魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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今さらながら気付いた事。

凛の武器、環いろはと被った、だと……!?

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 #05__黒い狐は真意を語らず A

 

 

 

 

 

 

「……どうしよう、葵」

 

 縁の家。二階にある彼女の自室で、置いてけぼり状態になっている縁と葵。

 縁が隣に座る葵を見て、声を掛ける。

 

「落ち着いて、縁。まずは、状況を整理してみましょう」

 

 葵も内心穏やかではなかったものの、縁の前ではなんとか冷静を装いつつ、そう返した。

 

「う、うん、分かった。え~っと……

 

『あかりちゃんが不法侵入したと思ったら、今度は宮古 凛って子が現れて、二人とも窓からいなくなっちゃった』

 

 ……何が何だか分からないよッ!?」

 

 しかし、逆に慌てふためいてしまった縁。

 こんな状況で冷静になれ、と言う方がおかしかったか――――と、葵は苦笑いを浮かべるしかない。

 そして、しばらく呆然とするしかなかった二人だったが、一足早く我に返った縁が葵に問いかける。

 

「どうしよう?」

 

「……どうしようもないでしょう」

 

 才能が無いと言われたのならば、魔法少女(彼女達)から大人しく離れていればいいのに、未だ首を突っ込むつもりの縁に辟易しそうになる葵。

 だが、そうはさせないとばかりに、きっぱりと告げてやる。

 

「でも、魔法少女同士で争うなんて……これ以上見てられないよ」

 

「魔法少女には魔法少女にしか分からない事情があるんでしょう? 私たちに首を突っ込む余地は無いわよ」

 

「でも、あかりちゃんと優子さん達に喧嘩してほしくないよ!」

 

「縁は篝さんが良い人だと思ってるみたいだけど……でも、どう見てもあの人、怪しいじゃない?

 いっそ、凛さん達に掴まってもらった方が」

 

 

 

「どうして、そんなこというの?」

 

 突然、()()()が響き渡る。

 

 

 

「…………っ!」

 

 一瞬、縁とは違う人物が喋っているのではないか、と思って顔を周囲に向けてしまった。しかし、その音声の発生源は間違いなく隣に座る彼女であった。

 刹那、葵が固まる。

 縁は顔を俯かせてる為、表情を確認できない。しかし、前髪の隙間から僅かにうかがえる彼女の瞳は――――酷く冷えていた。篝 あかりが自分を釘付けにしたドス黒い瞳に匹敵するぐらい、見た者を瞬時に凍てつかせるような瞳を()()浮かべている――――この事実に葵は閉口するしかない。  

 

「私一人でも止めに行ってくる!」

 

「ちょ……ちょっと!?」

 

 縁は突然立ち上がると、葵に顔を一切向けぬまま、勢いよくドアを開けて階段を下りていく。

 葵も慌てて後を追うが、一階に下りた時には、既に縁の姿は無く、開けっ放しになった玄関のドアが見えるだけだった。どうやら外に飛び出してしまっていた。

 

「……!!」

 

 魔法少女になれない、と言われたのに……何が彼女をあそこまで突き動かすのか。

 一つ分かるのは、少なくとも何らかの感情が彼女の中で渦巻いているには違いない、と葵は思った。そうでなければ、()()()()を縁がする筈が無い。

 

 

 

 いや、一度だけあった。あれは確か……

 

 

 

 そう考えて、葵はかぶりを振った。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

「縁のアホ――――――――――――ッ!!!!」

 

 大きく息を吸い込んで、開け放たれた玄関に向かって、力いっぱいにそう叫んだ。もう無関係の魔法少女の世界に飛び込んだ縁に、届くと信じて。

 ちなみに、葵は気づいていないが、彼女の言葉通りの事態が密かに発生していた。

 

 

 ――――縁は靴を履き忘れていた。どこまでもアホだった。

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、優子・纏・茜はというと、縁の家の丁度裏にある道路に居た。

 彼女達は現在、魔法少女に変身して、塀に張り付く様に背中を合わせて待機している。

 

「それにしても、全員で出張る必要ってあったのかな?」

 

 纏が苦笑いを浮かべて、茜に問いかける。

 

「纏ちゃん、相手はあのブラックフォックス。用心に越した事はないよ」

 

 いつになく真剣な表情を浮かべながら、茜が忠告する。

 

「とは言っても、凛がそう簡単に挫かれるとは思えないけどな」

 

「ひゃんっ」

 

