた。

 

 

 暫くすると、目を開ける。いつの間にか武器を右手に持ち替えていた。

 

「よーするにだ。ブッ飛ばされても文句は言えないって訳だな」

 

「へぇ、覚悟ができてるなんて、大した度胸ね」

 

「いや、『アンタら』が」

 

 ガタイの良い少女が獲物を両手で持ち上げる。

 

「はぁ? 4人相手に何粋がっ―――――――――」

 

 由美が言い終わるよりも早く、獲物を横に振りかぶって――――腰を捻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――後に束谷由美はこう語る。

 

『ええ、何か重たい物が自分の脇腹に当たったな―――って思ったらもう意識は飛んでて……気が付いたらビルの4階の窓を突き破って床で寝てたんですよ。もうあれは魔法少女なんてもんじゃない。ゴリラですよ。類人猿』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

「ケッ、軽過ぎて打った気がしねーな」

 

 ガタイの良い少女が吐き捨てる様に言う。それを見て、由美の仲間の魔法少女達は戦慄した。

 今、彼女達の目の前で起こったのは、ガタイの良い少女が太い棒状の武器をバットの様に振って、自分達のリーダー・束谷由美に場外ホームランを決めた光景だった。

 由美は、飛ばされた先にある、ビルの4階に当たる窓ガラスを勢いよく突き破った。当然のことながら脇腹を強かに打ち付けたショックで意識を失ってしまい、テレパシーにも反応が無い。

 

「さてと、次はどいつが来るんだ? あぁん!?」

 

 ガタイの良い少女は、獲物(バット?)の先端を残った由美の仲間達に向けて、そう吠えた。

 

「……恵理、あんたが行きなさいよ」

 

「はぁ、なんでよ!? 千代が行けばいいじゃない!」

 

「そこで私に振るのやめてよ! 無理だよ、だってバケモノじゃんアレ!?」

 

 3人の魔法少女達は、誰がガタイの良い少女に挑むべきか、言い争いを始めた。それを見て、ガタイの良い少女はイラつき始める。

 

「おい、早く決めろよ! どんな事も『ソッケ・ソーダ』が大事なんだぞ!!」

 

 それを言うなら『即決即断』である。――――生憎彼女にそう突っ込んでくれる者はいないが。

 

「何か訳わかんないこと言ってるけど……、それはともかく、どうするのよ? いのり」

 

「こうなったら、みんなで力を合わせて戦おう、なんとかなるでしょ?」

 

「わかった。でもいのり、ヤバくなったら私達を見捨てて逃げないでね?」

 

 いのりと呼ばれた魔法少女の提案に、千代と恵理が同意する。彼女達はそれぞれの獲物を構えると、ガタイの良い少女と一斉に向き合った。

 

「お、全員で来んのかぁ? 上等じゃねえか!」

 

「舐めるんじゃないわよこのメスゴリラが!! あたしたちドラグーンに楯ついたことを後悔させてやるわよ!」

 

「メスゴリラだと!? メスゴジラと言え!!」

 

 ガタイの良い少女は、微妙にズレたツッコミをしながら、獲物を構える…………と思いきや、地面に投げ捨てた。

 

「はぁ、アンタ何やってんの?」

 

「武器なんていらねぇ!! 素手で相手してやるぞオラァ!!」

 

(((ヤバイ……コイツマジでヤバイ奴だ……)))

 

 武器を用いて戦うのが基本の魔法少女同士の戦闘で、まさかのステゴロで戦うという、昭和の不良染みた戦闘態勢を取るガタイの良い少女に、いのり達は理解を示す事ができず、内心恐怖する。

 と、その時……

 

「ヒッ」

 

「オラァ!!」

 

 いつの間にか恵理の懐に、ガタイの良い少女が姿勢を低くして飛び込んでいた。

獲物のハンマーを振り下ろす恵理だが、それよりも、ガタイの良い少女の方が早かった。

 彼女の裂帛の気合と共に放たれたアッパーカットが、恵理の顎に強かに打ち込まれた。

恵理の身体は衝撃の余り、高くたか~く舞い上がったかと思うと、地面に勢いよく落下した。

 

「!? 恵理、恵理ぃ!!?」

 

「…………」

 

 千代が声を掛けるが、恵理は白眼を向いており、意識は既に飛んでいた。

 

「ちっくしょう、よっくも恵理をぉ!!」

 

 相棒が倒され、激昂した千代が、獲物の槍でガタイの良い少女を突き刺そうとするが、彼女は槍の尖端を避けると、脇で槍を抱え込んだ。

 

「なっ!?」

 

「フンッ!」

 

 バキィッ!!

