魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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前回UAして下さった皆様、お気に入り登録してくださった方、誠にありがとうございます。凄く励みになりましたので、今後とも精進して参ります。


 #01__初めて憎んだその時に A

 ――――5月。

 桜の花はすっかり散り果て、道沿いを居並ぶ木々は青々と生い茂り、新緑が芽生え始めていた。

 

 

 

 桜見丘市は、中心部に有る市街を始め、深山(みやま)町、紅山(べにやま)町、白妙(しろたえ)町の合併から成るそこそこに大きい街であるが、隣街の『緑萼(りょくがく)市』がここ10年、目まぐるしい発展を遂げ、都会化が進んでいるのもあってか、その弊害を諸に受けてしまっている。

 

 都会の影に隠れた田舎町――――そう囁かれる声も少なく無い。

 

 働き盛りの若者がこぞって、緑萼市に流れてしまうので、必然的に桜見丘市を支えているのは、40~50代ばかりとなっている。市全体が桜の名所であることを必死にPRしているが、それでも、観光客はスズメの涙程度しか訪れず、それどころか「緑萼市のついで」で来る人が大半だ。

 

 

 

 

 そんな何の特徴の無い街に住む少女、美月縁もまた、何の特徴も無い少女であった。

 

「いってきま――――っす!!」

 

 元気であること以外は――――。

 

 

 

 

 先程まで寝ぼけ眼を擦っていたり、朝食中にコックリコックリと舟を漕いでいる様な状態の彼女だったが、家を出て陽光を受けると一変、元気いっぱいな大きな声を挙げて、学校に向かって走りだした。

 

「おっ!」

 

 桃色のショートカットヘアを大きく揺らしながら駆ける縁の前に、一人の少女が立ちはだかる。

縁は髪と同じ色の瞳を大きく瞬かせながら、足を止めた。勢い良く制止したせいか、キキーッとブレーキの様な音が響く。

 眼前の少女は、細身で未だ成長途上に有る縁と比べると、全身が程良い肉つきで、特に胸に至っては熟した果実の様であった。

 

「おはよう」

 

「おい、どこに挨拶している……!」

 

 挨拶をする縁だが、完全にエロ親父の顔で目線をそれに向けているのを見て、少女は眼鏡の奥の瞳を細めながら突っ込む。

 少女の髪は長い紺色の腰まであるロングヘアで、前髪は眉毛の上で、切り揃えている。快活そうな縁と比較すると、真面目そうな雰囲気であった。

 

「おはよう、縁」

 

「改めまして、おはようございます」

 

 真面目そうな少女は、見た目に相応しい礼儀正しいお辞儀をすると、縁もそれに倣ってペコリと畏まったお辞儀を返す。

 少女の名前は柳 葵(やなぎ あおい)。隣に住んでおり、縁とは幼馴染である。

 幼稚園、小学校、中学校を共にしてきた二人だが、高校に進学する頃は別離が危ぶまれた。

というのも、ちょっとおバカで成績がいつも中の下の縁とは対照的に、葵は頭が良く、緑萼市の新学校を推薦枠で紹介された事があった。そこは隣町に有るとはいえ、葵の家からは車で1時間掛るので、入学する場合、付属する寮で独り暮らしすることになる。

 だが、葵は『地元に愛着があるから』と言ってそれを蹴り、地元の公立高校に進学を決めたのだった。

 よって、二人の別離は回避され、今に至るのであった。

 

「……今日、変な夢見ちゃって……」

 

 並んで学校へと歩き出す対照的な二人。縁がポツリと口を開く。

 

「どんな夢よ」

 

「それが、忘れちゃったんだよね」

 

「はあ?」

 

 葵が呆れた様な声を出す。縁はそこで、左手を水平にして額に当てた。目の上に影を作ると、顔を見上げる。

そして、青空の中央で煌めく太陽を、じっと睨んだ。

 

「ただ、あの太陽に、何かすっごくいや~な事をされたのは覚えてる……」

 

 乾いた瞳で、恨めしそうに呟く。その声色には若干憎しみが込められている様だ。

 

「……貴女が、怒るなんて珍しいわね」

 

「私だって人間ですから、怒ることだってありますよ」

 

 太陽を睨み据える縁を見て、葵は呆気に取られた様に声を挙げる。それを聞いて縁はムッとした表情で頬を膨らませた。

 縁は、快活そうな見た目の通り、感情豊かな少女であった。よく笑い、よく泣き、よく驚く――――表情をコロコロ変えるので、見てて飽きない。

 

