魔法少女ゆかり☆マギカ(休載中)   作:hidon

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ストックがやばいけど、一週間経ちましたので投稿させて頂きます。
#04、早く書き上げなきゃ……!(活動報告参照)


     魍魎の庭に飛び込む勇気はあるか C

 

 

 

 

 

 

「ここなら安全か……」

 

 優子が公園の近くの高層物――20階ほどあるマンション――の屋上に着地すると、抱えていた縁をその場に下ろした。

 

「あの……一体何が……?」

 

 縁はぼやくように問いかける。その顔には困惑が浮かんでおり、何が起きたのか解ってない様子だ。

 

「ああ、あいつとアタシは別のチームでな。対立関係って訳だ」

 

「対立って……魔法少女同士でですかっ!?」

 

 優子の言葉に縁が仰天のあまり大声を挙げる。

 纏から、魔法少女同士で争うこともあるとは聞いていたが、実際に目の当たりにすると、驚く他に無い。

 

「ああ。つっても、ウチらと違って連中の規模は桁違いだから、滅多に争うことは無いんだが……因縁を付けられちまったな」

 

 優子がバツの悪そうに頭を掻く。

 

「因縁って……でも、優子さんのお仲間は正しい事をしたんじゃないですか?」

 

 縁は先程の優子と相手の会話を思い出した。

 優子の仲間の『宮古』という名前の魔法少女が、相手のチームの魔法少女に絡まれていた新米の魔法少女を助け出した、というのは理解できた。

 

「そりゃそうだ。アタシも凛も間違っちゃいない。悪いのは、新人から巻き上げようとする連中だ。――――だが、連中を指揮する奴が拙かった」

 

 優子はビルの屋上の端にある、()()から身を乗り出すと、周囲を警戒する様に見渡しながら、苦笑いを浮かべる。

 

「あの女、狩奈はリーダーの一人だが……相当ヤバイ奴だ。

 普段は大人しいが、何かと因縁を付けてはああやって喧嘩を仕掛けてきやがる。

 しかも、あいつ魔法少女になると――――『変わる』からな、厄介この上ない」

 

 奴とだけはなるべく戦う事は避けたかったんだがな、と優子は付け加える。

 

「そういえば、お前――――」

 

 不意に何かに気付いた優子が縁の方をじっと見る。

 

「魔法少女じゃないようだが、魔法少女の事を知ってるみたいだな」

 

 その言葉にギクリとする縁。

 

「えっ? あっ……はい」

 

「お前、出身は?」

 

 優子が威圧感を込めた瞳で縁を見下ろす。その迫力に気圧されながらも、縁は口を開いた。

 

「桜見丘市街からです……」

 

「市街から!? ってことは『アイツ』と同じか!?」

 

 地名を出した途端、優子は強い反応を示した。目を丸くして問いかけてくる。

 

「『アイツ』……?」

 

「ああ、アイツって言うのは……」

 

 優子が首を傾げる縁の質問を答えようとした。

 

 

 ——————————瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 ――――バァンッ!!

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 縁の目が見開く。耳をつんざくような爆音。これは――――まさか、

 

「銃声だ!! 伏せろ!!!」

 

 優子の叫び声。同時に彼女の巨躯が縁の身体に覆い被さった。

どこからか飛んできた銃弾は、幸い二人には当たらなかったが、近くの床を抉り、弾創を産み出した。

 

「……大丈夫か?」

 

「はぁ~~~~い……」

 

 優子が起き上がり縁に声を掛ける。優子の巨体に押しつぶされたせいで、危うく意識を失い掛けた縁は、両目をぐるぐるに回しながら、情けない声で返事をする。

 

「い、今のはぁ~~、いったい……?」

 

 朦朧とした意識のまま縁が問いかける。既に臨戦態勢に入った優子は、険しい顔つきで答えた。

 

「狩奈だ……あの野郎……!」

 

 優子は忌々しく狙撃を行ってきた犯人の名を呟くと、屋上のヘリから少し顔を出して、周囲をキョロキョロと見渡した。

 

(既にどっかで構えてやがるって訳か……予想以上に早いな、クソッ!!)

 

 心の中で吐き捨てると、再びヘリに顔を隠し、背後でクラクラしている縁に顔を向ける。

 

「おい、アンタ、縁って言ったな!?」

 

「……!! あ、ハイ!」

 

 急に大声で呼ばれた縁の意識が覚醒。ハッ、となって姿勢を正す。

 

「じゃあ縁、なるべく()()()()()()()()()()っ!!」

 

「ハイ!! ……えっ!?」

 

 優子からの指示に、思わず威勢の良い返事をしてしまった縁だったが、その内容に不思議な点がある事に気付く。

 

「ど、どういうことですかっ!? わ、私、無関係ですよねっ!?」

 

 そもそもこの戦いは優子と狩奈の因縁から勃発したものである。魔法少女でない自分には関係ない筈だ。

 『この場から逃げろ』ならともかく、『自分から離れるな』とはどういうことなのか? 