 優子は力が入りすぎている茜の両肩にポンッと手を置くと、そのまま揉み解しだす。擽ったい感覚が全身にいきわたり茜が思わず素っ頓狂な声を挙げる。

 変身している3人ではあるが、人目には一切付かなかった。理由は単純。彼女達の周囲を良く見ると、包み込む様な薄い膜が張られていた。

 茜の魔法の一つだ。彼女は水晶玉を、巨大化させて、自分たちを包み込んだのだ。水晶玉はそのまま結界と化し、三人から放たれる魔力の反応を極限まで抑えるのと同時に、カメレオンの様に周囲の景色と同化して身を隠していた。

 

「でもひゃんっ、相手は魔女を秒殺ひゃんっできるひゃんっ化け物だひゃんっよ。凛ちゃんひゃんっでも、負けることはひゃんっ、想定内にひゃんっ、置いておかないとひゃんひゃんっ」

 

 肩を揉まれつつ喋っているので可愛らしい素っ頓狂な声を連発する茜。内容は真面目そのものなのに、緊張感が無い。

 

「はいはい分かってるよ茜。心配はよく分かるが何も戦ってるのはお前だけじゃないんだ。もっと凛を信頼してやれよ」

 

 優子はそういうと、茜の両肩から手を放した。今度は頭にポンっと手を置くと撫で始める。

 

「ここにいるお姉ちゃん二人もね」

 

「む~~~っ……!」

 

 纏はニッコリと目線を合わせて言うが、茜は納得のいかない様子で頬を膨らませた。

 確かに、自分を含めたこのチームは、最強だ。絶対の自信を持って言える。でも、ブラックフォックスは得体が知れない。今まであらゆる強敵相手に勝ち続けてきたこのメンバーでも、黒星を付けられる可能性は多いにあると、茜は思っていた。

 懸念の表情を両脇に立つ二人の大女に向けるが、彼女達は相変わらず自信満々の笑みを浮かべていた。

 

「…………」

 

 茜は観念するように、一度溜息を吐くと、沈黙。両手を組んで合わせる。

 

(頼むよ、凛ちゃん……!)

 

 結局、今は優子の言う通り、凛が家の中でブラックフォックスを抑えつけてくれることを切に祈るしかなかった。

 

 

 

 

 刹那――――

 

 

 

(みんな!)

 

「「「!!!」」」

 

 突如、脳内に声が響き渡り、全員が目を見開く。

 

(凛、どうした!?)

 

 咄嗟に優子が顔つきを真剣なものに変えると、テレパシーを用いて問いかける。

 

(カヤ! マズイ、逃げられた!)

 

 脳に伝わる凛の声は、普段の彼女を知る者にとっては驚く程、狼狽している様子だった。

 

(なにぃ!?)

 

(黒狐は? そっちにいる!?)

 

 茜を中心とする三人が、結界ごと移動を開始する。動きながら周囲を見回すが、それらしき魔法少女の姿と、魔力の反応は……無い。

 

(駄目だ……こっちにはいねえ。魔力の反応も無しだ)

 

(そうか……)

 

(凛、一度合流しろ)

 

(わかった、ゴメン)

 

 優子はテレパシーで凛に伝えると、自分たちの元へ来るよう促す。一度態勢を立て直してから、改めて全員でブラックフォックスに当たるべきだと判断したのだ。

 

「どういうこと、優ちゃん? 家にいる間は、反応があったのに……」

 

 纏が困惑した顔で、優子に声を掛ける。

 

「さあな……」

 

 優子は憮然とした表情だが、冷や汗が一筋流れており、困惑が読み取れた。

 先ほどまでは、ブラックフォックスの魔力の反応は、確かに家の中から感じられたのだが、今はもう、無い。魔法少女がここまで完璧に、自身の魔力を覆い隠すことなどできるのだろうか。加えて、『標的にされたら最後』と言われるあの凛から、易々と逃げる事に成功した。只者ではない。

 

「やっぱり…………化け物だ……!」

 

 茜はブラックフォックスの、その異様さに、身体をワナワナと震わせる。が、それを抑える様に、優子が再び彼女の両肩に大きな手を置いた。

 

「……!! 優子リーダー……」

 

 茜が顔を見上げると、微笑を浮かべる優子の顔をがあった。それを確認すると、肩の震えが止まる。

 

「落ち着け茜。出鼻を挫かれるのは今まで何度もあっただろ。そういう時は、みんなでまた考えればいいさ」

 

