魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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エピローグ・1 ゆかり

 

 

 

 

 

 

 

「……縁」

 

「ごめんね、葵。心配掛けちゃって……」

 

 心配して待っていてくれてたのだろう。家に帰ると、玄関先に葵が待っていた。

 

「最初からアホだと思ってたけど、ここまでアホだったなんて……!」

 

「ごめん……」

 

 葵が声を震わせながら、そうつぶやく。顔は俯かせているせいで見えないが、間違いなく怒っているのだろう。縁は再び謝るしかなかった。

だが、

 

「いいのよ」

 

 そう言うと、顔を上げて微笑を浮かべる葵。すると、突然縁に飛び込んできた。

 

「葵……!?」

 

「縁が無事で、本当に良かった……!」 

 

「!」

 

 抱きしめながらそう言う葵に、縁は申し訳なさで肩が震えた。

 

「もう止めましょう……! 魔法少女の世界に飛び込むなんて……!」

 

「!!」

 

 続けて言われた言葉に、縁が目を大きく見開いた。

 

「…………そう……かもね……」

 

 しばらく間を開けて放った言葉は、酷く空っぽだった。

 

「縁……?」

 

「私に、飛び込む資格なんて、なかったかもね……。私、なんかに……」

 

 縁は葵を両手で離すと、自嘲気味に呟いてフッと笑う。思い返すのは、先刻の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あかりと政宗が去り、竜子、狩奈、命達率いる魔法少女達も去った。瞬間、桜見丘市に訪れた脅威は全て無くなった。

 だが、その場に居た三人、縁、優子、凛は居たたまれない思いに駆られていた。当然だ。結局、自分たちは何も無し得ず、第三者の謎の男性によって場を納められてしまったのだから。

 

「……縁、どうしてここにきた?」

 

「えっ?」

 

 しばらく三人で呆然と道の端で塀に寄り掛かっていたが、不意に優子が問いかけてくる。

 

「あかりちゃんと優子さん達の喧嘩、どうしても止めたかったんです……」

 

「……篝とは、知り合いなのか?」

 

 あかり『ちゃん』――――その呼び名に優子が反応。隣に座る凛も横目で伺う様に見てくる。

 

「はい」

 

 縁はそこでチラリと優子の右腕を見る。力なくダラリと下がっていた。聞いた話では、あかりが関節ごと破壊したらしい。

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「ああ、大丈夫さ。ウチには纏がいる」

 

 そこで縁は、纏が回復する魔法を使える事を思い返して、安堵する。

 

「すぐ直るさ」

 

 でも、2日ぐらいは料理できないかな――――と、苦笑いを浮かべてそう付け加える優子。

 

「……あの、優子さんをそんな目に遭わせたから、信じて貰えないかもしれませんけど……」

 

 縁は意を決して伝える。

 

「あかりちゃん、悪い子じゃないと思うんです。初めて会った時、とても寂しそうな目をしてて……」

 

「そうだな……、アタシも気になるところはあったし。お前の気持ちはよくわかったよ。でも……」

 

 優子は一度ふう、と溜息を吐くと、酷く落胆したように首をガクン、と落とした。

 

 

「お前が死んだりでもしたら……アタシは悲しいよ」

 

 

 静かにささやかれた言葉は、縁が『魔法少女』というものを知ってから今に至るまでに、一番強い衝撃を与えてきた。

 

「……アタシたちの為(・・・・・・)にも、お前には普通に生きててほしいんだ」

 

 眩暈がするようだった。

 自分には魔法少女になる資格がない。でも、彼女達の戦いを止めたかった。無力だけど、事情を知る者として、なんとかしたかった。

 でも、結局は……、

 

「でも、私、折角……みんなと知り合えたのに、みんな頑張っているのに……何もできないまま、なんて……!」

 

 迷惑しか掛けていなかったのだと、はっきり自覚した。身体のバランスが崩れフラフラと足がおぼづかなくなる。

 でも、自分が自分の意志でここまで来た、ということを、はっきりと彼女達(魔法少女)伝えたかった。

 

「分かってる。ありがとうな。……でも、もう十分だ」

 

  優子が笑顔を向ける。放たれた言葉に、縁は顔を俯かせた。

 

「後は、あたし達でなんとかするよ」

 

「凛さん?」

 

「あんたは今日の事は忘れて、さっさと寝な」

 

 凛は縁の肩に手を置きながら言う。顔を上げて彼女の顔を見る縁。あっさりとした物言いだが、声色には優しさが込められている様に聞こえた。

 

「じゃ、カヤ、行こうか。茜と纏を迎えに」

 

「ああ……」

 

 凛はグリーフシードが詰まったバッグを持つと、優子の傍に付いて一緒に歩き出す。縁に背中を見せて去っていく二人。

 

「縁……」

 

 が、途中で優子が後ろを振り向いた。その声にハッとなる縁。

 

 

「……ごめんな」

 

 

 優子はそれだけ言うと、首を戻して去っていく。

 

(……どうして?)