 

 目を見開く千代。ガタイの良い少女はそのまま、気合いと共に脇に力を込めて、槍をへし折った!

 

「ひぃぃぃぃいいいい!!!???」

 

「オラァ!!」 

 

 千代が驚愕した隙を付き、ガタイの良い少女は鍛え抜かれた剛腕を横に伸ばしたまま彼女に当てて吹き飛ばした。

 ラリアットだ!

 吹き飛ばされた千代は、勢いよく後方の壁にぶつかると、そのまま意識を失って地面に崩れ落ちた。

 

「千代!! こんのおおおおおおお!!!」

 

「へっ……」

 

 最後に残ったいのりは、恐怖を打ち払うかの様に剣を掲げて勇敢に突進を仕掛ける。

ガタイの良い少女が目前まで迫ると、飛翔して、剣を頭上目掛けて振り下ろした。

だが、ガタイの良い少女は余裕の笑みを浮かべて、頭上で両手を構えている。真剣白刃取りでもする気だろうか―――

 しかし、

 

 バキィ!!

 

 ――――反応が、遅れたようだ。

 

 いのりの振り下ろした剣は、見事、ガタイの良い少女の頭に命中した。

 

「や、やった!! ……え?」

 

 歓喜するいのりだが、それも束の間。剣に突如亀裂が走ったかと思うと、粉々に砕け散ったではないか!!

 

「ええええええええええええ!!?」

 

 破片を散らす自分の武器を見て、いのりは絶叫するしか無かった。

 

「ハッハァー!! あたしの石頭、気にいってくれたみてーだな!」

 

 ガタイの良い少女は、満足気に快笑する。頭に剣を叩きこまれたというのに、傷一つ付かないどころか痛みすら感じていない様子だ。驚嘆するいのりにゆっくりと近づくと、彼女の両脇に自分の両腕を通して、スッと持ちあげた。

 

「お返しだ」 

 

 そう言うと、ガタイの良い少女は、いのりの頭上目掛けて、軽く頭突きをかました。

 

 ゴツッ、と鈍い音が響き渡ると、いのりは白目を向いて後ろに仰け反った。意識が飛んだ様だ。

そのままガタイの良い少女は、いのりをゴミの様に、ポイッと地面に投げ捨てた。

 

「なんだぁ~? 粋がってた割に大したことねぇじゃねえか」

 

 いつの間にか、ガタイの良い少女の周囲は屍累々の光景となっていた。三人(一人はブッ飛ばした)の魔法少女の気絶した身体が横たわっている。ちなみに、ここまで5分も掛かってない。

 

「……ハァ」

 

 強い奴がいたら、そいつをどうにかして仲間にしてやろう……、そう思ってわざわざ足を運んだのに、とんだ期待外れであった。弱い奴ばっかりじゃないか。

 何だか気持ちが落ち込んで、自然と溜息が出てくる。

 

「まぁいいか……次を探そう! よし、次つぎ!! レッツゴ――――――――――!!!!」

 

 ガタイの良い少女は気持ちを切り替えて、自分の仲間になってくれそうな魔法少女を求めて、再び夜の街を走ることにした。溌剌とした大音声が響きわたる。…

 ……正直、ビル街だからまだいいものの、住宅街だったらとんだ近所迷惑になっていたことだろう。最も、彼女がそれを気にする事はまず無いだろうが。

 

 

 

 だが、彼女は気付いていなかった――――ガタイの良い少女を囲む、ビル群。その一つの屋上で、先程から彼女の姿を見下ろして、『にへら』と笑っている、青く小さな影が佇んでいることに。  

 

 

 

 

 

 

 銀髪の大柄な魔法少女――――萱野優子(かやの ゆうこ)。

それはアニメや漫画で見る花やかな魔法少女のイメージとは程遠い……喧嘩上等、勇猛果敢を体現する戦士であった。

 

 

 

 

 




 流石に2週間も放置したままはマズかろう、と思い、投稿させて頂きました。


 ……以上、新人時代(?)の優子でした。


 とりあえず、この#EXは、エピソード0的なもので彼女達の過去やドラグーンとの因縁を掘り下げていく予定です。
 ただ、本編と平行しての連載はかなり厳しくなりそうなので……こちらの方は、完全に不定期連載となるかもです……申し訳ありません。

 第二章を始める前には、もう一話ぐらい投稿できれば、と思います。
 
  
 改めまして、宜しくお願いします。

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