 優しく囁く様に伝える優子の顔は、猛獣と称されるのが嘘のように、慈愛に満ちていた。

あかねの胸中を満たしていた恐怖心が、次第に消えていくのを感じる。

 

「それに……ブラックフォックスを捕えるのは、アタシらだ」

 

「!!」

 

 茜は目を見開いて、思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、午前の会議に時に遡る――――。

 ブラックフォックスの話を終え、凛が彼女に好戦的な姿勢を示した直後の事だった。

 

「!!」

 

 茜がハッとなる。ポケットに手を突っ込むと、スマホが鳴っていた。画面を確認すると、『文ちゃん』の名前が表示されている。

通話ボタンを押すと、画面を耳に当てる。

 

「もしもし、文ちゃん?」

 

『あっちゃん、ブラックフォックスの足取りが掴めたわ』

 

 電話先から聞こえるのは美咲文乃の声だ。

 

「!! 聞かせて」

 

 茜は顔を強張らせると、文乃が伝える言葉一つ一つを頭に叩き込む。

 しばらく、ふむふむ頷いていたかと思うと、スマホを耳から放し、全員に向かって大声で告げる。

 

「みんな聞いて、ブラックフォックスが桜見丘市街に居るって!!」

 

「……!!」

 

「ほう……!」

 

 纏は呆然の余り口を開き、凛は、にへら、と好戦的な笑みを浮かべた。

 

「何ぃっ! おい、ちょっと貸してくれ」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 優子は聞いた途端、衝動的に茜からスマホをバッと奪い取ってしまった。

 

「美咲、本当なんだろうな?」

 

 眉間に皺を寄せながら、スマホの画面を耳に当てて問いかける優子。

 

『ええ、実は、ドラグーンでもブラックフォックス専門の追跡班を結成していてね。居場所は特定してるわ』

 

「……分かった、すぐ行」

 

 く、と言おうとした瞬間、文乃の言葉に遮られる。

 

『そこで、萱野。頼まれてくれない?』

 

「……なんだと?」

 

 文乃からの思いがけぬ提案に、優子の思考が一瞬、止まる。

 

『前日、ブラックフォックスが、駅前のショッピングモールで、一人の女子高生ぐらいの少女を捕まえて、何か話してた……』

 

「まさか……」

 

『あっちゃんから聞いたけど、件の魔法少女候補生ね。会話後のその子の様子からして、奴が何かを吹き込んだのは確か。大方、魔法少女に関してのことでしょうけど……。……奴が現在いる場所は〇〇区・公立桜見丘高校西の住宅地。恐らく、その子の住所付近』

 

 優子の背筋が冷えていく。縁達に、何かしようと企んでいるのだろうか。確信は無いが、家の近くに居ると聞けば、その狙いがあるとしか思えない。

 

「どうすればいい?」

 

 あの二人には、魔法少女の世界に巻き込んでしまった責任もある。できれば、二人を遠ざけてやりたいのだ。ブラックフォックスが何を企んでいるかは不明だが、魔法少女に関することならば、二人に関わらせてはならないと思った。

 

『もし、ブラックフォックスが、その子の家に訪問したら、奴を足止めして欲しい』

 

「その前に追跡班で止める事は出来ないのか…………」

 

 家で足止め、ということは、その子の家で荒事に発展する可能性もある。その懸念も込めて伝える。

 

「…………残念だけど、追跡班は私でなくって竜子直属の部隊なの。私の指示でも動かないことは無いけど、あくまで竜子の命令を最優先に動いているわ」

 

 竜子は追跡班に「ブラックフォックスの居場所を常に特定して報告しろ」との指示を下している。つまり、「捕える」のは別の者に任せる、という意味だ。

 

「ブラックフォックスの居場所は竜子だけでなくヒビキにも伝わってる。……あいつを筆頭に捕縛部隊が結成されたわ」

 

 現在、狩奈は直属の兵隊を総動員して桜見丘市に向かっており、包囲網を作るつもり――――とのことだ。

 

「正気か!? 一般人を巻き込むことになるぞ!!」

 

 イカレ脳みそ(狩奈)が出向くとなれば、流血沙汰は避けられない。そうなればますます厄介な事になることを懸念した優子が、慌てる。

 

『そうならないために、あなたたちの協力が必要だって言ってるのよ』

 

 そういう文乃の声はいつもの飄々としたものではなく、真剣味の混じったものの様に聞こえた。

 