 

 縁は唖然とした。迷惑を掛けたのはこっちなのに、どうして彼女達が(・・・・)謝るのだろうか?

優子も、あかりも、もっと自分に怒っても良かった筈なのに――――まるで意味が分からない。

 

 そう考えて、縁はあることに気付く。

 『分からない』と思う事は、結局、彼女達の事を何一つ理解していなかったんじゃないか。

 自分は彼女達の戦いを止めたかった。しかし、それには、黒岩政宗の様に、深い理解と、命を懸けるぐらいの強い覚悟が必要だったのに。

 

「……っ!」

 

 そこまで考えると、自分を殴りたい衝動に駆られた。

 

 

 ―———何を馬鹿な事を考えてるんだ、縁。お前は彼とは違う。第一、そんなものが、お前の何処にある。

 

 

 ―———お前は、ただの女子高生なんだ。

 

 

 

 ―———魔法少女の世界に飛び込む必要なんてない(・・・・・)

 

 

 

 落胆のあまり両膝を落とす。

 何もかもが浅墓だった。しかも今更気づいたが、自分は靴を履き忘れていた。

 

「アハハ……」

 

 アホさにも限度があるだろうと思って、笑いたくなった。救いようがない。誰でもいいから、いっそのこと蔑んでもらいたかった。

 だが、皮肉にも彼女の乾いた笑いを聞く者は、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『魔法少女には魔法少女にしか分からない事情がある』……葵の言ってた事、本当だった。だから、私……魔法少女の世界に行くのは、もう辞めるよ」

 

「そう……」

 

「でも、纏さんや優子さん達、それに……あかりちゃんとは……、これからも、仲良くしたいと思ってるの。それは……ダメ、かな?」

 

 おそるおそる問いかける。葵は嘆息。

 

「しょうがないわね」

 

「葵?」

 

「別に貴女の友好関係をどうにかする権利は私には無いわよ。『友達として』付き合いたいなら、そうすればいいじゃない」

 

 そう言ってくれたことが、救いになった。縁の顔がパァっと花が咲いた様に、輝く。

 

「葵、ありがとう!」

 

「!……どういたしまして」

 

 今度は自分から葵に抱き着く。葵は驚いたものの、縁の背中を優しく撫でながらそう微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、宿題をしていた縁だったが、ふと窓を見ると、大きな満月が夜空に浮かんでいたので、目を奪われてしまった。

 そこで、暫し物思いに耽る。

 

 黒岩政宗――――自分と同じ一般人なのに、魔法少女の事を良く知る人物。彼は何者なのか。あかりちゃんとはどんな関係なんだろうか。

 あかりちゃん――――隣町の魔法少女達を救う目的は何なのか、どうして優子さん達と戦わなければならなかったのか。

 

 様々な疑問が湧いてくる。最早自分には関係無いことなのだが、それでも気になって仕方が無かった。

 

(でも、何より……)

 

 あかりが泣きそうな顔で去り際に告げた、あの言葉。

 

『みんな、死ぬ』

 

 あれはどういう意味だろう。それに『奴ら』って……?

 

「~~~~っ!!」

 

 そこで、ブルブルと全身から鳥肌が立ってくる縁。

 あんまり怖い事を考えてると、また眠れなくなってしまうので、そこで思考を止めることにする。

 

「大丈夫、何かあったって、優子さん達とあかりちゃんなら……きっと」

 

 恐怖を抑える為に、彼女達の名前を唱える縁。再び、窓の外に映る満月を見上げる。

 

「大丈夫……だよね?」

 

 向かって問いかけるが、月は何も語らず、ただ悠々と輝いているだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 エピローグ・ゆかり編、終了となりました。
 魔法少女の世界へ行く事を諦めた彼女の行く末は如何に……?


 以前申し上げた通り、彼女は書きながらキャラクターを作っているようなものなので、心情描写を細かく書くのがかなり大変だったりします。
 現状キャラクターの中では、一番時間を掛けて書いてるかもしれません。

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