 

「奴は……狩奈は手段を選らばねえ!!」

 

 優子が焦燥の混じった顔で吠える。

 

「っ……!!」

 

 手段を選ばない――――——その言葉に薄ら寒いものを感じた縁の顔が、サーッと青褪める。

 

「アタシと一緒に居るところを見られちまったからには、奴はお前も狙ってくる筈だ! 殺しはしないが、人質にはしてくるだろう!!」

 

 だから、お前を一緒に連れてきたんだ――――と、優子は苦々しさの混じった表情で伝える。

 

「完全にそれヤクザだか犯罪者のやり方ですよねっ!? 魔法少女じゃないですよねっ!? っていうか私助かるんですかっ!? ねえ!?」

 

 恐怖に陥った縁が、両眼にいっぱいの涙を浮かべながら、優子に縋りついて喚く。

 

「落ち着け」

 

 優子は縁に近づくと、彼女の両肩をグッと掴んだ。その力強い――――夢の中のゴリラが向けたのと全く同じ――――眼差しを彼女の顔に向けて、言い放つ。

 

「巻き込んだ以上、責任はアタシにある。必ずお前は、親の所へ返してやる」

 

 必ず助かるという確証は無い。だが、その力強い眼差しと、言葉には、とてつもない頼もしさが感じられた。この人と一緒なら大丈夫かもしれない、という安心感を縁に与えた。

 縁の頭が冷えていく。強く掴まれた両肩は少し痛かったが、お陰で震えが止まった。

 

「お願いします!」

 

 縁も真剣な表情を浮かべて、力強い眼差しを優子に返した。それを受けた優子がニッと笑う。

 

「おう! とにかく、今は、奴をやりすごす方法を考えるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、優子達のいるマンションとは向かい側の――と言っても、100mは離れている――ビルの屋上で、軍服姿の少女、狩奈 響は獲物のスナイパーライフルを構えていた。

 

「クソボケが……脳みそまで猿並だな」

 

 ギラギラと血走った目でスコープを覗きながら、狩奈は舌舐めずりする。

 実は先程、公園内で発砲したのは、優子をあの場から遠ざける為のハッタリに過ぎなかった。公園に居る一般人を巻き込むつもりは、狩奈には毛頭無かったのである。

(とは言え、優子と親しげに話していた少女に関しては、優子が放置したら、即座に人質に取るつもりであったが)

 ハッタリは功を成し、焦った優子は、咄嗟に公園の近くにあるマンションへと飛んだ。

 今日は日曜日であり、時刻も丁度昼飯時だ。普段は人気の無い路地裏でも、人が疎らに居る。よって、戦う上で安全な場所と言えば、高層物の屋上しか無いと思ったのだろう。

 しかし……そこまで誘き出す事が、狩奈の仕組んだ罠だった。

 

「テメェから袋のネズミになりやがったァ……!」

 

 狩奈はくつくつと低い笑い声を響かせる。

 高層物の屋上――――人も居らず、障害物もさしてないそこは、狩奈の十八番である『狙撃』を行う上では最高の場所であった。

 更に、狩奈が今居るビルは40階、優子達が居るマンションの屋上を真上から見下ろす事ができる。

 

「さあて、萱野よォ…………」

 

 スコープ越しに目をギラリと光らせながら、狩奈が呟く。

 

「ぶっちゃけ、ウチのクズどもを宮古が撃った、なんてこと、ハナッからどうでもよかったんだよ……。

 テメェをこうして真正面からブッ潰してもいい理由が欲しかっただけなんだ、コッチはよォ……」

 

 狩奈が所属するチームからすれば、優子率いる魔法少女チームはたった4人しかおらず、吹けば飛ぶ様な存在である。

 しかし、少人数で且つ、新興勢力でありながらも、彼女達の勢いは非常に血気盛んであり、加えてリーダーの萱野優子、サブリーダーの宮古凛の強さは、狩奈のチームの下っ端の魔法少女20人分にも匹敵する。その実力は『最高幹部』である自分達を一度は下した事がある程だ。

 このまま、野放しにしておけば、間違い無く優子率いるチームは自分達を脅かす天敵に成り得るだろう。故に、狩奈にとって彼女達は目の上のタンコブであった。

 本当なら手勢を率いて、直接乗り込んで叩き潰したいところであったが、

 