 ただ、『怒る』ことだけは決してしない少女であった。

 

 

 

 

 一昨日の水曜日、通学中に、前を歩く男子生徒が空き缶を後に投げ捨てた。

その時、運悪く、空き缶の底が縁の米神に当たってしまったのだ。葵はすぐさま男子生徒に詰め寄り、叱りつけたが、男子生徒はバツの悪そうな顔で「ワリ!」といって逃げてしまった。葵はその態度にキレそうになったが、縁はニコニコしながら、「向こうも謝ってくれたんだし、別にいいじゃん」といって宥めた。彼女の米神には小さい痣ができていたのだが、全く気にしてないよ、と言わんばかりの様子であった。

 葵も傷が出来ているのに、我慢する必要は無い、と思い、彼女に怒る事を勧めようとして―――――諦めた。

 

 

 

 それだけは、()()()()()()()()()()()事だと思ったからだ。

 

 

 

 とは言え、傷が出来ても笑っている様な縁が、何かに向かって強く怒っている様な表情を浮かべているのは非常に珍しかったので、葵は不思議に思った。

 

「太陽に何をされたのよ?」

 

「焼かれる夢……だった様な?」

 

 葵が問い詰めると縁は、首を傾げて曖昧な答えを返す。

 

「砂漠を歩く夢、かしら? 後でどんな意味があるのか調べてあげるわ」

 

(それとは違ったような気がするんだけど……)

 

 基本的に真面目で常識人な葵だが、思いこみが強い所が偶に瑕であった。

 自分の夢を勝手に解釈されている。本当は違うのだが、下手に突っ込むと、機嫌を悪くするので、縁もとやかくは言えなかった。もし悪くした場合、週末の休日二日間を費やして、ご機嫌取りのプランを立てなければならないのは目に見えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、萱野だろ?」

 

 ――――時は同じくして、白妙町。桜見丘市内の中で別格の過疎地、そして治安の悪さで有名なその町で、一人の柄の悪そうな男性が、一件の定食屋から出て行く制服姿の女性を見掛けると、すかさず声を掛けた。

 女性は、175cmもあろうかという大柄な体躯で、後から見ても筋肉質な身体付きをしているのが分かった。太陽光を受けて煌めく長い銀髪を揺らしながら歩いている。高校生というよりは、悪役プロレスラーの様な見た目であり、高校の制服である、Yシャツとチェック柄のスカートが不釣り合いに見えた。

 

「あん?」

 

 萱野と呼ばれた女性は振り向く。化粧っけの無い整った顔つきをしているが、銀色の目がギラリと光っており、獰猛そうな印象を受ける。男性はその眼光に、一瞬震えあがるが、なんとか抑えて声を出した。

 

「あ、あんたには感謝している。田中を警察に突き出してくれたんでな」

 

「あ~、あれか、大したことじゃないと思うけど……」

 

 萱野はどこかバツの悪そうに頭を掻いた。

 

「いやいや、あいつは俺達の仲間の中でも札付きのワルでな。俺達も手を焼いていたんだ」

 

 男性は女性に心からの感謝を述べていた。萱野は照れくさいのか、若干頬を赤くしながら、顔を俯かせる。

 ちなみに、男性の言う「田中」とは、同町の白妙中学校の生徒を脅して、カツアゲして回っている屑のゴロツキだ。中学校周辺を歩いていた時に、たまたま現場を目撃した優子が、得意の喧嘩殺法で沈めた後、警察へ突き出したのだ。

 

「最初は『とうとうあいつも警察に捕まったか』と思ったけど、まさか女子高生だって聞いてビックリしたよ」

 

「いや、あの、まあ、女子高生とか警察だとか関係なく、人間として許せなかっただけであって……」

 

 萱野は顔がカァ~っと熱くなるのを感じ、大量の汗を掻きながら、小さい声で呟いた。

 彼女は警察に表彰され、町内では英雄的扱いを受ける様になった。特に被害を受けていた中学校の生徒からは、大量の感謝状やファンレターが送られた。

 最も、ここまで賛辞を受けるとは思ってなかったので、彼女は戸惑う一方であった。

 

「俺達は、暴走族だが、流石にガキを脅す様な真似をしない。あいつはそれを破っていたが、ガキ共から巻き上げた金を賄賂に使って仲間の手から逃げていやがった。俺も現場を何とか付き止めようとしたが、うまい具合に隠れやがってな。

あんたは、ガキ共や、俺達にとってもヒーローなんだよ」

 