『ブラックフォックスがドラグーン(わたしたち)や、あなたたちを脅かすつもりがあるのかどうかは定かじゃない。でも、少しでも可能性があるのなら竜子は容赦しないわ。狩奈がそっちに行く前に、ブラックフォックスを必ず捕えてほしいのよ』

 

 あっちゃんが信頼してるあなた達なら、ブラックフォックスの真意を確かめてくれると信じてる――――そう最後に付け加える文乃の言葉に嘘偽りは無い、と優子は直感で思った 

 

「……無償で手伝う程、お人よしじゃねえぞこっちは」

 

 縁達の事は確かに心配だ。しかし、別のチームの者に、メンバーを危険に晒してでも捕えろと居丈高に言われて、そう簡単に『はい』と言う奴はいないだろう。協力を持ち掛けてきた以上は、相応の報酬を支払って貰わなければ割に合わない。

 

『わかってる。報酬は弾むわ。協力料でグリーフシード4個。作戦が成功したら8個でどう?』

 

「乗った!」

 

 優子がニィッと白い歯を輝かせて、豪快に笑う。

 

『交渉成立。じゃあ早速桜見丘市街に来て』

 

「お前は?」

 

 竜子が尋ねる。

 

『私は、できるだけ追跡班に協力してもらうように声をかけてみるわ』

 

 追跡班は竜子直属だが、リーダーと隊員の一部は文乃と懇意であり、もし交渉が無事に済めば優子達と共闘戦線を築ける事ができる、と伝える。

 それだけ言うと通話が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラグーンの連中を街で暴れさせるつもりはねえし、ブラックフォックスにウチで好き勝手やらせるつもりもねえ。その為には、皆でなんとかするしかねえんだ」

 

 先の会議での文乃のやりとりを思い出しながら、優子は握りこぶしを創る。その言葉には強い意思が籠り始めていた。

 

「優ちゃん……」

 

「優子リーダー……」

 

 纏と茜も、決意を固める優子の姿に胸を打たれていた。

刹那――――

 

(もしもし、聞こえますか!?)

 

「「「!!?」」」

 

 凛のものではない、全く知らない少女の声が、脳内に直撃した。

 

(誰だ!?)

 

(私は、ドラグーン所属、ブラックフォックス追跡班のリーダー、実里麻琴(みのりまこと)といいます! そちらは、萱野優子さんですか!?)

 

 少女は、優子が思ってたよりも幼い声色の持ち主だったが、リーダーを任されているだけあってか、力強さを感じる口調であった。

 

(おう、そうだ!)

 

(美咲さんからの指示で、一緒にブラックフォックス捕縛に協力していただきたく願います! よろしいでしょうか!?)

 

(言われるまでも! )

 

 文乃の交渉は無事に成功した様だ。その上、リーダーのこいつは協力に足る人物。これで上手くいく、と確信した優子は、笑みを見せながら威勢よく返事をする。

 

「行くぞ、お前ら!!」

 

 優子はテレパシーを一度遮断すると、茜と纏に声を掛ける。

 

「うん(はいっ)!!」

 

 茜と纏も決意を込めた表情を優子に見せると、力強く頷く。3人は結界を纏ったまま、揃って駆け出した。

 

(一先ず、合流するぞ。場所を教えてくれ!)

 

(はいっ! 場所は――――!!)

 

 そこで、実里からテレパシーが一方的に遮断されてしまう。

 

(どうした!?)

 

 優子がテレパシーで問いかけるが応答は一切無い。

 

(おい、何があった!? 教えてくれ!?)

 

 次第に焦燥が浮かんでくる優子。何度も呼びかけるが、何も返ってこない。そして、

 

 

 

(どうも。萱野優子さん。『ブラックフォックス』です)

 

 

 

(((!!??)))

 

 実里麻琴とは全く違う女性の音声が脳内に響き渡り、更に、女性が名乗った名前に優子達は愕然となる。

 

(てめえか……ウチで好き勝手やりやがって、何が目的だ!?)

 

(教えても理解して頂けないと思うので、教えません。それに私は平和主義者なので、勝手に争いごとを起こすのは御免被りたいのですが……)

 

 ブラックフォックスと名乗った女性は一切悪びれることなく飄々とした様子で優子達に告げる。

 

(ふざけんな! 今すぐ尻尾を掴んでやるから覚悟しろ!!)