(それは竜子が許してくれないからなァ……)

 

 最愛の親友であり、自分のチームの『総長』を務める少女――――彼女の顔に泥を塗る様な真似を自分がする訳にはいかなかった。

 そういう意味では、宮古凛には感謝している。彼女が下っ端共を襲撃してくれなければ、こうして萱野を潰せるチャンスに巡り合う事はできなかっただろう。

 

「ゴートゥヘル。覚悟しろよ……萱野。先に仕掛けてきたのは宮古なんだからな……テメェにはリーダーとしてのけじめを付けて貰うぜぇ……」

 

 呟きながらも、狩奈は、スナイパーライフルの照準を優子の頭に定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうするんですか?」

 

 優子が頼もしい魔法少女なのは確かだ。

 だが、依然として自分達が敵にスナイパーライフルで狙われているというアクション映画の主人公が出くわす様な状況の中にあることに変わりはない。

 身体を小さく丸めて、頭を両手で抱えながら、優子に泣き付くしかない自分を、縁は情けなく思っていた。

 

「……奴は銃、アタシはバット……。はっきり言って、相性は最悪」

 

 優子も同じく、巨体を小さく屈めながらも、銃弾が飛んできた方向キッと睨み据えたまま呟く。しかし、その顔には冷や汗が浮かんでいた。

 

「————よし、ちょっと奴と話してみる」

 

 だが、縁の方へ顔を向けて、あっさりとそんな事を言う。

 

「……え? でも、どうやってっ!?」

 

 一瞬、目が点になる縁。

 相手は遠く離れた場所で、狙撃しているのだ。話し合うにはまず近づかなければならないが、狙われている状況でそれを行うのは無理ではないかと思い、抗議を挙げる。

 

「まあ、見てろ」

 

 優子は一度、銃弾が飛んできた方向を――正確には、自分達が立っている場所の向かい側にある高層ビルを――ギンと睨む。

 直後、小さく身体を丸めて蹲った。

 

 

 

 一方、狩奈は……、

 

(動きが止まった、観念したのか……?)

 

 依然としてスナイパーライフルのスコープ越しに、マンションの屋上に居る二人を血走った眼で凝視する彼女だったが、標的である優子が突然、身を屈めたまま動かなくなったので不審に思う。

 

(だが、容赦する気はないぜ、萱野よォ……!)

 

 だが、スナイパーライフルの照準を外す気は無い。

 身体に風穴を3つぐらい開けてやろう、と狩奈はライフルの引き金に指を掛ける。

 すると……、

 

(おい、狩奈っ!!)

 

「……!!」

 

 頭の中で怒声が響き渡り、引き金の指が止まった。声の正体は『テレパシー』、そして声の主は、萱野優子だ。

 

 

 『テレパシー』とは魔法少女の基礎能力の一つだ。自分の思考を、魔法を使って相手に直接伝える事ができるコミュニケーションツールである。 

 これによって魔法少女は、遠く離れた仲間とも連携を取ることが可能である(有効範囲は、魔法少女一人につき、半径100m程度とされている)。

 また、一般人の多い場所で、魔法少女同士の会話を行う場合もこの方法が用いられる。

 

 

 スコープ越しに見える優子を睨む。未だ彼女は蹲ったままだ。

 

(どうした? 命乞いをする気になったかァ?)

 

(ちげーよこのイカレ脳みそ! こんな真昼間から銃ブッ放しやがって、どーいうつもりだあっ!?)

 

(ハッ!)

 

 狩奈もテレパシーを使って、罵ってやると、優子の焦った声が返ってくる。自分の行動を咎めている様だが、鼻で笑ってやった。

 

(馬鹿が、それはお前が一番分かっている筈だ)

 

(なにぃっ!?)

 

(時間なんざ関係ねぇんだよ……私達魔法少女同士が出会ったらやる事は只一つだろうが……)

 

(ッチ!)

 

 優子のテレパシーから舌打ちが聞こえる。狩奈は最初から話し合いをする気など無かったのだ。

 

(潰されるか……潰すかだッ!!)

 

 再び引き金に指を掛ける狩奈。

 

(本当にイカレてんのかお前は!? こっちは一般人もいるんだぞっ!?)