「あの、だったらアタシにあんまり構わないで欲しいだけど。家、定食屋だからさ、子供達ならともかく、あんまりアンタみたいな奴に絡まれたら、店の評判に関わるんだって」

 

 お陰さまで、自分の評判を聞いた「田中」の仲間が日夜問わず、自分に絡んではこうやって賛辞を述べる事態が頻発しているので迷惑この上無い。

 

「その割には嬉しそうだが」

 

 とは言え、照れくさい表情を指摘され、萱野はギクリとなる。

 

「ううっ…。そ、そりゃ褒められて嬉しく無い奴はいないしっ」

 

 顔を紅潮させながら、そう上ずった声を挙げる萱野。

 

「それもそうだな。お前、結構面白い奴だな、今度仲間達と一緒に飯食いにいってやるよ」

 

 男性の言葉に萱野はぎょっとした。彼らが特攻服で店内を座巻する姿を想像したら、店の評判はガタ落ちだ。

一般の客はまず寄りつかなくなるし、警察にも睨まれることになる。

 

「頼むからその時は、普通の服装で来てくれよ……」

 

「分かってるって、じゃあな」

 

 男性は、さぞ愉快そうに、そう言うと、手をひらひらさせて去っていく。

大柄で鋭い目つきの少女、萱野優子(かやの ゆうこ)は、それを青褪めた表情で見送っていた。

 

 

 ちなみに彼女の周りには、いつの間にかギャラリーができており、いつ萱野優子と柄の悪い男性の喧嘩が勃発するのか、心待ちにしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻り、公立桜見丘高校――

 時刻は既に、放課後。HRも終わり、縁も教科書を鞄に仕舞って帰ろうとしていたが、その時――――有る事に気が付いて、顔が一瞬でブルーになる。

 

「なぜだ……どうして……なんで無いの……!」

 

 鞄に教科書を仕舞い終えて、ボタンを閉めた縁の両手がわなわなと震える。退屈だった授業から解放され、ようやく家に帰れるとホッと一息ついた矢先であった。

 一気に奈落の底に叩き落とされた。

 

「私の……スマホおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

 

 もはや他の生徒は帰ってしまい、誰もいなくなった教室で、縁の慟哭が響き渡る。

だが、返ってくる声は無く、ただ窓から刺す夕陽が、縁を虚しく刺すだけだった。

 

「ちょっと!? どうしたの?」

 

「うわっ!!」

 

 ――――と思いきや、それを聞いていた者がいた。てっきり周りに誰もいないと思い叫んだので、まさか聞かれるとは思わず、縁は驚くと同時に恥ずかしさで顔を紅潮させた。

 縁の声を聞き付け、教室に飛び込んできた女性は、一言で言えば美人だった。縁は言葉を失ってまじまじと見つめてしまう。女性はスラリとした高い身長で、艶やかな薄紫色の長髪を黄色いリボンで後ろに縛っていた。何故か前髪は左半分だけ長くしており、左目を隠していた。

 

「大丈夫!? 何かあったの?」

 

 女性は縁の様子を目の当たりにして気が気では無い様子だった。縁の両肩に手を置くと、ゆさゆさ揺らしながら必死に問いかけてくる。鈴の様な綺麗な声色が心地いいと感じた縁だが、今はそれどころではない。

 

「私のスマホが無いんです―――――!!」

 

「ええええええ!? じゃあ一緒に探してあげるね――――!!」

 

「ありがとうございま――――す!!」

 

 誰もいない教室で、少女二人が慌てふためきながら、教室中をバタバタと駆けまわっている。傍から見たら、アホ丸出しの光景だが、二人には自覚はない。

 が、その直後、一つの机の中が光り出した。

 

「あ、あそこ!? あれじゃないの!?」

 

 女性が、それに気付いて指を刺す。

 

「あ、ホントだ!? っていうか」

 

 私の机じゃん! と縁が言うよりも早く、女性は机に駆けよって、中からピンク色の端末を取りだした。

 

「あった―――――――!!!」

 

 女性がそれを天高く掲げて、胸を張って言う。葵のそれよりもでっかく実った果実が大きく揺れた。

 

「良かった――――――!!! ありがとうございますぅ~~~!!」

 

 縁は感激のあまり、涙を流しながら、女性に対して両手を祈る様に組んで、感謝を述べた。

縁には、女性の姿が、自由の女神の様に見えた……気がした。

 

 

 

 

 

「何やってんのよ……」

 

 たまたま、教室の前を通り掛った葵が、一部始終を見て、呆れた様に呟いた。彼女は別のクラスである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……スマホを見つけてくれた、と」

 