 

(怖い怖い……まあ期待しないで待ってますよ)

 

 優子はテレパシーで怒声を張り上げるが、ブラックフォックスはおどけて返すと一方的にテレパシーを遮断する。

 

「クソッ」

 

 まるで手のひらで踊らされているような感覚だ。優子は忌々し気に歯噛みすると、近くの塀を殴りつけた。

 

「多分、追跡班の人たちはもう……」

 

「私たち、本当に立ち向かえるんでしょうか……」

 

 先ほど決意を新たにした筈の纏と茜も、表情を暗くすると不安を口にする。

 実里のテレパシーが中断された直後、ブラックフォックスなる女性のテレパシーが割り込んできた――――ということは、追跡班側で何かあったのは明白である。纏が懸念する様に、もしかしたらブラックフォックスの襲撃を受けたのかもしれない。

 

「でも、アタシらがここで止まる訳にはいかねぇんだ……!」

 

 だが、優子は悔しさを噛み潰す様に歯を食いしばって、二人に言い放つ。

 

「優ちゃん、でも……」

 

「成すすべが無いからって、じっとしてるってか? 狩奈達をここに到着させてみろ。あいつは多分仲間をやられたと知ったら、怒り爆発するぞ。そうなったら、もうアタシたちに奴は止められない。この前の喧嘩どころじゃなくなる」

 

 そうなってしまったら、もう後の祭りだ。怒り狂った狩奈が部下にどんな命令を下すかは想像に難くない。死人がでることは無いと思うが、間違いなく阿鼻叫喚の事態が発生する。

 だからこそ、ブラックフォックスはなんとしても、ここで止めなければならないのだ。

 

「……それにしても、凛はどうしたんだ?」

 

 そこで優子は、先のやりとりを最後に、凛からテレパシーが一切途絶えている事に、不安を覚える。

 

「まさか、もうやられちゃったんじゃ……」

 

 纏が顔を俯かせて、そんなことを口にする。

 

「……!」

 

「馬鹿、凛があっさりやられるか」

 

 茜もまさか、と思い目を震わすが、優子はそんなことは絶対無い、と言わんばかりにきっぱりと否定する。と、そこで――――

 

(みんな、聞こえる?) 

 

「凛ちゃん!? 無事だったの?」

 

 噂をすれば何とやらだ。凛からテレパシーが聞こえてきたので、纏がハッと顔を上げる。

 

(凛、遅いぞ! どこで道草喰ってるんだ!?)

 

 咄嗟にテレパシーで叱る優子。

 

(悪いねカヤ。急いでるんだけどさ……捕まった)

 

(何……?)

 

((……っ!?))

 

 血の気が引く様な感覚が、優子達を襲った。

 

(気を付けな……あたしたち、蜘蛛の巣の中にいるよ……)

 

 意味深な事をぽつりと呟く凛。

 

(お前、何言って……)

 

(とにかく、そっちに行くまで時間がかかる。じゃね)

 

 優子がおそるおそる尋ねようとするが、凛からは一方的に遮断されてしまう。

 一体、何が起きている……。蜘蛛の巣……? 優子はしばし立ち尽くして、思考を巡らしてみるが、全く想像できない。

 

「優ちゃんっ!!」

 

 直後、纏から悲鳴のような声が掛けられ、優子はハッと顔を上げると――――驚愕した。

 

「優子リーダーっ……」

 

 茜が全身を恐怖で震わす。声もまた震えていた。

 

「なんだ、こりゃ……!!」

 

 今まで気丈にふるまっていた優子も、目の前の光景に思考を止めて、愕然とするしかなかった。全身が凍り付く様な感覚。だが、冷や汗は次々と、額を流れていくのを感じる。

 彼女達の目の前に見えた光景――――ピアノ線の様な細い鉄製の糸が、無数に張り巡らされていた。

 周囲を見回すと、自分たちを閉じ込める様に、糸が所狭しと張られている。

では、上空はどうかと思い、真上に顔を上げると、そこにも同様に糸が何本も重なる様に張られていた。

 逃げ場は、無い。

 

 

 

 間もなくして、優子達は、今の自分たちが、蜘蛛に掴まった羽虫に過ぎないことを悟ったのだった。

 

  

 暗闇が景色を喰らい始めていた。先ほど快晴だった空が、いつの間にかどんよりと淀んでいる。

 

 

 

 

 

 




 ようやく、5話。今話で、一度まとめに入ろうと思います。
(本当は4話でそれをするつもりだったんですけどね……orz)

 ああ、でも、書いていたらまた、キャラクターが勝手に動き出したり、喋ったりしてしまった……こうなると最終的に長くなってしまうのです。
 キャラクターの制御って難しいです、本当に。

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