 

(安心しろ、そいつには手を出さない。但し……『下手に』動かなければの話だがな……。

 そいつが謝って私の射線上に移動でもしたら、風穴が一つ開く……かも……)

 

 一般人を傷つけてはならないのが魔法少女の暗黙のルールだが、魔法少女同士の闘争に巻き込まれた一般人を無傷で返すのは難しい。

 

(そうか……)

 

 優子は低い声で呟くと、暫し沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 しばらく這い蹲りながら、物言わぬ状態となっていた優子だったが、突如、顔色を変えて立ち上がった。

 

「ゆ、優子さん?」

 

 縁は困惑な表情で優子を見つめる。

 無理もない。相手がどこか遠くから銃で狙っている状況下であるにも関わらず、自ら全身を晒す行為をしたのだ。自殺行為と見られてもおかしくない。

 

「悪い……縁。たった今、テレパシーで話してたんだが、交渉は決裂だ」

 

 優子はほんの一瞬だけ、縁を見る。

 

「……っ!!」

 

 その顔を見た縁が、思わず息を飲む。それは先ほど彼女に見せた気前の良い笑顔からは、明らかに一変していた。

 ――――般若だ。般若の如き怒りの形相が、目の前に存在していた。

 

「できれば奴とは穏便に済ませたかったが、今のを聞いて気が変わった。

 ……あいつは本気で叩き潰してやるぜ。イカレた頭ごとなぁ……」

 

 獣が唸る様な、低く響き渡る声が、縁の全身を震わせた。

 ……訳が分からないが、狩奈が優子を怒らす何かを言ったらしい。恐らく、『テレパシー』とやらで……。

 それが具体的にどういったものなのか、縁は気になったが、今は聞ける雰囲気では無い。

 

 

 

 一方、狩奈は……

 

(ハッ、袋のネズミがッ!! いよいよ恐怖で頭がイカレちまったかァッ!?)

 

(…………)

 

 スコープ越しに優子が立ち上がるのを確認した狩奈は嘲笑を浮かべながら、挑発をテレパシーで送るが、返答は無い。

 

(返す言葉も無くなったかァッ!? くたばれ萱野!! 宮古が暴れたツケをテメェの身で支払って貰うぜッ!!)

 

 引き金に掛けた指の力を更に込める狩奈。このままスナイパーライフルから銃弾が発射されれば、優子の身体に風穴を開ける事は間違いない。

しかし……、

 

 

 

 

(…………袋のネズミはテメェだ狩奈)

 

(ッ?)

 

 

 

 

 暫く沈黙していた優子から開口一番、そんな言葉が飛んできて狩奈は一瞬、引き金を引くのを止めてしまう。

それが、隙となった。

 

 

(うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!)

 

 

「!!??!!??!!??」

 

 

 突如、テレパシーから獣の咆哮の如き雄たけびが響いた。その大音声は凄まじい破壊力を以て、脳に強い衝撃を与えてきた。

 

「くっ、くっ……!? ……!!」

 

 脳が頭の中でグワングワン激しく揺さぶられているようだ。口から泡を噴き、意識を手放しそうになる。

後ろに仰け反って倒れそうになったが、足を踏ん張って寸手で耐えた。

 

「ぐっ!」

 

 ガバッと起き上がり、再びライフルのスコープを覗く。マンションの屋上に萱野優子と少女の姿は……………無い。

 

「クソッタレ! どこへ逃げやがった……!?」

 

 照準をマンションの外側に向けるが、それらしき人物は見当たらない。

 

「チッ……だが、どこへ逃げても無駄だぜ萱野」

 

 今現在、魔法少女同士で満足に戦える場所といえば、高層物の屋上しかないのだ。別の建物の屋上に逃げたとしても、再び自分は更に高い場所を陣取って狙撃の的にする。優子に成す術が無いのは事実なのだ。

 そう思っていた。

 

 

 

「————誰が逃げたって?」

 

 突如()()()()()から低い女性の声が聞こえてくる。

 

「ッ!?」

 

 狩奈が思わずスコープから目を離し、顔を下に向けた。そこには――――

 

 

 

「オラアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 なんと、一般人の少女を小脇に抱えながら、ビルの壁を伝い走っていく優子の姿があった!!

 

 

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 ……ちなみに少女の方はというと、当然のことながら、恐怖の余り、両目から大粒の涙を流し、泣き叫んでいた。

 

 

 

(こ、コイツ……本物のバカか……!?)