 縁から話を聞いて、一部始終を把握した葵が、そう呟く。余りの馬鹿馬鹿しさに頭痛を覚えた。

 

「そう、菖蒲先輩が見つけてくれなかったら、私気付かずに帰ってたよ~」

 

「うんうん、良かった良かった」

 

 縁が泣きながら、女性に縋りつき、その豊かな胸に顔を埋めた。柊先輩と呼ばれた女性は、柔らかい笑みを浮かべて、縁の頭を撫でる。その様子に若干イラッとした葵だが、菖蒲、という名前と、目の前の女性の姿に既視感があり、尋ねる。

 

「もしかして、貴女、二年生の菖蒲 纏(あやめ まとい)先輩ですか?」

 

「うん、そうだけど」

 

「え!? 菖蒲先輩を知ってたの葵!」

 

「有名人よ」

 

 そう言われて菖蒲と呼ばれた女性は、それ程でも~、と照れくさそうに言いながら頭を掻く。

 菖蒲 纏――――校内でこの名前を知らない者は少ない。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人、でも心優しい性格で人望もあると評判の二年生だ。

 

「どうして、そんな人が、一年生の階に?」

 

 桜見丘高校は学年ごとに階層が違う。その為、上級生が下級生の元に訪れる事は、滅多に無かった。

 

「近頃、運動不足で……」

 

「はあ?」

 

 突然何を言い出すのか? 訳が分からず葵の目が点になる。

 

「実は放課後になると、みんな帰ったり、部活で居なくなる訳じゃん。だから、こうして学校内を走り回って運動してるんだよね……」

 

 確かに生徒は居なくなるが、先生がいなくなった訳ではないだろう。走ってるところを見られたら不審がられると思うが。というかそもそも、

 

「運動部入った方がいいんじゃないですか?」

 

 冷めた目で葵が突っ込むと、纏はギクリと肩を震わせた。

 

「い、今は家の事で忙しくって、それはちょっと無理なんだ」

 

「はあ……」

 

 纏はそう言うが、顔を反らして、冷や汗を浮かべているので、言い訳にしか聞こえない。

でも、何か理由がある様子なのは確かなので、これ以上は突っ込まないことにした。

 

「葵! いくら言い訳でも、理由は理由なんだから、ちゃんと聞かないと駄目だって!!」

 

「美月さん! それフォローになってないよ~っ!!」

 

 と思った矢先に縁が爆弾を投下したため、纏が涙目になって顔を赤くして抗議する。葵はガックリと項垂れるしか無かった。

 

「――――そうだ、こんな事していられない、行かなきゃ!! またね!!」

 

 纏はふと、思い出した様にそう言うと、背を向けて走り去った。後に縛った長い髪が、夕陽を受けて橙色に輝きながら踊る。それを名残惜しそうに見つめながら縁が手を振って見送る。

 

「さよ~なら~」

 

「なんか、誰かさんに似てるわね」

 

 葵も手をひらひらと振って見送りながら、纏の印象を述べた。

 

「誰がって誰に?」

 

「可愛い顔してるけど……ハッちゃけ過ぎるし、何かと大慌てするし、バカっぽいし……縁に良く似てるわ」

 

「ええ?! 私が噂の完璧超人上級生に似てるって、嫌だなも~~!」

 

 縁は嬉しそうに頬をピンク色に染めて喜びながら、葵の背中をバンバン叩く。

 

「別に褒めてないんだけど……」

 

 葵は背中に痛みを感じ、恨めしそうな目を向けながら呟く。が、歓喜に震える縁には聞こえていなかった。

 やがて、二人は纏の後を追う様に、昇降口に向かい、学校を出たのだった。

 

 

 ちなみに、縁は既に纏とLINEを交換していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 田中ってなんだよ……(震え



 第1話、投稿致しました。
この話は3月上旬に一度書きあげましたが、二か月後に書きなおしたものです。
 
 女の子の日常……小生は男なので、女性の視点で物語を描くのは、中々恥ずかしいものがあります。
 ぶっちゃけ色々間違ってるかもしません……(震え声
 これで良いでしょうか……? 良いんだったら続けます。
 あ、でも、女の子の書き方について何かアドバイスがあったらお願いします……(ぉ


 まず、キャラクターの簡単な説明をば……

 縁→ 主人公。ピンク。快活でさっぱりとしている。感情豊かだが、怒ることだけは決してない性格。

 葵→ 主人公の親友。藍色。おっぱい。普段は真面目で冷静だが、何か有ると感情を燃やす。

  萱野も菖蒲纏も後々関わってくる予定です。

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