 

 狩奈は呆然となるが、すぐにライフルの銃口を下に向けて、壁を走って迫ってくる優子に発砲する。

しかし、咄嗟に照準を定めずに撃ってしまったために、弾丸は明後日の方向へ消えてしまう。

 優子の足はそのまま屋上へと辿り着く。刹那――――大きく飛翔。狩奈の小さな身体に、一瞬、影が掛かり黒く染めた。

 優子は狩奈の真後ろへ、ドスンッ、と大きな音を立てて勢い良く着地すると、間髪入れずに大きな手を伸ばして、彼女の首根っこをグッと掴んだ。そのまま、高く持ち上げる。

 

「萱野ォ……!!」

 

 恨めしそうに奴の名前を呟く狩奈。

 

「言っただろうが、本気で叩き潰すってなぁ……」

 

 萱野優子は顔を怒りで歪めながら、首を掴んだ右手に力を込める。メキメキと骨が軋む音が聞こえてくる。

 一方、優子の左脇に抱えられている状態の縁は、その音が不快に感じて両耳を塞いだ。こんなのを聞いたら、また眠れなくなる。

 

「萱野おおおおおおおお!!」

 

 スナイパーライフルだと大きい為、後ろに向かって撃つことはできない。よって狩奈は左手に拳銃を召喚した。

それをくるりと回転して、逆さまに掴むと、引き金を引こうとする。

 

「優子さん、危な」

 

「オラァッッ!!」

 

 それを見ていた縁が咄嗟に警告しようとするが、それよりも早く、優子は仮奈をコンクリートの床に思いっきり叩きつけた。

 狩奈の頭から血が流れだし、コンクリートの白い床を赤く染める。

 

「あぁ~~……」

 

 その惨状を目撃してしまった縁の顔から血の気が引いていく。

 

「大丈夫だ。魔法少女はあれくらいじゃ死なないって」

 

「死なないにしても、むごすぎるぅ~~」

 

 優子はケロリとした様子で言うが、縁は両目を瞑って顔を背ける。切れた額からだらだらと血を流し、ピクリとも動かない狩奈————長く見てると目に焼き付いてしまいそうだ。

 

「優子さん達っていっつもこんなことしてるんですかぁ~?」

 

 両目を瞑ったまま、優子に尋ねる縁。

 

「今日はどっちかっていうと温い方だよ」

 

 物言わぬ状態の狩奈に背を向けて少し距離を置くと、縁を左脇から解放し、さも平然といった様子でそう教える優子。

 

「ぬ、温い方って……」

 

「こいつらと初めてやりあった時なんかもっと………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 刹那—————パァン、と銃声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

 優子の背中に鈍い衝撃が走る。

 

「優子さん!? ……!!」

 

 突如響いた銃声と優子の呻き声に、まさかと目を開く縁。

 映り込んだのは、苦痛に顔を歪めながらよろめく優子、銃声が聞こえた方向を見ると、顔中を鮮血で染めながらも、勝ち誇った笑みを浮かべる狩奈————その左手には、先ほど召喚した拳銃が握られていた。

 

「そんな……!?」

 

「ヒャッハッハッハッハッハッハッハ!! 引っ掛かりやがったな馬鹿猿がァ! 私をヤるにはまだ足りねぇなぁ!!」

 

 驚愕する縁には目もくれず、狩奈は快笑を響かせる。

 

「……狩奈、テメェ、どこまでもイカレた野郎だ……」

 

 優子は足を踏ん張り、倒れそうになった身体を抑える。縁が見たところ、背中を撃たれた筈だが外傷は見当たらない。おそらく、鎧の固い部分に当たって弾かれたのだろうか。

 優子は全身を向けて、自分を不意打ちした張本人を怒りの形相で睨みつける。

 

「さぁ来いよ萱野、第二ラウンドとしゃれこもうぜ……!!」 

 

 立ち上がった狩奈が、待ってましたと言わんばかりに残忍な笑みを浮かべて、優子と睨めっこする。

そして、左手の拳銃を捨てたかと思うと、両手に魔力を漲らせ、新たなる武器を召喚した。

 機関銃とロケットランチャーを召喚した狩奈は、ロケットランチャーを背中に背負うと、機関銃を両手で構え、優子に向ける。

 

「上等だ! 覚悟は出来てんだろうなぁこの野郎!!」

 

 優子も、獲物である極太な鉄製の棒を狩奈に向けると言い放つ。

 

「…………ヒャッハアアアアア!!」

 

「…………うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 両者は暫く睨みあうと、雄たけびを挙げながら激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 一人置いてけぼりな縁はただただ茫然と見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




畳もうと思ったら、長くなってしまったでござるの巻。

……どうしよう、書いてる内に約二名10代の女の子じゃなくなってしまったorz

狩奈さんは色々重火器を扱うキャラですが、ぶっちゃけ描写はテキトーです。
今回は色々矛盾があるかもしれないと思うので、ご意見はどんどんくださいませ。

Dパートに続きます。次回は一応決着編です。

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